SENSA

2021.02.22

She Her Her Hers、美しき音像に未来への意志が宿る新作『silver rain EP』

She Her Her Hers、美しき音像に未来への意志が宿る新作『silver rain EP』

2019年に発表した3rdアルバム『location』で揺るぎない音の個性を確立したShe Her Her Hers。
彼らの温もりを帯びた独創的なチルミュージックは日本に先駆けて海外で評価され、同年、中国のレーベルと契約。この上ない形で日本発の「うねり」を起こせそうな状況だったのだが、コロナ禍によりその活動は阻まれてしまった。そんな彼らが満を持して放つ『silver rain EP』は、これまでバンドが培ってきた美点を保ちつつ、サウンドと詞のクオリティを極限まで高めた画期的な作品だ。
エンジニアリングは彼らの盟友であるThe fin.のYuto Uchinoが手がけており、まさに再始動にふさわしいものに仕上がった。
3月26日には久々のワンマンライヴも開催と、再び羽ばたく準備をしている3人に"今"の心境を語ってもらった。逆境をチャンスと捉え、積極的に自身の成長の糧にする力強さに、このバンドの確かな未来を感じる。


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バンドが上向きの状況に訪れたコロナ禍の2020年

─2021年のスタートを切る作品『silver rain EP』がようやくできましたね。昨年はコロナ禍でバンドとしての活動がなかなか難しい1年だったと思いますが。


高橋啓泰(Vo/Gt&Syn)2019年に『location』っていうアルバムが出て、初めて中国でもツアーをして、お客さんがたくさん集まってくれて。その反響がきっかけで、いくつかイベントに出演することも決まっていたりと、すごくいい流れで来ていたのが2020年は全部なくなってしまったので......。ライヴができないのは残念でしたけど、その反面、当時のいい状況をそのまま次の作品に残したいっていう気持ちもあったので、そういう意味では制作に費やせる時間が増えたことは、結果的には良かったのかなと思ってます。

とまそん(Ba)そう、バンドのバイオリズムが上向きなときに全てがなくなったんですけど、その放物線がグッと上を向いたままで維持できた気はしますね。モチベーションを高く保ったまま、3人それぞれが過ごしていたって感じ。

松浦大樹(Dr)2019年の『location』は、自分たちの目指してきたものがやっと形になった作品だったし、間違いないものができたから、2020年はそれを応用していく段階だった。その延長線上でライヴやプロモーションをして、やっと自分たちの音楽を届けられるっていうタイミングだったんです。でも、ライヴができなくなってしまったので、そこからどうアップデートした作品を作ろうかって気持ちにすぐ切り替えられたので、制作の情熱はずっと続いたたままでしたね。



─焦りはなかったですか?


高橋むしろ曲ができ始めてる感じがあったので、曲作りに集中できるのが結構ありがたかった。メンバーはメンバーで歌詞を書いてくれてるし、結局はいろいろな作業が効率よく進んだなって。

松浦去年の3月に緊急事態宣言が出た時は、俺も結構精神的に落ちたところがあったんですけど、啓泰がしっかり音楽を作り続けていたから、そこに救われましたね。ま、啓泰は元々インドア派というか、世で言う「おうち時間」の方なので(笑)。俺らのフロントマンが動じずにいてくれたおかげで、じゃ、俺らは自分のできること――歌詞を書こうって思えた。

高橋唯一焦りみたいなのを感じたのは、この準備期間に「やってる人はやってるだろうな」って思った時ですね。コロナが明けて動き出した瞬間に、動き出す人はすごいスピードで形にしていくんだろうなと思ったので、自分もちゃんとそこに合わせなきゃいけない。この期間に何やってたんだろう?って思いたくない気持ち......その焦りのほうがでかかったですね。


音と言葉が洗練された最上級のポップス

─今回の『silver rain EP』で言うと、4曲目の「s(SILVERED)」が象徴的な曲だなと思ってて。<支えあういまここで 不安とは戦わない>っていう歌詞に顕著ですが、コロナ禍の世の中に対するメッセージになっていますね。


とまそんそうですね。これは4月末、緊急事態宣言下で制作してデジタル配信したんです。歌詞は通常、曲が先に出来ていて、メロディだけじゃなく全体のアレンジが決まって、曲の雰囲気が見えてきてる状態でのせるんですね。景色が決まってからというか。この曲の詞は当時、自分やみんなが置かれてる状況で、自分だったらどんな言葉をかけられたいか、自分なら何ができるかってことを広げて書いたんですけど、その瞬間が閉じ込められてるので、いろいろ思い出せる曲になっていますね。



─バンドの社会的意義とか、ものを作るってことに対しても意識が変わったんじゃないかなと思うんですけど、どうでしょう?


