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2024.09.12

ART-SCHOOL とPredawnが祝う、新代田FEVER 15th ANNIVERSARY 「on tabuz eleven」

ART-SCHOOL とPredawnが祝う、新代田FEVER 15th ANNIVERSARY 「on tabuz eleven」

東京・新代田FEVERの15周年を記念し、ART-SCHOOLとPredawnのツーマンライブ『FEVER 15th ANNIVERSARY "on tabuz eleven"』が9月4日、同会場にて開催された。

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最初に登場したのは、シンガーソングライター清水美和子によるソロプロジェクトであるPredawn。2022年に出産し、子育てのためしばらくの間ライブ活動を休止していた彼女にとって、東京でのライブは全国ツアー『Predawn "The Gaze" Release Tour』のファイナルとなった、東京キネマ倶楽部でのバンド編成による公演からおよそ2年ぶりとなる。その後、公式YouTubeチャンネルでのライブ配信『定点P』を不定期で行なってきた彼女が、人前で演奏するのは昨年5月28日、福岡県・ベイサイドプレイス博多にて開催された『BAYSIDE FOLK JAMBOREE 2023』への出演以来となる。

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期待に満ちたオーディエンスが見守るなか、アコースティックギターを持ってふらりとステージ脇から現れ「こんばんは、清水です」と笑顔で挨拶。その、あまりにも自然体な姿に会場全体が温かい空気に包まれた。まずは最新作『The Gaze』(2022年)の冒頭を飾る「New Life」から。中期ビートルズやジョン・ブライオン、スパークルホースあたりを彷彿とさせるミドルチューンでこの日のライブをスタートした。シンプルなようで、テンションの響きがたっぷりと含まれたコード進行。その上を清水の温かい歌声が流れ始めると、場の空気が一瞬にして変わるのを感じる。続く「Universal Mind」は、2016年にリリースされたセカンドアルバム『Absence』収録曲。アコギを力強くかき鳴らしながら、抑揚のあるメロディをファルセットを交えて伸びやかに歌い上げ、フロアを高揚感で満たしていく。

「1年以上ぶりのライブで、東京では2年くらいやっていなくて。すごく......やべえなと思ってます」と、清水らしい言い回しで改めて挨拶。会場は再び和やかなムードに包まれた。

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サスフォーを効果的に織り交ぜながら、目まぐるしく転調していく「炭酸」もビートリッシュなナンバー。続く、ドロップチューニングを用いて演奏された「Something Here Isn't Right」は、牧歌的なサウンドの中にも湖の波紋が静かに広がっていくような、どこか不穏な空気をたたえた楽曲だ。さらに、「New Life」の一節を内包しアルバム『The Gaze』の中でアンサーソング的な役割も担っている「Star Child」へ。どの曲も原曲より少しゆったりと、自身の呼吸やテンポに合わせて楽曲の時間軸を自由に伸び縮みさせている。

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Predawnのレパートリーでも、ひときわ軽快なナンバー「紫陽花の庭」でフロアに清々しい風を送ったかと思えば、ミニマルなフレーズの繰り返しのなか、雄大なメロディが広がっていく「Ocean Is Another Name for Grief」ではオーディエンスの心を浄化する。清水が紡ぐ楽曲の多くは、誰しも多かれ少なかれ抱えている喪失感や孤独感に様々な角度からフォーカスを当てており、それを優しくも温かいメロディに乗せることで、聴き手の心の奥底にまで届けられるのだ。

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この日は2歳になる息子の近況報告もあり、ファンを喜ばせる。「最近はアコギを持って弾こうとすると、せがれが弦をミュートしてくるんですよ。だから久しぶりのライブなのに練習も全然できなくて......今日のリハーサルがリハビリでした」と明かし、フロアは笑いに包まれた。

「2年ぶりのライブだから緊張しているかと言うと、そうでもなくて。と言うのも、さっきまでせがれは(ここに)遊びに来てたんですけど、旦那が連れ帰ってご飯を食べさせ、これから風呂に入れて寝かすことになっているんですよ。最近せがれは私のヘソをいじりながらじゃないと寝られないので、『大丈夫かな』ってそっちが気になってしまって」と話すと、さらに大きな笑いが起きた。

