2022.07.15
ソロ・プロジェクトとして歩み出したPictured Resortの新境地──アーバン・ダンス・ポップ・アルバム『Once Upon A Season』
一番好きなアーティストはJohn Mayer
―Takagiさんは大阪在住なんですね。
Koji Takagi:出身は岐阜県なんですが、大阪外国語大学に進学してから大阪に住んでいます。15年くらいですね。
―音楽活動を始めたのは?
Takagi:高校生の頃はギターも弾いたことがなかったのですが、音楽を聴くのは好きだったので、大学に入ってから軽音サークルに入り、ギターを始めました。Wallflowerというバンドではサポートでベースを弾いていたのですが、自分のバンドでもオリジナル曲をやろうと思って曲を書き始めて、それがPictured Resortに発展していきます。
―オリジナル曲を作るきっかけは何だったのですか。
Takagi:一番好きなアーティストがJohn Mayerなんですが、彼のようにギターも弾いてヴォーカルもできて、バンド形態でやってみたいと思ったのがきっかけですね。
―今のTakagiさんの音楽とJohn Mayerがあまり繋がらないんですが......。
Takagi:もともと中学生の時に洋楽に興味を持ち始めて、英語の歌詞を覚えながら英語の勉強をする、みたいなことをしていたんです。その中で興味を持ったのが、John Mayerで、ギタリストとしてもシンガー・ソングライターとしても大好きになりました。一方で、母がAORや山下達郎を好きだったので、Airplayなんかも聴いていたんです。時代は違うんですが、そういったアメリカのサウンドがルーツにあって、これらをバンドに落とし込んでみたくなったというのが大きいですね。
―でも、時代的には周りにはUKロック派の方が多かったんじゃないですか。
Takagi:そうかもしれない。軽音部に入った時もあまり趣味の合う人がいなくて(笑)。たまたまWallflowerのメンバーが、USインディや北欧のインディ・ポップあたりが好きでいろいろ教えてもらいました。その流れでドリーム・ポップが好きになって、そのテイストを取り入れてみたいと思ったのがPictured Resortの要素のひとつとして大きいかもしれない。
―ドリーム・ポップというのは例えばどの辺のアーティストでしょうか?
Takagi:アメリカのBeach Houseが有名ですが、他にはスウェーデンのThe Radio Dept.とか。あとはアメリカのCaptured Tracksというレーベルのバンド。そういうのを聴いているうちに、だんだん影響を受けていきました。
―じゃあ、最初はシンガー・ソングライター的な作り方をしていたのが、どんどんエフェクトがかかったサウンドに進んでいったと。
Takagi:そうですね。ちょうどインディ・ポップを聴き始めた時期と並行して、DAWという音楽制作のソフトが学生でも手に届く値段帯になって、いわゆる宅録がしやすくなったんです。バンドのデモ制作も簡単になったので、アレンジも自分の思うようにできる。それもバンドという形態に落ち着いた理由だと思います。
リゾートの風景についての曲は実は1曲もない
―Pictured Resortは、最初は4人組だったんですよね。
Takagi:そうです。僕がギター&ヴォーカルで、あとはシンセサイザー、ベース、ドラムスでした。
―結成当時はどんなサウンドだったのでしょうか。
Takagi:2014年に結成した当初は、アメリカン・ロックやドリーム・ポップがベースにありました。当時シンセサイザーで入ってくださっていたIbukiさんが、「フリーソウル的な要素も入れてみようよ」という提案をしてくれて、既存のデモにもピアノやメロトロンのストリングスを入れてみたんです。その結果、自分が思っていたよりいい曲に仕上がって、「この人にもっと音楽を教えてもらいたい」と思ったんですね。それでCarole Kingとか60年代や70年代のアメリカの音楽などを知るんです。
―Pictured Resortの初期の作品を聴くと、ポップな感じで、それこそ大瀧詠一や山下達郎のオールディーズ志向に近いのかなと思ったのですが。
Takagi:山下達郎は高校生の頃からよく聴いていたので、引き出しとしては自分の中におそらくあったのかもしれないです。あと、Ibukiさんのアレンジメントもそうだし、僕自身も当時はよく昔の音楽を掘っていたので、間違いなく今よりはオールディーズ志向だったと思います。でもそれほど邦楽は聴いていないので、「シティポップですね」と言われるとすごく申し訳ない気持ちになるというか......。シティポップのルーツだった洋楽を聴いていたから、意図してないですけれど、結果的に近いのかもしれません。
