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2023.07.31
人の目に新しい光が宿る。夢と野心が織り成すそのきらめきの瞬間を、何度も目にした夜だった。
永原真夏(Vo)と工藤歩里(Key)によるアコースティックユニット・音沙汰が、2023年に20周年を迎える。それを記念した第1弾企画・東名阪ワンマンライブ「W Spring Tour」に続き、この夏、第2弾として3ヶ月連続自主企画ライブがセッティングされた。その初日である三軒茶屋GRAPEFRUIT MOON公演「MAJI MATSURI vol.6 〜永原真夏生誕祭編〜」は7月22日に開催。この日は永原の誕生日前夜である。
会場は身動きが取りにくいほど人で溢れるものの、誰もがどこかリラックスしているように見える。ホームパーティーのようなあたたかい空間のなか、この日の1番手として音沙汰がステージに登場した。
永原が「今日は工藤歩里が主催してくれた、わたくしの誕生前夜祭でございます! 今日は1日照れながらのライブになるかもしれませんが、楽しんで帰ってください」と笑うと、「怪獣のあくび」でこの日の幕を開ける。歌詞に色と動きをつけていくストーリーテリング力の高いボーカルと、それに奥行きをつけていくしなやか音色を奏でるピアノ。そのダイナミズムに、会場は一気に飲み込まれてゆく。
「しろくまオーケストラ」と「ホームレス銀河」の曲間で、今日が1ヶ月ぶりのライブであることを語った永原は、この期間で梅の収穫や母親と工藤との韓国旅行、江の島で海を楽しむなどの経験をし、音楽への感覚がほんの少し変わったという旨を明かす。このとき彼女が語ったその感覚は、このライブにおいて大きな鍵となっていることを、この後じょじょに実感していくこととなる。
音沙汰としてアルバム制作期間中であると話すふたりは、そこで生まれた新曲「Teenage Star」と「最高はこれから」を初披露してステージを締めくくった。伸びやかなメロディは力強くも優雅で、歌詞の世界はロマンチックかつファンタジックでいてシビアさも孕む。記憶から薄れつつある過去や、胸に刺さる痛みなどを抱えながらも前を向くようなムードをまとった歌と音は、とても頼もしかった。
ゲストとしてこの日に招かれたのはMisii(Vo)とnagoho(Mp/poetry rap/Cho)のアーティストユニット・MisiiN。彼女たちの活動拠点である表参道のアートギャラリー・NOSE ART GARAGEにて今春開催された「ただ、包まれる。」内のヘッドホンライブに永原と工藤が参加し、そこで永原が彼女たちの愛情溢れるステージを観て感銘を受け、ゲスト出演のオファーをしたという。
憂いのあるシンセとメロディのリフレインがシンボリックな「LETGO」で幕を開けると、じっくりと会場全体を自身の音楽の世界へと沈めてゆく。「NURTURE ME」も同等の仄暗さを感じさせつつ、水面下で何かがうごめくような沸々とした高揚感が心地よい。nagohoがエレアコを構えると「皆さん一人ひとりにいろんな人生があるなかで、今日生きてくれてありがとうという祝福を込めて」と語り、ギターとコーラスで構成されたシンプルなアコースティックアレンジで「If I died tonight」を届ける。強い意志と柔和さが溶け合ったサウンドスケープが、会場を満たしていった。
MisiiNは「"be the you -自分であれ-"をモットーに、時に激しく、時に優しく、聴く人を鼓舞するための"革命歌 -バイブル-"を歌う」というコンセプトを掲げている。永原や音沙汰がこれまで発信してきた音楽も、ファンタジー性を持ちながらもその先に見据えているのは現実世界だと推測する。音楽性は異なれど、より豊かな世界を掴んでいくために自身の心に向き合い、果敢に突き進んでいくスタンスには、両者通ずるものを感じた。
「自分を貫いて生きていくのは難しいことが多いけれど、自分で生きていく先にしか未来はないし、進んだ先に見える景色を信じているし、その先の景色を皆さんと見ていけたら」とnagohoが告げると、緊迫感のあるポエトリーラップとやわらかいボーカルで構成された「fall」、瑞々しく幻想的な「loveyourself」と立て続けに披露し、ラストは「Golden Orange」。お互いの歌と音にぬくもりを感じながら歌い、演奏するふたりの姿は、どこから観ても永原が話していたとおりの「愛に溢れたステージ」だった。
