SENSA

2024.12.04

踊ってばかりの国、アルバム「On the shore」リリースツアー 『渚にて』 の最終公演を観て

踊ってばかりの国、アルバム「On the shore」リリースツアー 『渚にて』 の最終公演を観て

 11月30日、恵比寿ガーデンホールに、踊ってばかりの国のニューアルバム『On the shore』リリースツアー 『渚にて』 のファイナルを観に行った。7月にリキッドルームの周年で観たとき以来なんで、約4ヶ月半ぶりに彼らを体験したワケだが、まぁシンプルにいうと、すごくてヤバかった。糞やば。超ドキドキした。マジハンパねーってなった。すごく、すごかった。以上。本音としてはこれで筆を置きたいぐらいで、あのライヴをヘタに言語化したくないのだけども、仕事なので仕方なく書く。

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 まず、今回の『渚にて』ツアーのメイン・ソースとなった新譜『On the shore』だが、こいつが大変な傑作だったのだ。これほど情緒と聖性にあふれたサイケデリック・ロックは中々ないと思う。僕には収録曲のほとんどが、誰かが生まれた日の歌か、あるいは誰かが死んだ日の歌にしか聴こえなかった。そういうめちゃくちゃホーリーで切実な歌を、イマジネイティヴな音像で包み上げたアルバムだ。初めて聴いたときは"やっぱスゲエなぁ"と思ったのだが、同時にこうも思った。"これ、ライヴで再現できるのか?"と。作品毎に音像/グルーヴを更新してゆこうとする彼らの音楽的野心が、ついにネクストステージに乗ったように感じたのである。たとえばギターだ。3本のギターがそれぞれ違う時間感覚で進行してゆくような、酩酊的でどこかぶっこわれた感じのする独特のアンサンブルが、さらに強烈になっている。音の重ね方やフレーズの絡み方が立体的というか四次元的で、「サテン」とか聴いてると頭の芯がボワーッとしてくる。カオスのまま調和する異形のウォール・オブ・サウンドだ。リズム隊も新機軸を打ち出していて、とくに「兄弟」の、タメと裏拍のきいたベースラインと、絶妙なニュアンスで跳ねるハイハットのコンビネーションとか凄い。

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 前置きが長くなったが、要はライヴ再現が困難そうなこの盤を、彼らはどう地上に下ろすつもりなのかなぁと思っていたのだ。フィッシュマンズは「ナイトクルージング」を作ったとき、ライヴでこれを成立させるすべが解らず、リリースツアーでもセットリストから外していたというが、踊ってばかりの国は、このアルバムをどうライヴで展開するのだろうかと......。

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 で、このファイナルは『On the shore』再現+αという、かなり攻めたセットリストだったワケだが、果たして彼らはあのマジカルなサウンドスケープを完全に作り上げていた。
自分がどこにいるのか解らなくなるような、強烈な酩酊感に満ちた音の渦。ダイナミックに寄せては引いて、すーっと溶けて散ってゆくDUBBYな音世界は、なんかもうカッコいいどころかありがたかった。ありがてー。

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 メンバーは全員バキバキにイケまくり、縦横無尽の大車輪で、とくにギターボーカルの下津などは1Fフロアの最後方から見ても目がキラキラしているのが分かるほどの絶好調ぶりで、熱唱を通り越してもはや爆唱していた。かなり早い段階で上裸になっていたし、全身から"うれしーー!!"を発散するさまはまるで小さな子供か、散歩直前の大型犬のようだった。「ロックンロール」って8回はシャウトしてたもの。アンコールでは「持ってけドロボー!」とか言いながらTシャツ投げてたし、まさにワンパク盛りここにありだ。ツアーファイナルという事もあってなのか、この日の下津の歌は仕上がりきっていて、抜群にハートウォーミングだった。しわがれた声で呻いたり、カモメのように鳴いてみたり、下津は七色の歌声をしなやかに変化させながら、浮世離れしたホーリーな空間を多彩に彩っていた。

