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2023.12.20
豪華ベーシスト大集合の2日間!「ベースの日」スペシャルライブ「THE BASS DAY LIVE」DAY1をシェイク ソフィアン(odol / Guiba)がレポート!
11月11日を"ベースの日"とし、名だたるベーシストが集うライブイベント「THE BASS DAY LIVE」が、今年11月10日(金)、11日(土)の2日間にわたって渋谷Spotify O-EASTで開催されました。今回、odol/Guibaのベースを務めるシェイク ソフィアンが、ユアネスのベースを務めるタナカ ユウダイ(通称"だでぃ")とともに11月10日(金)の公演をレポート!
ベーシストの目線で語られる、「THE BASS DAY LIVE」の楽しみ方やベースの魅力に注目です。
バンドに2人以上いることは滅多になく、孤独な立場になりがちなベーシスト。
そんな孤高の奏者たちが低音への愛を高らかに語らい、互いの演奏を讃え、強く連帯する日として"ベースの日"は広く認知されている。
2014年の制定以降、SNSでの盛り上がりも年々上昇傾向にある。
かくいう僕も、一ベーシストとしてこの日を意識せずにはいられない。
そんな特別な日に毎年行われるイベントが「THE BASS DAY LIVE」。
名だたるプレイヤーが出演し、ベースをフィーチャーした演奏が行われるまさにベース愛者の祭典だ。
コロナ禍の影響で2020年からはオンラインでの実施だったが、今年は2daysにパワーアップして帰ってきた!
誰もが待ち望んだ大イベントの初日を、odol / Guibaのベーシストでもある私、シェイク ソフィアンが目撃してきた。
そのレポートをここに書き記したいと思う。
2023年11月10日金曜日。
フリースの肩に小雨の球が浮く秋の暮れ。
Spotify O-EASTの会場前でこの男と待ち合わせる。
彼はユアネスのベーシスト、タナカ ユウダイ、通称"だでぃ"だ。
すでに武者震いを始めている彼の様子に、終演後に「急いで帰って練習したい!」って言い出しそうな気配を感じる。
ベーシストとして共に研鑽を積む盟友を伴い、今夜はベースという楽器の魅力を堪能しよう。
暗転と同時に雷のようなスラップベースが鳴り響き、会場が一気に沸き立つ。
スポットライトに照らされ、クリス・ペプラー氏が入場した。
クリス氏は2日間に渡る「THE BASS DAY LIVE 2023」のイベントでMCを務める。
自身もベーシストであることから、このイベントのMCとして氏以上の適任者はいないだろう。
クリス氏はまずこのイベントの背景を振り返る。
2013年の11月11日に、J-WAVEの番組企画(「BEHIND THE MELODY~FM KAMEDA」)で提案したことからはじまり、2014年にクラウドファンディングサービスを通じて集まった賛同者(ベースの日制定委員会)のメンバーと共に、日本記念日協会に申請。
第一線で活躍する多くのプレイヤーから賛同をもらい、ハマ・オカモトさん、KenKenさん、TOKIEさんの助力もあって、2014年12月10日、日本記念日協会に「ベースの日」として登録されたのだ。音楽のボトムを支える"ベース"を愛する人たちが中心となり、音楽の楽しさを分かち合う日にしていく。それが、「ベースの日」の目的だ。
以降、"ベースの日実行委員会"は毎年大規模なイベントを主催し、ベースの日を大いに盛り上げている。
イベントの外でもこの特別な一日は多くのベーシストに浸透し、ベースへの愛をそれぞれの形で発信されるようになる。
SNSでの盛り上がりも伴って、まさに万人に開かれた記念日として広く認知されている。
昔は日の目を浴びづらかったこの楽器も、いまや花形と言えるようになった。
メロディを奏でながらリズムを刻み、時にパーカッシブに楽曲に彩りを与える、そんな魅力がベースには詰まっている。
3年のブランクを経てしまったが、この2daysに拡張された「THE BASS DAY LIVE 2023」を存分に楽しんで、ベースへの愛をより深めていこう。
クリス氏の号令とともに観客は歓声をあげる。
ここでクリス氏から衝撃の告白。SEとして使われる雷のようなスラップ・ベースは、なんとクリス氏が実際に演奏した音源とのこと!
普段は穏やかな声でリスナーを魅了するクリス氏が、荒々しく昂るスラップ・ベースで会場を沸かせていたのだ!
なんてこった。これはとんでもない一日になるぞ...!
暗転と共に再び"雷ベース"が鳴り響く。
僕たちの"ベースの日"が始まる。
須長さんは数多のビッグアーティストのバックでベースを弾くマルチプレイヤーだ。
ステージ上には3つのコントラバスと1つのエレキベースが置かれているが、一体どのようなパフォーマンスが行われるのだろうか。
低音パートを担う楽器の起源は太古の時代まで遡ることになるが、ことエレキベースにおいて直系の先祖にあたるのがコントラバスと言えよう。
2daysに渡る"ベースの日"の第一演目として、これ以上のものはない。
SEが終わると同時に、須長さんと共にGuestの安ヵ川大樹さん、古賀圭侑さんが現れる。
3人はボディを立てると、呼吸を合わせアルコ(弓)を用いた荘厳なアンサンブルを鳴り響かせ始める。
コントラバスの豊かな倍音が重なりあい、穏やかで心地の良い音色が響き渡る。
このイベントを"すごテク・速弾き感謝祭"と思って観に来た人は驚いたに違いない。
コントラバス3本が鳴らす優しく暖かな音像が会場に満ち溢れた。
ウォーキングベースを主体にしたジャジーな曲に移ると、代わる代わるでベースソロを弾いていく。
同じコントラバスという楽器を用いているのに、奏者によってサウンドやプレイが大きく変わってくるのが、この楽器の面白いところだ。
須長さんが主体で安ヵ川さんと古賀さんはGuestという形ではあるが、誰かが突出して立てられるのではなく、3人が3人で一つのアンサンブルを創り上げていた。
MCで「オンベース〇〇」と紹介し合う(おそらく今日明日で何度となく聞くであろう)小ネタを挟みつつ、今日はコントラバス・トリオを初めて観る人にも楽しんでもらえるよう、誰もが知っているような名曲をたくさんカバーするとのこと。
続く演奏が楽しみだ。
そして特徴的なイントロから、Queenの「Don't Stop Me Now」が演奏される。
聞き馴染みのある曲だからこそ、コントラバス・トリオのアレンジを楽しみつつ、ベースという楽器の奥深さも感じられる。
アルコ奏法とピッチカート奏法を行き来し、曲の緩急を見事なアレンジに落とし込んでいる。
須長さんと安ヵ川さんが曲のメロディとハモリを追うときに、自然と身体の揺らぎも同調している。
文字通り息のピッタリあった演奏だ。
「ベース3台でも聴かせられるでしょ?」
須長さん、安ヵ川さん、古賀さんのトリオ編成は年に3〜4回ほど演奏しているとのこと。
須長さんに「THE BASS DAY LIVE 2023」に出演オファーが来た時、「せっかくならベースの奥深さを体験してほしい」と思い、このトリオでの出演を決めたそう。
ライブハウスでの演奏は初めてで少し不安だったとのことだが、満員のお客さんたちはそのパフォーマンスを存分に楽しんでいる。今日のこの演奏をみて、コントラバスへの挑戦を決意するエレキベーシストもいるだろう。
かつてピッチの不安を拭い去り切れずにコントラバスを諦めてしまった自分も、このパフォーマンスを通して改めて挑戦したい!という意欲が湧いた。
すごい、ベースの日すごい。モチベーションがぐんぐん上がっていく。
バラード調の曲が続き、揺蕩うような3和音が響く中、天の声の「語り」が聞こえてくる。
ここで4人目のGuest、休日課長が登場のようだ。だが、一向に姿を見せない。
課長はそのまま言葉を紡ぎ続ける。
「学生時代に全ての時間を捧げ、永遠の友情を分かち合った。時に女性にうつつを抜かすこともあったけど、それでも君はずっとそばにいてくれた。」
これはきっと課長本人の体験に基づく話なのだろう。最初こそユーモラスに聞こえたが、だんだんとその言葉が心の臓に強く突き刺さってきた。
自分も全く同じだ。同じようにベースを愛し、一時の迷いで突き放し、そしてその深い愛を再認識した経験がある。
会場にいる多くの人がそうであるようで、だんだんその言葉に共鳴していっているのがわかる。
紡がれる言葉に心が揺さぶられる中、満を辞して課長さんが登場する。
「色んな君が大好きだ。4弦の君、5弦の君、6弦の君。デカイ君に小さい君、全員大好きだ。」
演奏と語りが終わると共に歓声が湧き上がる。ベースという楽器への愛によって、会場の心が一つになった瞬間だった。
帰ったら愛機を抱きしめよう。僕は強く思った。
課長さんも合流したところで次の演奏が始まる。
コントラバス3本にエレキベースが加わる。
続く演奏に期待が高まる中、なんと始まったのはRed Hot Chili Peppersの名曲「Suck My Kiss」。
4本のベースで同じリフを弾き重ね、Fleaさながらの力強いピッキングが鳴り響く。
こんなの、テンションが爆上がりするに決まってるじゃないか!
