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2024.10.08

台湾のバンド ゲシュタルト乙女が、Homecomingsをゲストに迎えたツアー「僕たちの働き方」―東京・渋谷WWWライブレポート

台湾のバンド ゲシュタルト乙女が、Homecomingsをゲストに迎えたツアー「僕たちの働き方」―東京・渋谷WWWライブレポート

台湾出身のロックバンド、ゲシュタルト乙女。日本語を使用した歌詞で独自の世界を描く彼らのツアー「僕たちの働き方」が、9月に東京と大阪の2ヶ所で開催された。ライブは、日本のバンドをゲストに迎え、東京・渋谷のWWWはHomecomings、大阪・心斎橋のJANUSはハク。が登場し、台湾と日本のバンド、ツーマンライブが実現した。ちなみに、10月には同ツアーのラストが、台北で開催される予定だ。今回は、9月26日の東京公演の様子をレポートする。

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19時を少し回ったところで、ライブがスタートした。Homecomingsの1曲目は、今年5月にリリースされた最新曲「Moon Shaped」。浮遊感のあるギターサウンドが広がっていくのと共に、ステージの背景幕にはミラーボールを使った三日月と星の光が現れる。そこに畳野彩加(Vo./Gt.)の温かい歌声と、福田穂那美(Ba./Cho)の透明感のあるコーラスが響き合う。歌詞に描かれている世界が、まるで目の前に広がっているかのようで、一瞬にして彼らの世界に引き込まれた。続いての「Cakes」では、少し懐かしさのある音色が広がり、ゆったりとした空気が会場を満たしていく。
ライブは、MCをほとんど挟まずに進み「Here」、2023年リリースのアルバム『New Neighbors』収録曲「euphoria / ユーフォリア」、「ラプス」と立て続けに披露。彼らの作り上げる世界が、万華鏡のように広がっていく。Homecomingsの楽曲を形容するには、"美しい"、"優しい"、 "懐かしい"という言葉が似合うとは思うが、ライブはそれだけではない。例えば、「euphoria / ユーフォリア」での福富優樹(Gt.)ギターソロからは、切なさや悲しさと言った感情が溢れて、胸に迫ってくる。「ラプス」では、ベースとドラムスが刻むリズムと、柔らかな畳野彩加の歌声が心地良い。色味を抑えた照明と相まってか、ステージではなく夜空の下でゆったりと音楽を聴いているような、リラックスした雰囲気で楽しむことができた。

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ステージのアンプ上に乗せられた、ぬいぐるみ達がメンバーを見守りながら、ライブは続く。それぞれの曲に合う音色が楽曲の世界を立体的にし、ステージの照明が楽曲への想像力を更に掻き立ててくれる。バンドが大切にしているものを、聴覚と視覚を使って具体的にし、シェアしてくれているような、温もりのある時間が流れる。曲ごとに異なる世界が広がる様子は、まるでショートムービーのようだ。観客は、短い物語をイメージしながら、彼らの音楽に体を揺らして楽しむ。かつてミニシアターだったこの会場で、観客に音楽で物語を見せているようだった。

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5曲続けて演奏した後、福富優樹が短めのMCを入れた。Homecomingsは、台湾でも何度もライブを経験していること、そして台湾人アーティストの友人もたくさんいることなどを話してくれた。彼らは、人気と実力を兼ね備えた台湾のアーティストとも、現地で多数共演している。台湾の音楽ファンも、今夜のようなライブを見ているのだろう。
ラストに披露したのは、「US/アス」。疾走感のあるリズムと、浮遊感のあるギターの音の広がりに心が弾む。全体的に静かで温かい夜のイメージがあったライブだが、ラストの「US/アス」は、朝日が昇り始めている景色を眺めているようだった。演奏が終わり、エフェクターで増幅されたギターの幻想的な轟音が鳴り響く中、メンバーはステージを去って行った。観客は、夢見心地で彼らに拍手を送る。美しいライブが終了した。

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ライブ開始のイントロとして短い音楽が流れた後、1曲目に披露したのは、2019年にリリースされたアルバム『視力検査』に収録されている「生まれ変わったら」。ギターのカッティングと流れるメロディの2つが絡み合う印象的なイントロが、気持ちを高めてくれる。満員の会場で、人の頭が小さく揺れながら、音に体を預けている。その様子を眺めているだけでも、非常に心地が良い。立て続けて「空気」、the band apart 荒井岳史と共同制作をした「副都心」をプレイしていく。