この日を締めくくるのは、音沙汰に音の旅crewの大樹(Ba)とチャック(Dr)が加わったギターレス4人編成の永原真夏(Band Set)。3人の演奏に乗せて高らかな掛け声とともにステージに現れた永原は「いま1ヶ月分の声が出たとお思いでしょう? でもまだ100分の1くらい! 大きい声で歌ってまいります!」と全身を膨らませるように「青い空」をスケール大きく歌う。「ダーリン・ダーリン」では観客たちも座席から立ち上がり、4人の奏でる音と歌に身を任せた。ゴキゲンという言葉がぴったりなほどの笑顔を浮かべて歌う永原の姿を観ながら、彼女にとって「人前で歌わない1ヶ月」は穏やかで優しいけれど、潤いが足りなかったのかもしれないとふと思う。この時の彼女はまさに水を得た魚だった。
永原がウクレレを奏でた「きれいなわたし」の後に披露した「片目のロックスター」は、訴えかけるポエトリーリーディングと全身に漲る力を乗せたハイトーンボイスが隅々まで凛々しく、聴き手の心の中に直接手を突っ込んで揺さぶるような気魄に溢れる。覚束ないところがあっても、弱さを抱えていても、不完全な人間であっても勇敢に生きていい――強い信念を純粋な気持ちで体現する彼女から目が離せなかった。
「Girl On a Dolphin」を艶やかな無邪気さで彩ると、「パワーがみちみちでないと歌えない曲があるの。ワンマンだから歌えるというわけでもない、"この曲を歌いたい、歌うんだ!"というときにしか歌えない、すっごく特別な曲をやります」と告げた彼女が歌い出したのは「みなぎるよ」。曲を作った当時の気持ちを引き連れながら今の気持ちを乗せて歌う彼女の姿から、生まれ変わった瞬間のような真新しさが押し寄せてきた。ステージに立たなかった1ヶ月間と、年齢を重ねていくタイミング、人生を積み重ねることで変わってきた様々な事象が合わさったことで、彼女の身体のなかで潮目が変わるような事象が起きているのかもしれない。間髪入れずにつないだ「フォルテシモ」では、涙をきらめかせながら笑うような感情的な包容力がはじけていた。
今回のライブについて「(その時々の)自分の記憶の1ページ目に残っている曲を歌いました」「自分が素敵だな、美しいな、面白いな、かっこいいなと思うものばかりを集めたいと思いました」と幸せそうな表情で述べた永原は、「あそんでいきよう」と「リトルタイガー」で本編を結ぶ。笑顔でカラフルな感情を放ちながら自由に楽しむ彼女を見て、彼女が日々の生活で育んでいる大きな感情は、身体のなかにしまっておくには窮屈なのだと痛感した。彼女にとって歌うことは、心を呼吸させること。そんな爽快な深呼吸は、観ているこちらの胸のもやも晴らしてくれるようだった。
アンコールで永原が登場するやいなや、ファンから贈られたケーキとバースデーソングのシンガロングが彼女を出迎える。悲鳴にも近い歓喜の声を上げ感動をあらわにする彼女に、会場全員が笑みを浮かべる。これからも世の中について思うこと、自分の身の回りに起きた出来事を音楽にして、同じ時代を生きるファンと一緒に考え共有していきたいという旨を彼女が告げると、大きな拍手が湧いた。
予期せぬサプライズへの感動に包まれながら披露したのは、「年齢を重ねる節目の直前にリリースする曲を作るとしたら」という着想のもと生まれたという最新曲「この木を切らないで」。30代は、小さい頃から当たり前のように存在してきた人やものが失われる機会が格段に増えてくる。そんな状況を目の前にした彼女の心の中に触れられたような気がした。「もう1曲バンドでどかーん!とやりたいんですけどいいですか!?」と呼び掛けると、ラストは「オーロラの国」。明日を追い越していくように曲のど真ん中を駆け抜けていく、豪快なエピローグだった。
MCで「節目を大事にしてきた」と話していたが、彼女は節目を迎えるたびに新しい自分を自分のなかに見つけることで前に進んできたのだろう。その実態を信頼するリスナーや仲間にお披露目するような誕生前夜祭。夏の太陽を凌駕するほどに熱く眩しく、夜空に打ちあがる大輪の花火のように繊細で美しい時間だった。
文:沖さやこ
撮影:ウワボコウダイ
永原真夏「この木を切らないで」
2023年7月19日(水)
Format: Digital
Label: G.O.D.Records
Track:
