- TOPICS
- FEATURE
2024.10.31
30℃の晴天となった2024年9月28日の福岡市。まだまだ真夏と言って差し支えない気候の中、街の中心部である天神で開催されたのが「MUSIC CITY TENJIN」(以下、MCT)だ。天神の街の活性化と福岡の音楽的環境の向上を目指して2002年からスタートしたMCTは、福岡市天神の様々な場所でライブが実施されるサーキットフェス。コロナ禍による開催中断を経て、今年5年ぶりに現地で開催される運びとなった。
筆者も5年ぶりに参加したが、駅から出て会場に近づくにつれ高まるお祭りムードは健在。その懐かしさに堪らない気分になった。そしてメインステージである福岡市役所前広場に足を踏み入れると、素敵な音楽に合わせて楽しげに揺れる観客たち、そしてグルメやお酒を思い思いに楽しむ老若男女の姿が。これぞMCT!と呼べる自由な空間が変わらずそこに広がっていた。
9月28、29日の2日間の開催で50組近くのアーティストが出演した今年のMCT。KIRINJI、岸田繁(くるり)、家入レオ、田島貴男(Original Love)といった豪華なラインナップでありながら全ての会場が入場無料である。フリーイベントだからこそ、何となくそこに身を置く人もいれば能動的にアーティストを楽しもうとしている人もおり、その雑多な賑わいによってこのような垣根のない空間が生まれているのだと思う。
そしてMCTは福岡の地に根付く音楽の豊かさを多くの人に届ける場所でもある。元々、同じ地域の出身者への愛が強い福岡県民だからこそMCTも積極的に福岡のミュージシャンをフックアップし、メインステージを担ってもらっているのだろう。この日も井本うた、muque 、荒谷翔大ら福岡のアーティストがメインステージを熱く盛り上げる中、中盤に登場したのは今年のMCTでテーマソングを務めたアナだ。
大久保潤也(Vo/Gt)と大内篤(Gt)からなるアナは2人が中学生の時に福岡で結成されたバンドであり、これまで幾度もMCTに出演。しかし福岡でのバンドセットのライブを行うのはこの日が7年ぶり。待望の凱旋公演、そのオープニングを飾るのは2005年リリースのメジャー1stアルバム『CYPRESS』の1曲目「血湧き肉踊る」だ。アナの2人、そしてサポートメンバーである右田眞(Ba)、有田恭子(Dr)、上田修平(Per/Cho)がじっくりと音を重ねながら徐々に高揚していく幕開け。《静かに時の流れの中で 今でも続いている》と歌うフレーズに、久しぶりの地元でのライブ、そしてMCTの復活への静かな祝福が込められているように思えた。
大久保が「自由に揺れて楽しんでください」と呼びかけながら始まった「時間軸の上で」が軽やかに会場を踊らせていく。続く「とてもじゃないけど」でも終盤のアジテーションで会場の空気を掴んでいく。この2曲は2019年のリリースで、福岡で演奏されるのは初めてのこと。その待望感も相まって、にこやかなムードが溢れる時間だった。
ここでゲストとして福岡のシンガーソングライター岩崎桃子を呼び込む。MCT初出演となる岩崎に対して先輩風を吹かせる大久保だがこれから歌う曲タイトルをミスする一幕も。気を取り直して披露された「じつはね。(feat.岩崎桃子)」はこのMCTの20周年アニバーサリーソングであり、いわばこのイベントのテーマソング。温かなメロディと小気味いいサウンドが気分を浮かせ、祝祭感を演出していく。岩崎と大久保が声を重ねる光景は世代を超えて交わし合うMCTの歴史の継承のようでもあり、胸が熱くなる。
ライブは終盤。ひときわアッパーな「BOYS DON'T CRY」、そして切なさ募る「必要になったら電話をかけて」まで一気に駆け抜けていく。過ぎ去っていくものを慈しみ、ノスタルジックな感傷を誘う楽曲が多いアナ。今まさに再開発の真っ只中にある天神の街に鳴り響く音楽としてあまりに相応しいと思った。変わっていくもの、変わらないものを引き連れながらアナもMCTも未来へと進んでいくのだろう。
