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2024.11.22
世界各地で熱狂の渦を巻き起こしているマスドレの「今」を象徴する「MASS OF THE FERMENTING DREGS Asia Tour 2024」
「ああ、やばい!めっちゃ嬉しい!」......アンコールで満場の拍手を浴びながら、オーディエンスに語りかけるMASS OF THE FERMENTING DREGS・宮本菜津子(B・Vo)の晴れやかな笑顔が、この日のステージの充実感を何より雄弁に物語っていた。
ヨーロッパ〜UKツアー(3月)、北米ツアー(9〜10月)、さらにアジアツアー(11月)と海外を駆け巡ってきた2024年のMASS OF THE FERMENTING DREGS。11月7日から開催されてきたアジアツアーも終盤に差し掛かった東京・大阪の「日本凱旋公演」1日目となる11月17日の下北沢Shangri-Laは、「ここは本当に東京のライブハウスなのか?」と一瞬錯覚するほどに、外国人客(特に欧米系)が満員のフロアの半分近くを占めている。世界各地で熱狂の渦を巻き起こしているマスドレの「今」を象徴する独特の空気感が、開演前から抑え難く期待感をかき立てる。
最初にオンステージしたのは、ツアー他公演でも共演しているタイ・バンコク発のドリームポップ/シューゲイズバンド、Death Of Heather。ライブの幕開けを飾った「Forever」の轟音がフロアを満たした瞬間、灼熱のダイアモンドダストに交感神経と快楽中枢をかき乱されるような、あるいは切迫感と陶酔が同時に押し寄せるような無上の高揚感に、観る者すべてが支配されていく。
曲間も常にノイズが鳴っているレベルの、全身震撼ものの音圧の響鳴世界。そこから浮かび上がってくる繊細なメロディワークは、感情や思考の軋轢の中で生きる我々のセンチメントやメランコリアを目映く指し示すものだった。「Endless Emotions」や「Pretty Things」、「Drained」など最新アルバム『Forever』の楽曲を軸としつつ、「Hard To Cure」「Mind」「In Me」など1stアルバム『Death Of Heather』の楽曲も盛り込んだ全11曲の熱演に、惜しみない拍手喝采が巻き起こった。
そして、Death Of Heatherの痺れるような余韻も冷めやらぬ中、MASS OF THE FERMENTING DREGS=宮本菜津子、吉野功(Dr・Cho)、小倉直也(G・Vo)の3人が登場。2022年の最新アルバム『Awakening:Sleeping』から「Dramatic」の清冽な歌とアンサンブルでフロアの熱気と共鳴すると、「Sugar」から「New Order」へと流れ込み、エモーショナルな激演で国籍無用のオーディエンスをぐいぐい惹き付けていく。
弾むような宮本のボーカルは、どんなにポップなメロディを歌い上げていてもオルタナティブな独立独歩感を備えているし、どんなにハードエッジで切迫したサウンドを奏でていても、髪を振り乱しながら全身でベースを奏でる姿は、いつでも無限のポジティビティと包容力を備えている。宮本菜津子という表現者の中でポップとオルタナティブが分かち難く共存しているかのように、その音楽は決然としていて、同時に親和的でもある。その唯一無二の在り方は、メジャーデビューでひときわ脚光を浴びた2010年の当時はもちろん、結成から20年以上の時を経た今なお――いや今こそ鮮烈な輝きとともに胸に迫る。
「青い、濃い、橙色の日」の躍動感とセンチメントが会場の熱気を高めたところで、小倉の「How's it going? Let's rock!!」というコールが観客の大歓声を呼び起こす。「She is inside,He is outside」では手拍子を煽る宮本に応えて一面のクラップが鳴り渡り、3拍子系ロックンロール「MELT」で吉野が繰り出すハードストンピンなビート感が観る者の衝動を揺さぶっていく。
「Death Of Heather、カッコよかったですね!」とMCで宮本が語る。「去年、私たちがアジアツアーをした時に、バンコクで――その時は共演はしてないんだけど、いろいろアテンドしてくれたのが彼らだったんです。で、ライブの後にギターのオグ(小倉)が一緒に飲みに行ったりして意気投合して、な? 仲良くなって。せっかくいろんなバンドと繋がったので、その縁を形にしたいという思いもあった中で、それが日本で早くも実現しました」という宮本の言葉は、着実に前進を続けるバンドの現在地を窺わせていたし、続く8分超えのインストナンバー「1960」のミニマルな構成がオーディエンスを刻一刻と高揚の頂へ導いていく場面は、今のマスドレのバンドとしての強度と訴求力を克明に伝えるものだった。「なっちゃんカッコいい!」の声援に「ありがとう!」と応える宮本に対して、「オグもカッコいい!」の声に照れる小倉――という好対照に、フロアがどっと沸く。