高橋それが自分としてはそこまで影響を受けたわけではないんですよね。『location』とそれに際して行なったツアー、その延長にはもっといいものができそうだなという予感しかなかった。もっといい作品をどんどん作って行こうと思って、その準備に充てられるいい機会だなっていうことしか正直思ってなかったぐらいで。

松浦その意識が俺をすげえ安心させたんですよ。価値観だったり色々な変化はあったので。とまそんも俺も「シーハーズ節」というものがありながらも、その中で言葉を選んでメッセージを伝えていかなきゃいけないなって。俺らがずっと日本語にこだわって、日本語でやり続けてる意味はそこにあるなって。自分で歌詞を書いて自分が救われたりとかもしたし。

とまそんそうだね。やっぱコロナの中って、自分と向き合う時間が多すぎるし、不安な情報もいっぱい入ってくるせいか、何が自分のしたかったことなのかを見失いがちでしょ。そこで平常心というか、自分の元々のフラットなところって何なんだろう?って考えたんですよ。楽曲的にもフラットな状態に戻すというか。自然であることがかっこいいと思ってるし、人としてもそれが一番だと思ってるから、それをそっと戻してくれるようなサウンドと歌詞になるといいなと思って。

松浦自分の心を、音楽を聴いてケアできる時と、言葉を聞いてケアできる時って音楽にはあるじゃないですか。シーハーズはそういう意味では音を聴いて気持ちいいっていう感覚が多く含まれてると思っているんですけど、今回はそこに意味も意志もある歌詞が濃くプラスされたことで、自分たちの中での最上ポップミュージックができたかなって思えるんですよね。二つの要素がハイブリッドに融合できたことで、音楽が好きな人、言葉が好きな人のどちらにも刺さったらいいなって。

─そうですね。シーハーズらしい作風を保ちながら、いろいろな要素をハイレベルに洗練させた印象です。


松浦それはバンドとしての柱ができていたからですね。それが2019年の作品でありツアーだった。ツアー中、毎回何百人もいるところで演奏ができて、それを評価されたことが自信になったし。だったら本国の日本でも、同じような意志と純度を持って、しっかりやり続けていれば、いろんなことに打ち勝てると思ったんですよね。コロナにも自分たちにも。

とまそんそういう意味では、ホントにタイミングが良かったと言えるよね。1年前だったら全然状況が違ってたと思う。『location』はお互いの良さを生かして作った感触があったから、お互いに対するリスペクトの気持ちが根本に根付いたし。

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時代に灯す「光」を描く

─『silver rain』はEPとして「こんな作品にしたい」ってテーマはあったんですか?


高橋何年も聴き続けられるようなものを作ろうとは思ってました。ホントは2020年のうちに出したいという気持ちはあったんですけど、リリースを数ヶ月急ぐことよりも、作品として納得いくものをちゃんと仕上げようと。あと、「s」が時代の影響を受けて出来上がった曲だったので、他の曲にもそういう雰囲気はありますね。

─時代といえば、「zeitgeist(ツァイトガイスト)」っていう、そのものズバリの曲も入ってますね。


松浦そうですね。これは「時代精神」とか「社会通念」っていう意味で。俺自身、とまそんの書いた「s」の詞に救われたから、俺も「じゃあ次の一歩目どうする?」っていう詞を作ったんですね。自分でいいもの、悪いものを判断して、自分自身で未来を勝ち取っていくっていう、ちょっと今までのシーハーズにはない「光」を描きたかったんですよ。

─ええ、特に「zeitgeist(ツァイトガイスト)」と「s」は、現状に対する「NO」も含めて、言葉の力強さが印象的です。バンドの意志表明という感じがしますね。


松浦そうなんです。すべて進むってことに通ずるなと。そういう意味では歌詞の上でも4つの曲に整合性はありますね。

─メッセージは強いのにサウンドはメランコリックだったりして、その対比のバランスもいいです。


松浦そこはブレないんですよ、啓泰が。俺ととまそんは結構ハッピー寄りな住民なんですけど、啓泰はダークヒーロー味があって。低体温で「静」の人に、俺らの感情的なメッセージを歌ってもらうことによって面白さが出てるかなって思います。

─曲を書く側としてはどうですか? 歌詞って比較的気持ちを落とし込みやすいフォーマットだと思いますけど、作曲にはそういう精神状況は反映されていますか?