―バンドからソロに移行した理由は何ですか。
Takagi:僕は今33歳で、これくらいになってくるとメンバーも人生の転機などがあるじゃないですか。それで「このままだと難しいな」と感じたのがひとつと、バンド用のデモもDAWで作り込んでいたので、もっとパーソナルな方向に振り切ってみたいという思いがあって。それが2020年の頭くらい。そこで一区切りしようと考えて、ソロ・プロジェクトになりました。
―ソロになってみて、自分の音楽が変わったという意識はありますか。
Takagi:バンドの時は、イントロ・A・B・サビみたいなスタンダードな曲の方向性の方が、おそらくメンバーもアレンジしやすくて、自分も意識的にポップスベースの曲作りをしていました。でも、ソロになったらその構成にとらわれる必要がなくなったなというのを感じています。結構自分でグチャグチャにして、それこそサビから始めてもいいですし、いきなり歌から始めてもいいし。というのがやりやすくなったのが、おそらく最もソロっぽくなったというところですかね。
―逆に言うと、自由になった分、自分で責任を取らなくてはいけないというのはありますよね。最後に決めるのは自分という。
Takagi:はい、それはありますね。ひとりでやっていると、"迷路に迷い込む"じゃないですが、ドツボにハマりやすくなってしまって。ギターもベースも弾いて、キーボードのアレンジも自分でやっていると、「なんか違和感あるけどなんなんだ?」みたいになった時に、「もう一度最初からやっちゃうか」ということになりやすいですね。そういうパターンにハマった時に抜け出すのを誰も助けてくれないという(笑)。
―今の曲作りの手順はどのように行っているんですか。
Takagi:例えばですが、まず8小節のドラムのループを作って、その中でギターのコードを考え、他のギターのフレーズやシンセの音色を、この8小節を使ってループさせて作っていきます。たぶんダンス・ミュージックを作る人も同じじゃないかなと思うんですけど、このやり方にしっくりきています。そこから抜き差しであったりとか、別の展開を考えたりして、曲全体の構成を練っていきます。
―メロディーはどのタイミングでつけるのでしょうか。
Takagi:メロディーは曲にもよりますが、サビから作ることが多いですね。例えばその8小節のループをイントロとサビに使うとしたら、そのイントロのループの中でサビのメロディーもつけられるので、サビのピークをどこに持ってくるかというのをイメージしながら制作しています。サビがこの歌メロだったら、Aメロはどうしようか、みたいな。
―あまりシンガー・ソングライターっぽくないですね。
Takagi:たしかに(笑)。久しくアコギ1本で、みたいな作り方はしていないですね。
―歌詞は最後に?
Takagi:そうですね。鼻歌で「ここのフレーズはこの単語が合うな」みたいに組み合わせていって、自分のグッとくる歌詞をサビなどに当てはめて、そこからストーリーなり自分の主張したいことを並べていく作業ですね。
―日本語ではなく英語詞なのが特徴ですが、Takagiさんにとっては英語の方がしっくりくるんですか。
Takagi:日本語詞を作るという研究をまったくしていなくて、今からやれと言われたら10年かかります(笑)。中学生の時からThe Beatlesの歌詞とかを覚えたりしていたし、メールでは英語のやり取りを普通にやったりしているので、その方が自然というか。全然ペラペラではないですけど(笑)。
―でも歌詞にメッセージ性はあるんですか。それとも音の響きにこだわっているとか。
Takagi:英語圏の人は、歌詞の内容よりも韻の踏み方など、もっと音として捉えている面があると思うんですね。だから韻の踏み方とか自分でも作っていて楽しい。韻の繰り返しが音楽的になっていく瞬間が嬉しいというか。だから、歌詞に意味を込めないこともありますし、「この曲はちゃんと言いたいことがあるな」というときはかなり時間をかけて歌詞を書きます。ただ、Pictured Resortという名前なので、「リゾートの風景についての歌ですか?」とよく聞かれることがあるのですが、実はそういう曲は1曲もなくて。僕が生きていて思うことや嫌だなと思ったことなど、説教くさい歌詞が一番多いかもしれない(笑)。
―そもそもPictured Resortという名前の由来は。