1.この木を切らないで
試聴はこちら
永原真夏(Vo)と工藤歩里(Key)によるアコースティックユニット・音沙汰が、2023年に20周年を迎える。それを記念した第1弾企画・東名阪ワンマンライブ「W Spring Tour」に続き、この夏、第2弾として3ヶ月連続自主企画ライブがセッティングされた。その初日である三軒茶屋GRAPEFRUIT MOON公演「MAJI MATSURI vol.6 〜永原真夏生誕祭編〜」は7月22日に開催。この日は永原の誕生日前夜である。
会場は身動きが取りにくいほど人で溢れるものの、誰もがどこかリラックスしているように見える。ホームパーティーのようなあたたかい空間のなか、この日の1番手として音沙汰がステージに登場した。
永原が「今日は工藤歩里が主催してくれた、わたくしの誕生前夜祭でございます! 今日は1日照れながらのライブになるかもしれませんが、楽しんで帰ってください」と笑うと、「怪獣のあくび」でこの日の幕を開ける。歌詞に色と動きをつけていくストーリーテリング力の高いボーカルと、それに奥行きをつけていくしなやか音色を奏でるピアノ。そのダイナミズムに、会場は一気に飲み込まれてゆく。
「しろくまオーケストラ」と「ホームレス銀河」の曲間で、今日が1ヶ月ぶりのライブであることを語った永原は、この期間で梅の収穫や母親と工藤との韓国旅行、江の島で海を楽しむなどの経験をし、音楽への感覚がほんの少し変わったという旨を明かす。このとき彼女が語ったその感覚は、このライブにおいて大きな鍵となっていることを、この後じょじょに実感していくこととなる。
音沙汰としてアルバム制作期間中であると話すふたりは、そこで生まれた新曲「Teenage Star」と「最高はこれから」を初披露してステージを締めくくった。伸びやかなメロディは力強くも優雅で、歌詞の世界はロマンチックかつファンタジックでいてシビアさも孕む。記憶から薄れつつある過去や、胸に刺さる痛みなどを抱えながらも前を向くようなムードをまとった歌と音は、とても頼もしかった。
ゲストとしてこの日に招かれたのはMisii(Vo)とnagoho(Mp/poetry rap/Cho)のアーティストユニット・MisiiN。彼女たちの活動拠点である表参道のアートギャラリー・NOSE ART GARAGEにて今春開催された「ただ、包まれる。」内のヘッドホンライブに永原と工藤が参加し、そこで永原が彼女たちの愛情溢れるステージを観て感銘を受け、ゲスト出演のオファーをしたという。
憂いのあるシンセとメロディのリフレインがシンボリックな「LETGO」で幕を開けると、じっくりと会場全体を自身の音楽の世界へと沈めてゆく。「NURTURE ME」も同等の仄暗さを感じさせつつ、水面下で何かがうごめくような沸々とした高揚感が心地よい。nagohoがエレアコを構えると「皆さん一人ひとりにいろんな人生があるなかで、今日生きてくれてありがとうという祝福を込めて」と語り、ギターとコーラスで構成されたシンプルなアコースティックアレンジで「If I died tonight」を届ける。強い意志と柔和さが溶け合ったサウンドスケープが、会場を満たしていった。
MisiiNは「"be the you -自分であれ-"をモットーに、時に激しく、時に優しく、聴く人を鼓舞するための"革命歌 -バイブル-"を歌う」というコンセプトを掲げている。永原や音沙汰がこれまで発信してきた音楽も、ファンタジー性を持ちながらもその先に見据えているのは現実世界だと推測する。音楽性は異なれど、より豊かな世界を掴んでいくために自身の心に向き合い、果敢に突き進んでいくスタンスには、両者通ずるものを感じた。
「自分を貫いて生きていくのは難しいことが多いけれど、自分で生きていく先にしか未来はないし、進んだ先に見える景色を信じているし、その先の景色を皆さんと見ていけたら」とnagohoが告げると、緊迫感のあるポエトリーラップとやわらかいボーカルで構成された「fall」、瑞々しく幻想的な「loveyourself」と立て続けに披露し、ラストは「Golden Orange」。お互いの歌と音にぬくもりを感じながら歌い、演奏するふたりの姿は、どこから観ても永原が話していたとおりの「愛に溢れたステージ」だった。