アナの終演後は街を歩き、ライブステージを1つ1つ見て回った。MCTの大きな特徴は天神の至るところでライブが繰り広げられている点にある。アナが演奏したメインステージは福岡市役所の建物の前に鎮座し、インパクトの大きな景観を誇る。このようなロケーションは行政の音楽文化への理解があってこそ実現したもので、MCTが街全体に愛されてきた証とも言えるだろう。
休日は買い物客で賑わう福岡三越前ライオン広場とソラリアプラザという商業施設にもそれぞれステージが設けられており、ここには今後が期待される若手アーティストが多く出演。また天神中央公園にある旧福岡県公会堂貴賓館前にはDJブースがあり、「食」と「酒」を全面に打ち出した会場を展開するなど、多彩な催しが満載。コロナ以前は更に多くのステージが展開されていたが、今年は数を絞ったことでそれぞれの会場間の距離が徒歩5分圏内とコンパクトに。このサイズ縮小は気軽にMCT全体を楽しめる点でむしろイベントの強みとなった印象を受けた。
さて時間は夕刻。ここから立て続けに福岡発の注目バンドのアクトを観ることに。18:30からソラリアプラザ ゼファのMCT PROUD OF THE FUTURE ステージに登場したのはMcGradyだ。2020年結成の3人組で、前日に福岡でワンマンライブもソールドアウト、そして大阪のサーキットイベント「MINAMI WHEEL」にも出演した有望株だ。この日は初となるアコースティックセットでの演奏となった。
1曲目「The Turn」から積極的にクラップを煽り、初めてのアコースティックライブであることを全く感じさせない手練れっぷりで驚かせる。原曲はアグレッシブなロックナンバーだが、テンポを落としどっしりとしたアレンジで魅了してみせた。続く「思惑」ではサビで親指を立てながら観客を踊らせ、ふらっと来た一見の観客たちも巻き込んでしまう。凄まじいグルーヴ力だ。
前日にリリースしたEPの収録曲「Next to me」で3曲目からは緩やかにブルージーなモードへシフト。ソシロ(Vo)の甘美な歌声はこうした歌謡曲チックなメロディにもよく合う。そんなことを考えていると、次にAlicia Keys「If I Ain't Got You」のカバーを歌い始めるのだからその表現力の幅に驚かされる。ソウルフルな歌唱に酔いしれる時間だった。
リズムを引き継いだまま、最後に新曲「C」を披露して締めくくられた30分のアクト。この会場はデパートの中にあるゆえ通りすがりの買い物客も多いのだが、そのまま足を止めて観続けている人の姿も見受けられた。道行く人々も思わず足を止めてしまう、普遍的かつエッジーな魅力。衆人環視のMCTだからこそバンドの底力が表出する逞しいライブだった。きっとここから更に飛躍していくことだろう。
McGradyが演奏していたステージのすぐ隣、天神三越ライオン口のステージでは19:00からnape'sの出番だ。このステージは"ミューサイドSTAGE"と名付けられており、西日本鉄道株式会社が運営する九州の若手ミュージシャンをサポートするアプリ・ミューサイドが関わっている。出演者は事前公募がなされ、"誰しもに開かれたイベント"というMCTの持ち味をアーティスト側にも向けたステージと言える。
nape'sは2019年結成の4人組。福岡のみならず、東京や札幌など全国各地でライブを行い、評価を高めつつある。この会場は駅へ向かう人々の通行路付近であるため、やや雑然とした環境であるのだが1曲目「熱帯夢」を奏で始めると一気にバンドの空気へ引き込んでいく。まどろむような幻惑的なサウンドスケープだ。2曲目「planet」から更に観客が増え始める。立って揺れたり、床に座り込んでのんびり聴いたり、様々な人がいる。誰もが自然とリラックスした気分にさせられる心地よい時間だ。
MCでは、今まで客としてMCTに多く参加してきたことを語っていたnape's。出演者と観客の垣根すら曖昧なのがこのイベントの面白さだろう。彼らはコロナ禍に名を上げ始めたバンドゆえMCTへの参加機会を絶たれ続けており、今年は念願の参加だったはずだ。5年のブランクの間に台頭した若手バンドたちが生き生きと演奏する姿はとても感慨深かった。
