SENSA

2023.12.29

踊ってばかりの国、「サイケデリックの中で出会えたことを誇りに思います!」初の野音ワンマンで自由と解放の精神が照らした「冬の光」

踊ってばかりの国、「サイケデリックの中で出会えたことを誇りに思います!」初の野音ワンマンで自由と解放の精神が照らした「冬の光」

9月30日に開催されたゆるふわギャング主催の「JOURNEY RAVE」、11月18日に開催されたGEZAN主催の「全感覚祭」と、野外ライブが続いていた今年の踊ってばかりの国。野外のレイヴパーティーはパンデミック下で抑圧された生活を強いられる中、そこからの解放を求めて世界的に再興し、「JOURNEY RAVE」はもちろん、「全感覚祭」にもそういった性格はあったと言えるだろう。そして、自由と解放を歌わせたらこのバンドの右に出るものはいない。

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「冬の光」と銘打たれた踊ってばかりの国、初めての野音ワンマン。開演時刻となる18時の上空にはすでに漆黒の宇宙が広がり、アルバム「SONGS」に収録の「ocean(intro)」をSEにメンバーがステージに登場すると、下津光史が遠吠えのようなシャウトを一発決めて、ライブは「ニーチェ」からスタートした。丸山康太の弾くイントロのギターフレーズのつぶれた音色からして、彼らのこの国のバンドシーンにおける特別さが伝わってくる。

2022年1月5日にリリースされた「ニーチェ」は、同日に開催された今は亡き新木場スタジオコーストでのワンマンライブ「DANCING EMPIRE」で披露され、その後も何度となくライブのクライマックスを作り上げてきた名曲。〈エピローグなんて無い人生さ 世界はミサイルとウイルスで 言葉も出ないぜ〉と歌われるこの曲は、戦争とパンデミックに揺れる現代を歌った楽曲であると同時に、かつて〈また笑って会いましょう 生きてたら〉〈言葉も出ないだろう 死ぬんだから〉と歌ったこちらも名曲の「言葉も出ない」を連想させ、彼らが常に生と死を見つめながら言葉を紡ぎ、音を鳴らし続けてきたことを感じさせる。

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「踊ってばかりの国へようこそ」と一言あって、ライブ前半は次々と曲を畳み掛けていく。「your song」から「Mantra song」へというグルーヴチューンの連発では谷山竜志のベースがアンサンブルの肝となり、「Notorious」は坂本タイキのスネアロールを軸とするパートがクール。〈やっと名前を貰えるわ 泳ぎ続けてよかったよ 喜び、悲しみ クロールは続いてく〉と歌う「クロール」は、2008年の結成からメンバーチェンジを経て遂に野音に立ったバンドの姿を重ねてグッと来たし、この日披露された楽曲の中では最初期の曲にあたる「!!!」では、2017年に加入した丸山と大久保仁が不協気味のフレージングによって、今の5人だからこその「!!!」を鳴らしていたのもよかった。

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「次の曲はこの世で最も大切な人に書いた歌です」と紹介された「光の中に」、さらには「海が鳴ってる」を続けると、中盤のハイライトとなったのが、「夜が来たよ」という一言から始まった「いやや、こやや」。そもそも彼らはなぜ日比谷野音でライブをしたかったのか。その理由はいくつかあるだろうが、その中のひとつはここがフィッシュマンズの愛した会場だったからではないかと思う。野音は90年代後半にフィッシュマンズが主催イベント「闘魂」を開催した場所であり、2019年にceroを迎えて復活した「闘魂」の会場はZepp Tokyoだったものの、やはりフィッシュマンズと言えば野音である。

下津光史はかねてよりフィッシュマンズのファンであることを公言していて、この日のパフォーマンスでもディレイを用いたボーカルやレゲエのリズムなど、佐藤伸治的な要素が随所に感じられたが、ハンドマイクで体を揺らし、ダビーな音響の中を泳ぎながら〈夜は来る〉と歌い、後半ではエフェクトを用いてサイケな空間を作り上げたこの曲は、まさに「ナイトクルージング」のようだった。音楽性に加え、自由と解放の精神もまた、下津が佐藤伸治から譲り受けたものだろう。

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「シンクロナイズド」からシームレスに繋ぎ、丸山のミニマルなカッティングがテクノっぽさを演出する「beautiful」では〈今夜だけは そう今だけは リアムのフリしてるぜ〉という歌詞で実際に手を後ろに組んでリアム・ギャラガーのフリをするのも楽しい。この曲終わりで初めて下津がMCらしいMCを行い、「やっとこの景色が見れました。一人一人全員にチューしていきたいです」と喜びを語ると、「やっぱり野音なんで、特別なことせなあかんなと思いまして、前代未聞の新曲3曲くらいやります」という言葉に大きな歓声が起きる。そして、「友達が今年いっぱい死んだり、それでも前に進もうとする人がいたり、そういうのを見て書きました」と言って披露されたのは「兄弟」という曲。