高橋僕はいつも通りでした。二人がシーハーズのサウンドの世界観とかイメージから外れないワードを使ってくれることは信頼してますから。


盟友Yuto Uchinoが引き出すシーハーズの魅力

─今作は以前から関係の深いThe fin.のYuto Uchinoがエンジニアとして参加、ミックスを手がけてますね。サウンドに関するリクエストは何かしましたか?


高橋知っている仲で、どうしたらいいかは向こうもわかってますから、「こうして欲しい」っていうのはなかったです。こちらでエフェクトかけたりと、ある程度形ができた状態で渡したので、その延長線上で作ってくれたと思います。楽曲のポイントになる部分はちゃんと感じ取って、フィーチャーしてくれてましたね。

とまそん前にライヴを観にきてくれた時に「俺がPAやりたい。俺だったらシーハーズの音をもっと良く引き出せる」って言ってくれたことがあるんですよ。

松浦うん。「まだ表れていない音や世界を出したい」ってね。Yutoは世界のいろんなとこでいろんな経験をしてるし、最先端の技術を持ってる人間なんで、この時期に一緒に作れたっていうのはホントよかったよね。

とまそんYutoのミックスを聴いて、Yuto自身には音楽がこんな風に聞こえてるんだって思った。イントロのシンセがポロンって鳴った瞬間を、こんなに瑞々しく聴いてる人なんだって。一緒に作業したことでそういう発見があったし、自分たちの持ってる可能性についても気づかされましたね。

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10年間で確立したシーハーズらしさとは

─シーハーズは2011年結成ですから、今年でちょうど10年なんですよね。10年やってきてわかったこと、掴んだことってあるでしょうか?


とまそん自分がやりたくて試行錯誤してきたことが、ここ最近芽吹いているという感触はあります。簡単に言えば、自分が歌詞を書いて、啓泰に歌ってもらうってことなんだけど、歌詞の内容と啓泰のキャラクターがうまく混ざっている手応えがあって。自分の中で啓泰がどう歌うかが見えているものを渡すと、そのままスッとハマる。そこが見えてくるまでは渡さないで練り込むから、いつもギリギリになるんですけど(笑)。最近は歌ってもらって、イメージと違うことは本当になくなりましたね。だから今は自分として一番手応えがあるし、何より楽しいです。

─「これがあったらシーハーズだ」っていう成立条件ってなんだと思いますか?


とまそんなんですかね。独特の肌触りというか空気感なのかな。そういう意味では今回のEPは聴いた瞬間、シーハーズらしいねって言ってもらえることが多いです。

松浦あとは、啓泰のブレない心、そこも重要ですね。啓泰がデモの段階から丁寧に作って持ってきてくれる。そこの作業がブレないから、俺らも丁寧にやれるんです。3人それぞれ趣味嗜好はバラバラなんですけど、そこを覆いまとめる「説得力のある芯」が、啓泰の作る音楽にある。俺で言うと、ソウルとかファンク、ヒップホップやジャズが好きなので「こういうビートをのせたい」っていうのがあるんですよ。例えばファンクにそのまま叩いてメロディにのせたら、明るい色味のある曲になる。でも啓泰のフィルターを通したら、啓泰独自のまぜ方がしっかりそこにあって、シーハーズの音楽になるんですよね。去年も超特急のタカシ君に楽曲提供したんですけど(「libra」と「Re」)、歌い手が違うのにシーハーズの曲になってる。啓泰が確固たる音楽ジャンルになってるから、安心していろんな価値観を共有できるんですよね。





高橋確かに、去年楽曲提供したのは大きかったかな。世の中に広く聴かれるっていうイメージを持って作ったんですけど、結局自分がやってる音楽っていうのは変わらないなって確認したので。自分にしかできないことをやるしかないなってことにも気がついたし、自分が作ったメロディは自分が一番正しく歌えてるんだなって思うこともできた。周りがどう思うかを気にせず、音楽を作れるようになったんですよね。もし足りない部分があったら、そこは「伸び代」ぐらいの気持ちでいればいいと思って。

