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2024.06.04

LITE・ドミコ・ヘルシンキ・カネコアヤノが出演!音楽の祭典「The Great Escape 2024」で開催されたFRIENDSHIP.のショーケースライブをレポート

LITE・ドミコ・ヘルシンキ・カネコアヤノが出演!音楽の祭典「The Great Escape 2024」で開催されたFRIENDSHIP.のショーケースライブをレポート

南イングランド・海辺の町、ブライトンで毎年5月に行われる、音楽の祭典『The Great Escape』。2024年は、15~18日の4日間に渡って開催された。

夏の完璧な幕開けとして高い評価を得てきた『The Great Escape(以下TGE)』は、世界中から新進精鋭のアーティストを紹介する、英国で最もエキサイティングかつ多彩なニューミュージック・フェスティバル。ヨーロッパ最大の音楽ショーケースとして、年に一度の発掘の饗宴である当フェスティバルには多方面の音楽関係者が集まるほか、ライブと並行して音楽ビジネスに関するカンファレンスが開催され、パネルディスカッション、パートナー・プログラム、専門家による講演などが行われる。このフェスティバルは、世界中からやってくるアーティスト達に、熱烈な音楽ファンや次世代発掘に熱心な音楽関係者たちの前でパフォーマンスする機会を提供することで、何千ものアーティスト達のキャリアを後押ししてきた。つまり、アーティスト+音楽ビジネス+ファンのための、ネットワーキングの機会も豊富に用意されているわけだ。

このような趣旨のもと、日本からは、LITE、Domico、 Helsinki Lambda Club、カネコアヤノの4組が、デジタル配信サービス[FRIENDSHIP.]のショーケース『Shibuya Sound Riverse from Tokyo : Curated by FRIENDSHIP.(以下SSR)』というプロジェクトのもと集結した。ちなみに、「Riverse」は造語で、元々、東京の渋谷川沿いにあるライブハウスでのサーキットイベントにその名前の由来があるため、「川=River」と、渋谷から「世界=Universe」へ発信するという意味を掛けている、なかなか粋な名称だ(事実、宣伝ロゴも「川」を意識したデザインになっている)。
今回、SSRショーケース・ライブのヴェニューとなったのは、The WaterBear。海辺の街ブライトンだけに、ここに川はないが、ペブルビーチを臨むウォーターフロントのライブハウスで、フロアは、まさに洞窟と表現するのがふさわしい縦長の隠れ家的空間だ。正午という時間帯には間違いなく幻惑的な雰囲気を醸し出す、この個性的なヴェニューで4組のアーティストは堂々たるパフォーマンスを披露した。

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ショーケースのトップバッターを飾ったのはLITE。オープニングの「Ef」から、疾走感あふれるリフとギターの妙技を披露、いきなりオーディエンスを鷲掴みにする。中央に立つ井澤惇(Ba.)のベースネックが、武田信幸(Gt./Vo.)の身体に当たってしまうのではないかと思うほど劇動力のあるパフォーマンス。とんでもない熱量を発生させる熟達したスキルに観客は完全に惹きつけられ、揺さぶられているのが分かる。

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というのも、痛快なインストゥルメンタル ・マスロックに、彼らは踊ることさえ忘れ、圧倒されているからだ。夢中になっている観客を狙い通りに打ちのめしている。豊富な知識と確かな批評力を持つベテランリスナーであるミドルエイジの男性オーディエンスがフロアを占めており、武田が流暢な英語で、アルバム『STRATA』を紹介、「買え!」と告げると、オーディエンスから拍手と低いどよめきが沸き上がった。

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楽器に語らせ、音楽そのものに飛び込むことでコミュニケーションをとることを可能にしたLITE。今回披露された4人の才能のレベルの高さには驚かされるばかりで、そのパフォーマンスは、それぞれに見所が多く、見逃すのが惜しいほどだった。
息をつく暇も与えないほど怒涛の勢いで展開していく、魅惑的で中毒性のある音のスペクタクル。見事なサウンドステージだった。

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「ドミコを観に来た」と隣のイギリス人カップルは言った。ロンドンに住む友人から強くお勧めされたのだそうだ。紫がかったピンクの照明の下、さかしたひかる(Vo/Gt)と長谷川啓太(Dr)が演奏を始めた途端、二人の発する音のシンクロニシティは、サウンドの魔術に変わる。
ドミコは、即興的なインストゥルメンタル を互いに複合させながらも、決して迎合しない、攻撃的なスタイルをとっているという点で、同世代のデュオ形バンドと一線を画している。
互いを跳ね返すパワーが、オーディエンスにまで浸透し、頭を振らずにはいられないのだ。身体を二つに折り、髪を振り乱しながらプレイするさかしたを巨大なドラムセットの後ろでしっかりサポートする長谷川。