食い入るようにそのセッションを見つめていると、自分も一緒にそのリフを演奏しているような錯覚に陥った。
爆音で鳴るリフの上でコントラバスの弦が弾かれると、これまでの曲とは全く違う熱量が伝わってくる。
課長さんはソロを弾き始めるとエフェクティブなサウンドに切り替え、エレキベースならではの多彩なアプローチを存分に魅せる。
須長さんはこれまで課長さんとの面識がなかったのだが、いつか共演したいとずっと思っていたそう。
今回の出演にあたって課長さんにオファーをし、快諾してもらったことでスペシャルなセッションが実現したのだ。
ベースの日だからこそ生まれたこの繋がりが、また違う形で結実する未来もくるのかもしれない。
「Suck my kiss!!」の発声で曲は終わり、このコントラバス×3エレキベース×1のカルテットはフィナーレへと続いていく。
Beatlesの名曲「レディ・マドンナ」でコントラバス・エレキベースそれぞれの魅力を存分に響かせ、 須長和広さんの演目は終了した。
ここでクリス氏が登場し、須長さんにインタビューをする。
ベースを始めたきっかけや初めて手にした機体など、ベーシストが聞きたい話題をガンガン聞き出してくれる。
須長さんがベースを始めたのは、高校時代に友人とバンドを始める際に半ば押しつけられる形で手にしたことがきっかけとのこと。太古より続く"ベースあるある"だ。
今回の出演者はそれぞれ"ベース川柳"を作っているそうで、最後に須長さんの一句が披露された。
これがあるあるじゃなくなる時代もそう遠くない。
ステージには見慣れない形状の4弦ベースと、Neural DSPのQUAD CORTEXを中心とした簡易的なボードだけが佇んでいる。
僕とだでぃは中学・高校時代に5thアルバム『アルトコロニーの定理』が直撃した世代。
みんなこぞって「おしゃかさま」のフレーズをコピーし、誰が一番上手く弾けるか競ったものだ。
そんな童心に少し立ち返りながら、武田さんの登場を待つ。
クリス氏の"雷ベース"が鳴り響いた後、武田さんは悠然と現れた。
椅子に座ってその不思議なベースを手に取ると、ハイポジションで柔らかなピッキングを始める。
曲はバッハの「無伴奏チェロ組曲 第1番」。誰もが耳にしたことがあるテーマを、リバーブがほのかに効いたエレキベースで奏でる。
ベース一本での優美な演奏に、僕らの視線は釘付けになる。
ベースは本来、情報量が非常に多い楽器だ。
弦の質感やボディの素材感、指先の些細な力加減まで細かに音になり、ピックアップを通して電気信号になり、アンプへと出力される。
しかし、バンドアンサンブルの中ではそういった成分は埋もれてしまいがちだ。
ベーシストはその細かなサウンドを誰よりも愛し、繊細な表現の世界に挑んでいる。だがそれをバンドアンサンブルの中で満足にやりきることは非常に難しい。
武田さんはシンプルなセッティングにすることで、ベースから発せられるそれらの機微な情報を余すことなく音に落とし込み、自身の表現として表出させている。
コンプレッサーを排除したシンプルな機材セッティングによって、音の強弱がより鮮やかになり、指先の力加減や抑揚が明瞭に伝わってくる。
リズムの緩急が心地よく、テンポの加速で緊張を感じたと思えば、フっと弛緩する。
リバーブのふくよかな余韻で、まるでSpotify O-EASTが荘厳な大聖堂であるかのような感覚になる。
今年で「THE BASS DAY LIVE」の出演は3回目。初回は休日課長さんとデュオ・ベース編成を、2回目はさらに2名が加わってカルテット・ベース編成を披露している。
このまま順当に行けばその倍のオクテット・ベース編成になるところだが、今年は海外でのライブが重なり多忙を極めていたこともあって、ソロでの出演に挑戦したとのこと。
高校生のときに「無伴奏チェロ組曲」の演奏で悔しい思いをし、いつかこの組曲全部をエレキベースで弾きたい!という思いがずっと漠然とあったそうだ。
今や日本を代表するベーシストの一人でもある武田さんが、この"ベースの日"のステージに単独で立ち、初心に立ち帰るようにこの組曲に挑む。
美しい音像の背景に武田さんの強い想いが見えてくるようで、後半にかけてその熱量は強く高まっていった。
確かな演奏力・表現力で圧巻のパフォーマンスに魅せられる中、僕とだでぃにはずっと気になっていることがあった。
あのベースは一体なんなんだ。
シングルカッタウェイにモンキーグリップのようで異なるデザインの大きな穴があり、Fホールの存在からセミホロウであることがわかる。アクティブのようだが、パッシブのような生鳴り感もしっかり伝わってくる。ミドル帯がふくよかで暖かい独特のサウンド感が特徴的だ。
セッティング中に2人の知識を総動員してあれか?これか?と言い合うも、結局これという回答にたどり着けずにいた。
束の間のMCで、不意にその答えを得ることになる。
「このベース、今日のために作ってもらったんです。」
なんとこのベースは、今回のエレキベース独奏のために神奈川県茅ヶ崎市の楽器メーカー「saitias guitars」の齊田氏と共に製作した、本当に特別な一本だったのだ。
チェロをイメージしたサウンドを目指し作り上げてたとのことで、その思惑通りこの演目においてこれ以上ないくらい最適な1本に仕上がっている。
多弦ベース(5本以上弦をもつベースのこと)を巧みに使うことで有名な武田さんが4弦ベースを使っていることも不思議に思っていたが、それもベースの日に合わせてのことだったのだ。
僕らは同時に膝を叩き、続く演奏では特にその機体の特徴的なサウンドを意識することになる。これもまたベーシストの性である。
武田さんは無伴奏チェロ組曲のうち数曲を奏で、その演目を終了させた。
須長さんのコントラバス・トリオから武田さんのバッハへと続き、僕はベースという楽器を通して時間旅行をしているような感覚を持った。
音楽の途方もない歴史の中で、4つの弦を持ったエレキベースという楽器は誕生からまだ100年にも満たない新参者だ。
新参者ではあるが、その繊細で多彩な表現力によって、時代を跳躍して様々な楽曲を奏でることができる。
楽器を通じた音楽体験。まさに"ベースの日実行委員会"が目指す「ベースという楽器を通じて音楽の楽しさを知ってもらう」を体現している演奏のように感じた。
会場が明るくなるとクリス氏が再登場し、インタビューが始まる。
今回は30分の時間制限があったため、「無伴奏チェロ組曲」から数曲を演奏するに留まったとのこと。
いつか組曲全6曲に挑戦したいとのことだったので、今後の機会にぜひとも注目したい。
もちろん武田さんも"ベース川柳"を用意済み。それを披露し、この演目は終了となった。
4kgを下回るベースって、年々魅力的に思えてくるんだよな。
ウッドベースと6弦ベースがそれぞれ両端に置かれ、その間にはマリンバや見たことのない打楽器たちが並ぶ。
これからどんな演奏が始まるのか、まったく予想がつかない。
"雷ベース"が鳴り響いた後、井上幹さんと秋田ゴールドマンさんが入場する。
井上さんがエレキベースの準備を進めている間に、秋田さんは1人でウッドベースの演奏を始める。
須長さんはクラシック寄りのアプローチだったが、同じ楽器でも秋田さんはジャズを基盤にしたセッションスタイル。リズム感や音像に確かな違いがある。
そこに井上さんが音を重ねる。暖かいウッドベースの音色に対して、エレキベースの硬質なサウンドが力強く響く。
井上さんは手元のノブで、自分のベースの出音を細かに調整している。秋田さんが鳴らしている音に最も合う音を、常に探っているよう。
2人のセッションは、ベースという楽器を媒介にした会話に感じる。一見すると穏やかなやり取りだが、常に双方の感覚を推し量る緊張感も持ち合わせている。互いに視線を交わしながら、瞬間瞬間のコミュケーションが音になり、届いてくる。
今年の8月に福井で開催された「ONE PARK FESTIVAL 2023」のスペシャルセッションで同じステージに立ち、それがきっかけになって今回の共演に至ったらしい。
2人の間には未登場の楽器たちが並んでいるが、これから一体どのような仕掛けが起動していくのだろうか。
井上さんがLowB弦の弦で重低音を響かせると、秋田さんは吹子式の奇妙な楽器を鳴らし、セッションは次のフェーズに移行する。
しゃーん、と不思議な金属音が鳴り響いた。
Guestの川村亘平斎さんと角銅真実さんがゆっくりとステージに歩み入る。
2人は一歩一歩踏みしめ、重ね、ずらし、小さなシンバルを打ち付けながらステージの上を渡り歩く。