─啓泰君って、もっとナイーヴな人間だと思ってたんですけど、逆でした。タフなんですね、それもかなり(笑)。


松浦そうなんですよ、ステイヤングなんですよ(笑)。だからいいんです。とまそんの「俺、何周もして、10代の頃のような気持ちで取り組めてる」って投稿を読んだんだけど、そういうのも嬉しいんですよね。メンバーの人間的な活気に触れるのが。

とまそんそうだね。だから年月が経ってる実感があんまりなくて......その瞬間瞬間で発見したことに向き合ってきただけなんだと思うんですよ。

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直感に従って加速する2021年

─今年は忙しい年になりそうですけど、2021年中にこれをやりたいという目標はありますか?


高橋アルバム出したいなって思ってます。鮮度があるうちに。

松浦啓泰、今、スイッチ入ってますからね。

─もうアルバム用の曲はできているんですか?


高橋ネタはいっぱいありますね。ただ、2020年は自分の中での成長具合が結構大きくて、夏よりも秋、秋よりも冬って感じで、より良い曲が作れているので、聴かせたい曲を優先しつつ、少し前の曲でもアルバムのイメージに合うよう再構築して纏めたいと思っています。

とまそん(高橋に)ね、俺が質問していい?メロディを決めるときにさ、いろんな案があるじゃないですか。「これはあり」「これはなし」って決めるときの基準って何なの?

高橋作ってるときって、わりとどれもいけると思ってるんだけど、家の外で聴いてもいいメロディだなって思うもの、もしくは数日経ってから聴き直してもいいと思うもの。自分の中での再生回数が多いやつが必然的に残るかな。

松浦『location』とか、そのちょっと前に出したEP『SPIRAL』(2018年)でも、啓泰は自分の直感に従ってやって、それでいいものができた。アルバムを出してゴールじゃなくて、そこから5年後、10年後に聴いてもやっぱりいい曲だって自信を持って言える曲をずっと作り続けようというのが俺らのコンセプトだけど、ここ2年ぐらいでそれができてると思うんで。俺も、ふとした夜に自分たちの音楽聴きますけど、改めて「いい曲だなぁ」とか「いいバンドだなあ」って思いながら聴けるって幸せなことです。だから啓泰の直感は大事にしていきたいんですよね。



─3月26日には代官山UNITで久々のワンマンライヴがありますね


松浦音源はこうだからライヴではこうしてみようとか、やり方を考えているところです。僕らの音楽って、かなり隙間があって。だからライヴでは、構築美を良い意味で汚すみたいなこともできるんです。それは自分たちにとってもすごく刺激的な作業で。啓泰がスイッチ入ってギター掻き鳴らしたりするのもライヴならではだし。しっかり構成した中で、自由な部分も沢山あったり。一昨年の中国ツアーではそういったライヴを披露できていたけど、日本のオーディエンスにはまだしっかり見てもらえてないので、3月26日のワンマンではいよいよ、という感じがあります。音源だけを聴いてる人はマジびっくりすると思います。

高橋ライヴは3月26日の1本だけなんですけど、日本でもツアーをやりたいですね。中国でライヴやった時、自分たちが続けてきた音楽がこんな形で評価されるなんて想像してなかった。僕ら、日本語でやってるのにね。その経験から、素直に音を出して、聴いてくれる人がいるところに行って演奏するというのがバンドの本来あるべき姿なのかなと思うようになりました。今は曲も増えたし、より良いパフォーマンスができるようになってると思います。以前よりも聴いてくれる人を増やすチャンスが広がってるという意味では、今が頑張りどきなのかな。

とまそん一歩一歩、周りに影響されずに自分たちのペースで歩んでいくというのは変わらないけどね。

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取材・文:美馬亜貴子
撮影:マスダレンゾ

RELEASE INFORMATION

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She Her Her Hers「silver rain EP」
2021年2月10日(水)
Format: Digital
Label: Conditioner Label

Track:
1. silver rain
2. figure
3. zeitgeist
4. s (SILVERED)

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LIVE INFORMATION

HERZ 2021
3月26日(金)
代官山UNIT
OPEN 19:00 / START 19:30
前売¥3,500 All Standing ドリンク代別
詳細はこちら

*小学生以下のご入場不可
チケット発売中
企画: 制作:SMASH CORPORATION



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オフィシャルサイト
@shhh_s
@sheherherhers_official
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