SENSA

2024.01.18

Guiba、新鋭バンドKhakiを迎えて「オルタナティブニューミュージック」を響かせた1stアルバム『ギバ』リリース記念ライブ!

Guiba、新鋭バンドKhakiを迎えて「オルタナティブニューミュージック」を響かせた1stアルバム『ギバ』リリース記念ライブ!

あからさまにノスタルジーモードの音楽がしぶとく世を賑わせている中、反対に、そういう「いかにもあの時代」なサウンドへの膨満感が(主に聴き手の側で)じわじわと広がっているのも確かな趨勢に思える。そういう中にあって、「あの時代」の音楽の麗しさを、これ見よがしなアクションや小狡い目配せを遠ざけながら「今」と再接続するためには、いったいどんな方法がありうるのだろうか。
Guibaは、私が日頃から考え続けている上のような問いに対して、今のところもっともスマートな回答を示してくれているバンドだ。そう、バンドなのだ。自室での作業に没頭する今風のソロアクトでもなく、かといって、業界の有象無象(の欲望)を引き連れて大々的に送り出されるプロジェクトでもない。その枠組は、どこからどうみても、ロックの、より正確に言えばオルタナティブなロックバンドのそれだ。つまり、DIYな文化圏/経済圏の中で、お互いがお互いを刺激し合う各メンバーのコミュニケーションを通じて、「あの時代」を「今、ここ」の代替たるべきイリュージョンとしてあぶり出す、そういうやり方を前提としているからこそ、彼らの音楽には麗しさと真摯さが宿っている(ように思える)のだ。いわば、オルタナティブニューミュージック。そんなものが可能だとも思っていなかったところへ、不敵な様子でやってきたのが、Guibaというバンドだ。

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この日のレコ発ライブは、そんなGuibaたっての希望でブッキングされたという新鋭バンドKhakiのパフォーマンスで幕を開けた。噂には聞いていたものの、ライブを観るどころか、そのスタジオ音源すら触れたことのなかった彼らの演奏は、果たしてすごく興味を惹かれた。大きな網掛けでいえば多分オルタナティブロックになるのだろうが、プログレといった方がいいような緩急自在かつ風変わりな構成とアンサンブル。かとおもえば、反時代的なオールドロック風のギターリフが飛び出したりもする。歌声はネオサイケ的な耽美性をたたえており、センシュアルだ。

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幕間のBGMとして会場で流される音楽にも否応なく耳を惹かれる。サザン・オールスターズ、布施明、松任谷由実、槇原敬之、EPO、ALFEE、吉田拓郎、今井美樹、果ては「檄! 帝国華撃団」のテーマ曲(横山智佐)まで、一見めちゃめちゃなのだが、Guiba自身が選曲したらしいという情報とあわせて聞くと、妙にクリティカルに響くから面白い。

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いよいよGuibaの面々がステージに登場する。アカツカ(ヴォーカル/ギター)、熊谷太起(ギター)、シェイク ソフィアン(ベース)、礒部拓見(ドラム) のメンバー4人に加えて、サポートの石崎元弥(パーカッション)、沼澤成毅(キーボード)まで、みな揃って黒系の衣装に身を包んでおり、とてもクールだ......が、アカツカはなぜか栃木県の観光ガイド本を手にしながら一曲目を歌い、観客に向けてその表紙を掲げてみたり、ページをめくってメンバーに見せたりと、様子がおかしい。と思っていたら、この新曲の名は「栃木」というらしい。栃木。その語の持つ響き/イメージと、甘い曲調の絶妙な(不思議な?)マッチング。

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つづく「らぶちぇん」は、アルバムからの曲。この曲も甘く切なく、語弊を恐れずあえて言えば「普通」だ。この「普通」であることの反転的なラジカルさが、丁寧な演奏によって余計に際立つ。「普通」にいい曲、「普通に」いい演奏。「普通に」いい歌。Guibaの一員として歌うアカツカをこの日初めて観たのだが、そうか、彼のハイトーンボイスは小田和正や松山千春の系譜にあるものだったのか、と思わされた(本気で)。