幽玄な足取りはふわりと漂うようで、それでも確かなリズムを共有しながら歩みは進んでいく。
2人は後方の金属の楽器群に辿り着き、静かに音を刻み始める。
この打楽器たちは"ガムラン"と呼ばれる、インドネシア周辺の民族音楽で用いられるパーカッションだ。
川村さんと角銅さんが音を増やすことで、セッションは緩やかに高揚していく。
須長さん、武田さんの演奏ではベースによる時間旅行を感じたが、このセッションでは国境を超える空間跳躍を体験しているようだ。
川村さんによるガムランのアプローチが加わることで、国や地域、民族性を超えたサウンドスケープが広がっていく。
その土台を作るのは2本のベース。井上さんと秋田さんは真摯に低音を鳴らし、川村さんと角銅さんが浮遊感のあるリズムを刻んでいく。
ジャズプレイヤーとして名高い2人だからこそ、ベースがどのような音楽においても様々なアプローチで寄り添えることを強く理解しているのだろう。
金物とベースのアクセントが合わさった時、両ベーシストが誰よりもこのセッションを楽しんでいることが強く伝わってきた。
4人は確かな知識と研鑽された技術によって高度な演奏をしているが、それぞれの顔を見るととても楽しそうな表情をしている。
秋田さんが笑顔を投げかけると、角銅さんはにっこりし、井上さんは静かに口角をあげているように見えた。川村さんもきっとマスクの下で満面の笑みを浮かべているに違いない。
音楽の真髄は、真に「音を楽しむこと」なのだと強く感じる。
音が飽和してきたところで、満を辞して井上さんのソロが始まる。
ハイポジションでモーダルに音階をなぞると、6弦アクティブベースの煌びやかなサウンドが会場に響き渡る。
負けじとパーカッションも強くリズムを打ち付ける。
この瞬間に鳴る全ての音が必然性の中にある。そんな気がしてならない。
既に20分近く演奏が続いているが全くその経過を感じさせない。もしかしたらこのセッションは体感時間を置き去りにしているのかもしれない。
ベースソロの高まりから、ゆっくりと静寂へ移行する。
川村さんがトンカチを用いて不思議なピッチ感の金属音を響かせると、会場全体が新たな世界に飲み込まれていくようだ。
角銅さんがマリンバに移動し、井上さん秋田さんの両者が作る低音の土台に乗るように、軽やかな演奏を始める。
それまで新しい刺激の奔流にあったからか、このマリンバの音色が優しく染み渡る。
メロディアスなマリンバソロの裏で時折、井上さんが連符の効いた演奏を織り交ぜる。
秋田さんもそれに呼応するようにウッドベースでアクセントを入れる。
ここで井上さんがさりげなく、本当にさりげなく、親指を弦に叩きつけた。
それは件の"雷ベース"でも使われているスラップ奏法で、まさにエレキベースの花形的なテクニックなのだが、この「THE BASS DAY LIVE 2023」において実際になされたのはこの瞬間が初めてだった。
既に3アーティスト目で演奏も佳境にあると言ってもいいのに、スラップ奏法をこの瞬間まで誰も使用することがなかった。
今回の出演したどの奏者も、派手なベース・プレイを存分に披露するのではなく、ベースという楽器の持つ可能性や振れ幅が感じ取れるような演奏だった。
なんてベース愛に溢れたイベントなんだ。
いまこの会場に集まっているのは特にベースという楽器が好きな人たちだ。そんな人たちだからこそ、その楽器が持つポテンシャルを体感して、ベースが持つ無限の可能性をより強く感じて欲しい。そんな願いが込められているようだ。
僕はこの瞬間に、ベーシストが11月11日を大切にする理由の一端を知ったように思う。
どの瞬間も見逃せない、聞き逃せない。
秋田さんが右足でリズムを刻み始めると、演奏はいよいよクライマックスへ。
4人それぞれが顔を見合わせながら、勢いはぐんぐんと増していく。
熱量が最大値に達したところで、秋田さんが銅鑼を叩き始める。呼吸を合わせて、井上さんがベースを重ねる。
4人で作られた、不思議で壮大で笑顔に満ちたセッションに終わりが来たことを告げるようだ。
ゆっくりとゆっくりと、体の感覚が実時間の流れに追いついたとき、秋田さんの「こんな感じです。」の一言でこの演目は終了となった。
音楽による本質的なコミュニケーションの在り方を垣間見た、最高のフリーセッションだった。
ここで例によってクリス氏が登場。井上さんと秋田さんに対しインタビューを行った。
2人はこんなに自由にやってしまって大丈夫なのだろうかと心配していたようだ。お客さんの反応を見ても、この演奏は大成功だったとお伝えしたい。
そしてもちろん最後はベース川柳で。
秋田ゴールドマンさん
箱物楽器の宿命。エレキベース奏者は気軽に歪ませられる環境に感謝すべき。
井上幹さん
真冬の野外ステージでは、金属のベース弦が凶器になりうるのだ。
関係ないが自分は演奏直前に寒くて手が悴むとき、腕をブンブン振り回し遠心力で指先に血を送って温めている。やりすぎは身体に良くないのでほどほどに。
ステージ下手には大きなDJブースが展開され、上手にはMinimoogとアンプが設置される。中央には本日初のドラムセットが現れた。
"ベース"という軸からコントラバス・トリオやソロベース、パーカッションを迎えたセッションと、今日は既に多様な音楽に触れてきているが、次の演目はさらに違う音像が広がりそうだ。
サカナクションを支える職人ベーシストの草刈さんが個人名義ではどんな演奏するのか、既に僕らはワクワクが止まらない。そして袖からチラ見えするヴィンテージベースの数々に、僕とだでぃは釘付けだった。
名残惜しいが今日は最後になるだろう"雷ベース"が会場に轟いた後、草刈愛美さんとYonYonさんが登場する。
立ち位置に着き、YonYonさんがキング牧師をサンプリングにDJプレイを始める。
"言葉"が登場したことで、演奏はこれまでとは違う具体性を帯び始めたような気がした。
ヒップホップのビートが会場を揺らし始めると、草刈さんがプレシジョンベースでダンサブルな演奏を乗せる。
トラックの上での紡がれる草刈さんのベースプレイは思っている以上に新鮮だ。
ビートミュージックと生のベースプレイの相性は抜群で、O-EASTが一気にダンスフロアに。
先ほどまでは奏者の一挙手一投足を見逃さんとしていたお客さんたちも、肩の力が抜けて音楽に身を委ね始めたようだ。
一曲目の演奏を終えると、朗らかなMCが始まる。
草刈さんとYonYonさんはサカナクションのRemix集『月の幻 ~Remix works~』に参加してもらったことから交流が始まったとのこと。
SONICMANIAでのYonYonさんのステージを観て、草刈さんは大いに感銘を受けたそう。
特に印象に残ったという、YonYonさんの楽曲「Dreamin'」の演奏が始まった。
2曲目ではジャズベースに持ち替え、軽やかなビートに合わせてタイトなベースプレイが始まる。
YonYonさんと草刈さんがツインボーカルのようにハーモニーを作り、呼応するように照明が激しく鮮やかに2人を彩る。
草刈さんは抜群の演奏力を持つベーシストであると同時に、ベース1本1本のサウンドを大切にしている人であると僕は思っている。
既に曲ごとに機体を持ち替えているように、今回は色んなベースの音を楽しんでもらいたいという想いがあるとのことだった。
この曲で手に取ったジャズベースはカラッとしてキレのいい音が特徴的で、オールマイティーに楽曲にハマることができる万能型だ。ミュートを生かした細かい演奏から、ピッキングニュアンスが伝わる激しいソロでも抜群に響いている。
続いてYonYonさんがRemixしたサカナクションの楽曲、「エンドレス」の特別アレンジが始まる。
草刈さんは1曲目と同じプレシジョンベースに持ち替え、名機と名高いMalekko Heavy IndustryのB:ASSMASTERのファズサウンドでフレーズを紡ぎ出す。
これは『月の現 ~Rearrange works~』に収録された、サカナクションメンバー自身でリアレンジされたバージョンの「エンドレス」で弾いているフレーズだ。
YonYonさんRemixとサカナクションアレンジが交差する魅力的な構成に、思わず身体が揺れる。
3曲目を終えたところで空席のドラムセットにスペシャルな演奏者が加わる。
mabanuaさんの登場だ。
メンバーが揃ったところで草刈さんはオリジナル・プレシジョンベース(通称OPB)に持ち替え、今回のために作ったという4曲目が始まる。
すると、温かくもどこか儚げなピアノの音が流れ始めた。
なんだろうこの音色...妙に聞き馴染みがあるぞ...もっとこう個人的な関係の...
