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2024.05.22
Sisters In The Velvet「Leaves」──オルタナティブ、エクスペリメンタル、そしてポップ。さまざまな概念が溶け合い美しく響く
Nirvanaの『Nevermind』、Radioheadの『Pablo Honey』、The Smashing Pumpkinsの『Siamese Dream』やMy Bloody Valentineの『Loveless』。Sisters In The Velvetの初期音源やライブは、1990年代初頭のオルタナティブロック/グランジやシューゲイザー直系のサウンドだった。バンドを結成したきっかけとなったムーブメントから受けた刺激を、あれこれ考える前に鳴らす。そんな実直なスタイルに惹かれ、彼らが2020年秋にファーストEP『Five Foot Daydream』をリリースした直後のライブを観に行った。まさに90年代がよみがえるような轟音とそのなかに光る甘美なメロディを生で浴びた時に感じた興奮は、今でもはっきり覚えている。
そんなSisters In The Velvetだが、2022年にリリースしたシングル「Blanc Sun Song」、「In 10 Pages」、「Bottles」で、その装いを大きく変化させる。割れんばかりの轟音や静と動の揺さぶりはそこにはない。むしろその対極にある熱を内に秘めた静かなサウンドと展開。ここに届いた彼らのファーストフルアルバムは、そうなる少し前、90年代のそれに倣っているという意味でのオルタナティブロック期最後の曲「Love, Massacre」から今に至るまでの、バンドの変遷を描いた物語のような作品だ。
では、「Love, Massacre」~「Blanc Sun Song」の間には何があったのか。それについてフロントマンの青山は、大学卒業の時期あたりから、社会に出ることやバンドを続けていくこと、家族との関係などに不安を覚え、感情を搔きむしるような轟音がしんどくなってきたと公言している。そんな折にはまったのがスロウコア/サッドコアと呼ばれたバンドだったそう。確かに、その轟音を削いだサウンドやミニマリズムは、LowやDusterらからの影響を感じる。そんな音楽性の変化とともにアティチュードもアップデートした。
「Blanc Sun Song」からは、これまでとは異なり青山のパーソナリティを強く感じる。繊細で切なく、それでいて優しい旋律。そして「Bottles」には〈Yeah let's escape from our world that you & I made for our lord's sake〉という一節がある。主と世界が何を指しているのは青山本人のみぞ知るところだが、ただひたすら轟音オルタナティブロックを鳴らすことで得た、小さくても居心地のいい楽園に違和感を覚えるようになったのでは、と考えると合点がいく。多くの先人たちは、自分たちの作ったものがカテゴライズされ、それが権威化していくことなんて望んでいない。人生に抱いた不安とともに、新たな参照点に対する価値観が芽生え、彼らはジャンルを模すことや背負うことを止めて、新たな旅路を選んだのではないだろうか。
そして現在。フルアルバムのリリースにあたってバンドの公式コメントからも"一つの到達点"という言葉が出ているように、Sisters In The Velvetは、ほかの何ものでもない自分たちだけのサウンドを獲得した。ロックにフォーク、アンビエント、エレクトロニカ、ダウンテンポ、ソウルにジャズ、クラシック、そしてかつての轟音も戻ってきた。音楽的な幅の広がり、リファレンスに対する嗅覚とオリジナルな解釈、ジャンルとジャンルの間に共通項を見出しシームレスに響かせるセンス、それだけの情報をまとめるサウンドデザイン力など、どこを切り取っても一級品。その象徴と言えるのが冒頭を飾る「The Remains」だ。叙情的なUKロック、オルタナティブロックやスロウコア/ポストロックなどさまざまな背景を感じるが、その集合体は大きくロックということ以外、既存の概念では判別できない。臨場感のあるベースとドラムの生み出すグルーヴに体が揺れる。とくに後半のベースの抜き差しが素晴らしく、ラストのカオティックな盛り上がりに大きく寄与している。シルキーな歌声と甘美なメロディは珠玉。リードギター、バッキング、マニュピレーション、ギターノイズのバランス/グラデーションが生むサウンドスケープにも震える。そしてそれらの要素がどれも邪魔し合うことなく立った立体感のあるトータルデザインも見事だ。
そしてラストを飾る「The Painter」もまた、Sisters In The Velvetの"一つの到達点"に立った旗だと言えるだろう。サブスクリプションとSNS時代、軽快なビートとともに、30秒、1分で勝負を決める曲が乱立するなか、7分半越えのまったりローテンポ。冒頭2分までは歌と手数を削いだ弦の音のみ、3分手前でようやくドラムが出てくる。しかもそれを先行シングルの第1弾としてリリースしている。曲も姿勢もチャレンジング。結果まったく飽きることはなく、時間を忘れて浸らせてくれる。そうなる理由を紐解くキーワードは"ポップ"。どのフレーズも老若男女、エヴァーグリーンなポップの輝きに満ちており、サウンドに余白はあっても耳を離す暇はなし。これは、程度の差はあるにせよ彼らのどの曲にも言えることで、常にポップミュージックとしてのリスニング強度を意識しているであろうソングライティングやアレンジが、アルバムに一本の筋を通している。その筋道の行く先々に新しい実験精神が散りばめられているからこそ作品を通して身を委ねられる。そして新しい感性の扉が開いていく感覚を、ぜひ味わってほしい。
文:TAISHI IWAMI
Sisters In The Velvet「Leaves」
2024年5月22日(水)
Format: Digital
Label: FRIENDSHIP.