しかしライブ自体はいたってマイペース。煽ることもなければ、「いつでもKIRINJIに行ってください」とメインステージへ観客を導くなど、終始まったりとした空間を作り出す。とはいえ3曲目「youth」ではドラマチックなギターソロを響かせ、4曲目「plasma」ではサイケデリックな音像へと引きずり込むなど、見逃せない楽曲を立て続けにプレイ。メロウな質感は一貫しているが、随所に多彩な音楽からの影響が伺えるのがnape'sの豊かさを物語っている。
ラストナンバー「echo」まで5曲30分、粛々とドリーミーなライブを展開し、すっかり浸りきってしまった。ステージ近くではガラポン抽選会を回す音や、赤ちゃんの泣き声も響き渡っていたが、それすらもアンビエントな質感をもたらす演出かのようだった。日常に溶け出す、非日常のグッドミュージックだ。
その後、再びメインステージに戻ると入場ゲートに長蛇の行列が出来ている。この日のトリを務める岸田繁(くるり)の待機列だ。何とか中に入ると見渡す限りの人、人、人。コロナ前のMCTでもここまでの集客は覚えがない。岸田繁の求心力はもちろんだろうが、MCTがいかに望まれていたかを開演前から強く実感した。そしてギター1本による弾き語りながら大勢の観客を大いに沸かせた岸田によるくるりの名曲の数々。最後に歌われた「奇跡」にある《来年も会いましょう》という言葉が祭りの終わりに胸に残った。
5年の時を経て、遂に天神の街に戻ってきたMUSIC CITY TENJIN。足を運ぶことは叶わなかったが2日目も盛況に終わり、大成功のカムバックとなった。今まで以上に福岡出身アーティストのフックアップに力を入れつつ、今年は台湾からAhh GやTheseusを招聘し、アジアンカルチャーの玄関口としての役割も果たすなど、より進化を遂げたMCT。現在進行中の大規模再開発(通称"天神ビッグバン")によって不可逆に変わってしまうものもあるが、それはポジティブな変化の兆しとも捉えられる。MCTが一歩先を行くローカルイベントとして鮮やかに蘇った事実は、この街の未来を明るく照らし出していくはずだ。これからもこのイベントが続くことを強く願いたくなる、素晴らしいハレの日だった。
文:月の人
撮影:kuglo2(アナ、McGrady、nape's、岸田繁(くるり))
@musiccitytenjin
@musiccitytenjin
筆者も5年ぶりに参加したが、駅から出て会場に近づくにつれ高まるお祭りムードは健在。その懐かしさに堪らない気分になった。そしてメインステージである福岡市役所前広場に足を踏み入れると、素敵な音楽に合わせて楽しげに揺れる観客たち、そしてグルメやお酒を思い思いに楽しむ老若男女の姿が。これぞMCT!と呼べる自由な空間が変わらずそこに広がっていた。
9月28、29日の2日間の開催で50組近くのアーティストが出演した今年のMCT。KIRINJI、岸田繁(くるり)、家入レオ、田島貴男(Original Love)といった豪華なラインナップでありながら全ての会場が入場無料である。フリーイベントだからこそ、何となくそこに身を置く人もいれば能動的にアーティストを楽しもうとしている人もおり、その雑多な賑わいによってこのような垣根のない空間が生まれているのだと思う。
そしてMCTは福岡の地に根付く音楽の豊かさを多くの人に届ける場所でもある。元々、同じ地域の出身者への愛が強い福岡県民だからこそMCTも積極的に福岡のミュージシャンをフックアップし、メインステージを担ってもらっているのだろう。この日も井本うた、muque 、荒谷翔大ら福岡のアーティストがメインステージを熱く盛り上げる中、中盤に登場したのは今年のMCTでテーマソングを務めたアナだ。
大久保潤也(Vo/Gt)と大内篤(Gt)からなるアナは2人が中学生の時に福岡で結成されたバンドであり、これまで幾度もMCTに出演。しかし福岡でのバンドセットのライブを行うのはこの日が7年ぶり。待望の凱旋公演、そのオープニングを飾るのは2005年リリースのメジャー1stアルバム『CYPRESS』の1曲目「血湧き肉踊る」だ。アナの2人、そしてサポートメンバーである右田眞(Ba)、有田恭子(Dr)、上田修平(Per/Cho)がじっくりと音を重ねながら徐々に高揚していく幕開け。《静かに時の流れの中で 今でも続いている》と歌うフレーズに、久しぶりの地元でのライブ、そしてMCTの復活への静かな祝福が込められているように思えた。