なんと4曲目で流れたピアノの音はodolのピアニスト森山公稀が弾いたものだった!
odolのベーシストを差し置いて先に「THE BASS DAY LIVE 2023」で音を鳴らすとは、さすが森氏。羨ましい!(一応彼も元ベーシストではある。)
我に返ると、mabanuaさんのドラムが加わることでダイナミクスの振れ幅が一気に拡張され、より一層ライブ感を感じるアンサンブルになっていた。
3人の歌声が美しく重なることで、この3人でなければ実現できない演奏であることを強く実感する。今日限りなんて勿体無い...!
それにしても、歌の裏で奏でられているベースの演奏が凄まじい。
縦横無尽に指板を動き回りながらがっちりとグルーヴを作り、それが楽曲の強固な骨格を形成している。
表現力のある演奏をしながらもボーカルとして歌い上げる草刈さんの凄まじさに、恐れ慄くシェイクとだでぃ。
素晴らしい演奏であればあるほど、自分も頑張らねば!という思いが沸き立つのも「THE BASS DAY LIVE」ならではなのだろう。
続く曲では草刈さんはプレシジョンベースに戻り、mabanuaさんは細やかにハイハットを叩き始める。
疾走感のあるインダストリアルなビートが複雑に刻まれる中、草刈さんは図太いサウンドで土台を作り上げる。
それまで楽しく踊っていたお客さんたちもただならぬ気配を感じ取り、ステージをじっと見つめ始めた。
ビートのボルテージが最高潮に至ると、YonYonさんはマイクを握りしめステージを駆け巡る。
平和を願う言葉をラップに乗せ、僕らに投げかける。
この「Pray for peace」という曲はmabanuaさんが今回のために書き下ろした曲だ。
才気煥発な3人の要素を存分に注ぎ込んだ結果、唯一無二のパフォーマンスが誕生した。
どうかまたこのトリオが復活して、この曲を演奏してくれることを切に願う。
ここまでは特別な楽曲が中心だったが、YonYonさんとmabanuaさんのおふたりたっての希望もあり、サカナクションの楽曲を披露することに。
この3人で聞きたい曲がありすぎる。
プレシジョンベースのまま、3人での「忘れられないの」が演奏される。
今回はベースソロパートだけが演奏された。
スラップを用いた印象的なフレーズから展開する巧みなベースソロは、思わず口ずさみたくなるような歌心に満ち溢れている。
草刈さんの魅力が詰まった象徴的なプレイだったんだと、今改めて思う。
名残惜しいが、いよいよフィナーレへ。
草刈さんはエレキベースを手放してMinimoogへと向かい、印象的なリフを弾き始める。
大ヒット曲「新宝島」の演奏が始まった。
会場では自然と手拍子が始まり、これまでにない一体感が生まれる。
『月の現 ~Rearrange works~』に収録されたアレンジに沿って、YonYonさんが歌い、mabanuaさんがビートを刻み、草刈さんが図太いシンセ・ベースを奏でる。
最高のフィナーレだ。
草刈さんは今回の演奏で3本のエレキベースと1台のシンセベースを楽曲で使い分けた。
音の違いを楽しんで欲しいという想いが伝わるようで、どの楽曲においても、その時に手にしているベースの音が最適解だと感じる音像で演奏していた。
今回の楽曲制作において、ベースを片っ端から並べて、どれをどの曲に使うか悩んだそうだ。その時間はとっても楽しかったに違いない。
楽曲が終わりを迎えると、シンセベースの低音が名残惜しさを感じさせながら会場を震わし、フッと消失した。
会場は万雷の拍手が鳴り響いた。
最後はもちろんこの人、クリス氏の登場だ。
草刈さんにベースの魅力を聞くと、「1人でもバンドでも、色んな人との繋がりを作れる楽器。出会いのあるいい楽器に出会えて幸せ。」と答えた。
"ベースの日"を象徴する言葉だと思う。
音楽は繋がりを創り、人と人との関わりを支えてくれる。
ベースを手にすることで、僕らは国や言葉、時代すら越えた繋がりを持つことができる。
この一日でこの楽器が持つたくさんの魅力に触れ、そしてベースを手にすることで始まる他者とのコミュニケーション、その素晴らしさを強く実感した一日になった。
ベース万歳!
イベントの締めはもちろんベース川柳。
草刈さんの一句を以って、「THE BASS DAY LIVE 2023」の一日目は終了となった。
自分はスタジオでは絶対に椅子に座らないようにしている。心地良くなって寝ちゃうから。
圧巻のパフォーマンスを目の当たりにして、自分たちが持つベースという楽器が無限の可能性を持っていることを改めて認識させられたからだ。
初めて手にした時から今日まで、ベースのことを考えなかった日なんて一日もない。
それでも、今日観た演奏はこれまでにないほどの新鮮で大きな衝撃だった。
もっと探求したい。もっと研究したい。そしていつかの日か、同じようにこのステージの上でベースの魅力を伝えられるようになりたい。
そんな感情が僕らの中で高まっていた。
思えば僕とだでぃもベースという楽器を通して繋がった。
初対面のときからベースへの想いで意気投合し、今に至っている。
odol、Guibaのメンバーもそうだ。僕がベースを選んだことで巡り合うことができた。
これまでがそうであるように、きっとこの先もベースを通じて出会う人がたくさんいるはず。
"ベースの日"を通して、僕は僕のベーシスト人生を誇りに思えるようになった。
「THE BASS DAY LIVE」はベーシストが決して孤独じゃないことを教えてくれる、最高のイベントだ。
ベースの魅力はまだまだたくさんあるはず。
次の日に出演するベーシストたちも、きっとその多様なベースの在り方を提示するだろう。
そして制定10周年となる2024年の「THE BASS DAY LIVE」は、より一層賑やかで楽しいイベントになるに違いない。僕はそう確信している。
だでぃは「急いで帰って練習したい」と口にした。
僕らは足早に会場を後にした。
シェイク
お風呂の中でもベースを弾いていたい。
タナカ ユウダイ
真理です。
取材・文・撮影:シェイク ソフィアン
ライブ写真:ヨシハラミズホ
大阪・心斎橋LIVEHOUSE ANIMA
2024年3月31日(日)
東京・下北沢ADRIFT
2024年4月20日(土)
OPEN 17:30 / START 18:00
チケット:
前売 ¥5,500 / 学割 ¥4,500 (全自由 / ドリンク代別)
※早期購入特典:セットリストステッカー(11月28日(⽕)22:00〜12月3日(⽇)23:59までにご予約いただいた方を対象に、終演後配布いたします)
※学割の方は学生証を入場時にご提示ください(大学、専門学校、高校含め)
2024年3月8日(金)
東京 Zepp Divercity(TOKYO)
OPEN 18:00/START 19:00
チケット(前売り)全席指定
S席 ¥6,900(税込/別途ドリンク代必要)*前方真ん中ブロック座席確約、特製PASS付き
A席 ¥4,400(税込/別途ドリンク代必要)
info.DISK GARAGE
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ベーシストの目線で語られる、「THE BASS DAY LIVE」の楽しみ方やベースの魅力に注目です。
ベースの日
11月11日。この日は4つの弦に準えて「ベースの日」として親しまれている。バンドに2人以上いることは滅多になく、孤独な立場になりがちなベーシスト。
そんな孤高の奏者たちが低音への愛を高らかに語らい、互いの演奏を讃え、強く連帯する日として"ベースの日"は広く認知されている。
2014年の制定以降、SNSでの盛り上がりも年々上昇傾向にある。
かくいう僕も、一ベーシストとしてこの日を意識せずにはいられない。
そんな特別な日に毎年行われるイベントが「THE BASS DAY LIVE」。
名だたるプレイヤーが出演し、ベースをフィーチャーした演奏が行われるまさにベース愛者の祭典だ。
コロナ禍の影響で2020年からはオンラインでの実施だったが、今年は2daysにパワーアップして帰ってきた!