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ベースのループに乗って、「MTVに出ていたカート・コバーン」にも言及しながら〈兄弟、そちらの調子はどうだい?〉と呼びかけるこの曲を聴きながら、僕が思い出したのはandymoriの同名曲「兄弟」だった。2011年3月に起こった東日本大震災から1ヶ月と経たないうちに書き下ろしてリリースされた「兄弟」で、〈何もない僕が君にできること 下らない歌を高らかに唄いたいんだ〉と歌った小山田壮平は下津と同世代のシンガーであり、常に自分の身近にいる人を見つめながら社会と向き合うこと、生と死を歌うこと、そして誰より自由を愛するという共通点がある。この2人に影響を受けたシンガーが今の日本にどれだけ多いことかと、改めて考えたりもした。

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さらに新曲を2曲演奏すると、いよいよライブも終盤に。「この曲をここでやるのが夢でした」と話した「Orion」、4つ打ちを強調した高揚感たっぷりのアレンジによる「バナナフィッシュ」でオーディエンスがますますヒートアップすると、「この島国に太古よりこびりつきし音楽の魂、ならびに、今日僕たち5人をこの場所に立たせてくれた、ここにいる人、ここにいない人、全ての人に次の曲を捧げます」と言って演奏された「ghost」で場内の盛り上がりは最高潮に。ラストには「それで幸せ」が演奏され、轟音のノイズと下津の絶叫が延々響き渡る中、本編が幕を閉じた。

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アンコールでは上裸で登場した下津が「思ってるよりもヤバいっす、ここの景色」と嬉しそうに話し、「この景色もうちょっとヤバくしたいと思わへん?僕の友達でも結構ヤバめのやつ2人連れてきたんで、紹介してもいいかな?」と続けると、ゆるふわギャングの2人が登場。先日発表されたコラボ作からまず「no.9」でアナーキーかつ狂騒的な盛り上がりを作り出し、「サイケデリックの中で出会えたことを誇りに思います!」と叫ぶと、一転「君の街まで」ではメランコリックにして陶酔的なムードを作り上げる。今の10代はラッパーに憧れる人が多いのかもしれないけど、下津光史を見たら絶対にロックバンドに憧れるのになあ。

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「中学1年生のときにレッチリのコピーバンドを組んで、それからいっぱいいろんな音にぶつかって、いろんな人と交わって、今日ここにこれだけの人が来てくれて、今ここに立っていて。当たり前が当たり前じゃなくなっていくこの世界で、今日も爆音を鳴らせてることをめっちゃ幸せに思います。目の前にある当たり前を繋いで、また最強の未来で、優しい未来で会いましょう。ここがゴールじゃないです。では最後のナンバーはこれで」と話して始まったラストナンバーは「Boy」。イントロのギターに乗せて、下津は「愛し合ってるかい?」と呼びかけた。

言わずと知れた忌野清志郎の代名詞的なフレーズであり、また清志郎は佐藤伸治が最も愛したミュージシャンの一人でもある。「兄弟」を披露した際の「友達が今年いっぱい死んだり、それでも前に進もうとする人がいたり、そういうのを見て曲を書きました」という言葉をもう一度引っ張り出すと、今年は多くの素晴らしいミュージシャンが亡くなり、つい先日にはチバユウスケまでもが旅立ってしまった。〈脱げたサンダルこの恋よForever〉〈パパとママにはずっと内緒だぜ〉と、音楽と恋に落ちた少年のフィーリングを歌うこの曲は、この世を去った憧れのロックスターたちへの想いを歌うレクイエムのようにも聴こえる。

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そして、さらなる最高の瞬間はこの曲の終盤にあった。アウトロで繰り返されるリフに乗せて、下津はおもむろに〈たった一かけらの勇気があれば ほんとうのやさしさがあれば あなたを思う本当の心があれば 僕はすべてを失えるんだ〉とくるりの「ロックンロール」の一節を歌い、「ロックンロール!」と絶叫したのだ。この瞬間は本当に痺れた。

2002年にNUMBER GIRL、2003年にTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTと、最高のロックバンドが立て続けに解散を選ぶ中、くるりは「HOW TO GO」で〈いつかは僕たちも 離れ離れになるんだろう〉〈いつかは想像を超える日が待っているのだろう〉と「それでも前に進むこと」を歌い、その先でリリースしたのが繰り返されるリフとともに転がり続けることを宣言する「ロックンロール」だった。この世を去ったロックスターたちに想いを馳せると同時に、同じ時代を歩むロックバンドと共鳴しながら、最強の未来を、優しい未来を思い描くこと。最悪な2023年の最後にこんな歌を歌われた日には、泣くなという方が無理だろう。

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「Boy」はまだ現在のメンバーが揃う以前に書かれ、演奏していた曲で、メンバーチェンジ後すぐはこの曲を演奏する際にちょっとした違和感が感じられたものの、それでも歩みを止めなかった踊ってばかりの国は今こそが最盛期。鳴り止まないアンコールに応えて最後に「OK」を演奏し、冬の空気の中で光り輝くバンドの姿を見ながら、僕はそう確信した。

文:金子厚武
撮影:石毛倫太郎

LIVE INFORMATION

踊ってばかりの国ワンマンライブ 「解夏 -GE GE-」
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2024年7月20日(土)
大阪城音楽堂
17:00開場 18:00開演
座席指定 ¥5,000


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