SENSA

2023.10.11

象眠舎、11人のラージ・アンサンブルと才気煥発なヴォーカリスト達が集った多幸感溢れるコットンクラブ公演

象眠舎、11人のラージ・アンサンブルと才気煥発なヴォーカリスト達が集った多幸感溢れるコットンクラブ公演

 驚いた。そして、自分の無知を恥じた。日本にはこんなにも才気煥発なヴォーカリストがたくさん眠っていたのか、と。9月15日に丸の内コットンクラブで行われた象眠舎のライヴを見てまず思ったのは、そんなことだった。象眠舎は、CRCK/LCKSのメンバーでマルチ・プレイヤーである小西遼のソロ・プロジェクト。プレイヤーには、兼松衆 (key)、高木大丈夫 (g)、マーティ・ホロベック (b)、菅野知明(ds)らが参加している。

 音楽的な中心軸を成すのは、バークリー音楽大学を首席で卒業した88年生まれの小西遼。彼が帰国後に、前身バンドにあたる小西遼ラージ・アンサンブルを立ち上げ、のちに彼のソロ・プロジェクトに発展した。小西は複数の楽器を駆使することで知られ、Charaや常⽥⼤希率いるmillennium paradeなど、多くの現場で抜擢/重宝されている。

 この日のライヴは、代わる代わるヴォーカリストが登壇して歌うという、過去2年間培ってきたスタイル。バックには11人のラージ・アンサンブルがおり、盤石のバンド・サウンドで歌い手を引き立てた。

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 初めて生で歌声を聴いた者も多かったが、ただただ、圧倒されることしきりだった。ヴォーカリストが変わる度に「これ誰? すごい!」とひとりごちて、彼ら/彼女らに出会うのが遅すぎたと自分につっこみを入れたくなった。国内有数の歌い手をこんなにいっぺんに見られるなんて、贅沢の極みという他ない。

 象眠舎のライヴでは、各ヴォーカリストに向けて、象眠舎で歌うのに最も適したアレンジがなされている。そこが今回のライヴの大きな見どころだった。歌い手にサウンドが最適化されている、とでも言おうか。映画や演劇で演者の持ち味を引き出すためにテキストが書かれる、いわゆる「あてがき」に近いかもしれない。

 冨田ラボや東京スカパラダイスオーケストラなど、曲によってさまざまなヴォーカリストをフィーチャーするグループはいるが、象眠舎には彼らにも劣らぬ一体感と結束感、そして華があった。

 この日登場したヴォーカリストは、るーか、映秀。、TENDRE、Ema、藤井怜央(Omoinotake)、AAAMYYY、崎山蒼志、Sarah Furukawaだ。

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 一番手という、最もプレッシャーがかかるだろう重責を担ったのが、るーか。勢いがあってハイテンションな歌唱を聴かせるのだが、一方で、自分の声を自在にコントロールする客観性と技術に度胆を抜かれた。InstagramやTikTokでもフォロワーが非常に多いのも納得のパフォーマンスだ。

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 女性ソロ・シンガーのAAAMYYYは、Tempalayのメンバーで、TENDREのサポートメンバーでもある。ライヴの2日前にサブスクリプションにアップされたばかりの「煌めく」を披露。豪奢でオーケストラルなトラックをどう再現するか期待していたが、見事に11人の演奏と融和。それでいて、彼女ならではのヒリヒリした衝動が伝わってくる。硬軟併せ持つ節回しにもシビれた。

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 TENDREは、艶と色気があふれ出す歌声で観客をうっとりさせた。元々小西がTENDREのサポート・メンバーとして活躍した縁で、象眠舎のレギュラー・ゲスト的な存在となった彼。これまで同様、そのクールなたたずまいに強く惹かれた観客も多かっただろう。白眉はEmaとSarah Furukawaをコーラスに迎えた「Mirror」。音源ではエフェクトを多用した、気怠そうな歌声が印象的だったが、ライヴではよりアグレッシヴな感触だった。

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 絶対に素晴らしいはずだと確信していた崎山蒼志は、そんな予想を軽々超えてくるブリリアントな歌唱で観客を引き寄せる。8月に出たアルバムの劈頭を飾る「i 触れる SAD UFO」が披露されたが、中性的でエモーショナルなヴォーカルには眩暈を覚えるほど。触ったらすぐに壊れそうなガラスのような、儚く刹那的な響きが特徴だった。