大久保が「自由に揺れて楽しんでください」と呼びかけながら始まった「時間軸の上で」が軽やかに会場を踊らせていく。続く「とてもじゃないけど」でも終盤のアジテーションで会場の空気を掴んでいく。この2曲は2019年のリリースで、福岡で演奏されるのは初めてのこと。その待望感も相まって、にこやかなムードが溢れる時間だった。
ここでゲストとして福岡のシンガーソングライター岩崎桃子を呼び込む。MCT初出演となる岩崎に対して先輩風を吹かせる大久保だがこれから歌う曲タイトルをミスする一幕も。気を取り直して披露された「じつはね。(feat.岩崎桃子)」はこのMCTの20周年アニバーサリーソングであり、いわばこのイベントのテーマソング。温かなメロディと小気味いいサウンドが気分を浮かせ、祝祭感を演出していく。岩崎と大久保が声を重ねる光景は世代を超えて交わし合うMCTの歴史の継承のようでもあり、胸が熱くなる。
ライブは終盤。ひときわアッパーな「BOYS DON'T CRY」、そして切なさ募る「必要になったら電話をかけて」まで一気に駆け抜けていく。過ぎ去っていくものを慈しみ、ノスタルジックな感傷を誘う楽曲が多いアナ。今まさに再開発の真っ只中にある天神の街に鳴り響く音楽としてあまりに相応しいと思った。変わっていくもの、変わらないものを引き連れながらアナもMCTも未来へと進んでいくのだろう。
アナの終演後は街を歩き、ライブステージを1つ1つ見て回った。MCTの大きな特徴は天神の至るところでライブが繰り広げられている点にある。アナが演奏したメインステージは福岡市役所の建物の前に鎮座し、インパクトの大きな景観を誇る。このようなロケーションは行政の音楽文化への理解があってこそ実現したもので、MCTが街全体に愛されてきた証とも言えるだろう。
休日は買い物客で賑わう福岡三越前ライオン広場とソラリアプラザという商業施設にもそれぞれステージが設けられており、ここには今後が期待される若手アーティストが多く出演。また天神中央公園にある旧福岡県公会堂貴賓館前にはDJブースがあり、「食」と「酒」を全面に打ち出した会場を展開するなど、多彩な催しが満載。コロナ以前は更に多くのステージが展開されていたが、今年は数を絞ったことでそれぞれの会場間の距離が徒歩5分圏内とコンパクトに。このサイズ縮小は気軽にMCT全体を楽しめる点でむしろイベントの強みとなった印象を受けた。
さて時間は夕刻。ここから立て続けに福岡発の注目バンドのアクトを観ることに。18:30からソラリアプラザ ゼファのMCT PROUD OF THE FUTURE ステージに登場したのはMcGradyだ。2020年結成の3人組で、前日に福岡でワンマンライブもソールドアウト、そして大阪のサーキットイベント「MINAMI WHEEL」にも出演した有望株だ。この日は初となるアコースティックセットでの演奏となった。
1曲目「The Turn」から積極的にクラップを煽り、初めてのアコースティックライブであることを全く感じさせない手練れっぷりで驚かせる。原曲はアグレッシブなロックナンバーだが、テンポを落としどっしりとしたアレンジで魅了してみせた。続く「思惑」ではサビで親指を立てながら観客を踊らせ、ふらっと来た一見の観客たちも巻き込んでしまう。凄まじいグルーヴ力だ。
前日にリリースしたEPの収録曲「Next to me」で3曲目からは緩やかにブルージーなモードへシフト。ソシロ(Vo)の甘美な歌声はこうした歌謡曲チックなメロディにもよく合う。そんなことを考えていると、次にAlicia Keys「If I Ain't Got You」のカバーを歌い始めるのだからその表現力の幅に驚かされる。ソウルフルな歌唱に酔いしれる時間だった。
