SENSA

2025.07.23

Nolzy、愛と未来を信じて鳴らした夜。初ワンマンライブ

Nolzy、愛と未来を信じて鳴らした夜。初ワンマンライブ"fit感"

Nolzyは、ひとりぼっちで立ち尽くす子どもの眼差しで、世界を見つめ続けることを諦めていない。同時にNolzyは、人と人が何かを分かち合い、感じ合い、許し合い、共に生きる世界を自分たちの手で生み出そうとすることも、諦めてもいない。彼は孤独と社会の両方を諦めていない。だから、Nolzyの音楽はひとつだけの形を持たず、多面的な魅力を放っているのだろう。Nolzyの音楽には、人ひとり分の心の形をした精神の歌があり、また同時に、その空間にいる誰しもを繋ぎ合わせてしまえるような、楽しくて高揚感のあるリズムがある。僕らはその音楽に深く没入することができるし、さりげなく目と目を交わし合い、場所を譲り合って、ダンスをすることもできる。諦めていない人の音楽には、こんなにも色とりどりの力がある。そういうことを、僕はこの日、強く感じた。2025年7月13日、TOKIO TOKYOで開催されたワンマンライブ「Nolzy ONE MAN LIVE 2025 "fit感"」。昨年からライブ活動を始めたNolzyにとって、この日は初のワンマンライブだった。

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ライブの幕開けを飾ったのは、"幸せですか"だった。場内に濃密なアンビエンスが漂う中、〈幸せですか/閉じ込められた/オフィスであなたは〉――第一声、そうNolzyは問いかけるように歌い始める。この曲を1曲目に持ってきたことで、この日のNolzyが「ふり」をするだけの軽薄なコミュニケーションを求めていないことがわかる。頷き合うようなコミュニケーションじゃない、気づき合うようなコミュニケーションをNolzyは求めている。"幸せですか"の静謐な演奏が終わると、立て続けに2曲目"Family"へとなだれ込む。坂本遥 (Gt from MEMEMION)、ハナブサユウキ (Key from MEMEMION)、小栢伸五 (Ba from MEMEMION)、竹村仁 (Dr from MEMEMION)、白石経(DJ/Mp)というサポートメンバーたちと共に生み出すメロディアスなファンクサウンドが会場を揺らす。この曲の、隠されていた現実を暴き出すような歌詞は一見絶望的でもあるが、むしろNolzyは「もう一度、ここから始めよう」と強く訴えかけているようにも思える。荒野を歩き出すような力強さがNolzyの音楽にはある。さらに演奏は、見事なギターソロも映えるプリミティブなバンドサウンドの"Bittersweet"、パーカッシブなリズムが華やかに跳躍する"Outsider"へと続く。"Outsider"の間奏ではキーボードからギターへのソロ回しがキマる。さらに、ベースの存在感も際立つタイトでグルーヴィな"Scent of melancholy"へ。観客たちはハンドクラップでバンドの熱気に応える。生演奏ならではの肉体感とダイナミズム、力強いソウルフルなフィーリングが、Nolzyの音楽が、ただネットワーク上を行き交うだけの音楽ではないことを知らしめる。

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最初のMCでNolzyは、ライブ前日に個人練習をしようと思ってスタジオに行ったらUSBケーブルを忘れた、なんていう話をしながら、「そういう時、『ああもう、全部辞めたい!』って自分の中の幼稚な部分が爆発するんですけど(笑)、大人になると、どうしても感情に折り合いをつけることに上手くならざるを得ない。感情をそのまま発露させることを『幼稚』と言われたりするけど、人間、そういう感情はどうしてもあるから。抑え込んで、それが行き過ぎてしまうことで爆発しちゃう感情もあると思う。僕は、音楽で感情を発露させたい。それにみんながシンパシーを重ねてくれることで、また違う場所に行ける。そのために、僕は音楽を作っているんだなと思います。......って、この話をするために、昨日の失敗はあったんだと思うことにします(笑)」と、笑いを交えながら、彼が音楽を作る理由を明確に語った。そこから「ラブソング×ダンス」のコンセプトを元に、"Microwave Love"~"Remember Me"~"しあわせのうた"と3曲をメドレーで繋げた"LOVE & HOUSE"を披露。観客たちからはハンドクラップ、さらに"しあわせのうた"ではコール&レスポンスも巻き起こり、Nolzyが奏でる「愛」が繋ぐ、見事な高揚感が会場を満たす。もちろんNolzyが歌う「ラブ」には「失恋」だって含まれているだろうが、失意や痛みすらも分かち合うことでだって、Nolzyは親密で温かな愛のコミュニティを生み出してみせる。さらにそのタイトルの通り、その「形」の歪を音楽によって表現した"Shape of Love"を披露。プログレッシヴなバンドサウンドと激しい照明演出で、会場はカオスと美と快楽が混在する空間に誘われる。

