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2025.10.01
内発的な純度の高い表現がむしろ他者に届くことがある。それは「こんなことを言ったら人は引くかもしれない」という告白によって、結果的に無二の親友ができたりする感覚に近いかもしれない。ソロ・アーティストとしてシンガーソングライターというスタンスを採った江沼の1stアルバム『#1』はトラックメイクも演奏もすべて自己完結し、ジャンル的にはインディR&Bのスタイルに近接。2ndアルバム『それは流線型』はその発展形で、近作のEP『極楽-EP-』はレトロなドラムマシーンTR-808が中央に鎮座する和風アンビエントだった。所属するシーンが違うせいか、名前が並んだテキストを見たことはなかったが(単に私が見落としている可能性もあるが)、1stに関してはフランク・オーシャンや小袋成彬作品との共時性を感じずにいられない。ソロ活動を始めた当時の江沼は言葉の意味から距離を置こうとしていたそうだが、彼の音楽は彼の声とメロディを置き去りにはできなかった。彼自身がというより、潔癖で同時に人懐こいあの声とメロディがそうさせたんじゃないだろうか。次の転機はplenty以来のバンド結成。「パンクバンドがやりたい」というひらめきで始まったDOGADOGAにおける"パンク"はジャンルやサウンドではなく、「何かいまに対して揺さぶりをかけたい」という精神性に違いない。しかもこのバンド結成の発端は20th Centuryのバックバンドである。前段が長くなってしまったが、DOGADOGAが存在するからこそ、いまソロでバンドサウンドを成就できたんじゃないだろうか。
この『ことさらEP』は既に7月からライブ会場限定で販売されている。いまの江沼にとってリスナーに最初に作品を届ける場としてライブがいかに重要なのかがわかる。本作にはバンドとの録音が3曲、江沼とトロンボーンのNAPPIからなる1曲、そして江沼の打ち込みによる1曲を収録。バンド曲のプロデュースとミックスは山本幹宗、他の2曲は江沼のミックスだ。このスタイルの混在からしてコンセプチュアルなEPではなく、ソロの現在地を示す改めての名刺代わりの1作と言えそうだ。ちなみにバンドメンバーは山本幹宗(Gt)、森夏彦(Ba)、古市健太(Dr)の布陣。
1曲目のタイトルチューン「ことさら」から押し寄せるような豊かなバンドサウンドと、その奔流に身を任せながらもしっかり立つ江沼の姿が見える。コード感や曲調には彼の原点であるビートルズを彷彿される部分もあり、歌われていることは過去も俯瞰しながら、いまどう彼が生きているかの私信めいた近さがある。冒頭"走り出すよ、慌てて履いた靴で"で、日常の機微に心を添わせ、"終わりたくて急ぐように生きて、振り落としてきたような若さ"というくだりに彼自身の作家性を見て少し立ち尽くす。それにしても2曲目の「ツキが回れば」も含めて、山本がプロデュースのみならずギターで参加している事実が生み出すグルーヴにある。そう、くるりの名曲群のバンドアンサンブルのあれだ。さらに3曲目の「抱きしめたい」には80年代っぽいシンセがシティポップより歌謡曲の懐かしさを纏う。フォーキーな歌ものの周囲をちょっかいを出すようなトロンボーンが効いている4曲目の「ながれる」、シンセのレイヤーと紡がれるメロディが賛美歌的なラストの「言えない」まで。いま、江沼郁弥の音楽に初めて出会っても、遅いということはない。それどころか、いまが出会いどきですらある。
文:石角友香

江沼郁弥「ことさら EP」
2025年10月1日(水)
Format:Digital
Label:FRIENDSHIP.
Track:
1. ことさら
2. ツキが回れば
3. 抱きしめたい
4. ながれる
5. 言えない
試聴はこちら
@enumafumiya
@enumafumiya_official
@enumafumiyaofficial1746
この『ことさらEP』は既に7月からライブ会場限定で販売されている。いまの江沼にとってリスナーに最初に作品を届ける場としてライブがいかに重要なのかがわかる。本作にはバンドとの録音が3曲、江沼とトロンボーンのNAPPIからなる1曲、そして江沼の打ち込みによる1曲を収録。バンド曲のプロデュースとミックスは山本幹宗、他の2曲は江沼のミックスだ。このスタイルの混在からしてコンセプチュアルなEPではなく、ソロの現在地を示す改めての名刺代わりの1作と言えそうだ。ちなみにバンドメンバーは山本幹宗(Gt)、森夏彦(Ba)、古市健太(Dr)の布陣。
1曲目のタイトルチューン「ことさら」から押し寄せるような豊かなバンドサウンドと、その奔流に身を任せながらもしっかり立つ江沼の姿が見える。コード感や曲調には彼の原点であるビートルズを彷彿される部分もあり、歌われていることは過去も俯瞰しながら、いまどう彼が生きているかの私信めいた近さがある。冒頭"走り出すよ、慌てて履いた靴で"で、日常の機微に心を添わせ、"終わりたくて急ぐように生きて、振り落としてきたような若さ"というくだりに彼自身の作家性を見て少し立ち尽くす。それにしても2曲目の「ツキが回れば」も含めて、山本がプロデュースのみならずギターで参加している事実が生み出すグルーヴにある。そう、くるりの名曲群のバンドアンサンブルのあれだ。さらに3曲目の「抱きしめたい」には80年代っぽいシンセがシティポップより歌謡曲の懐かしさを纏う。フォーキーな歌ものの周囲をちょっかいを出すようなトロンボーンが効いている4曲目の「ながれる」、シンセのレイヤーと紡がれるメロディが賛美歌的なラストの「言えない」まで。いま、江沼郁弥の音楽に初めて出会っても、遅いということはない。それどころか、いまが出会いどきですらある。
文:石角友香
RELEASE INFORMATION

江沼郁弥「ことさら EP」
2025年10月1日(水)
Format:Digital
Label:FRIENDSHIP.
Track:
1. ことさら
2. ツキが回れば
3. 抱きしめたい
4. ながれる
5. 言えない
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