- TOPICS
- FEATURE
2023.11.10
FS. 3rd Anniversary、アイラヴミー・東京〇×問題・楓 幸枝が出演!あたたかい距離感で緊張と心地よさが混ざり合う夜。
FS.は渋谷駅からほど近い場所に建っている雑居ビルの地下にあるスペースで、カレー屋の横にある細い階段を下りていけば、入口の扉がある。バーカウンターはあるがステージはない、その空間は「ライブハウス」というよりはやはり「スペース」と呼ぶのがしっくりくる。FS.は、音楽をメインにディストリビューションとPRを行っている「FRIENDSHIP.」がコロナ禍の真っ只中の2020年10月にスタートさせたスペースで、アーティストのライブだけでなく、配信、撮影、レコーディングなどのいろいろな目的で使用することが可能だという。ここで何をするのか、何が起こるのか、どんな関係が生まれるのか......可能性が様々にある空間である。
10月29日、そのFS.にライブを観に行った。10月の終わりから約1か月間にわたって開催されているFS.3周年を記念したイベントの一環のライブである。この日のライブに出演していたのは、アイラヴミー、東京〇×問題、楓 幸枝の3組。開演より少し前に会場に着くと、ステージがない代わりに、フロアに敷かれた敷物のうえに、ギターやドラム、ノートパソコンなどの楽器や機材がセッティングされていた。
ステージがなく、アーティストと観客が物理的にフラットな状態で行われるライブ、いわゆる「フロアライブ」は、音楽と、その聴き手である自分との距離を近くに感じられると同時に、「目の前で音楽家が音楽を奏でている空間で、あなたは、どのようにして、そこに"いる"のか?」ということを問われているような感覚になる。距離が近いゆえのあたたかさはあるが、それと共に、緊張感もあるのだ。しかし、その緊張感は、じっくりと味わうことができれば心地のいいものでもある。この日のライブも、そういうあたたかさ、緊張感、そして心地よさが混ざり合うものだった。
1組目に演奏したアイラヴミーは、さとう みほのと野中大司によるユニット。野中がギターとパソコンを操りサウンドを奏で、そのサウンドが持つパワフルさや叙情性を自らのエネルギーに変換するようにして、さとうは歌を歌う。この日も演奏された彼らの楽曲に"にんげんのかたち"というタイトルの曲があるが、その名の通り、さとうは自分自身という人間の「かたち」を、その複雑さも率直さも含めて目の前の人に伝えようとするように歌っていた。
そんな彼女を支える野中は、さとうが伝えようとするものが、それを聴く誰かにとって「いいもの」であることを信じている、というふうな佇まいで音を奏でていた。彼の奏でる音は、さとうの「かたち」をポップスとして研ぎ澄ませる。さとうはフロアの中心まで出てきて、観客たちに囲まれて歌っていた。その姿は音楽に背中を押されているようでもあったし、目の前を飛ぶ蝶を追いかける子供のように、歌を追いかけていたら思わずフロアの真ん中にまで出てきてしまった、というふうでもあった。
2組目に登場した東京〇×問題は、小日向ひなたとカタヤマシュウによる、こちらもユニット。キーボードとパソコンを操るカタヤマが奏でるサウンドには、ビートミュージックやヒップホップ、インダストリアルロック、クラシック......そんな様々な要素が混在しているように感じられる。
コラージュアートのようでもあり、ダンスミュージックのような肉体的躍動感もある、そんな美しく混濁しながらも野性的に動くサウンドの中で歌う小日向のパフォーマンスは、単に「ボーカル」と言うよりは、「全身表現」と言った方が個人的にはしっくりくるものだった。ときに肩を上下に動かしたり、ときにしゃがみ込んだり、鋭利で、それでいて、しなやかな、全身を使ったパフォーマンス。それは、軋み、苛立ち、叫び、憂鬱、喜び、束の間の全能感......そんな生きるうえで立ち上がってくる様々な状態や感情を、身体全体を使って表現しているようだった。「ここではないどこか」を探し求めているようで、その実、溢れ出るリアルな人間の姿。それが、このユニットの表現の大きな魅力のように感じた。
そして、ラストの3組目に登場した楓 幸枝は、名義としてはこの日唯一のソロアクトではあるが、この日のライブでは、ドラムに久保正彦を迎えてのユニット編成でのライブだった。パワフルな生のドラミングと、それに負けない力強い歌声......その歌声の芯の強さの背景には、楓の個人としての意志の強さや生き様があるように感じられた。
