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2024.04.24
odolがニューアルバム『DISTANCES』を携えたライブを大阪・東京で開催。ここではSoldOutした2本目の東京公演をレポートする。ちなみに東京でのスタンディングのワンマンライブはなんと5年ぶりである。
いきなり感想で恐縮なのだが、第一声に「楽しかった!」しか出てこない約2時間だった。odolは煽らないバンドである。登場当時、オーディエンスを盛り上げるバンドが主流のシーンにあっても、マイペースで楽曲の世界観を貫いてきた彼らのスタンスは変化していない。ただ、3人体制になり、西田修大や細井徳太郎、岡田拓郎、深谷雄一、大井一彌らサポートミュージシャン(西田と大井は今回のライブもサポート)を迎えた『DISTANCES』を完成させたこと、ジャズやエクスペリメントな音楽がバンドシーン界隈に徐々に浸透し、現在の彼らを支えるサポートミュージシャンが関わるバンドから還流してきたオーディエンスが増えたこともあるのだろう。自然と起こる拍手や歓声、フロアがグルーヴする様子は過去最高の盛り上がりを見せた。バンド初のダブルアンコールも極々自然な成り行きだったのだ。
広いフリースペースのようなADRIFTの場内はごくシンプルで、ステージ上も過去の「individuals」で設られていたようなスクリーンや調度品もなくシンプルだ。うっすら流れていたアンビエントの音量が上がり、ビートのシンコペーションが強さを増すとメンバーが登場し、そのまま切れ目なくピアノ、そしてフロアタムが加わり、新作のタイトルチューン「Distances」が始まる。すでにライブアレンジによって肉体性を獲得している感じだ。ミゾべリョウ(Vo/Gt)だけでなく、3人で歌詞を共作したこの曲の必ずしも言葉は届かないという想いとそれでも歌う意思を示していて、現体制の1曲目に相応しいと感じた。西田のロック然としたギターでスパッと曲を終えると大きな拍手と少し歓声も混じる開かれたムードに。シームレスに森山公稀(Pf/Syn)のYMOイズムを感じるシンセとビート感を持つ「幸せ?」へ。大井の端正なハイハットワークやShaikh Sofian(Ba)の堅実なプレイとの好バランスに唸ってしまう。さらに生活感と人生観の温度に首肯してしまう「今日も僕らは忙しい」で演奏のダイナミズム以外に、描かれる心象への親近感が生まれた。そして流れるようなピアノと鼓動のような4分キックが動いていく時間をイメージさせる「reverie」。ギターのエフェクトで作るバイオリンのような音色に釘付けになるのはライブの醍醐味でもあり、音源の何倍もエクスペリメンタル。立て続けに新作から4曲演奏し、今のモードにグッと引き込んだ。
そのまま間髪入れず久々に「GREEN」と「飾りすぎていた」を続けて披露したのだが、西田のノイジーに空間を切り裂くギターは自然災害レベルの凄まじい体感。過去曲を今のメンバーでライブアレンジした時のメーターの振り切り方がいい。灰になりそうなぐらいギリギリのテンションで音がせめぎ合った「飾りすぎていた」のエンディングの後の静寂は小さな咳も憚られるほどだった。小さなノイズが流れているものの、すごく長い静寂のように感じたスパンを置いて、森山のピアノとミゾべの歌が聴こえると、大雨が上がって外に出たような感覚になる。それが二人の人物が各々の道へ歩き始める別れの歌「遠い街」の擬似体験をより深く届けていた。そして合わない周波数のような音がギターから発されると、どこか遠くからの音信に耳を澄ませているような感覚に陥り、「小さなことをひとつ」が「遠い街」と接続する感覚になる。ここまでの流れで、少し苦しい時を超えてきた先に穏やかな時間をリアルに迎えた気分になった。前半の世界を自分も生きていた感じだ。
MCでは森山がスタンディングでのワンマンライブが5年ぶりで、しかも多くのオーディエンスが集まったことを光栄だといい、ミゾべもShaikhも「(同じように)思ってまーす」とユーモラスに同意したことで、場がグッと和む。ミゾべは話したかったことを全て忘れてしまったと言い、すごく開かれたモードのようだった。