Takagi:"Pictured"という言葉には"写真に映った"という意味だけでなく、"想像した心象風景"みたいな意味合いもあります。"Resort"というのは僕の中で非日常であることの比喩として使っていて、僕にとって音楽自体が現実逃避みたいな面が強いので、そういう自分の考えとマッチしたバンドの名前を考えたときにこれになりました。
新しい自分に到達したのかな
―最新作『Once Upon A Season』は、以前の作品と比べると、ビートの部分が明確に違うと感じました。
Takagi:去年、ミニ・アルバム『Hurry Nothing』を出したのですが、こちらはコロナ禍の中で「力んでも仕方ないな」と思うことが多くて、「だったらリラクゼーションミュージックでしょ」を思ってゆったりした内容にしました。それを2作連続でやるというのは自分の中ではなかったので、ビート強めのダンス・ミュージックとして制作しました。コロナ禍が明けたら海外でライブする機会があるかなというのもあって、もう少しノリのいい音楽をやってみたいなというのが理由です。
―聴いていると、80年代のディスコ・サウンドやAORのような雰囲気が、そこかしこに感じられますが、そういった部分も意識されましたか。
Takagi:意識していますね。Nile Rodgersのオーセンティックなカッティング・ギターを自分なりに解釈してやってみたいというのもあって、アルバム全体で聴くと今までよりもアグレッシヴなカッティングが多く入っていると思います。リズムもそうですし、あとシンセサイザーも80年代の感じをイメージしています。シンセサイザーって「あ、これこのジャンルの音だな」みたいなのが明確に決まる楽器で、逆に言うと年代感というのを出しやすいというか。「この音を使っておいたらわかってもらえる」みたいな、リスナーの方とコミュニケーションするための楽器なんです。それが伝わったのなら嬉しいですね。
―当時の音楽を知っている人は「狙っているな」というニヤッとしてしまう要素があると思いますよ。今作を制作する上で、特に影響を受けた音楽はありますか?
Takagi:明確なものはないのですが、リードトラックの「Oceanizing」は、Chicの「Good Times」をかなり参考にしています。それこそ、往年の70年代や80年代の音楽が好きな方に向けた僕なりのメッセージです。少し前にInstagramで「Scritti Polittiなどのあの頃のバンドのサウンドを今やっているバンドがいるんだな」みたいなコメントを書いてくれている人がいて、伝わっていてよかったなと思います。結局音楽やっている理由の半分くらいは、共有したいという気持ちなんです。
―「Love Inside」も、Curtis Mayfieldなど70年代のニューソウル、もっと言えば山下達郎っぽさもあるのですが、このビート感も思わずニヤッとしてしまいます。
Takagi:そう思っていただけたら嬉しいですね。
―かと思えば、「Best Mood」は、ちょっとアフリカンなテイストがありますね。
Takagi:アルバムだし、少し変わり種を入れようと。この曲はたしかにPictured Resortらしくないかもしれません。現行のディスコ音楽にはアフロな雰囲気も感じられる曲があるので、自分でもやってみるかと思ってやった曲です。アルバム曲なので意外性を感じてもらいたかったというのもありますね。
―「Frozen Pacific」はイントロがアッパーなハンドクラップで始まるのですが、後からスティールパンっぽい音が入ってクールなイメージになっていく。とにかく展開がユニークですよね。
Takagi:アルバムの中で最もダンス・ミュージックっぽい感じにしたいと思ったので、他よりもキックの音が大きい気がします。踊れるタイプでも、Pictured Resortらしくシンセのフワッとした感じや、ドリーミーなイメージもしっかりと残しました。
―最後の「Baby It's You」は80年代のアメリカン・ロックにあったような淡々としたリズムで、どこかロック・テイストがある、それこそJohn Mayerの新作にも通ずるような印象でした。
Takagi:たしかにこの曲は80年代を意識しました。シンセの音や、途中のギターソロもJohn Mayer好きな人が聴いたら、「めっちゃこの人、John Mayer好きなんだろうな」と思ってもらえるようなフレーズになっています(笑)。
―さらっと聴くとビートが効いていて、でも上物は浮遊感があって涼しげで、気持ちのいいBGMになるのですが、じっくり聴くとそこかしこに仕掛けがあって、いろんな楽しみ方のできるアルバムだと感じました。