「9月から10月まで北米にツアーをしに行っていて――自分たちにとっても初めてのボリュームのツアーで。1ヶ月半以上、日本から飛び出したことが我々なくて。この年になって初めてのことが、こんなに山盛りである人生やばいなと思って(笑)」と宮本が振り返る。「音楽ってすごいなって思います。今日もいろんな国の人がいると思うんですけど、音楽は本当に、繋ぐんですよね。音楽の素晴らしさはみなさんが一番わかってはると思うから。引き続き音楽を愛でて生きていきましょう」......そんなふうに語りかける宮本の言葉が、自然体のリアリティとともに心に響く。マスドレのライブならではの空気感だ。
「みなさまに愛を込めて......」(宮本)と繰り出した「skabetty」「エンドロール」「I F A SURFER」の初期ナンバー3連発で、終盤に向けてライブがさらに熱を帯びていく。ヨーロッパ〜UKツアー/北米ツアー/アジアツアーの50公演で計19ヶ国を巡ってきた、と今度は小倉が語る。「でも、この前台北で、僕らの友達のバンドのElephant Gymのメンバーと話してたら、彼らは今年海外公演60本だって言ってた。まだまだ僕らも負けてられないなと思って」と語る小倉に、「俺、負けていいよ......」と一回り年上の吉野がわざと弱々しい声で続けて、フロアが爆笑で包まれる。さらに、「過酷なツアーですけど、すごく励みになります。僕らも、日本のいい感じのロックバンドとして、これからもやっていきたいと思います!」とバンドの未来への思いを告げる小倉の言葉が、熱い拍手を呼び起こしていた。
「スローモーションリプレイ」からライブはいよいよクライマックスへ。涼やかに跳ね回るメロディ、軽快かつ強靭にうねるベースラインが、吉野のタイトなドラム、小倉のギターサウンドのきらめきと相俟って、下北沢Shangri-Laのフロアを多幸感で満たしていく。「あさひなぐ」の疾走感でさらに熱量を高めたところで、最後は満場のクラップとともにキラーナンバー「ワールドイズユアーズ」で大団円! アンコールでは、缶ビール片手に登場した宮本が「うまい!」と最高の表情を見せている。小倉の「北米のノリで......Let's rock!!」と少し照れくさそうな呼びかけに応えて、多国籍なオーディエンスから雄叫びのような歓声が巻き起こり、「delusionalism」の痛快なオルタナロックンロール感が、最高の一夜のラストを鮮烈に彩っていった。
文:高橋智樹
撮影:横山マサト
@MOTFD_official
@massofthefermentingdregs
ヨーロッパ〜UKツアー(3月)、北米ツアー(9〜10月)、さらにアジアツアー(11月)と海外を駆け巡ってきた2024年のMASS OF THE FERMENTING DREGS。11月7日から開催されてきたアジアツアーも終盤に差し掛かった東京・大阪の「日本凱旋公演」1日目となる11月17日の下北沢Shangri-Laは、「ここは本当に東京のライブハウスなのか?」と一瞬錯覚するほどに、外国人客(特に欧米系)が満員のフロアの半分近くを占めている。世界各地で熱狂の渦を巻き起こしているマスドレの「今」を象徴する独特の空気感が、開演前から抑え難く期待感をかき立てる。
最初にオンステージしたのは、ツアー他公演でも共演しているタイ・バンコク発のドリームポップ/シューゲイズバンド、Death Of Heather。ライブの幕開けを飾った「Forever」の轟音がフロアを満たした瞬間、灼熱のダイアモンドダストに交感神経と快楽中枢をかき乱されるような、あるいは切迫感と陶酔が同時に押し寄せるような無上の高揚感に、観る者すべてが支配されていく。
曲間も常にノイズが鳴っているレベルの、全身震撼ものの音圧の響鳴世界。そこから浮かび上がってくる繊細なメロディワークは、感情や思考の軋轢の中で生きる我々のセンチメントやメランコリアを目映く指し示すものだった。「Endless Emotions」や「Pretty Things」、「Drained」など最新アルバム『Forever』の楽曲を軸としつつ、「Hard To Cure」「Mind」「In Me」など1stアルバム『Death Of Heather』の楽曲も盛り込んだ全11曲の熱演に、惜しみない拍手喝采が巻き起こった。
そして、Death Of Heatherの痺れるような余韻も冷めやらぬ中、MASS OF THE FERMENTING DREGS=宮本菜津子、吉野功(Dr・Cho)、小倉直也(G・Vo)の3人が登場。2022年の最新アルバム『Awakening:Sleeping』から「Dramatic」の清冽な歌とアンサンブルでフロアの熱気と共鳴すると、「Sugar」から「New Order」へと流れ込み、エモーショナルな激演で国籍無用のオーディエンスをぐいぐい惹き付けていく。
