SENSA

2020.08.30

「忘れることにも風情がある。」さとうもかがコロナ禍で見つけた夏の煌めき

「忘れることにも風情がある。」さとうもかがコロナ禍で見つけた夏の煌めき

さとうもか。彼女は2018年にデビューして以来、サブスクリプションを中心に注目を集め、この夏もたくさんのステージに立つ予定だった。しかし、今年の夏は、フェスや花火大会は軒並み中止、外出自粛の雰囲気も漂う「特別な夏」となった。
彼女がリリースしたアルバム「GLINTS」は、そんな夏のポツンと開いた時間にできた。アルバムタイトルにもある「GLINTS」とは「きらきら煌めく」の複数形の意味。「コロナがあって自分の価値観が変わった」と話す彼女は、想定外の空白の時間に、一体何に煌めきを見つけたのだろうか?


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─8月にリリースされたということは、アルバムを作り始めたのは、もしかして外出自粛真っ只中の時ですか?


制作に入ったのは2月ぐらい。岡山でもコロナ禍の影響が来ていて、東京ほどではないけれど、不安な雰囲気があってどこにも行けなくなりました。だから基本的にリモートでの制作です。PCアプリのLogicで、バンドのみんなでそれぞれ録音して、音源をメールで送りあって「こういうフレーズどう?」「こうしよう!」「やってみる!」みたいなやりとりをZoomとかLINEでして1ヶ月くらい会わずに。そのあと少し落ち着いた頃に、スタジオで合わせて作り上げました。
今までも、岡山に住みながら東京の人とやり取りすることが多かったから、そこまで違和感なくできたところはあります。

─ずっと岡山を中心に活動していますよね。東京に出てきても良いのかなと思ったり。


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サポートを務めてくれているバンドメンバーが岡山にいるのも大きな理由のひとつ。
4年くらい前に、ステージに立つときにお願いした人たちなんですけれど、みんな私が十代の時からの付き合いで。ドラムとベースを担当してくれているかねもとまさやさんと中川翔太さんは元々別のバンドを組んでいて、当初、私はそのバンドにバックバンドをして頂いていたんです。そこに高校の同級生の小川佳那子さんに「一緒にバンドやらない?」と声をかけて、ピアノを担当してもらうことになりました。みんなそれぞれいろんな音楽に詳しくて、教えてくれる。趣味も合うし、楽しいなあと思ったので、現在のもかバンドになりました。

「Poolside」のアレンジをお願いしたSPENSR君も地元が一緒で、「オレンジ」を一緒に作った、かねこきわのちゃんも地元の友だち。「パーマネント・マジック」のアレンジをお願いした松浦正樹さんは、バンドメンバーみんなが昔から仲が良くて、私自身も面識がありました。「アイスのマンボ」のアレンジをしてくださった浦上想起さんは、去年ライブで出会った方です。曲も大好きなんですけど、演奏する姿を見た瞬間に「現代のショパンだ!」と思うくらい大ファンになってしまったので、今回声をかけさせていただきました。「ラムネにシガレット」のアレンジに協力頂いたkonoreさんは、2ndアルバム詳細は『Merry go round』のときにご紹介頂いた方でした。「Glints」でアレンジしていただいたTENDREさんは、私が一方的にファンで......マネージャーさんを通してお願いしたら快諾してもらえました。 こんな風に、自分の好きなアーティストと一緒にいろんな音楽ができることは本当に嬉しかったですね。



一人で音楽をやっていると不安になることもあるんですけど、音楽を続けているのも好きでやっているので、この部分は仕方ないというか......受け止められています。こんな感じで、今の環境で特に不自由したことがなく......強いて言うなら、岡山にいると移動が多いなっていうぐらい。近くに家族とか友だちもいて楽しいからいいや、と思ってます。

─東京で活動するようになったきっかけもSoundCloudで声をかけられたことがきっかけと聞きました。あまり居住地とか関係ない......?

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そうですね。私、SoundCloudって「誰かに聴いてもらうサービス」だと思ってなくて、自分用のログを残す場所として使っていて。
当時は、iPhoneアプリで重ね録りするのにハマっていて、SoundCloudに載せていたんです。使ってるうちに「これは誰かに聴いてもらえるサービスなんだ」と気がついて、Twitterで告知していたら、ちょっとずついろんな人に聴いてもらえるようになりました。そうしたら、モナレコードの人から連絡をもらって下北沢でライブすることになり、「こんなこともあるんだぁ」と嬉しく思いました。

─iPhoneで録音というのがちょっと意外です。音質は気になりませんか?


私は、iPhoneで録る少し悪い音質がすごく好きなんです。今までもリリースした楽曲の中にiPhoneで撮った音をいれたこともあるし、去年の25歳の誕生日には、iPhoneの重ね録りで作ったものも含めた25曲をまとめてパッケージにしたりしました。

─さとうさんは、高校から音楽の専門の学校に通われていたので、音質にこだわりがありそうだなと思っていたりしたのですが、違うんですね。


はい(笑)。最近はちょっとずつ「良い音」がわかるようになってきたんですけど、そこまで敏感ではないかな......。それよりも「きれいな和音」の方が気になるというか。 あと、多分小さい頃の原体験が大きいと思います。

─原体験?