以前はバンドAwesome city clubでドラムを叩いていた楓だが、2020年にバンドを脱退し、その後、ソロ活動を本格化させた。私個人としては、かつてドラマーだった楓がシンガーとしての活動を始めたことにさほど驚きや違和感はなかったのだが、それは、ドラムと歌はとても親和性の高い表現だからという理由もあるし、かねてより、楓が発する凛とした「詩情」のようなものを自分が感じていたからかもしれない、とも思う。この日、楓はMCで2020年という世界中が混乱に陥っていた時期に「新しいこと」として始まったFS.にシンパシーを表明していた。そして彼女自身もまた、創り、表現し、新しいことに挑戦し続けながら生きる自身を、音と詞と全身に託すように歌っていた。その姿には、強固な意志と、変化する柔らかさを兼ね備えた強さがあった。
踊るように生きることも、歌うように生きることも、簡単なことではないが、それでも自分の身体の使い方は少しずつでも上手くなりたいものだ、と、3組のパフォーマンスを観た帰り、渋谷駅までの道を歩きながら思った。与える印象はまったくバラバラな3組だったが、それでも共通して、見事に己の全身を駆使しながら、神経を頭のてっぺんから足のつま先まで研ぎ澄ませるようにして、自らの音楽や内面や生き様を表現しているように感じたのだ。心地のいい親密さと緊張感の中で、とても豊かな音楽体験をできた夜だった。
文:天野史彬
撮影:三浦義晃
11/10(金)
LIVE: NNULL
DJ: 片山翔太 / MONJOE / タイラダイスケ(FREE THROW)
11/11(土)
LIVE: 中野陽介(Emerald) / 眞名子 新 / とおのねむり
11/12(日)
LIVE: JunIzawa / Giallo
DJ:弦先誠人 / タイラダイスケ
11/18(土)
LIVE: KINU
※詳細後日解禁
11/19(日)
LIVE: Autumn Fruits / Best gigi / kiwano
11/20(月)
LIVE: 宇宙まお / 雲居ハルカ / 大槻美奈
11/22(水)
LIVE: Dan Mitchel
※詳細後日解禁
11/23(木)
LIVE: Roxy Boys / ALFRD / EXPCTR
11/24(金)
LIVE: Ghost like girlfriend / エルスウェア紀行
11/25(土)
LIVE: RIS-707 / zuni / Heavenstamp
DJ: natsumi hirota
11/27(月)
LIVE: FiJA / RiE MORRiS
11/29(水)
LIVE: あべまえば / 髙橋多聞 / 志摩陽立
11/30(木)
LIVE:下津光史(踊ってばかりの国)
チケット:Livepocket
※詳細後日解禁のものを除く
10月29日、そのFS.にライブを観に行った。10月の終わりから約1か月間にわたって開催されているFS.3周年を記念したイベントの一環のライブである。この日のライブに出演していたのは、アイラヴミー、東京〇×問題、楓 幸枝の3組。開演より少し前に会場に着くと、ステージがない代わりに、フロアに敷かれた敷物のうえに、ギターやドラム、ノートパソコンなどの楽器や機材がセッティングされていた。
ステージがなく、アーティストと観客が物理的にフラットな状態で行われるライブ、いわゆる「フロアライブ」は、音楽と、その聴き手である自分との距離を近くに感じられると同時に、「目の前で音楽家が音楽を奏でている空間で、あなたは、どのようにして、そこに"いる"のか?」ということを問われているような感覚になる。距離が近いゆえのあたたかさはあるが、それと共に、緊張感もあるのだ。しかし、その緊張感は、じっくりと味わうことができれば心地のいいものでもある。この日のライブも、そういうあたたかさ、緊張感、そして心地よさが混ざり合うものだった。
1組目に演奏したアイラヴミーは、さとう みほのと野中大司によるユニット。野中がギターとパソコンを操りサウンドを奏で、そのサウンドが持つパワフルさや叙情性を自らのエネルギーに変換するようにして、さとうは歌を歌う。この日も演奏された彼らの楽曲に"にんげんのかたち"というタイトルの曲があるが、その名の通り、さとうは自分自身という人間の「かたち」を、その複雑さも率直さも含めて目の前の人に伝えようとするように歌っていた。
そんな彼女を支える野中は、さとうが伝えようとするものが、それを聴く誰かにとって「いいもの」であることを信じている、というふうな佇まいで音を奏でていた。彼の奏でる音は、さとうの「かたち」をポップスとして研ぎ澄ませる。さとうはフロアの中心まで出てきて、観客たちに囲まれて歌っていた。その姿は音楽に背中を押されているようでもあったし、目の前を飛ぶ蝶を追いかける子供のように、歌を追いかけていたら思わずフロアの真ん中にまで出てきてしまった、というふうでもあった。