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音を聴いただけでは、これがたった二つの楽器から発せられているとは気付かないだろう。それもそのはず、後ろで観ていた観客から、「二人だけだとは思わなかった」との声が。没入的なサウンドにダイナミックなビート、そして1+1を2以上にする創造的なトリックに、「ジーザス...」という声が漏れていた。
先のカップルは「こんなに凄いバンドを勧めてくれた友人に感謝しないとね」と満足そうに語っていた。メガ・レイブを達成したドミコ。海を越えて既に評価されていたのも納得できるパフォーマンスだった。

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事前に行われたロンドン・ライブが完売と既に大成功を収めていたHelsinki Lambda Club(以下、HLC)だが、実は、イギリス到着後、熊谷太起(Gt)のギターのネックが折れた状態で発見されるというハプニングが。いきなりヒースロー空港荷物扱いの醜悪さという洗礼を受けた彼らだが、ロンドンの楽器店で新しいギターを即購入し、イギリスツアーを無事敢行した。
本日ステージに現れた3人は、なんとフレッドペリーの色違いポロシャツを着ている。計算済みなのかは分からないが、あまりのハマりぶりに思わず笑みが漏れる。
という訳で、この日、ブライトン=モッズ=『さらば青春の光』=フレッドペリーという等式にHLCが加わった。

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HLCのライブを端的に表すと"Sweet and Fun"。橋本薫 (Vo.Gt)の甘い歌声に重なる熊谷のイノセントなコーラスは限りなくスウィート。そして今回のステージングで、自然発生的に中央に位置したという稲葉航大 (Ba)は「I'm Inaba and I'm a dancer! 一緒に踊ろう!」という掛け声とともに、オリジナリティー溢れるダンスを披露。得意のステップにオーディエンスはHey Hey! とレスポンスし、会場が一体となった。とにかくHLCのライブは楽しいのだ。

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終演後、「彼らブリリアントだわ!大好きになった!」と叫ぶ声が聞こえたので、訊くと、こちらのイギリス人女性、「今回のTGEでは、日本と韓国のアーティストをチェックするのが目的だったの。お気に入りが見つかって嬉しい」と興奮気味に語った。会場を出るオーディエンスが皆満面の笑みを浮かべていたことが、彼らのパフォーマンスに対する絶大な評価だったと言える。

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ロンドン、そしてバーミンガムで大成功を収めた単独公演を経て、SSRのトリを務めたのはカネコアヤノ。
今回のツアーから、バンドメンバーを円を描くように配置したということで、カネコ本人は左手前方に立った。「ラッキー」でショーはスタート。カネコが最初の歌声を発した途端、この薄暗いベニューに静謐だが明るい光が差した。時に力強く、時にささやくようなその歌声に聴き入るオーディエンスは、ゆっくりと身体を動かす。観客は、彼女の声が奏でる心情の背景をしっかりと描き出すような確かなギター・プレイを静かに見守るが、彼らが抱く想いは畏敬の念に近いかもしれない。

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さらにカネコの歌詞とメロディーで物語を綴る能力は言語の壁を越え、確実に彼らに届いている。カネコの脇を固めるバンドは、洗練された深みのあるサウンドを醸し出し、彼女の音楽パレットのあらゆる色を披露するのに欠かせない存在となっている。バンドは力強い演奏をしながらも、常にカネコの歌声に焦点を当てており、彼女のクリーンで真摯なトーンから、純粋にこのショーが彼女にとって何を意味するのかが伝わってくる。ラストの「わたしたちへ」では、バンドが向かい合い輪になって、美しいサウンドのミックスを生み出した。最後はエフェクターのディストーションを残して、セットを締めくくった。
今回のショーケースにふさわしいドラマティックなエンディング。胸の中に込み上げる何かを感じたのは私だけではなかったはずだ。

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サウンドもジャンルも全く異なる4組のアーティストが、それぞれのミュージシャンシップを余すことなく発揮したSSRは大盛況のうちに終了した。
キャパシティ120人のヴェニューは観客がバーエリアに溢れるほどで、中には、LITE本命でロンドンから来たという女性やカネコアヤノを観るためにベルギーのアントワープから訪れたというカップルもおり、観客はお目当てのアクトはもちろん、他のアーティストにも耳を傾け、それぞれのパフォーマンスを楽しんでいた。
これこそショーケース・ライブの醍醐味だったと言えよう。各アーティストがたった30分という限られた持ち時間を最大限に利用し、考え抜かれたセットを披露するのは決して容易いことではなかったと思う。
しかし、東京の渋谷からイギリスのブライトンまで、海を越えて渡ってきた、オリジナリティ溢れる4組のパフォーマンスが、ここで彼らを目撃した人々に痛烈な印象と非日常的な経験を与えたのは間違いない。そのことを強く確信できたショーケースだった。

文:近藤麻美
撮影:John Hartley(LITE、カネコアヤノ)、Charles Shepherd (Helsinki Lambda Club、ドミコ)

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オフィシャルサイト
FRIENDSHIP.

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