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MCでNolzyは、2020年のコロナ禍に1stアルバムを作り上げた時のことを振り返りながら、こう語った。「外に出ることができず、友達に会えない中で、『何か残しておきたい』と思って。リリースすることすら考えず、必死にアルバムを1枚作ったんです。今もそんなに変わっていないけど、あの頃はSNSで人と人が争う様子が可視化されて、それでも人と会うことができないから、余計SNSが『世界そのもの』のように見えてしまって。その時期の自分の不安定な孤独が、1枚のアルバムになった。でも、その作品をきっかけに人と人との縁が繋がって、今日これだけの人と一緒に音楽を共有できている。出会いのきっかけが孤独だったことは、ある意味、幸せなことだったなと思います」。さらに、Nolzyはこう続けた。「ワンマンに来てくれる人の前では、自分の内省的な部分に潜りたいと思います。きっとみんなも抱えているものがあると思うから、一緒に潜って、潜ったうえで踊れたら、そこで生まれる感動がきっとあると思います」。その言葉に続き始まったのは"それだけのことなのに"。解決されない心の歌が、美しいメロディと共に、剥き出しで響き渡る。演奏は1stアルバム『無口な人』に収録された"無口な人 -第一楽章-""無口な人 -第二楽章-"へと続く。Nolzyが言ったように、「潜る」時間はさらに深まる。ひとりの人間の精神世界をそのまま音楽へと具現化したような、静けさと激しさを往還するサウンド。Nolzyの結界を張るような歌声が響く。これらの楽曲を聴きながら、ある意味では孤立や拒絶を生み出しかねないこの音楽が、それでも温かく響くのは、聴き手である僕にも心があるからかもしれない、と思った。Nolzyの音楽は、聴き手にも心があることを信じるからこそ生まれているものなのかもしれない、と。

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さらに演奏は狂騒的なダンスチューン"NEGATIVE STEP"へと続いた。さらにNolzyの「アゲアゲで行きましょう!」という力強い煽りに導かれるように、ディスコフィーリング溢れる"#それな"へと、会場は熱気をぐんぐん急上昇させる。まるで長いトンネルを進んだ先で、外に出た瞬間に一気に視野が開ける、あのときの感覚のように、深く深く心の世界を潜った先に開けるダンス空間がTOKIO TOKYOに広がる。心の中を本気で掘り進めていけば、僕らはきっと同じように心を掘り進めた他の誰かの手にタッチできる。そんなことを信じさせてくれる、それがNolzyの音楽の世界だ。そして、演奏は"リセット"、ライブのタイトルにもなった最新シングル曲"fit感"へと続いた。"fit感"では冒頭からコール&レスポンスで一体感を生み出す。その幸福な景色を見ながら思う――「Nolzyの音楽は幸せを自分たちの手で手繰り寄せるための求める音楽なのだ」と。

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本編のラストを"キスミー"、そして、アンコールでは"愛なんて"と"将来有望"の2曲を披露し、初のワンマンライブを締め括ったNolzy。敬愛と友愛に溢れるバンドメンバー紹介に始まったアンコール1曲目の"愛なんて"は、昨年、初めてこのメンバーでライブを行ったときにも披露した1曲であり、この曲だけは同期もクリックもなし、バンドだけのアンサンブルだけで披露することを決めているという1曲。そして、「どうしてもこの曲で終わりたかった」と、"将来有望"を最後の最後に披露した。本編最後のMCでNolzyは「このフロア自体を、人生に置き換えている」というふうに言っていたが、世界への問いかけに始まり、自らの内省に潜り、仲間たちと分かち合う喜びを表現し、最後には未来へのメッセージを託す――そうやって見事に、現実も希望も含めた「人生」という名の物語を描いたワンマンライブ。それは、どれだけ生きることの残酷さや冷たさを知りながらも、どうしても愛を、未来を信じてやまないパッション溢れる音楽家が生み出した、素晴らしい1夜だった。

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文:天野史彬
撮影:林直幸

RELEASE INFORMATION

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Nolzy「fit感」
2025年5月21日(水)

Track:
1. fit感

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