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2025.10.01
到底明るくなんてなれやしないけれど
ひとひらやhardnuts、yeti let you noticeをはじめ、ポストコロナ時代のオルタナティブミュージックを発信しているレーベル・Oaikoが投下する、仙台発の4ピースバンド・TIDAL CLUBによる1stアルバム。
気圧や不安、ランドリー、乾いた、などa母音でスタンプされる長い音符が、生温い春の気配と湿り気を孕んだ亀岡裕貴の唱法と共に揺蕩う序曲「ランドリー四月を泳ぐ」を筆頭に、スタッカートを効かせたボーカルとグッと沈み込むローな単音が断片的にフラストレーションを告ぐ「簡易的な海」、お湯も張らずに入ったユニットバスのひんやりとした感触と胸を覆う愁いを重ね合わせる「kanayagawa」など、直訳で「複数の苦痛のパック」を意味する表題を掲げたに似つかわしい切り傷たちが残されている。
道端に佇む野草や鈍色の街、正常と真っ当の腹にメスを入れることで湧出した歪みとねじれを切り取ってきたからこそ、天気予報のアナウンスに鋭いギターと固く張られたビートをぶつける6曲目「comfortablehole/goodbye」からの流れは圧巻。続く「微熱」で〈期待しない 悲しまない様に 未来はない そう思い込んでいる〉と言い訳と諦観を並べながらも、〈しばらく 帰れそうにないから 宅配は受け取っておいてよ〉と玄関先で部屋の全貌が分かるような1口コンロの部屋を飛び出せば、〈雨が止んだらまた少しは 歩いてみるよ〉(「ケトル」)、〈幸福を遠く向こうに投げる しばらくはこれで歩けるだろう〉(「20170809build」)と、雨雲から降り立った一縷の光に向けて歩を進めていく。その上で、一度の静寂から再起を告げるみたいにギターを打ち鳴らし放たれる〈それから僕らは何かを忘れたりしなかったりする〉という1ラインの切実さたるや。
簡単に100パーセントに希望を信じることなんて、さらさらできやしない。いやむしろ、そんなことは信じてさえいない。それでも、見て見ぬふりをした心の悲鳴に耳を傾け、その悲壮を紐解き、整頓することができたなら。さすれば、いつの日か来たる春はひと際温かいはず。果てなく続く営みの微々たる波をおぼろげに、しかし確かに記載した作品群。
文:横堀つばさ

TIDAL CLUB「pluralpainpacks」
2025年10月1日(水)
Format:Digital
Label:Oaiko
Track:
1. ランドリー四月を泳ぐ
2. 簡易的な海
3. thawed
4. kanayagawa
5. コートドミール
6. comfortablehole/goodbye
7. 微熱
8. ホームタウン
9. ケトル
10. 20170809build
試聴はこちら
@eastoklab
@eastoklab
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ひとひらやhardnuts、yeti let you noticeをはじめ、ポストコロナ時代のオルタナティブミュージックを発信しているレーベル・Oaikoが投下する、仙台発の4ピースバンド・TIDAL CLUBによる1stアルバム。
気圧や不安、ランドリー、乾いた、などa母音でスタンプされる長い音符が、生温い春の気配と湿り気を孕んだ亀岡裕貴の唱法と共に揺蕩う序曲「ランドリー四月を泳ぐ」を筆頭に、スタッカートを効かせたボーカルとグッと沈み込むローな単音が断片的にフラストレーションを告ぐ「簡易的な海」、お湯も張らずに入ったユニットバスのひんやりとした感触と胸を覆う愁いを重ね合わせる「kanayagawa」など、直訳で「複数の苦痛のパック」を意味する表題を掲げたに似つかわしい切り傷たちが残されている。
道端に佇む野草や鈍色の街、正常と真っ当の腹にメスを入れることで湧出した歪みとねじれを切り取ってきたからこそ、天気予報のアナウンスに鋭いギターと固く張られたビートをぶつける6曲目「comfortablehole/goodbye」からの流れは圧巻。続く「微熱」で〈期待しない 悲しまない様に 未来はない そう思い込んでいる〉と言い訳と諦観を並べながらも、〈しばらく 帰れそうにないから 宅配は受け取っておいてよ〉と玄関先で部屋の全貌が分かるような1口コンロの部屋を飛び出せば、〈雨が止んだらまた少しは 歩いてみるよ〉(「ケトル」)、〈幸福を遠く向こうに投げる しばらくはこれで歩けるだろう〉(「20170809build」)と、雨雲から降り立った一縷の光に向けて歩を進めていく。その上で、一度の静寂から再起を告げるみたいにギターを打ち鳴らし放たれる〈それから僕らは何かを忘れたりしなかったりする〉という1ラインの切実さたるや。
簡単に100パーセントに希望を信じることなんて、さらさらできやしない。いやむしろ、そんなことは信じてさえいない。それでも、見て見ぬふりをした心の悲鳴に耳を傾け、その悲壮を紐解き、整頓することができたなら。さすれば、いつの日か来たる春はひと際温かいはず。果てなく続く営みの微々たる波をおぼろげに、しかし確かに記載した作品群。
文:横堀つばさ
RELEASE INFORMATION

TIDAL CLUB「pluralpainpacks」
2025年10月1日(水)
Format:Digital
Label:Oaiko
Track:
1. ランドリー四月を泳ぐ
2. 簡易的な海
3. thawed
4. kanayagawa
5. コートドミール
6. comfortablehole/goodbye
7. 微熱
8. ホームタウン
9. ケトル
10. 20170809build
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