歌い出しのファルセットもスムーズで花びらが散るようなピアノのフレーズも心地よい新曲「不思議」、控えめでいて全ての音が呼応して弾き合うような「未来」の体験的なアンサンブル、引き続き季節を感じさせる「三月」を経て、ミゾべが言いたいことを思い出したのか「僕ら、5年ぶりのスタンディングのワンマンライブでお客さんとの距離も近くて。歌ってる人とか見えると演奏も変わってくるんです。楽しいです、めちゃくちゃ」と話した。このことがよりステージとフロアの距離を縮めたのは後半のグルーヴに確実に影響したと思う。
後半は新作から演奏のアイディアが楽しい曲群を続けていく。短いセンテンスで記号的に羅列される歌詞やShaikhがつけるコーラスも効果的な「君を思い出してしまうよ」はライブでは個人的に00年代のUSインディっぽさを感じる部分もあり、しかも後半にはトレブリーな鍵盤の音に生音ブレイクビーツの鋭さと強度を増していく大井のドラミングを筆頭にトランス系ジャムバンドのような熱気を醸成。これまでodolで感じたことのない爆発力を維持したまま「泳ぎだしたら」のプログレッシブな音の壁へ突入。前半の緻密に組み立てられた空間とは違い、いい意味でかなりの圧だ。その中から聴こえてくるからこそ、ミゾべの"君はどうしたい?"という投げかけが鮮烈に響いた。
ループするシンセリフとギターリフがふわふわした上モノと軽快なビートで再び時間が走り出す「幽霊」では手を挙げて乗っている人も現れるほど何にもとらわれない空気が生み出され、本編のラストはアルバム通り「時間と距離と僕らの旅(Rearrange)」だ。もともと2018年のアルバム『往来するもの』収録曲で、3人体制のpre期の模索と言えるリアレンジシリーズの中の1曲だが、この日のライブアレンジはさらにシンプルにロックバンドのダイナミックな演奏の旨みが十全に詰まったものだった。大航海はこれからも続いていく、そんなスケールの大きさを今のodolは持っている。
受け止めたエネルギーを素直に返すように拍手が止まない。早々に再登場した森山とShaikhが、RECORD STORE DAYでもあるこの日『DISTANCES』もリリースしたことを告げ、続いてサポートメンバーを紹介。男性の野太い「にしだー!」コールが起きると、odolの面々は名前を呼ばれることにホクホクすると笑う。ミゾベが「さっき話したかったこと思い出した。最近ハマっていることを聞かれたら、言いたかったことがあって」と話し出すと、
森山「聞かれることないですけどね、MCで...最近ハマっていることは何ですか?」
ミゾベ「レンコン」
森山「一緒!」
というやりとりに場内爆笑。過去、物販トークで笑いが起きたことはあったけれど、こんなに無策で場が温まったことはなかったと思う。
アンコール1曲目の「望み」のタイトルコールに待ってましたとばかりの歓声が上がったのも新鮮なムード、おそらくステージから見たフロアはほとんど笑顔だったんじゃないだろうか。その後、10周年記念のライブを10月13日にリキッドルームで開催する旨を発表。さまざまな時期からodolの音楽に触れてきた人たちがここでグッと距離が縮まった感じがしたのは気のせいだろうか。初期ナンバー「夜を抜ければ」と「生活」で、この5人の音の奔流に巻き込まれたことがさらにその思いを強めた感じだ。
アンコールの3曲の演奏も終え、メンバーがステージを去ってもまるで終わる気配のない拍手に応えて、バンド史上初のダブルアンコール。はじめはメンバー3人でできる曲を探していたが難しそうなのか、サポートの二人も参加。リクエストも募ったが、この5人でできる曲ということで森山が「幸せ?」に決定。本編で聴き入るモードだったオーディエンスも楽しさを表して二度目の「幸せ?」を満喫したに違いない。
バンドを見続けていると稀に新しい表情に出くわすが、この日、odolはこれまでの殻を破った。この場にいた人から、それは自ずと伝播してくだろう。
文:石角友香
撮影:Ray Otabe
2024年10月13日(日) 東京・LIQUIDROOM
OPEN 17:15 / START 18:00
チケット:
前売 ¥5,800 / 学割 ¥4,800 (全自由 / ドリンク代別)
先行予約期間:4月20日(土)21:00〜4月29日(月)23:59まで
受付URL:https://eplus.jp/odol2024/
@odol_jpn