小6ぐらいの時にCMソングにすごく興味を持っていて、テレビを見ながら「この曲って何?」ってよく親に聞いていたんです。自分が好きだと思う曲が、ジャズとシャンソンのことが多くて、中1の時に"ジャズの名盤100曲"みたいなオムニバスアルバムを買ってもらってよく聴いてました。そこからジャズにハマって。今振り返れば、それってレコードをCDをに焼いたような、良い音じゃない(笑)。 だから一見、音質のよくないiPhoneで録った音の方がしっくりくるのかもしれません。
ジャズは小作曲の部分でも影響を受けてると思います。「ド・ミ・ソ」の和音を置くべき時も、いつも「ド・ミ・ソ・シ」って4音にしちゃう手癖とか。ギターもやってたんですけど、あんまりよく分からなくて、でも押してみたら「あ、綺麗だな」って思うセブンスコードとかジャジーなコードが多くて。そこからギターの弾き方とか、全然教則本とあってないんでしょうけど(笑)......覚えていったかなと思います。
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─メロディはジャズが元になっているんですね。歌詞で影響を受けたアーティストはいますか?


高校でコピーバンドをしていたチャットモンチーさんと、お母さんが好きでよく聴いていたドリカムに松任谷由実さん。特に荒井由実時代が好きです。

─荒井由実。さとうさんの年齢だと"世代"ではなさそうです。サブスク経由で掘ったとか?


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実は......大学生の時に地元のイベントで弾き語りをさせてもらった時に、それを見ていたおじいさんから「ユーミンのコピーバンドしようよ」と誘われて、バンドを組んでいたんです。おじいさんなのかな......ちょっと不思議なバンドメンバーなんですけど、、おじさん2人と、おばさんと、お姉さんと私、みたいな。そんなメンバーで荒井由実時代のコピーバンドを組んでいました。
もともと両親が車の中でかけていたり、CD屋さんで荒井由実さんを知って聴いていたんですけど、同世代の友だちとは共有できなかったから楽しかった。学校以外の環境で、そのバンドメンバーのおじいさんたちと過ごしたことで、 いろんな音楽を教えてもらいました。

─メロディに関しては、今回は昭和のポップスのような雰囲気がある楽曲もいくつかありました。これも少し昔の楽曲に惹かれるところから来ているのでしょうか?


今回の作品は、昔っぽさにこだわりをもったということではないのですが、例えば「オレンジ」や「パーマネント・マジック」は昔のアニメのオープニング曲を意識しました。

─例えばどんな作品ですか?


「オレンジ」はゼロ年代の「おジャ魔女どれみ」とか「クレヨン王国」のオープニングっぽさをベースに、フレンチポップとか渋谷系。あとは、ほんの少しだけヒップホップ的な要素を入れてごちゃ混ぜにしたら面白そうだと思って。

─ヒップホップ?


ヒップホップ感は、途中でドラムの音が打ち込みドラムみたいな音とシンセみたいな音を組み合わせたような瞬間を持ってきて、 「オレンジ」では空気感を変えるっていうトラックの作り方を意識しています。

─同じレトロな雰囲気でも「パーマネント・マジック」はテクノポップっぽさがあります。


そうですね。80年代っぽい感じを意識しました。「うる星やつら」の「ラムちゃんのラブソング」とか「セーラームーン」 的なイメージです。 昔のアニソンもよく聴いたりしますし、今までやったことがなかったので、 今回のアルバムでは参考にしてみました。

─歌詞は実体験をベースにされているんですか?


最初、自分で曲をつくろうと思ったのは、大学時代に初めて人を好きになって、そこから心が動くようになったことがきっかけで。10代の頃は、全然......他人に興味がないというか、あんまり感情に起伏がなくて。

─恋をしたら変わった。


そうですね。誰かのことが気になって、考えたり、仲良くなって喧嘩をしたり......っていうすごく当たり前のことなんですけど、歌詞が書けるようになったので、自分の話をベースに書いているところはあります。
でも、今年リリースした「melt bitter」という楽曲は、歌詞を自分の経験を色濃く出したし、挑戦した楽曲だったと思います。でも、そのことをちょっと後悔してる......。



─なぜですか?


歌うごとに傷つくのも少しあるし......(笑)元々自分の主張というよりは聴いてくれる人が主人公になれる曲を作るのが目標なんです。 だから、今回のアルバムは、 基本的には自分の思っていることをベースに作るように意識していました。自分の感情をそのまま曲にするのではなくて、一歩ひいて、別の角度から見たその気持ちを主人公に当てはめてみたり、10代の頃の感情とかを思い出して作っていきました。