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ライブ後半は「Autumn Moon」「霞草」と定番の人気曲を披露し、わかりあうことの困難さを歌う切ないメロディが聴き手の心にそっと寄り添う「Fictions」へと続く。「そろそろ眠くなって、立っているのも辛くなってきたんじゃないかなと思うので、アートパイセンに目を覚ましてもらいましょう」と言って名曲「Suddenly」を歌い、この日のライブに幕を下ろした。

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続くART-SCHOOLは、サポートギターにCruyffのYagi Hiromiを迎えての5人編成。いつものようにエイフェックス・ツインの「Girl/Boy Song」をBGMに彼らが姿を現すと、フロアのあちこちから歓声が上がる。まずは2009年にリリースされた、通算5枚目のアルバム『14souls』の表題曲から。疾走感あふれるバンドアンサンブルに乗せて、木下理樹(Vo、Gt)のイノセントな歌声が放たれると会場のボルテージが一気に上がる。

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流麗なギターのアルペジオと、カオティックなディストーションサウンドを交互に行き来する「ウィノナライダーアンドロイド」は、2001年のEP『MISS WORLD』に収録された初期の代表作。日常の何気ない一瞬を切り取り、それを映画のワンシーンのように美しく輝かせてくれるのが木下の歌詞が持つ魅力の一つであり、この曲と続く「フローズンガール」は、それを象徴する楽曲といえよう。

ドライブする中尾憲太郎(Ba)の歪みまくったベースの上で、戸高賢史(Gt)、木下、そしてYagiのギターが壁のように迫り来る「SANDY DRIVER」は、木下のピクシーズやニルヴァーナらUSオルタナへの愛がぎっしりと詰まった曲。荒ぶる藤田勇(Dr)のドラムに煽られ、フロントの4人が激しくヘッドバンキングしながら演奏する姿にフロアの熱気も高まる一方だ。

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この日、木下はライドのTシャツを着ていたが、続いて披露された「プール」はギターがかき鳴らすメランコリックなコード進行や、後半のドラムのキメがライドの名曲「Vapour Trail」を思い起こさずにはいられない。こうした過去の音楽からの愛に満ちたオマージュが、楽曲のそこかしこに散りばめられているのもART-SCHOOLの魅了だ。

浮遊感あふれるメロディを引き立てるYagiのコーラスが印象的だった「Butterfly kiss」、16ビートのリズムとファンキーなギターカッティングに思わず体を揺らした「その指で」と中盤にミドルチューンを続けた後、FEVERがオープンした当時の思い出を戸高、木下、中尾が語り合う。

「最初、ニッシー(FEVERの店長・西村氏)が(下北沢のライブハウス) Shelterを辞めて、『新代田でライブハウスを始めるから出てくれる?』という連絡をくれたんだよね」と木下。「当時は『新代田にライブハウス? どういうこと?』って、みんな思ってたんじゃないかな」と言うと、中尾も「『絶対やめとけ』って(西村氏に)言った」と同意し会場の笑いを誘いつつ、「あとでめっちゃ謝りましたけどね。『お前はすげえ!』って」とリスペクトを表明した。そして戸高が、「これからもFEVERでライブをやりたいですし、FEVERでライブを見たいなとART-SCHOOL一同、心から思っています。いつもありがとうございます」と改めて言うと、フロアから温かく大きな拍手が鳴り響いた。

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さらにバンドは「just kids」でオーディエンスの一体感を高め、ファーストアルバム『REQUIEM FOR INNOCENCE』の冒頭を飾る「BOY MEETS GIRL」でフロアを揺らす。さらに、緩急自在な演奏に心揺さぶられる「ジェニファー'88」、イントロが放たれた途端に大きな歓声が上がった「あと10秒で」と畳み掛け、「bug」の洪水のようなシューゲイズサウンドで会場を満たし本編は終了。アンコールでは名曲「ニーナの為に」を演奏してこの日のイベントを終了した。

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ART-SCHOOLとPredawn。表現スタイルは全く違うようでありながら、自分たちのルーツ音楽にしっかりと根差しつつ美しく繊細なメロディを描き、物事の光だけではなく影にも向き合い言葉を紡いでいるという意味では、非常に親和性の高い2組であるということを改めて強く感じた有意義なイベントだった。

文:黒田隆憲
撮影:山川哲矢

LINK
Predawnオフィシャルサイト
@Predawn_staff

ART-SCHOOLオフィシャルサイト
@ART__OFFICIAL

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