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いきなり感想で恐縮なのだが、第一声に「楽しかった!」しか出てこない約2時間だった。odolは煽らないバンドである。登場当時、オーディエンスを盛り上げるバンドが主流のシーンにあっても、マイペースで楽曲の世界観を貫いてきた彼らのスタンスは変化していない。ただ、3人体制になり、西田修大や細井徳太郎、岡田拓郎、深谷雄一、大井一彌らサポートミュージシャン(西田と大井は今回のライブもサポート)を迎えた『DISTANCES』を完成させたこと、ジャズやエクスペリメントな音楽がバンドシーン界隈に徐々に浸透し、現在の彼らを支えるサポートミュージシャンが関わるバンドから還流してきたオーディエンスが増えたこともあるのだろう。自然と起こる拍手や歓声、フロアがグルーヴする様子は過去最高の盛り上がりを見せた。バンド初のダブルアンコールも極々自然な成り行きだったのだ。
広いフリースペースのようなADRIFTの場内はごくシンプルで、ステージ上も過去の「individuals」で設られていたようなスクリーンや調度品もなくシンプルだ。うっすら流れていたアンビエントの音量が上がり、ビートのシンコペーションが強さを増すとメンバーが登場し、そのまま切れ目なくピアノ、そしてフロアタムが加わり、新作のタイトルチューン「Distances」が始まる。すでにライブアレンジによって肉体性を獲得している感じだ。ミゾべリョウ(Vo/Gt)だけでなく、3人で歌詞を共作したこの曲の必ずしも言葉は届かないという想いとそれでも歌う意思を示していて、現体制の1曲目に相応しいと感じた。西田のロック然としたギターでスパッと曲を終えると大きな拍手と少し歓声も混じる開かれたムードに。シームレスに森山公稀(Pf/Syn)のYMOイズムを感じるシンセとビート感を持つ「幸せ?」へ。大井の端正なハイハットワークやShaikh Sofian(Ba)の堅実なプレイとの好バランスに唸ってしまう。さらに生活感と人生観の温度に首肯してしまう「今日も僕らは忙しい」で演奏のダイナミズム以外に、描かれる心象への親近感が生まれた。そして流れるようなピアノと鼓動のような4分キックが動いていく時間をイメージさせる「reverie」。ギターのエフェクトで作るバイオリンのような音色に釘付けになるのはライブの醍醐味でもあり、音源の何倍もエクスペリメンタル。立て続けに新作から4曲演奏し、今のモードにグッと引き込んだ。
そのまま間髪入れず久々に「GREEN」と「飾りすぎていた」を続けて披露したのだが、西田のノイジーに空間を切り裂くギターは自然災害レベルの凄まじい体感。過去曲を今のメンバーでライブアレンジした時のメーターの振り切り方がいい。灰になりそうなぐらいギリギリのテンションで音がせめぎ合った「飾りすぎていた」のエンディングの後の静寂は小さな咳も憚られるほどだった。小さなノイズが流れているものの、すごく長い静寂のように感じたスパンを置いて、森山のピアノとミゾべの歌が聴こえると、大雨が上がって外に出たような感覚になる。それが二人の人物が各々の道へ歩き始める別れの歌「遠い街」の擬似体験をより深く届けていた。そして合わない周波数のような音がギターから発されると、どこか遠くからの音信に耳を澄ませているような感覚に陥り、「小さなことをひとつ」が「遠い街」と接続する感覚になる。ここまでの流れで、少し苦しい時を超えてきた先に穏やかな時間をリアルに迎えた気分になった。前半の世界を自分も生きていた感じだ。
MCでは森山がスタンディングでのワンマンライブが5年ぶりで、しかも多くのオーディエンスが集まったことを光栄だといい、ミゾべもShaikhも「(同じように)思ってまーす」とユーモラスに同意したことで、場がグッと和む。ミゾべは話したかったことを全て忘れてしまったと言い、すごく開かれたモードのようだった。
歌い出しのファルセットもスムーズで花びらが散るようなピアノのフレーズも心地よい新曲「不思議」、控えめでいて全ての音が呼応して弾き合うような「未来」の体験的なアンサンブル、引き続き季節を感じさせる「三月」を経て、ミゾべが言いたいことを思い出したのか「僕ら、5年ぶりのスタンディングのワンマンライブでお客さんとの距離も近くて。歌ってる人とか見えると演奏も変わってくるんです。楽しいです、めちゃくちゃ」と話した。このことがよりステージとフロアの距離を縮めたのは後半のグルーヴに確実に影響したと思う。