誰もが待ち望んだ大イベントの初日を、odol / Guibaのベーシストでもある私、シェイク ソフィアンが目撃してきた。
そのレポートをここに書き記したいと思う。
「THE BASS DAY LIVE 2023」
2023年11月10日金曜日。
フリースの肩に小雨の球が浮く秋の暮れ。
Spotify O-EASTの会場前でこの男と待ち合わせる。
彼はユアネスのベーシスト、タナカ ユウダイ、通称"だでぃ"だ。
すでに武者震いを始めている彼の様子に、終演後に「急いで帰って練習したい!」って言い出しそうな気配を感じる。
ベーシストとして共に研鑽を積む盟友を伴い、今夜はベースという楽器の魅力を堪能しよう。
暗転と同時に雷のようなスラップベースが鳴り響き、会場が一気に沸き立つ。
スポットライトに照らされ、クリス・ペプラー氏が入場した。
クリス氏は2日間に渡る「THE BASS DAY LIVE 2023」のイベントでMCを務める。
自身もベーシストであることから、このイベントのMCとして氏以上の適任者はいないだろう。
クリス氏はまずこのイベントの背景を振り返る。
2013年の11月11日に、J-WAVEの番組企画(「BEHIND THE MELODY~FM KAMEDA」)で提案したことからはじまり、2014年にクラウドファンディングサービスを通じて集まった賛同者(ベースの日制定委員会)のメンバーと共に、日本記念日協会に申請。
第一線で活躍する多くのプレイヤーから賛同をもらい、ハマ・オカモトさん、KenKenさん、TOKIEさんの助力もあって、2014年12月10日、日本記念日協会に「ベースの日」として登録されたのだ。音楽のボトムを支える"ベース"を愛する人たちが中心となり、音楽の楽しさを分かち合う日にしていく。それが、「ベースの日」の目的だ。
以降、"ベースの日実行委員会"は毎年大規模なイベントを主催し、ベースの日を大いに盛り上げている。
イベントの外でもこの特別な一日は多くのベーシストに浸透し、ベースへの愛をそれぞれの形で発信されるようになる。
SNSでの盛り上がりも伴って、まさに万人に開かれた記念日として広く認知されている。
昔は日の目を浴びづらかったこの楽器も、いまや花形と言えるようになった。
メロディを奏でながらリズムを刻み、時にパーカッシブに楽曲に彩りを与える、そんな魅力がベースには詰まっている。
3年のブランクを経てしまったが、この2daysに拡張された「THE BASS DAY LIVE 2023」を存分に楽しんで、ベースへの愛をより深めていこう。
クリス氏の号令とともに観客は歓声をあげる。
ここでクリス氏から衝撃の告白。SEとして使われる雷のようなスラップ・ベースは、なんとクリス氏が実際に演奏した音源とのこと!
普段は穏やかな声でリスナーを魅了するクリス氏が、荒々しく昂るスラップ・ベースで会場を沸かせていたのだ!
なんてこった。これはとんでもない一日になるぞ...!
暗転と共に再び"雷ベース"が鳴り響く。
僕たちの"ベースの日"が始まる。
第一奏者 須長和広
最初に演奏するのは須長和広さん。須長さんは数多のビッグアーティストのバックでベースを弾くマルチプレイヤーだ。
ステージ上には3つのコントラバスと1つのエレキベースが置かれているが、一体どのようなパフォーマンスが行われるのだろうか。
低音パートを担う楽器の起源は太古の時代まで遡ることになるが、ことエレキベースにおいて直系の先祖にあたるのがコントラバスと言えよう。
2daysに渡る"ベースの日"の第一演目として、これ以上のものはない。
SEが終わると同時に、須長さんと共にGuestの安ヵ川大樹さん、古賀圭侑さんが現れる。
3人はボディを立てると、呼吸を合わせアルコ(弓)を用いた荘厳なアンサンブルを鳴り響かせ始める。
コントラバスの豊かな倍音が重なりあい、穏やかで心地の良い音色が響き渡る。
このイベントを"すごテク・速弾き感謝祭"と思って観に来た人は驚いたに違いない。
コントラバス3本が鳴らす優しく暖かな音像が会場に満ち溢れた。
ウォーキングベースを主体にしたジャジーな曲に移ると、代わる代わるでベースソロを弾いていく。
同じコントラバスという楽器を用いているのに、奏者によってサウンドやプレイが大きく変わってくるのが、この楽器の面白いところだ。
須長さんが主体で安ヵ川さんと古賀さんはGuestという形ではあるが、誰かが突出して立てられるのではなく、3人が3人で一つのアンサンブルを創り上げていた。
MCで「オンベース〇〇」と紹介し合う(おそらく今日明日で何度となく聞くであろう)小ネタを挟みつつ、今日はコントラバス・トリオを初めて観る人にも楽しんでもらえるよう、誰もが知っているような名曲をたくさんカバーするとのこと。
続く演奏が楽しみだ。
そして特徴的なイントロから、Queenの「Don't Stop Me Now」が演奏される。
聞き馴染みのある曲だからこそ、コントラバス・トリオのアレンジを楽しみつつ、ベースという楽器の奥深さも感じられる。
アルコ奏法とピッチカート奏法を行き来し、曲の緩急を見事なアレンジに落とし込んでいる。
須長さんと安ヵ川さんが曲のメロディとハモリを追うときに、自然と身体の揺らぎも同調している。
文字通り息のピッタリあった演奏だ。
「ベース3台でも聴かせられるでしょ?」
須長さん、安ヵ川さん、古賀さんのトリオ編成は年に3〜4回ほど演奏しているとのこと。
須長さんに「THE BASS DAY LIVE 2023」に出演オファーが来た時、「せっかくならベースの奥深さを体験してほしい」と思い、このトリオでの出演を決めたそう。
ライブハウスでの演奏は初めてで少し不安だったとのことだが、満員のお客さんたちはそのパフォーマンスを存分に楽しんでいる。今日のこの演奏をみて、コントラバスへの挑戦を決意するエレキベーシストもいるだろう。
かつてピッチの不安を拭い去り切れずにコントラバスを諦めてしまった自分も、このパフォーマンスを通して改めて挑戦したい!という意欲が湧いた。
すごい、ベースの日すごい。モチベーションがぐんぐん上がっていく。
バラード調の曲が続き、揺蕩うような3和音が響く中、天の声の「語り」が聞こえてくる。
ここで4人目のGuest、休日課長が登場のようだ。だが、一向に姿を見せない。
課長はそのまま言葉を紡ぎ続ける。
「学生時代に全ての時間を捧げ、永遠の友情を分かち合った。時に女性にうつつを抜かすこともあったけど、それでも君はずっとそばにいてくれた。」
これはきっと課長本人の体験に基づく話なのだろう。最初こそユーモラスに聞こえたが、だんだんとその言葉が心の臓に強く突き刺さってきた。
自分も全く同じだ。同じようにベースを愛し、一時の迷いで突き放し、そしてその深い愛を再認識した経験がある。
会場にいる多くの人がそうであるようで、だんだんその言葉に共鳴していっているのがわかる。
紡がれる言葉に心が揺さぶられる中、満を辞して課長さんが登場する。
「色んな君が大好きだ。4弦の君、5弦の君、6弦の君。デカイ君に小さい君、全員大好きだ。」
演奏と語りが終わると共に歓声が湧き上がる。ベースという楽器への愛によって、会場の心が一つになった瞬間だった。
帰ったら愛機を抱きしめよう。僕は強く思った。
課長さんも合流したところで次の演奏が始まる。
コントラバス3本にエレキベースが加わる。
続く演奏に期待が高まる中、なんと始まったのはRed Hot Chili Peppersの名曲「Suck My Kiss」。
4本のベースで同じリフを弾き重ね、Fleaさながらの力強いピッキングが鳴り響く。
こんなの、テンションが爆上がりするに決まってるじゃないか!