2組目に登場した東京〇×問題は、小日向ひなたとカタヤマシュウによる、こちらもユニット。キーボードとパソコンを操るカタヤマが奏でるサウンドには、ビートミュージックやヒップホップ、インダストリアルロック、クラシック......そんな様々な要素が混在しているように感じられる。
コラージュアートのようでもあり、ダンスミュージックのような肉体的躍動感もある、そんな美しく混濁しながらも野性的に動くサウンドの中で歌う小日向のパフォーマンスは、単に「ボーカル」と言うよりは、「全身表現」と言った方が個人的にはしっくりくるものだった。ときに肩を上下に動かしたり、ときにしゃがみ込んだり、鋭利で、それでいて、しなやかな、全身を使ったパフォーマンス。それは、軋み、苛立ち、叫び、憂鬱、喜び、束の間の全能感......そんな生きるうえで立ち上がってくる様々な状態や感情を、身体全体を使って表現しているようだった。「ここではないどこか」を探し求めているようで、その実、溢れ出るリアルな人間の姿。それが、このユニットの表現の大きな魅力のように感じた。
そして、ラストの3組目に登場した楓 幸枝は、名義としてはこの日唯一のソロアクトではあるが、この日のライブでは、ドラムに久保正彦を迎えてのユニット編成でのライブだった。パワフルな生のドラミングと、それに負けない力強い歌声......その歌声の芯の強さの背景には、楓の個人としての意志の強さや生き様があるように感じられた。
以前はバンドAwesome city clubでドラムを叩いていた楓だが、2020年にバンドを脱退し、その後、ソロ活動を本格化させた。私個人としては、かつてドラマーだった楓がシンガーとしての活動を始めたことにさほど驚きや違和感はなかったのだが、それは、ドラムと歌はとても親和性の高い表現だからという理由もあるし、かねてより、楓が発する凛とした「詩情」のようなものを自分が感じていたからかもしれない、とも思う。この日、楓はMCで2020年という世界中が混乱に陥っていた時期に「新しいこと」として始まったFS.にシンパシーを表明していた。そして彼女自身もまた、創り、表現し、新しいことに挑戦し続けながら生きる自身を、音と詞と全身に託すように歌っていた。その姿には、強固な意志と、変化する柔らかさを兼ね備えた強さがあった。
踊るように生きることも、歌うように生きることも、簡単なことではないが、それでも自分の身体の使い方は少しずつでも上手くなりたいものだ、と、3組のパフォーマンスを観た帰り、渋谷駅までの道を歩きながら思った。与える印象はまったくバラバラな3組だったが、それでも共通して、見事に己の全身を駆使しながら、神経を頭のてっぺんから足のつま先まで研ぎ澄ませるようにして、自らの音楽や内面や生き様を表現しているように感じたのだ。心地のいい親密さと緊張感の中で、とても豊かな音楽体験をできた夜だった。
文:天野史彬
撮影:三浦義晃
LIVE INFORMATION
FS. 3rd Anniversary
11/10(金)
LIVE: NNULL
DJ: 片山翔太 / MONJOE / タイラダイスケ(FREE THROW)
11/11(土)
LIVE: 中野陽介(Emerald) / 眞名子 新 / とおのねむり
11/12(日)
LIVE: JunIzawa / Giallo
DJ:弦先誠人 / タイラダイスケ
11/18(土)
LIVE: KINU
※詳細後日解禁
11/19(日)
LIVE: Autumn Fruits / Best gigi / kiwano
11/20(月)
LIVE: 宇宙まお / 雲居ハルカ / 大槻美奈
11/22(水)
LIVE: Dan Mitchel
※詳細後日解禁
11/23(木)
LIVE: Roxy Boys / ALFRD / EXPCTR
11/24(金)
LIVE: Ghost like girlfriend / エルスウェア紀行
11/25(土)
LIVE: RIS-707 / zuni / Heavenstamp
DJ: natsumi hirota
11/27(月)
LIVE: FiJA / RiE MORRiS
11/29(水)
LIVE: あべまえば / 髙橋多聞 / 志摩陽立
11/30(木)
LIVE:下津光史(踊ってばかりの国)
チケット:Livepocket
※詳細後日解禁のものを除く