Track:
1. The Remains
2. Warm Hands
3. Hill Song
4. Bottles
5. Blanc Sun Song
6. Love, Massacre
7. speedy?
8. In 10 Pages
9. Revenant in the Yard
10. The Painter
試聴はこちら
2024年6月16日(日)
下北沢Basement Bar
Open.19:00 / Start.19:30
Adv¥3,000 / Door¥3,500
チケット予約フォーム
そんなSisters In The Velvetだが、2022年にリリースしたシングル「Blanc Sun Song」、「In 10 Pages」、「Bottles」で、その装いを大きく変化させる。割れんばかりの轟音や静と動の揺さぶりはそこにはない。むしろその対極にある熱を内に秘めた静かなサウンドと展開。ここに届いた彼らのファーストフルアルバムは、そうなる少し前、90年代のそれに倣っているという意味でのオルタナティブロック期最後の曲「Love, Massacre」から今に至るまでの、バンドの変遷を描いた物語のような作品だ。
では、「Love, Massacre」~「Blanc Sun Song」の間には何があったのか。それについてフロントマンの青山は、大学卒業の時期あたりから、社会に出ることやバンドを続けていくこと、家族との関係などに不安を覚え、感情を搔きむしるような轟音がしんどくなってきたと公言している。そんな折にはまったのがスロウコア/サッドコアと呼ばれたバンドだったそう。確かに、その轟音を削いだサウンドやミニマリズムは、LowやDusterらからの影響を感じる。そんな音楽性の変化とともにアティチュードもアップデートした。
「Blanc Sun Song」からは、これまでとは異なり青山のパーソナリティを強く感じる。繊細で切なく、それでいて優しい旋律。そして「Bottles」には〈Yeah let's escape from our world that you & I made for our lord's sake〉という一節がある。主と世界が何を指しているのは青山本人のみぞ知るところだが、ただひたすら轟音オルタナティブロックを鳴らすことで得た、小さくても居心地のいい楽園に違和感を覚えるようになったのでは、と考えると合点がいく。多くの先人たちは、自分たちの作ったものがカテゴライズされ、それが権威化していくことなんて望んでいない。人生に抱いた不安とともに、新たな参照点に対する価値観が芽生え、彼らはジャンルを模すことや背負うことを止めて、新たな旅路を選んだのではないだろうか。
そして現在。フルアルバムのリリースにあたってバンドの公式コメントからも"一つの到達点"という言葉が出ているように、Sisters In The Velvetは、ほかの何ものでもない自分たちだけのサウンドを獲得した。ロックにフォーク、アンビエント、エレクトロニカ、ダウンテンポ、ソウルにジャズ、クラシック、そしてかつての轟音も戻ってきた。音楽的な幅の広がり、リファレンスに対する嗅覚とオリジナルな解釈、ジャンルとジャンルの間に共通項を見出しシームレスに響かせるセンス、それだけの情報をまとめるサウンドデザイン力など、どこを切り取っても一級品。その象徴と言えるのが冒頭を飾る「The Remains」だ。叙情的なUKロック、オルタナティブロックやスロウコア/ポストロックなどさまざまな背景を感じるが、その集合体は大きくロックということ以外、既存の概念では判別できない。臨場感のあるベースとドラムの生み出すグルーヴに体が揺れる。とくに後半のベースの抜き差しが素晴らしく、ラストのカオティックな盛り上がりに大きく寄与している。シルキーな歌声と甘美なメロディは珠玉。リードギター、バッキング、マニュピレーション、ギターノイズのバランス/グラデーションが生むサウンドスケープにも震える。そしてそれらの要素がどれも邪魔し合うことなく立った立体感のあるトータルデザインも見事だ。
そしてラストを飾る「The Painter」もまた、Sisters In The Velvetの"一つの到達点"に立った旗だと言えるだろう。サブスクリプションとSNS時代、軽快なビートとともに、30秒、1分で勝負を決める曲が乱立するなか、7分半越えのまったりローテンポ。冒頭2分までは歌と手数を削いだ弦の音のみ、3分手前でようやくドラムが出てくる。しかもそれを先行シングルの第1弾としてリリースしている。曲も姿勢もチャレンジング。結果まったく飽きることはなく、時間を忘れて浸らせてくれる。そうなる理由を紐解くキーワードは"ポップ"。どのフレーズも老若男女、エヴァーグリーンなポップの輝きに満ちており、サウンドに余白はあっても耳を離す暇はなし。これは、程度の差はあるにせよ彼らのどの曲にも言えることで、常にポップミュージックとしてのリスニング強度を意識しているであろうソングライティングやアレンジが、アルバムに一本の筋を通している。その筋道の行く先々に新しい実験精神が散りばめられているからこそ作品を通して身を委ねられる。そして新しい感性の扉が開いていく感覚を、ぜひ味わってほしい。
文:TAISHI IWAMI
RELEASE INFORMATION
Sisters In The Velvet「Leaves」
2024年5月22日(水)
Format: Digital
Label: FRIENDSHIP.
Track:
1. The Remains
2. Warm Hands
3. Hill Song
4. Bottles
5. Blanc Sun Song
6. Love, Massacre
7. speedy?
8. In 10 Pages
9. Revenant in the Yard
10. The Painter
試聴はこちら
LIVE INFORMATION
2024年6月16日(日)
下北沢Basement Bar
Open.19:00 / Start.19:30
Adv¥3,000 / Door¥3,500
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