SENSA

2023.10.25

香港のマスロックバンド・Prune Deer、尊敬する

香港のマスロックバンド・Prune Deer、尊敬する"レジェンド"LITEを迎えた『分水嶺 The Parting』リリースツアー初日

当たり前のことだが、音楽というカルチャーは海を越え世代を超えて、近い感性を持つ者に届き共鳴しあう。インストゥルメンタルや、あるいは音像全体の中で歌の占めるウェイトが多くないタイプの音楽であればなおさらだ。10月17日(火)に青山・月見ル君思フで行われた、香港のマスロックバンド・Prune Deer(話梅鹿)のアジアツアー、東京公演でそんなことを実感した。

今回のツアーは彼らの10周年を記念したアルバム『分水嶺 The Parting』のリリースに伴うもので、わずか10日ほどの間に日本、台湾、マレーシア、タイでの計8公演を駆け抜けたあと、香港でファイナルを迎える予定だ。その初日、対バンゲストとして招いたのはLITE。ライブ中のMCでも明かしていたように、彼らは10年ほど前からLITEを知っており、武田信幸(Gt)のことを"レジェンド"と呼ぶなどリスペクトしているそう。29歳だと語っていたから、10年前となるとまだ20歳になるかならないかのバンド結成当時だから、音楽性の形成にも少なくない影響を与えた存在だろう。

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LITEのライブは「Endless Blue」からスタート。不協和音気味のギターが鳴り、ベースとドラムが断片的なフレーズを重ねていく人力ブレイクビーツとも言うべきサウンドに武田がつぶやくような歌を載せ、後半にかけては曲が激しく展開するにつれてどんどん音が立体的になっていく。楠本構造(Gt/Syn)と武田による歪んだギターの応酬と、目まぐるしく表と裏が入れ替わり複雑な幾何学模様を描く山本晃紀のドラムプレイで、場内を一気に白熱させた「Ef」、井澤惇による蠱惑的なベースがループする上に速弾きギターが炸裂する「Ghost Dance」と、序盤から実に容赦ない。多国籍のファンが集まったフロアに目をやると、飛び跳ねたり頭を振ったりと激しく楽しむ横で、恍惚の表情でステージに釘付けの人もいる。そんなライブ、そうそうない。

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20年前の曲をまだ胸を張ってやれている、そういう曲を楽しんでもらえると音楽っていいなと思う。そんな武田の言葉通り、メランコリックなギターが印象的な最初期の「I Miss Seeing All」から、インダストリアルな打ち込みビートと素軽いカッティングが融合したダンサブルな新曲「Crushing」まで、新旧織り交ぜられたこの日のセットリストは、曲調のバリエーションこそ豊かだが、通底し続ける彼らの美学を肌で感じさせるものだった。高負荷のストイックな演奏をこれでもかと連打しながらもどこか楽しそうな表情を浮かべ、観客たちをガンガン突き動かし踊らせていくスタイル。とことん複雑ではあるが決して難解ではない音楽性。そして眼を見張る超絶技巧。全10曲、LITEは20年戦士の実力、"レジェンド"と称される所以を存分に見せつけたのだった。

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その後を受けるPrune Deerは、坤城(Dr)の4カウントのあと、まずはゆったりと音を重ね合わせていくような静かな立ち上がり。曲は「初(Co1)」だ。冒頭で便宜上マスロックバンドと書いたが、2本のギター、特に上手(かみて)側の城鋒が紡ぐサウンドは深くリバーヴのかかった音で、ドリームポップやシューゲイザーの要素もけっこう色濃い。なので踊りまくるというよりは、音に身を委ねながら意識をどんどん沈下させ倒錯していく気持ちよさをもたらす。また、下手(しもて)側のギタリスト・自然によるボーカルの入っている曲の割合が多いのも特徴で、そのシルキーな歌声は楽器の一つのようにアンサンブルに溶け込んでいるため言語が伝わらなくてもきっちり成立する。日本のクリエイターが制作に携わった「小岳作山(Mountain)」では後半の4つ打ち部分でミラーボールが回り、この会場を象徴する背後の月に光の粒を映す。

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グッズやCDも持ってツアーを回るが荷物が重たいのでたくさん買ってほしい、みたいなことを坤城が片言の日本語で茶目っけたっぷりに話すMCも挟みながら、ライブは進行。クリーンで透明度の高い「羽毛(Feathery)」や、それと同様の質感の音を次第にウォールオブサウンドで塗りつぶしていくエモーショナルな「空郵(By Air)」、静謐なサウンドの中で哭くギターが二胡のような悠久の音色を奏で、嘉豪の弾く5弦ベースの重低音で震わせる「花的名字 8.6(The Flower We Saw)」といった、コロナ禍をはじめとした困難を乗り越えて4年ぶりに生み出したというニューアルバムの収録曲を中心に据え、タイトなギタープレイによるダンサブルなノリに変拍子が入り混じるトリッキーな、それでいてキャッチーでもある「探戈(Tango)」などフィジカルな興奮をもたらすタイプの楽曲も随所に差し込んでいく。

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爆発的というよりは螺旋状に縁を描きながら迫り上がっていく興奮、といった様相のライブの流れは、終盤で披露された「熱寂(HeatDeath)」を機にスイッチが切り替わった。メロディアスなフレーズを丁寧に合わせることで変則的な7拍子の楽曲を構築していった4人が、中盤でのシャウトを境にサウンドの圧力も演奏姿の面でもどんどん熱量を増幅させていき、曲展開も複雑に表情を変えていく。プログレッシヴにしてアグレッシヴ。嘉豪がスラップベースで喝采を呼び、城鋒が挑発を振り乱してギターを高く掲げる。ラストに届けた「日光(SunLight)」でもアンビエント調からアンセミックなロックナンバーへの変貌ぶりで場内を盛り上げながら、大地の鼓動を思わせるたくましいビートに乗せ、まるでウイニングランを決めるかのように高らかに鳴らし切った。

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こういったマスロックなどのインスト系の音楽が、現状の邦楽シーンで大きなシェアを獲得しているかと言えば、決してそうではない。しかし、音に反応して身体が突き動されるという最もプリミティブな興奮がここにはある。そして歌や歌詞に依存しないぶん、出会いや好きになるチャンスは世界規模で転がっている。この日のような、難しいことは考えずただ音を浴びぶっ飛ばされるという音楽体験と、より多くの音楽ファンが出会ってほしい。

取材:風間大洋
撮影:Hayato Watanabe(Prune Deer),Mayuko Takeuchi,Asuka Fujino(LITE)


RELEASE INFORMATION

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Prune Deer「分水嶺 The Parting」
2023年8月16日(水)
Format:Digital
Label:FRIENDSHIP.

Track:
1.羽毛 Feathery
2.氰化物 Cyanide -the parting ver.-
3.幾乎 Almost
4.乜乜 mud mud
5.初 Co1 
6.75%
7.位所 SOMEWHERE
8.空郵【待 取】By Air (Pending)
9.小岳作山 Mountain
10.花的名字 8.6 The Flower We Saw 8.6

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LINK
PruneDeerオフィシャルサイト
@PruneDeer
LITEオフィシャルサイト
@lite_jp
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