─「クラスメイト」という単語や「君とは隣の席でも無くなるのかな」という歌詞は10代の頃を思い出しました。


そうですね。「My friend」は、席替えをテーマに、クラスでもそんなに目立つタイプじゃない人の気持ちを歌ったもので、「ラムネにシガレット」は、背伸びしていて、同級生とはあんまり話が合わないな......という感じの、中高生がもつような気持ちをイメージして歌ったものです。
歌詞で言うと「愛ゆえに」は、途中で書けなくなってボツにしようと思ったものです。でも、今泉監督の映画「愛がなんだ」を見て衝撃を受けたんです。「これだ......ヤバい......」と思い、途中まで出来て放置していた楽曲を見ると、自分がつけたタイトルも含めて「愛がなんだ」みたいな内容になっていたんですね。 映画に助けられて、最後まで書き上げられました。



─「愛がなんだ」は、女の子ならみんな心が揺さぶられてしまいますよね。


そうですね。男女それぞれの気持ちがわかるというか。本当に10代の頃は、映画を見て感情移入をすることもほとんどなかったんですけれど。人と関わったり、曲を作ったりしていくうちに変わったんだなぁと思います。

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─程度こそあれ、自分の経験や思ったことを歌詞に落とし込んでいる一方、フレッシュな気持ちってどんどん忘れていきませんか? 昔、あるアーティストに「若い頃の気持ちを書くには飛距離が必要になってきて難しい」と話を聞いたことがあります。


昔は「忘れる」ことが本当に怖くて、よく一人でカフェに行ったりして「良かった出来事を集中して思い出す」ことをしていたぐらいです。それぐらい大切にしていた思い出も、新しいことが増えるたびになんとなく忘れてしまう。ずっと怖かったんです。でも、最近は......忘れることも風情がある気もしていて。

─風情がある。どういうことでしょう?


例えば、 海外に行ってしまって長い間会っていない友だちが、コロナウイルスの影響で帰ってきたりしたんですね。 そういう友達と再会して本当に数年ぶりに会話をすると、昔の楽しかった思い出とか空気感が、全部蘇ったんです。モノクロ写真がカラーになった、みたいな。
この数年、お互い全然違うところで生きていても、ふと言葉がハモったりして。息がぴったりというか、全然変わっていないなぁって思いました。忘れていたと思っていたのに、自分の中にしっかりとした記憶として残っていて。たとえすぐに思い出せなくても、今までの出来事の蓄積が、今の自分になっていたんだなってことを実感しました。それから、思い出を忘れてしまうのも怖くなくなった。
だから、「Glints」はコロナ禍じゃなかったらできなかったかもしれない。

─「Glints」は、王道サマーチューンの印象で、夏のキラキラした感じを詰め込んだイメージがあったので少し意外です。


「Glints」は、今、話したような思い出を詰め込んだ曲なんです。夏は季節の中で一番好き。好きな人と夏に見た映画の音楽を不意に聴くと、あのときにワープできるっていうか。忘れてしまったことはたくさんあるけれど、しっかりと自分に染み込んでいて、気が付かないほど私の一部になっていたんだなぁって。

去年まではライブをすることが多くて、自分の気持ちとか自分の幸せとか、誰かのことを考える時間がなかった。でも、コロナでライブが全然できなくなり、意図せず時間ができたからこそ、全部取り返せたんです。今までとは違って、補給されたような感じがあった。
以前の「心ここにあらず」というときの感じも含んだ上で、今に戻れたことがよかったな、と思っています。

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私が生きてきた中で一番キラキラしていない夏になりそうだなと思っていたんですけれど、一生モノの一瞬はすぐ隣にあるなぁっていう気づきを込めたのが「Glints」でした。美味しい朝ごはんを食べたり、久しぶりに友だちと話してみたり。日常的に......普通にやることは、本当はおもしろいことだから。普通の生活にスポットライトをあてると面白い、そういうことに気がつくことができた期間でした。

未来のこととかを考えると不安になったり、過去を忘れていってしまうことに怖くなったりもするけれど、今目の前にある生活にわくわくしていたいです。


取材・文:嘉島唯
撮影:Kana Tarumi


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さとうもか『GLINTS』のリリースを記念して、SENSAのTwitterInstagramにてプレゼント企画を実施!
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詳細は下記の応募方法をご確認ください。

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■応募方法

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■期間
2020年8月30日(日)20:00〜2020年9月6日(日)23:59まで

■当選発表
2020年9月9日(水)予定

■注意事項
※種類はランダムとなります。指定はできませんのでご了承ください。
※アカウントが非公開の投稿は応募を無効とさせて頂きます。
※当選者にのみDMもしくはメッセージでご連絡します。DM・メッセージの受信機能を有効にして頂くようお願い致します。
※当選のご連絡から2日以内にお返事がない場合は当選を無効とさせて頂きます。
※選考経過および結果に関するお問い合わせには一切お答えできません。
※プレゼントの当選権利は、当選者本人に限ります。第三者への譲渡・転売・質入などはできません。


RELEASE INFORMATION
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さとうもか『GLINTS』
2020年8月5日(水)
Label: ANTHOLOGY

Track:
1. Glints
2. オレンジ
3. Poolside
4. 愛ゆえに
5. パーマネント・マジック
6. Strawberry Milk Ships
7. あぶく
8. アイスのマンボ
9. My friend
10. ラムネにシガレット

各デジタル・ストリーミングサービスで配信中!
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