食い入るようにそのセッションを見つめていると、自分も一緒にそのリフを演奏しているような錯覚に陥った。
爆音で鳴るリフの上でコントラバスの弦が弾かれると、これまでの曲とは全く違う熱量が伝わってくる。
課長さんはソロを弾き始めるとエフェクティブなサウンドに切り替え、エレキベースならではの多彩なアプローチを存分に魅せる。
須長さんはこれまで課長さんとの面識がなかったのだが、いつか共演したいとずっと思っていたそう。
今回の出演にあたって課長さんにオファーをし、快諾してもらったことでスペシャルなセッションが実現したのだ。
ベースの日だからこそ生まれたこの繋がりが、また違う形で結実する未来もくるのかもしれない。
「Suck my kiss!!」の発声で曲は終わり、このコントラバス×3エレキベース×1のカルテットはフィナーレへと続いていく。
Beatlesの名曲「レディ・マドンナ」でコントラバス・エレキベースそれぞれの魅力を存分に響かせ、 須長和広さんの演目は終了した。
ここでクリス氏が登場し、須長さんにインタビューをする。
ベースを始めたきっかけや初めて手にした機体など、ベーシストが聞きたい話題をガンガン聞き出してくれる。
須長さんがベースを始めたのは、高校時代に友人とバンドを始める際に半ば押しつけられる形で手にしたことがきっかけとのこと。太古より続く"ベースあるある"だ。
今回の出演者はそれぞれ"ベース川柳"を作っているそうで、最後に須長さんの一句が披露された。
じゃんけんで 負けた時から ベーシスト
これがあるあるじゃなくなる時代もそう遠くない。
第二奏者 武田祐介(RADWIMPS)
続いては武田さんの出番だ。ステージには見慣れない形状の4弦ベースと、Neural DSPのQUAD CORTEXを中心とした簡易的なボードだけが佇んでいる。
僕とだでぃは中学・高校時代に5thアルバム『アルトコロニーの定理』が直撃した世代。
みんなこぞって「おしゃかさま」のフレーズをコピーし、誰が一番上手く弾けるか競ったものだ。
そんな童心に少し立ち返りながら、武田さんの登場を待つ。
クリス氏の"雷ベース"が鳴り響いた後、武田さんは悠然と現れた。
椅子に座ってその不思議なベースを手に取ると、ハイポジションで柔らかなピッキングを始める。
曲はバッハの「無伴奏チェロ組曲 第1番」。誰もが耳にしたことがあるテーマを、リバーブがほのかに効いたエレキベースで奏でる。
ベース一本での優美な演奏に、僕らの視線は釘付けになる。
ベースは本来、情報量が非常に多い楽器だ。
弦の質感やボディの素材感、指先の些細な力加減まで細かに音になり、ピックアップを通して電気信号になり、アンプへと出力される。
しかし、バンドアンサンブルの中ではそういった成分は埋もれてしまいがちだ。
ベーシストはその細かなサウンドを誰よりも愛し、繊細な表現の世界に挑んでいる。だがそれをバンドアンサンブルの中で満足にやりきることは非常に難しい。
武田さんはシンプルなセッティングにすることで、ベースから発せられるそれらの機微な情報を余すことなく音に落とし込み、自身の表現として表出させている。
コンプレッサーを排除したシンプルな機材セッティングによって、音の強弱がより鮮やかになり、指先の力加減や抑揚が明瞭に伝わってくる。
リズムの緩急が心地よく、テンポの加速で緊張を感じたと思えば、フっと弛緩する。
リバーブのふくよかな余韻で、まるでSpotify O-EASTが荘厳な大聖堂であるかのような感覚になる。
今年で「THE BASS DAY LIVE」の出演は3回目。初回は休日課長さんとデュオ・ベース編成を、2回目はさらに2名が加わってカルテット・ベース編成を披露している。
このまま順当に行けばその倍のオクテット・ベース編成になるところだが、今年は海外でのライブが重なり多忙を極めていたこともあって、ソロでの出演に挑戦したとのこと。
高校生のときに「無伴奏チェロ組曲」の演奏で悔しい思いをし、いつかこの組曲全部をエレキベースで弾きたい!という思いがずっと漠然とあったそうだ。
今や日本を代表するベーシストの一人でもある武田さんが、この"ベースの日"のステージに単独で立ち、初心に立ち帰るようにこの組曲に挑む。
美しい音像の背景に武田さんの強い想いが見えてくるようで、後半にかけてその熱量は強く高まっていった。
確かな演奏力・表現力で圧巻のパフォーマンスに魅せられる中、僕とだでぃにはずっと気になっていることがあった。
あのベースは一体なんなんだ。
シングルカッタウェイにモンキーグリップのようで異なるデザインの大きな穴があり、Fホールの存在からセミホロウであることがわかる。アクティブのようだが、パッシブのような生鳴り感もしっかり伝わってくる。ミドル帯がふくよかで暖かい独特のサウンド感が特徴的だ。
セッティング中に2人の知識を総動員してあれか?これか?と言い合うも、結局これという回答にたどり着けずにいた。
束の間のMCで、不意にその答えを得ることになる。
「このベース、今日のために作ってもらったんです。」
なんとこのベースは、今回のエレキベース独奏のために神奈川県茅ヶ崎市の楽器メーカー「saitias guitars」の齊田氏と共に製作した、本当に特別な一本だったのだ。
チェロをイメージしたサウンドを目指し作り上げてたとのことで、その思惑通りこの演目においてこれ以上ないくらい最適な1本に仕上がっている。
多弦ベース(5本以上弦をもつベースのこと)を巧みに使うことで有名な武田さんが4弦ベースを使っていることも不思議に思っていたが、それもベースの日に合わせてのことだったのだ。
僕らは同時に膝を叩き、続く演奏では特にその機体の特徴的なサウンドを意識することになる。これもまたベーシストの性である。
武田さんは無伴奏チェロ組曲のうち数曲を奏で、その演目を終了させた。
須長さんのコントラバス・トリオから武田さんのバッハへと続き、僕はベースという楽器を通して時間旅行をしているような感覚を持った。
音楽の途方もない歴史の中で、4つの弦を持ったエレキベースという楽器は誕生からまだ100年にも満たない新参者だ。
新参者ではあるが、その繊細で多彩な表現力によって、時代を跳躍して様々な楽曲を奏でることができる。
楽器を通じた音楽体験。まさに"ベースの日実行委員会"が目指す「ベースという楽器を通じて音楽の楽しさを知ってもらう」を体現している演奏のように感じた。
会場が明るくなるとクリス氏が再登場し、インタビューが始まる。
今回は30分の時間制限があったため、「無伴奏チェロ組曲」から数曲を演奏するに留まったとのこと。
いつか組曲全6曲に挑戦したいとのことだったので、今後の機会にぜひとも注目したい。
もちろん武田さんも"ベース川柳"を用意済み。それを披露し、この演目は終了となった。
歳とると ベースの重さ 気にしだす
4kgを下回るベースって、年々魅力的に思えてくるんだよな。
第三奏者 井上幹(WONK)、秋田ゴールドマン(SOIL & "PIMP" SESSIONS)
シンプルだった武田さんの機材とは対照的に、多くの楽器がステージに運ばれてきた。ウッドベースと6弦ベースがそれぞれ両端に置かれ、その間にはマリンバや見たことのない打楽器たちが並ぶ。
これからどんな演奏が始まるのか、まったく予想がつかない。
"雷ベース"が鳴り響いた後、井上幹さんと秋田ゴールドマンさんが入場する。
井上さんがエレキベースの準備を進めている間に、秋田さんは1人でウッドベースの演奏を始める。
須長さんはクラシック寄りのアプローチだったが、同じ楽器でも秋田さんはジャズを基盤にしたセッションスタイル。リズム感や音像に確かな違いがある。
そこに井上さんが音を重ねる。暖かいウッドベースの音色に対して、エレキベースの硬質なサウンドが力強く響く。
井上さんは手元のノブで、自分のベースの出音を細かに調整している。秋田さんが鳴らしている音に最も合う音を、常に探っているよう。
2人のセッションは、ベースという楽器を媒介にした会話に感じる。一見すると穏やかなやり取りだが、常に双方の感覚を推し量る緊張感も持ち合わせている。互いに視線を交わしながら、瞬間瞬間のコミュケーションが音になり、届いてくる。
今年の8月に福井で開催された「ONE PARK FESTIVAL 2023」のスペシャルセッションで同じステージに立ち、それがきっかけになって今回の共演に至ったらしい。
2人の間には未登場の楽器たちが並んでいるが、これから一体どのような仕掛けが起動していくのだろうか。
井上さんがLowB弦の弦で重低音を響かせると、秋田さんは吹子式の奇妙な楽器を鳴らし、セッションは次のフェーズに移行する。
しゃーん、と不思議な金属音が鳴り響いた。
Guestの川村亘平斎さんと角銅真実さんがゆっくりとステージに歩み入る。