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次いで披露された「ほつれ」などもそうだが、Guibaの演奏には、「ニューミュージックっぽいものをやってみましたけど、どうですかね?」と、こちらへ目配せしてくるような感覚が全くない。たしかにニューミュージック的な要素は薄くなく、そのソングライティングはほとんどオーセンティックというべきものなのだが、「〇〇風」へと必死に接近して記号的なコミュニケーションを強いてくるのではなく、あくまでそのエッセンスを直接に捕まえた上でオルタナティブ〜インディーロックの美意識の中に溶かし込んでいるような感じなのだ(そう、彼らはありがちな「和モノリバイバルバンド」では決してない)。それゆえに、普段は各々別のインディーロックバンドで活動する各メンバーの演奏の重要性も、より際立ってくる。

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「涙」と「おめかし」では、録音にも参加したましのみがゲストヴォーカルとして登場し、デュエットする。アカツカのヴォーカルとましのみの佳麗な歌声が並走し、混じり合い、離れていく。
結成以来、ハイペースに作品を量産するGuibaだが、「ナイスガイ」とそれに続く「スキマ」と、この日も出し惜しみなく新曲を披露していく。そのどれもが親しみやすくポップで、ときに円熟味すら感じさせ、彼らの創作が引き続き絶好調であることを告げている。

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続く「ハアト」からは、熊谷とともにHelsinki Lambda Clubで活動する稲葉航大が(ベースではなく)アルトサックスを持って登場。きょうび、満を持してサックスに熱いソロを取らせる「インディーロックバンド」が彼らの他にどれくらいいるだろう。「恥じらい」の向こう側にこそ豊かな響きがあることを、Guibaの面々は多分十二分に理解しているようだ。

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随所に挿し込まれるアカツカのMCは、いつものようにジョークだらけなのだが、それはおそらく照れ隠しである以上に、反転した「マジ」の表明のように感じさせる。そう思うと、トレードマークであるサングラス姿が、甲斐よしひろの勇姿と重なってくる......そうか、もしかするとGuibaって、令和版の甲斐バンドなのか(?)。

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「グラヴィティ」は私のお気に入りの曲だ。切々たるロッカバラードであるこの曲は、メロディーの妙もさることながら、歌詞がとにかく素晴らしい。何かをしなくては、あなたのそばにいなくてはと気が急いてしまうけれど、重力(グラヴィティ)が邪魔をして簡単にはそうさせてくれない。けれど、重力から解き放たれたとして、どうすべきなのかも簡単にはわからない。この曲を、美しいラブソングである以上に、あらゆる場所で悲劇が進行する現在において、多くの人々が抱え込んでしまいがちな無力感とやるせなさを歌った曲であると理解するのは、牽強付会が過ぎるだろうか。

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再びましのみが加わっての「愛の二段階右折」も、すでに名曲の風格を漂わせている。なんども言うが、こんなにも真っ当に甘くポップな曲を令和6年に渋谷のど真ん中で演奏することの、そのクリティカルさよ。
アンコールでは、アルバムのオープナー「灰」を披露し、こなれたギターポップバンドとしての魅力を全開にする。個人的には、こういう路線にも否応なく胸を打たれてしまう。最後は、今後のより一層旺盛な活動を予告するように、新曲「蛙」で閉められる。渋谷WWWで観客が「インディーロックバンド」に向けて楽しそうに手拍子を打つ姿を目撃したのは、この日がはじめてかもしれない。

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当日のMCによると、すでにGuibaは、セカンドアルバムに向けた新曲を順次制作しているところだという。「オルタナティブニューミュージック」の騎手として、今後の活動にも是非期待したいし、できれば爆発的に売れてほしい。そうなったら多分、日本の音楽シーンは今よりもっと面白いことになるような気がする。その曉には、柳葉敏郎さんとの対談をSENSAでやりましょう。

文:柴崎祐二
撮影:Yoshiaki Miura

RELEASE INFORMATION

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Guiba「ギバ」
2023年10月4日(水)
Format:Digital
Label:Guiba

Track:
1.灰
2.ほつれ
3.らぶちぇん
4.涙
5.おめかし
6.養殖
7.ハアト
8.グラヴィティ
9.愛の二段階右折

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