Takagi:まさにやりたかったことなので、そういっていただけると嬉しいです。
―フルアルバムとしては3年ぶりの3枚目の作品となりますが、過去の作品から段階を踏んで、今作でどのようなところに到達したと思いますか。
Takagi:今までは細かいアレンジは基本的にメンバーにお願いをしていましたが、今回はソロとして初のフルアルバムなので、プロデューサー視点というか、自分を操っているもう1人の自分がいてその目線の方が強いアルバムになっています。新しい自分に到達したのかなと少しだけ思います。
―もちろん満足している。
Takagi:満足ですね。バンド形態でやっていた時(の制作)は、会社で1つのプロジェクトを成功させたみたいな感覚に近しかったですが、今回ソロでやってみて、仲間がいなくなってしまった寂しさみたいなのはどこかにありますが、その反面得られたものがとても多くて。それこそベースが上手くなりましたし、シンセの音作りも前より詳しくなれましたし、音楽でやれることがまだまだたくさんあると感じました。
やはり聴きながら体を揺らしてもらいたい
―今回をひとつの到達点とするなら、次の目標はどんなものになりますか?
Takagi:今回はダンス・ミュージックというイメージがありましたが、アルバム全体で見ると結構バンド・サウンドだと思うんですよ。でも一度バンド・サウンドから距離をおいてみてもいいのかなと考えています。「ソロ・プロジェクトのバンド・サウンド」が今回のアルバムで形にできたので、次はトラックメイカーというか、バンド・サウンドにこだわらない音楽もやってみたいなと思っています。最近ハウス・ミュージックをよく聴いていて、オーガニック・ハウスのような音像なら、自分でもやってみたいと考えています。
―ダンス・ミュージックとしてフロアで鳴らしてみたいと。
Takagi:今回レコードでも発売するので、DJの方がフロアでかけてくれて、それを自分で聴く機会があったらとても嬉しいですね。クラブでガンガン踊るような曲ではないので、場所は選ぶのかもしれないですが、やはり聴きながら体を揺らしてもらいたいというのはあります。
―いわゆる宅録系の音楽は、家でじっくりと聴く楽しみ方もありますが、Pictured Resortはどちらでも楽しめそうですね。
Takagi:僕自身ダンス・ミュージックと同じくらい、ニューエイジみたいなジャンルも好きなので、チルアウト的な要素もあるんです。今作も家でゆっくり聴いてもらいたいという気持ちもあるので、かなりわがままですけど、どちらでも使ってもらえるといいなと思います。
―Pictured Resortの活動以外にも、エフェクターを作っていると聞きました。
Takagi:Peace Hill FXというブランド名で、主にハンドメイドのプリアンプと呼ばれるものを作っています。海外にも輸出していますし、音楽活動同様にこちらの事業も成長させていきたいと考えています。あとは、Pictured Resortとしてだけでなく、楽曲提供などで音楽の幅も広げていきたいですね。いずれにしても、とにかく続けていくことが大切だと感じています。
取材・文:栗本斉
写真:山川哲矢
取材場所:City Country City
〒155-0031 東京都世田谷区北沢2-12-13細沢ビル4F
TEL : 03-3410-6080
営業時間 平日 12:00-25:00 / 土日祝 11:00-25:00 ※水曜日定休
http://city-country-city.com/
RELEASE INFORMATION
Pictured Resort「Once Upon A Season」
2022年7月6日(水)
Format:Digital/12inch Analog
Label:Sailyard
Track:
1. Intro
2. Never Be Slowed
3. Oceanizing
4. Stepped Into
5. Day In Day Out
6. Safari Night
7. Electric Birdland Ⅱ
8. Love Inside
9. Frozen Pacific (Album Ver.)
10. Odometer Rollover
11. Best Mood
12. Gossamer (Extended Mix)
13. Baby It's You
試聴はこちら
LINK
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