SENSA

2024.01.19

the slow films「Form of Reminiscence」──心に溜まった記憶に寄り添い、輪郭を与える楽曲たち

the slow films「Form of Reminiscence」──心に溜まった記憶に寄り添い、輪郭を与える楽曲たち

 人は誰しも多かれ少なかれ、消化しきれないままの感情を心の奥深くに封じ込めて日々を過ごしている。例えばそれは、何気ない一瞬の出来事や、もはや思い出したくないほど辛い思い出など、人により場合により様々だ。そうした記憶に寄り添い輪郭を与えることで、ある種の「癒し」をもたらす音楽が、この世の中には存在する。直訳すると「記憶の形」と名付けられたthe slow filmsによるこの5曲入りEP『Form of Reminiscence』を聴いていると、そんなセラピーのような効果を感じずにはいられない。

 ボーカル&ギターのmikuとベースのShota Kuriharaを中心に、大学内で結成された4人組バンドthe slow films。結成間もない2021年11月にリリースした1stEP『Frames』では、ビーチ・ハウスやギャラクシー500、ソニック・ユースなどUSオルタナ / サイケを彷彿とさせる荒削りなサウンドを彼らは奏でていた。それからおよそ2年ぶりとなる本作『Form of Reminiscence』は、これまでの路線を踏襲しながらも、新たな試みに果敢に挑戦した野心的なアルバムに仕上がっている。

 例えば、かき鳴らす歪んだエレキギター(おそらくレギュラーチューニング)とボーカルだけの剥き出しなサウンド「fiction」を経て「It means the world to me」では、静寂と混沌を意識したダイナミックなバンドアンサンブルを高らかに鳴らす。続く「pool」は、1990年代マッドチェスタームーヴメントに呼応するような16ビートが印象的だ。
 さらに「帰ったらまたね」は、シンコペーションを強調したタイトな8ビートの上を、mikuの中性的なボーカルがたゆたう。どこかぶっきらぼうでありつつも包み込むような優しさを感じるmikuの歌声は、ビーチ・ハウスのヴィクトリア・ルグランやライのマイク・ミロシュ、シガレット・アフター・セックスのグレッグ・ゴンザレスあたりのそれを彷彿とさせる。別れた恋人の記憶を辿りつつ心の傷を癒していく「帰ったらまたね」や、何気ない日常を細かく描くことで、そこにある情感を鮮やかに呼び起こす「夕立」など、聴き手の心にそっと寄り添うような歌詞が並んでいる。

 「悲しい、辛い、幸せ、楽しい、つまらない、記憶には様々な種類の感情がついてまわるし、状況や情勢によってその記憶への感情が変化していくこともあります。 もしそうなのであれば、今は苦しい、つらいような記憶をすぐに消さず形に残すことで、記憶や感情の整理をして、ある時それを取り出して振り返ることも意味があることなのではないかなと思います」

 本作について、そうコメントするmiku。おそらく曲を作ることそのものが、彼女にとってもまたある種の「セラピー」なのかもしれない。

文:黒田隆憲



RELEASE INFORMATION

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the slow films「Form of Reminiscence」
2023年12月13日(水)
Format:Digital
Label:FRIENDSHIP.

Track:
1.fiction
2.It means the world to me
3.pool
4.帰ったらまたね
5.夕立

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LIVE INFORMATION

the slow films 2nd EP "Form of Reminiscence" Release event "PRAY"
20240107-the-slow-filmsレコ発フライヤー_1000_20231213.jpg
2024年1月7日(日)
下北沢近道
OPEN 18:00/START 18:30
ACT the slow films/chie/その感激と記録/D.B.Inches
ADV ¥2,400/DOOR ¥2,900(+1drink)
学生 ¥1,400


LINK
オフィシャルサイト
@the_slow_films
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