後半は新作から演奏のアイディアが楽しい曲群を続けていく。短いセンテンスで記号的に羅列される歌詞やShaikhがつけるコーラスも効果的な「君を思い出してしまうよ」はライブでは個人的に00年代のUSインディっぽさを感じる部分もあり、しかも後半にはトレブリーな鍵盤の音に生音ブレイクビーツの鋭さと強度を増していく大井のドラミングを筆頭にトランス系ジャムバンドのような熱気を醸成。これまでodolで感じたことのない爆発力を維持したまま「泳ぎだしたら」のプログレッシブな音の壁へ突入。前半の緻密に組み立てられた空間とは違い、いい意味でかなりの圧だ。その中から聴こえてくるからこそ、ミゾべの"君はどうしたい?"という投げかけが鮮烈に響いた。
ループするシンセリフとギターリフがふわふわした上モノと軽快なビートで再び時間が走り出す「幽霊」では手を挙げて乗っている人も現れるほど何にもとらわれない空気が生み出され、本編のラストはアルバム通り「時間と距離と僕らの旅(Rearrange)」だ。もともと2018年のアルバム『往来するもの』収録曲で、3人体制のpre期の模索と言えるリアレンジシリーズの中の1曲だが、この日のライブアレンジはさらにシンプルにロックバンドのダイナミックな演奏の旨みが十全に詰まったものだった。大航海はこれからも続いていく、そんなスケールの大きさを今のodolは持っている。
受け止めたエネルギーを素直に返すように拍手が止まない。早々に再登場した森山とShaikhが、RECORD STORE DAYでもあるこの日『DISTANCES』もリリースしたことを告げ、続いてサポートメンバーを紹介。男性の野太い「にしだー!」コールが起きると、odolの面々は名前を呼ばれることにホクホクすると笑う。ミゾベが「さっき話したかったこと思い出した。最近ハマっていることを聞かれたら、言いたかったことがあって」と話し出すと、
森山「聞かれることないですけどね、MCで...最近ハマっていることは何ですか?」
ミゾベ「レンコン」
森山「一緒!」
というやりとりに場内爆笑。過去、物販トークで笑いが起きたことはあったけれど、こんなに無策で場が温まったことはなかったと思う。
アンコール1曲目の「望み」のタイトルコールに待ってましたとばかりの歓声が上がったのも新鮮なムード、おそらくステージから見たフロアはほとんど笑顔だったんじゃないだろうか。その後、10周年記念のライブを10月13日にリキッドルームで開催する旨を発表。さまざまな時期からodolの音楽に触れてきた人たちがここでグッと距離が縮まった感じがしたのは気のせいだろうか。初期ナンバー「夜を抜ければ」と「生活」で、この5人の音の奔流に巻き込まれたことがさらにその思いを強めた感じだ。
アンコールの3曲の演奏も終え、メンバーがステージを去ってもまるで終わる気配のない拍手に応えて、バンド史上初のダブルアンコール。はじめはメンバー3人でできる曲を探していたが難しそうなのか、サポートの二人も参加。リクエストも募ったが、この5人でできる曲ということで森山が「幸せ?」に決定。本編で聴き入るモードだったオーディエンスも楽しさを表して二度目の「幸せ?」を満喫したに違いない。
バンドを見続けていると稀に新しい表情に出くわすが、この日、odolはこれまでの殻を破った。この場にいた人から、それは自ずと伝播してくだろう。
文:石角友香
撮影:Ray Otabe
LIVE INFORMATION
odol 10th Anniversary ONE-MAN LIVE at LIQUIDROOM
2024年10月13日(日) 東京・LIQUIDROOM
OPEN 17:15 / START 18:00
チケット:
前売 ¥5,800 / 学割 ¥4,800 (全自由 / ドリンク代別)
先行予約期間:4月20日(土)21:00〜4月29日(月)23:59まで
受付URL:https://eplus.jp/odol2024/
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オフィシャルサイト@odol_jpn
@odol_jpn
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