2人は一歩一歩踏みしめ、重ね、ずらし、小さなシンバルを打ち付けながらステージの上を渡り歩く。
幽玄な足取りはふわりと漂うようで、それでも確かなリズムを共有しながら歩みは進んでいく。
2人は後方の金属の楽器群に辿り着き、静かに音を刻み始める。
この打楽器たちは"ガムラン"と呼ばれる、インドネシア周辺の民族音楽で用いられるパーカッションだ。
川村さんと角銅さんが音を増やすことで、セッションは緩やかに高揚していく。
須長さん、武田さんの演奏ではベースによる時間旅行を感じたが、このセッションでは国境を超える空間跳躍を体験しているようだ。
川村さんによるガムランのアプローチが加わることで、国や地域、民族性を超えたサウンドスケープが広がっていく。
その土台を作るのは2本のベース。井上さんと秋田さんは真摯に低音を鳴らし、川村さんと角銅さんが浮遊感のあるリズムを刻んでいく。
ジャズプレイヤーとして名高い2人だからこそ、ベースがどのような音楽においても様々なアプローチで寄り添えることを強く理解しているのだろう。
金物とベースのアクセントが合わさった時、両ベーシストが誰よりもこのセッションを楽しんでいることが強く伝わってきた。
4人は確かな知識と研鑽された技術によって高度な演奏をしているが、それぞれの顔を見るととても楽しそうな表情をしている。
秋田さんが笑顔を投げかけると、角銅さんはにっこりし、井上さんは静かに口角をあげているように見えた。川村さんもきっとマスクの下で満面の笑みを浮かべているに違いない。
音楽の真髄は、真に「音を楽しむこと」なのだと強く感じる。
音が飽和してきたところで、満を辞して井上さんのソロが始まる。
ハイポジションでモーダルに音階をなぞると、6弦アクティブベースの煌びやかなサウンドが会場に響き渡る。
負けじとパーカッションも強くリズムを打ち付ける。
この瞬間に鳴る全ての音が必然性の中にある。そんな気がしてならない。
既に20分近く演奏が続いているが全くその経過を感じさせない。もしかしたらこのセッションは体感時間を置き去りにしているのかもしれない。
ベースソロの高まりから、ゆっくりと静寂へ移行する。
川村さんがトンカチを用いて不思議なピッチ感の金属音を響かせると、会場全体が新たな世界に飲み込まれていくようだ。
角銅さんがマリンバに移動し、井上さん秋田さんの両者が作る低音の土台に乗るように、軽やかな演奏を始める。
それまで新しい刺激の奔流にあったからか、このマリンバの音色が優しく染み渡る。
メロディアスなマリンバソロの裏で時折、井上さんが連符の効いた演奏を織り交ぜる。
秋田さんもそれに呼応するようにウッドベースでアクセントを入れる。
ここで井上さんがさりげなく、本当にさりげなく、親指を弦に叩きつけた。
それは件の"雷ベース"でも使われているスラップ奏法で、まさにエレキベースの花形的なテクニックなのだが、この「THE BASS DAY LIVE 2023」において実際になされたのはこの瞬間が初めてだった。
既に3アーティスト目で演奏も佳境にあると言ってもいいのに、スラップ奏法をこの瞬間まで誰も使用することがなかった。
今回の出演したどの奏者も、派手なベース・プレイを存分に披露するのではなく、ベースという楽器の持つ可能性や振れ幅が感じ取れるような演奏だった。
なんてベース愛に溢れたイベントなんだ。
いまこの会場に集まっているのは特にベースという楽器が好きな人たちだ。そんな人たちだからこそ、その楽器が持つポテンシャルを体感して、ベースが持つ無限の可能性をより強く感じて欲しい。そんな願いが込められているようだ。
僕はこの瞬間に、ベーシストが11月11日を大切にする理由の一端を知ったように思う。
どの瞬間も見逃せない、聞き逃せない。
秋田さんが右足でリズムを刻み始めると、演奏はいよいよクライマックスへ。
4人それぞれが顔を見合わせながら、勢いはぐんぐんと増していく。
熱量が最大値に達したところで、秋田さんが銅鑼を叩き始める。呼吸を合わせて、井上さんがベースを重ねる。
4人で作られた、不思議で壮大で笑顔に満ちたセッションに終わりが来たことを告げるようだ。
ゆっくりとゆっくりと、体の感覚が実時間の流れに追いついたとき、秋田さんの「こんな感じです。」の一言でこの演目は終了となった。
音楽による本質的なコミュニケーションの在り方を垣間見た、最高のフリーセッションだった。
ここで例によってクリス氏が登場。井上さんと秋田さんに対しインタビューを行った。
2人はこんなに自由にやってしまって大丈夫なのだろうかと心配していたようだ。お客さんの反応を見ても、この演奏は大成功だったとお伝えしたい。
そしてもちろん最後はベース川柳で。
秋田ゴールドマンさん
ハウリング エレキベースが 羨ましい
箱物楽器の宿命。エレキベース奏者は気軽に歪ませられる環境に感謝すべき。
井上幹さん
指先に 触れる鋼は 霜柱
真冬の野外ステージでは、金属のベース弦が凶器になりうるのだ。
関係ないが自分は演奏直前に寒くて手が悴むとき、腕をブンブン振り回し遠心力で指先に血を送って温めている。やりすぎは身体に良くないのでほどほどに。
第四奏者 草刈愛美(サカナクション)
ベースのイベントに相応しい、4番目にして最後の奏者の準備が始まった。ステージ下手には大きなDJブースが展開され、上手にはMinimoogとアンプが設置される。中央には本日初のドラムセットが現れた。
"ベース"という軸からコントラバス・トリオやソロベース、パーカッションを迎えたセッションと、今日は既に多様な音楽に触れてきているが、次の演目はさらに違う音像が広がりそうだ。
サカナクションを支える職人ベーシストの草刈さんが個人名義ではどんな演奏するのか、既に僕らはワクワクが止まらない。そして袖からチラ見えするヴィンテージベースの数々に、僕とだでぃは釘付けだった。
名残惜しいが今日は最後になるだろう"雷ベース"が会場に轟いた後、草刈愛美さんとYonYonさんが登場する。
立ち位置に着き、YonYonさんがキング牧師をサンプリングにDJプレイを始める。
"言葉"が登場したことで、演奏はこれまでとは違う具体性を帯び始めたような気がした。
ヒップホップのビートが会場を揺らし始めると、草刈さんがプレシジョンベースでダンサブルな演奏を乗せる。
トラックの上での紡がれる草刈さんのベースプレイは思っている以上に新鮮だ。
ビートミュージックと生のベースプレイの相性は抜群で、O-EASTが一気にダンスフロアに。
先ほどまでは奏者の一挙手一投足を見逃さんとしていたお客さんたちも、肩の力が抜けて音楽に身を委ね始めたようだ。
一曲目の演奏を終えると、朗らかなMCが始まる。
草刈さんとYonYonさんはサカナクションのRemix集『月の幻 ~Remix works~』に参加してもらったことから交流が始まったとのこと。
SONICMANIAでのYonYonさんのステージを観て、草刈さんは大いに感銘を受けたそう。
特に印象に残ったという、YonYonさんの楽曲「Dreamin'」の演奏が始まった。
2曲目ではジャズベースに持ち替え、軽やかなビートに合わせてタイトなベースプレイが始まる。
YonYonさんと草刈さんがツインボーカルのようにハーモニーを作り、呼応するように照明が激しく鮮やかに2人を彩る。
草刈さんは抜群の演奏力を持つベーシストであると同時に、ベース1本1本のサウンドを大切にしている人であると僕は思っている。
既に曲ごとに機体を持ち替えているように、今回は色んなベースの音を楽しんでもらいたいという想いがあるとのことだった。
この曲で手に取ったジャズベースはカラッとしてキレのいい音が特徴的で、オールマイティーに楽曲にハマることができる万能型だ。ミュートを生かした細かい演奏から、ピッキングニュアンスが伝わる激しいソロでも抜群に響いている。
続いてYonYonさんがRemixしたサカナクションの楽曲、「エンドレス」の特別アレンジが始まる。
草刈さんは1曲目と同じプレシジョンベースに持ち替え、名機と名高いMalekko Heavy IndustryのB:ASSMASTERのファズサウンドでフレーズを紡ぎ出す。
これは『月の現 ~Rearrange works~』に収録された、サカナクションメンバー自身でリアレンジされたバージョンの「エンドレス」で弾いているフレーズだ。
YonYonさんRemixとサカナクションアレンジが交差する魅力的な構成に、思わず身体が揺れる。
3曲目を終えたところで空席のドラムセットにスペシャルな演奏者が加わる。
mabanuaさんの登場だ。
メンバーが揃ったところで草刈さんはオリジナル・プレシジョンベース(通称OPB)に持ち替え、今回のために作ったという4曲目が始まる。
すると、温かくもどこか儚げなピアノの音が流れ始めた。
なんだろうこの音色...妙に聞き馴染みがあるぞ...もっとこう個人的な関係の...