 パワフルでワイルドなパフォーマンスで魅せたのが映秀。、彼は小西と共作した象眠舎の新曲を披露。ギターのファンキーなカッティングと、メロウな曲調が相まって、ビターな切なさが現出されていた。

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天衣無縫なSarah Furukawaとのデュエットで登場した高木大丈夫は、ブルージーなギター・プレイとシブい歌声で迫った。
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 音源では中村佳穂が歌っていた「Lycoris」を伸びやかなハイトーン・ヴォイスでキメたのがEma。彼女の持ち味はロートーン・ヴォイスで、そのポテンシャルの高さには幾度となくも唸らされた。

 ソウルフルなヴォーカルがじわじわと沁みる熱のこもったパフォーマンスで魅せたのが藤井怜央(Omoinotake)だ。

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 抜きんでた個性を持つ彼ら/彼女らは、最高にハイファイなサウンドを浴びることで、魔法をかけられたように光り輝いていた。そして、それを可能にしていたのが、ラージ・アンサンブルのリッチでハイエンドな演奏だ。ホーン・セクションのきらびやかな響きはもちろんだが、菅野知明(ds)、マーティ・ホロベック(b)のタイトなリズム隊にも剋目すべきだろう。

 彼らが強固にボトムを支えているから、アンサンブルがブレたりぐらつくことがない。盤石の、という形容は彼らのようなミュージシャンのためにあるものだろう。その辺のバランス感覚が絶妙だからこそ、ヴォーカリストが次々に変わっても、柔軟に対応できる。全体のバランスは何があっても揺らがないのだ。

 そして、象眠舎の主宰で、コンダクターを務めてサックスも吹く小西遼。大所帯を束ねる彼の統率力にも触れないわけにはいかない。今回演奏された曲はすべて小西がアレンジしたもので、思った以上にセッション的な要素は少なかったそう。その中で各プレイヤーがある程度自由なスペースを確保され、全体が見事に調和/統合されていた。

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 トップダウン型とボトムアップ型----主宰である小西率いるアンサンブルは、その両方の良さを備えていたと思う。どちらも元々は企業の構造を示すビジネス用語だが、象眠舎の在り方を説明するのに適していると思うので、持ち出した。トップダウン型とは、トップやリーダーの意思決定がそのまま組織全体の意志となるもので、リーダーが決定したことが、そのまま組織に伝えられる。ゆえに、意思決定から行動までのスピードが早い。

 一方、ボトムアップ型は、組織のメンバー皆の提案を、リーダーとなるものが吸い上げて意思決定をする。現場で実際に動くメンバーの現状や意見を反映できるので、適切な意思決定ができるという特徴がある。そして、この両者の要素を奇跡的に止揚したのが、象眠舎の象眠舎たるゆえんではないだろうか。

 小西がアンサンブル全体のまとめ役でありながらも、技量の高いメンバーたちのプレイを最大限に活用する。象眠舎を支えるのは、そんな堅牢な構造ではないだろうか。そして、象眠舎は無限の可能性を秘めているグループだとも実感した。固定のヴォーカリストがいないため、どんな歌い手が出入りしても成立するのだ。もちろんその裏には、一騎当千のプレイヤーらによるラージ・アンサンブルの存在がある。

 ライヴを見ていて思ったのは、どの曲もヴォーカリストが歌いやすそうだった、ということ。余裕があった、と言ってもいいかもしれない。そうでもなければ、あんなチャーミングで肩の力の抜けたMCはできないだろう。終演後の記念撮影的な写真がSNSにアップされていたが、思ったのは「うわ、この人たち楽しそう!!」ということ。客席で見ているだけでこんなにワクワクするのだから、ステージ上にいた彼ら/彼女らはどれだけ充実した2日間を過ごしたのだろう。こんなに多幸感溢れるライヴを見たのは久々だったな、と思いながら帰路についた。

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文:土佐有明
撮影:Takao Iwasawa

RELEASE INFORMATION

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象眠舎「煌めく(feat. AAAMYYY)」
2023年9月13日(水)
Format:Digital
Label:FRIENDSHIP.

Track:
1.煌めく(feat. AAAMYYY)

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FRIENDSHIP.

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