弾むような宮本のボーカルは、どんなにポップなメロディを歌い上げていてもオルタナティブな独立独歩感を備えているし、どんなにハードエッジで切迫したサウンドを奏でていても、髪を振り乱しながら全身でベースを奏でる姿は、いつでも無限のポジティビティと包容力を備えている。宮本菜津子という表現者の中でポップとオルタナティブが分かち難く共存しているかのように、その音楽は決然としていて、同時に親和的でもある。その唯一無二の在り方は、メジャーデビューでひときわ脚光を浴びた2010年の当時はもちろん、結成から20年以上の時を経た今なお――いや今こそ鮮烈な輝きとともに胸に迫る。
「青い、濃い、橙色の日」の躍動感とセンチメントが会場の熱気を高めたところで、小倉の「How's it going? Let's rock!!」というコールが観客の大歓声を呼び起こす。「She is inside,He is outside」では手拍子を煽る宮本に応えて一面のクラップが鳴り渡り、3拍子系ロックンロール「MELT」で吉野が繰り出すハードストンピンなビート感が観る者の衝動を揺さぶっていく。
「Death Of Heather、カッコよかったですね!」とMCで宮本が語る。「去年、私たちがアジアツアーをした時に、バンコクで――その時は共演はしてないんだけど、いろいろアテンドしてくれたのが彼らだったんです。で、ライブの後にギターのオグ(小倉)が一緒に飲みに行ったりして意気投合して、な? 仲良くなって。せっかくいろんなバンドと繋がったので、その縁を形にしたいという思いもあった中で、それが日本で早くも実現しました」という宮本の言葉は、着実に前進を続けるバンドの現在地を窺わせていたし、続く8分超えのインストナンバー「1960」のミニマルな構成がオーディエンスを刻一刻と高揚の頂へ導いていく場面は、今のマスドレのバンドとしての強度と訴求力を克明に伝えるものだった。「なっちゃんカッコいい!」の声援に「ありがとう!」と応える宮本に対して、「オグもカッコいい!」の声に照れる小倉――という好対照に、フロアがどっと沸く。
「9月から10月まで北米にツアーをしに行っていて――自分たちにとっても初めてのボリュームのツアーで。1ヶ月半以上、日本から飛び出したことが我々なくて。この年になって初めてのことが、こんなに山盛りである人生やばいなと思って(笑)」と宮本が振り返る。「音楽ってすごいなって思います。今日もいろんな国の人がいると思うんですけど、音楽は本当に、繋ぐんですよね。音楽の素晴らしさはみなさんが一番わかってはると思うから。引き続き音楽を愛でて生きていきましょう」......そんなふうに語りかける宮本の言葉が、自然体のリアリティとともに心に響く。マスドレのライブならではの空気感だ。
「みなさまに愛を込めて......」(宮本)と繰り出した「skabetty」「エンドロール」「I F A SURFER」の初期ナンバー3連発で、終盤に向けてライブがさらに熱を帯びていく。ヨーロッパ〜UKツアー/北米ツアー/アジアツアーの50公演で計19ヶ国を巡ってきた、と今度は小倉が語る。「でも、この前台北で、僕らの友達のバンドのElephant Gymのメンバーと話してたら、彼らは今年海外公演60本だって言ってた。まだまだ僕らも負けてられないなと思って」と語る小倉に、「俺、負けていいよ......」と一回り年上の吉野がわざと弱々しい声で続けて、フロアが爆笑で包まれる。さらに、「過酷なツアーですけど、すごく励みになります。僕らも、日本のいい感じのロックバンドとして、これからもやっていきたいと思います!」とバンドの未来への思いを告げる小倉の言葉が、熱い拍手を呼び起こしていた。
「スローモーションリプレイ」からライブはいよいよクライマックスへ。涼やかに跳ね回るメロディ、軽快かつ強靭にうねるベースラインが、吉野のタイトなドラム、小倉のギターサウンドのきらめきと相俟って、下北沢Shangri-Laのフロアを多幸感で満たしていく。「あさひなぐ」の疾走感でさらに熱量を高めたところで、最後は満場のクラップとともにキラーナンバー「ワールドイズユアーズ」で大団円! アンコールでは、缶ビール片手に登場した宮本が「うまい!」と最高の表情を見せている。小倉の「北米のノリで......Let's rock!!」と少し照れくさそうな呼びかけに応えて、多国籍なオーディエンスから雄叫びのような歓声が巻き起こり、「delusionalism」の痛快なオルタナロックンロール感が、最高の一夜のラストを鮮烈に彩っていった。
文:高橋智樹
撮影:横山マサト
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オフィシャルサイト@MOTFD_official
@massofthefermentingdregs