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少しスモーキーで繊細さのあるMikan Hayashi の歌声が、バンドサウンドに乗る。客席に向かって真っ直ぐ視線を送り、直立してギターを掻き鳴らしながら歌う彼女から目が離せない。"いま、ここにいて音楽をしている"という、目の前の事実に対して真摯に向かっているような、何か強い意志を感じ取れる。そして観客も、彼女の歌声やバンドが奏でる音色、一つ一つと向き合いながら、この時間を楽しんでいるようだ。

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短いMCを挟みながら、次の曲「蜃気楼」で、観客に参加してもらいたい手拍子をレクチャー。観客も彼女をお手本に少し練習をして、いざ本番。イントロの打ち込み音に心が弾む「蜃気楼」が披露された。軽快なメロディの上で歌われているのは、日常生活の大変さと、それに立ち向って欲しいというメッセージだ。社会人も学生も、日々の忙しさや大変さは変わらない。それは、日本であっても台湾であっても同じことだと思う。そんな中で、彼らの音楽を糧に毎日を過ごしている人は、たくさんいるだろう。目の前で歌っているMikanと共に手拍子を打つ観客からは、楽しいだけではなく、好きなアーティストとの時間を噛み締めている様子が感じられた。大きな声援や合唱が湧き起こる盛り上がり方とは異なり、バンドに対する熱い想い滲み出て、それが手拍子や拍手となって会場に広がるような、静かな情熱が広がっているのだ。ここから「三色菫」や「Dreamaholic」「EEヨ」など『視力検査』収録曲を演奏していき、ライブは後半を迎えていく。

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Mikanが、今年新規加入したメンバーで、ベーシストのアース(阿司)や、サポートメンバーの通訳をしながら進める和やかなMCと共に、最新EP『仕事』に込めた想いを語ってくれた。「副都心」「神様」「蜃気楼」「仕事」という4曲で構成されたEPのタイトルを『仕事』にした理由について、アース(阿司)に "どう思う?"とMikanが質問を投げかけると、不意を突かれた彼が驚く。そんな二人のやりとりを笑いながら見守る観客。会場に緩やかな空気が流れる中、アース(阿司)が答えた内容をMikanが日本語に通訳をしてくれた。彼は、「仕事は生存するために行うもの、と捉えている人が多数いるけれど、私たちは、仕事とは自分たちの個性やアイデンティティをアウトプットする場所として捉えている。私たちはアーティストだから、音楽が自分たちのアイデンティティを表現する場所で、それが仕事となっている。だから、自分たちの曲に「仕事」というタイトルをつけた。メンバーとして初めて加入して初めての出したEPなので、たくさんの人に聴いてもらえたら良いなと思っている。」と語った。Mikanは、「皆さんも、自分の仕事を見つけたら良いなと思っている。例えば、営業の人ならメールのやりとりが、私はアートだと思う。相手に自分の気持ちをどうやって伝えられるのか。それも、その人の個性を活かしてできることだと思うから、自分の仕事を見つけたら良いなと思う。」と、作品に込めた想いを話してくれた。
このMCの後に披露された「仕事」は、私自身も自分を顧みながらより深く聴くことができた。そしてラストに選ばれたのは、「神様」。胸を突くようなドラマチックで壮大な楽曲が広がり、Mikanの歌声が降り注ぐ中を、ミラーボールの光が会場を照らす。とても美しい光景を目にした。

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アンコールは、初心にかえってという意味も込めた初期の楽曲、「Time Travel」を演奏。アンコールを含めた12曲を披露して、ライブは終了した。ライブ中のMCでMikanは、"日本でのライブを重ねる度に平静でいられるようになり、それが自身の成長のように感じていて嬉しいのと共に、もっと大きな会場でも出来るようになりたい。"と話していた。2016年の結成からキャリアを重ね、その間にメンバーの交代など、様々な波を乗り越えているゲシュタルト乙女。XなどのSNSでの注目は、今まで以上のものとなっている。日本でも台湾でも、もっと大きな会場や沢山の人に愛されるバンドになるだろう。大きな"仕事"を成し遂げる日も近いのかもしれない。

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文:石井由紀子
撮影:マスダレンゾ

RELEASE INFORMATION

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ゲシュタルト乙女「仕事」
2024年9月11日(水)
Format:Digital、physical

Track:
1.副都心 feat.荒井岳史(the band apart)
2.神様
3.蜃気楼
4.仕事

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