リズムを引き継いだまま、最後に新曲「C」を披露して締めくくられた30分のアクト。この会場はデパートの中にあるゆえ通りすがりの買い物客も多いのだが、そのまま足を止めて観続けている人の姿も見受けられた。道行く人々も思わず足を止めてしまう、普遍的かつエッジーな魅力。衆人環視のMCTだからこそバンドの底力が表出する逞しいライブだった。きっとここから更に飛躍していくことだろう。
McGradyが演奏していたステージのすぐ隣、天神三越ライオン口のステージでは19:00からnape'sの出番だ。このステージは"ミューサイドSTAGE"と名付けられており、西日本鉄道株式会社が運営する九州の若手ミュージシャンをサポートするアプリ・ミューサイドが関わっている。出演者は事前公募がなされ、"誰しもに開かれたイベント"というMCTの持ち味をアーティスト側にも向けたステージと言える。
nape'sは2019年結成の4人組。福岡のみならず、東京や札幌など全国各地でライブを行い、評価を高めつつある。この会場は駅へ向かう人々の通行路付近であるため、やや雑然とした環境であるのだが1曲目「熱帯夢」を奏で始めると一気にバンドの空気へ引き込んでいく。まどろむような幻惑的なサウンドスケープだ。2曲目「planet」から更に観客が増え始める。立って揺れたり、床に座り込んでのんびり聴いたり、様々な人がいる。誰もが自然とリラックスした気分にさせられる心地よい時間だ。
MCでは、今まで客としてMCTに多く参加してきたことを語っていたnape's。出演者と観客の垣根すら曖昧なのがこのイベントの面白さだろう。彼らはコロナ禍に名を上げ始めたバンドゆえMCTへの参加機会を絶たれ続けており、今年は念願の参加だったはずだ。5年のブランクの間に台頭した若手バンドたちが生き生きと演奏する姿はとても感慨深かった。
しかしライブ自体はいたってマイペース。煽ることもなければ、「いつでもKIRINJIに行ってください」とメインステージへ観客を導くなど、終始まったりとした空間を作り出す。とはいえ3曲目「youth」ではドラマチックなギターソロを響かせ、4曲目「plasma」ではサイケデリックな音像へと引きずり込むなど、見逃せない楽曲を立て続けにプレイ。メロウな質感は一貫しているが、随所に多彩な音楽からの影響が伺えるのがnape'sの豊かさを物語っている。
ラストナンバー「echo」まで5曲30分、粛々とドリーミーなライブを展開し、すっかり浸りきってしまった。ステージ近くではガラポン抽選会を回す音や、赤ちゃんの泣き声も響き渡っていたが、それすらもアンビエントな質感をもたらす演出かのようだった。日常に溶け出す、非日常のグッドミュージックだ。
その後、再びメインステージに戻ると入場ゲートに長蛇の行列が出来ている。この日のトリを務める岸田繁(くるり)の待機列だ。何とか中に入ると見渡す限りの人、人、人。コロナ前のMCTでもここまでの集客は覚えがない。岸田繁の求心力はもちろんだろうが、MCTがいかに望まれていたかを開演前から強く実感した。そしてギター1本による弾き語りながら大勢の観客を大いに沸かせた岸田によるくるりの名曲の数々。最後に歌われた「奇跡」にある《来年も会いましょう》という言葉が祭りの終わりに胸に残った。
5年の時を経て、遂に天神の街に戻ってきたMUSIC CITY TENJIN。足を運ぶことは叶わなかったが2日目も盛況に終わり、大成功のカムバックとなった。今まで以上に福岡出身アーティストのフックアップに力を入れつつ、今年は台湾からAhh GやTheseusを招聘し、アジアンカルチャーの玄関口としての役割も果たすなど、より進化を遂げたMCT。現在進行中の大規模再開発(通称"天神ビッグバン")によって不可逆に変わってしまうものもあるが、それはポジティブな変化の兆しとも捉えられる。MCTが一歩先を行くローカルイベントとして鮮やかに蘇った事実は、この街の未来を明るく照らし出していくはずだ。これからもこのイベントが続くことを強く願いたくなる、素晴らしいハレの日だった。
文:月の人
撮影:kuglo2(アナ、McGrady、nape's、岸田繁(くるり))
LINK
オフィシャルサイト@musiccitytenjin
@musiccitytenjin