この日を締めくくるのは、音沙汰に音の旅crewの大樹(Ba)とチャック(Dr)が加わったギターレス4人編成の永原真夏(Band Set)。3人の演奏に乗せて高らかな掛け声とともにステージに現れた永原は「いま1ヶ月分の声が出たとお思いでしょう? でもまだ100分の1くらい! 大きい声で歌ってまいります!」と全身を膨らませるように「青い空」をスケール大きく歌う。「ダーリン・ダーリン」では観客たちも座席から立ち上がり、4人の奏でる音と歌に身を任せた。ゴキゲンという言葉がぴったりなほどの笑顔を浮かべて歌う永原の姿を観ながら、彼女にとって「人前で歌わない1ヶ月」は穏やかで優しいけれど、潤いが足りなかったのかもしれないとふと思う。この時の彼女はまさに水を得た魚だった。
永原がウクレレを奏でた「きれいなわたし」の後に披露した「片目のロックスター」は、訴えかけるポエトリーリーディングと全身に漲る力を乗せたハイトーンボイスが隅々まで凛々しく、聴き手の心の中に直接手を突っ込んで揺さぶるような気魄に溢れる。覚束ないところがあっても、弱さを抱えていても、不完全な人間であっても勇敢に生きていい――強い信念を純粋な気持ちで体現する彼女から目が離せなかった。
「Girl On a Dolphin」を艶やかな無邪気さで彩ると、「パワーがみちみちでないと歌えない曲があるの。ワンマンだから歌えるというわけでもない、"この曲を歌いたい、歌うんだ!"というときにしか歌えない、すっごく特別な曲をやります」と告げた彼女が歌い出したのは「みなぎるよ」。曲を作った当時の気持ちを引き連れながら今の気持ちを乗せて歌う彼女の姿から、生まれ変わった瞬間のような真新しさが押し寄せてきた。ステージに立たなかった1ヶ月間と、年齢を重ねていくタイミング、人生を積み重ねることで変わってきた様々な事象が合わさったことで、彼女の身体のなかで潮目が変わるような事象が起きているのかもしれない。間髪入れずにつないだ「フォルテシモ」では、涙をきらめかせながら笑うような感情的な包容力がはじけていた。
今回のライブについて「(その時々の)自分の記憶の1ページ目に残っている曲を歌いました」「自分が素敵だな、美しいな、面白いな、かっこいいなと思うものばかりを集めたいと思いました」と幸せそうな表情で述べた永原は、「あそんでいきよう」と「リトルタイガー」で本編を結ぶ。笑顔でカラフルな感情を放ちながら自由に楽しむ彼女を見て、彼女が日々の生活で育んでいる大きな感情は、身体のなかにしまっておくには窮屈なのだと痛感した。彼女にとって歌うことは、心を呼吸させること。そんな爽快な深呼吸は、観ているこちらの胸のもやも晴らしてくれるようだった。
アンコールで永原が登場するやいなや、ファンから贈られたケーキとバースデーソングのシンガロングが彼女を出迎える。悲鳴にも近い歓喜の声を上げ感動をあらわにする彼女に、会場全員が笑みを浮かべる。これからも世の中について思うこと、自分の身の回りに起きた出来事を音楽にして、同じ時代を生きるファンと一緒に考え共有していきたいという旨を彼女が告げると、大きな拍手が湧いた。
予期せぬサプライズへの感動に包まれながら披露したのは、「年齢を重ねる節目の直前にリリースする曲を作るとしたら」という着想のもと生まれたという最新曲「この木を切らないで」。30代は、小さい頃から当たり前のように存在してきた人やものが失われる機会が格段に増えてくる。そんな状況を目の前にした彼女の心の中に触れられたような気がした。「もう1曲バンドでどかーん!とやりたいんですけどいいですか!?」と呼び掛けると、ラストは「オーロラの国」。明日を追い越していくように曲のど真ん中を駆け抜けていく、豪快なエピローグだった。
MCで「節目を大事にしてきた」と話していたが、彼女は節目を迎えるたびに新しい自分を自分のなかに見つけることで前に進んできたのだろう。その実態を信頼するリスナーや仲間にお披露目するような誕生前夜祭。夏の太陽を凌駕するほどに熱く眩しく、夜空に打ちあがる大輪の花火のように繊細で美しい時間だった。
文:沖さやこ
撮影:ウワボコウダイ
RELEASE INFORMATION
永原真夏「この木を切らないで」
2023年7月19日(水)
Format: Digital
Label: G.O.D.Records
Track:
1.この木を切らないで
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