なんと4曲目で流れたピアノの音はodolのピアニスト森山公稀が弾いたものだった!
odolのベーシストを差し置いて先に「THE BASS DAY LIVE 2023」で音を鳴らすとは、さすが森氏。羨ましい!(一応彼も元ベーシストではある。)
我に返ると、mabanuaさんのドラムが加わることでダイナミクスの振れ幅が一気に拡張され、より一層ライブ感を感じるアンサンブルになっていた。
3人の歌声が美しく重なることで、この3人でなければ実現できない演奏であることを強く実感する。今日限りなんて勿体無い...!
それにしても、歌の裏で奏でられているベースの演奏が凄まじい。
縦横無尽に指板を動き回りながらがっちりとグルーヴを作り、それが楽曲の強固な骨格を形成している。
表現力のある演奏をしながらもボーカルとして歌い上げる草刈さんの凄まじさに、恐れ慄くシェイクとだでぃ。
素晴らしい演奏であればあるほど、自分も頑張らねば!という思いが沸き立つのも「THE BASS DAY LIVE」ならではなのだろう。
続く曲では草刈さんはプレシジョンベースに戻り、mabanuaさんは細やかにハイハットを叩き始める。
疾走感のあるインダストリアルなビートが複雑に刻まれる中、草刈さんは図太いサウンドで土台を作り上げる。
それまで楽しく踊っていたお客さんたちもただならぬ気配を感じ取り、ステージをじっと見つめ始めた。
ビートのボルテージが最高潮に至ると、YonYonさんはマイクを握りしめステージを駆け巡る。
平和を願う言葉をラップに乗せ、僕らに投げかける。
この「Pray for peace」という曲はmabanuaさんが今回のために書き下ろした曲だ。
才気煥発な3人の要素を存分に注ぎ込んだ結果、唯一無二のパフォーマンスが誕生した。
どうかまたこのトリオが復活して、この曲を演奏してくれることを切に願う。
ここまでは特別な楽曲が中心だったが、YonYonさんとmabanuaさんのおふたりたっての希望もあり、サカナクションの楽曲を披露することに。
この3人で聞きたい曲がありすぎる。
プレシジョンベースのまま、3人での「忘れられないの」が演奏される。
今回はベースソロパートだけが演奏された。
スラップを用いた印象的なフレーズから展開する巧みなベースソロは、思わず口ずさみたくなるような歌心に満ち溢れている。
草刈さんの魅力が詰まった象徴的なプレイだったんだと、今改めて思う。
名残惜しいが、いよいよフィナーレへ。
草刈さんはエレキベースを手放してMinimoogへと向かい、印象的なリフを弾き始める。
大ヒット曲「新宝島」の演奏が始まった。
会場では自然と手拍子が始まり、これまでにない一体感が生まれる。
『月の現 ~Rearrange works~』に収録されたアレンジに沿って、YonYonさんが歌い、mabanuaさんがビートを刻み、草刈さんが図太いシンセ・ベースを奏でる。
最高のフィナーレだ。
草刈さんは今回の演奏で3本のエレキベースと1台のシンセベースを楽曲で使い分けた。
音の違いを楽しんで欲しいという想いが伝わるようで、どの楽曲においても、その時に手にしているベースの音が最適解だと感じる音像で演奏していた。
今回の楽曲制作において、ベースを片っ端から並べて、どれをどの曲に使うか悩んだそうだ。その時間はとっても楽しかったに違いない。
楽曲が終わりを迎えると、シンセベースの低音が名残惜しさを感じさせながら会場を震わし、フッと消失した。
会場は万雷の拍手が鳴り響いた。
最後はもちろんこの人、クリス氏の登場だ。
草刈さんにベースの魅力を聞くと、「1人でもバンドでも、色んな人との繋がりを作れる楽器。出会いのあるいい楽器に出会えて幸せ。」と答えた。
"ベースの日"を象徴する言葉だと思う。
音楽は繋がりを創り、人と人との関わりを支えてくれる。
ベースを手にすることで、僕らは国や言葉、時代すら越えた繋がりを持つことができる。
この一日でこの楽器が持つたくさんの魅力に触れ、そしてベースを手にすることで始まる他者とのコミュニケーション、その素晴らしさを強く実感した一日になった。
ベース万歳!
イベントの締めはもちろんベース川柳。
草刈さんの一句を以って、「THE BASS DAY LIVE 2023」の一日目は終了となった。
深い音 弾いてるうちに 眠くなる
自分はスタジオでは絶対に椅子に座らないようにしている。心地良くなって寝ちゃうから。
「THE BASS DAY LIVE 2023」DAY1、終演
終演後、僕とだでぃはしばし呆然とした。圧巻のパフォーマンスを目の当たりにして、自分たちが持つベースという楽器が無限の可能性を持っていることを改めて認識させられたからだ。
初めて手にした時から今日まで、ベースのことを考えなかった日なんて一日もない。
それでも、今日観た演奏はこれまでにないほどの新鮮で大きな衝撃だった。
もっと探求したい。もっと研究したい。そしていつかの日か、同じようにこのステージの上でベースの魅力を伝えられるようになりたい。
そんな感情が僕らの中で高まっていた。
思えば僕とだでぃもベースという楽器を通して繋がった。
初対面のときからベースへの想いで意気投合し、今に至っている。
odol、Guibaのメンバーもそうだ。僕がベースを選んだことで巡り合うことができた。
これまでがそうであるように、きっとこの先もベースを通じて出会う人がたくさんいるはず。
"ベースの日"を通して、僕は僕のベーシスト人生を誇りに思えるようになった。
「THE BASS DAY LIVE」はベーシストが決して孤独じゃないことを教えてくれる、最高のイベントだ。
ベースの魅力はまだまだたくさんあるはず。
次の日に出演するベーシストたちも、きっとその多様なベースの在り方を提示するだろう。
そして制定10周年となる2024年の「THE BASS DAY LIVE」は、より一層賑やかで楽しいイベントになるに違いない。僕はそう確信している。
だでぃは「急いで帰って練習したい」と口にした。
僕らは足早に会場を後にした。
最後に...
せっかくなので、このレポートも僕らのベース川柳で締めよう。シェイク
いつか欲しい 防錆・防水 風呂用ベース
お風呂の中でもベースを弾いていたい。
タナカ ユウダイ
4弦より 5弦の方が 弦多い
真理です。
取材・文・撮影:シェイク ソフィアン
ライブ写真:ヨシハラミズホ
SENSA OFFICIAL TikTok「【ベース好き必聴】このベースラインを聴いてほしいプレイリストで7選」
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LIVE INFORMATION
odol ONE-MAN LIVE 2024 "DISTANCES"
大阪・心斎橋LIVEHOUSE ANIMA
2024年3月31日(日)
東京・下北沢ADRIFT
2024年4月20日(土)
OPEN 17:30 / START 18:00
チケット:
前売 ¥5,500 / 学割 ¥4,500 (全自由 / ドリンク代別)
※早期購入特典:セットリストステッカー(11月28日(⽕)22:00〜12月3日(⽇)23:59までにご予約いただいた方を対象に、終演後配布いたします)
※学割の方は学生証を入場時にご提示ください(大学、専門学校、高校含め)
ユアネス ONE-MAN LIVE 2024 "Life Is Strange"
2024年3月8日(金)
東京 Zepp Divercity(TOKYO)
OPEN 18:00/START 19:00
チケット(前売り)全席指定
S席 ¥6,900(税込/別途ドリンク代必要)*前方真ん中ブロック座席確約、特製PASS付き
A席 ¥4,400(税込/別途ドリンク代必要)
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