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 踊ってばかりの国のライヴを観るたび毎回思うが、下津は本当に歌がうまい。はっきりいってうますぎるぐらいうまい。"普通に上手い"を超えて、"上手すぎるぐらい上手い"の域に到達した歌手は、ものすごく変わった歌い方で、人をものすごく感動させる。国内でいえば井上陽水や玉置浩二、山下達郎や忌野清志郎、海外だとマイケル・ジャクソンやフレディ・マーキュリーといった人たちがそうだが、下津もそういう超人枠にカテゴリされる歌手だと思う。折口信夫は"歌とは自分の感情を相手の心にくっつけることだ"といったが、下津がうたう歌はどれもそういう歌だ。いろんな景色や感情をよみがえらせる。それがよろこびからくるものであれ、かなしみからくるものであれ、胸がいっぱいになってただ立ち尽くす瞬間を、下津は尊いとする。個人的事件と世界への祈りを結びつけながら、下津は生の肯定をこころみ続ける。愛はあるぜ、と主張する。真の意味でのラブソングだと思う。かの南原清隆をセンターに据えた伝説のディスコクルー・はっぱ隊はかつてこう歌った、〈すれ違いざま ほほえみくれた 2度と会えなくたっていい、君が居たからLUCKYだ〉。

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 で、まぁとにかくライヴは最高だったのだ。「Mantra song」がいつもより結構早かったという事実から見ても、彼らが絶好調だったのはまちがいない。「燈」でハーモニカを吹きながらギターを弾く下津の姿はローリングサンダーレヴュー期のディランのように神々しかったし、「風」でギターソロを弾き倒す大久保は情熱的に狂っていたし、「クロール」で美しくよろめく丸山のギターは危うくも官能的だったし、「ビー玉」ではりつめたような間感を編む谷山は賢明だったし、「On the shore」で微細なニュアンスの四つ打ちを繰り出す坂本は雄弁だった。『On the shore』収録曲のほか、「your song」や「Hey human」といった定番曲や、「!!!」などの初期の傑作も飛び出し、さらにはダブル・アンコールと、やってやってやりまくった二時間だった。もうね、座りションベン。誰にも文句は言わせない。おおいに踊って、おおいに涙ぐんだ。

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 「ここにいる人だけじゃなく、もう会えない人や、愛している人のことも、あなたと関連づけて響かせるように歌うので」と下津はいった。スゲー素直だと思った。このひといま本当のこと言ってると思った。永遠などなく、変わらないものなど何一つない。すべては一瞬ごとに通り過ぎていく。だが、美しい歌があれば、その一瞬をきっと永遠にすることができる。われわれはある季節に、何度でも巡りあうことができる。「今日のこと、絶対忘れたくないです。忘れられんようにするために、皆さんも協力してください」と下津はいった。スゲー素直だと思った。このひといま本当のこと言ってると思った。忘れたくねえよな。忘れたくねえよ。よく"人生なんて死ぬまでの暇潰し"とかいったりするけれど、人生の目的は思い出作りだと思う。思い出いっぱい作って、各々のダンスで踊っていきましょう。彼らの長いツアーが終わり、もうすぐ冬が始まる。

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文:山塚りきまる
撮影:石毛倫太郎

RELEASE INFORMATION

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踊ってばかりの国「On the shore」
2024年7月24日(水)
Format:CD / Digital
Label:FIVELATER
価格:¥3,300(税抜価格¥3,000)

Track:
1.Universe
2.兄弟
3.H2O
4.Au te amour
5.サテン
6.On the shore
7.ビー玉
8.燈
9.ムカデは死んでも毒を吐く(DADGAD Ver)
10.ZION

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LIVE INFORMATION

大和言葉 -可惜夜-( あたらよ)
告知ビジュアル_踊ってばかりの国_1500_20241123.jpg
2025年12月20日(金)
LIQUIDROOM/LIQUID LOFT/Time Out Café & Diner
開場 / 開演 23:30

出演:
踊ってばかりの国
HAPPY
and more

チケット:¥4,400(税込)


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