SENSA

2023.07.14

Wez Atlasが辿り着いた「これもまた過ぎ去る」という諦念 「This Too Shall Pass LIVE」@下北沢ADRIFT

Wez Atlasが辿り着いた「これもまた過ぎ去る」という諦念 「This Too Shall Pass LIVE」@下北沢ADRIFT

7月7日(金)、まだ梅雨が明けていないなんてにわかに信じがたい快晴の七夕の夜、下北沢の新しいイベントスペースADRIFTに登場したのはWez Atlas。「何事にもやがて終わりがくる」という意味の刹那的なテーマ「This too shall pass(これもまた過ぎ去る)」を掲げて発表された自身の2ndミニアルバムを記念したライブが開催された。

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20時を少しすぎたあたり、定刻を過ぎてもステージにWez Atlasの姿はまだなく、日本語と英語が入り混じった談笑の声があちこちから聞こえてきた。NewJeansはもちろん、平成を象徴する宇多田ヒカルやCrystal Kayまで、DJ AKITOの選曲は日本のヒットチャートの変遷をおさらいするかのよう。

今回のライブのステージにも掲げられていた、ピザ屋風のWez AtlasのTシャツを着たファンも多く見られたオーディエンスはお酒を片手に、次々に流れる曲で踊ったり知っている歌詞に反応したりと、クラブさながらの雰囲気。自由な過ごし方で日本とアメリカをルーツにもつラッパーの登場を待っていた。ともすれば「発表会」になりかねないレコ発特有の固い空気は微塵もなく、音楽の元に集まった1人ひとりが、今日という日を楽しいものにしようとする気持ちが十分に伝わってきた。

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そしてステージの準備が整い、Wez Atlasがついに登場。普段のポロシャツやラガーシャツのカジュアルな印象とは異なり、両肩に花柄の刺繍があしらわれた西部劇の主人公さながらのシャツをタックインして、まさに正装といった様子。

自身2枚目となるミニアルバムのリリースパーティーをクリエイティブ・レーベル「w.a.u」のサポートによるバンドセットで迎えたWez Atlas。バンドの演奏が始まり最初に披露したのは同アルバムから「Life's A Game 」。(コンビニの缶ビール、キンキン)という華金にこれ以上ないふさわしいバースに、1週間を乗り切った仕事終わりの人も夜の東京の街にこれから繰り出しそうな装いの人も皆、手を上げて反応し、早くも今日のライブが特別なものになる気配を感じた。

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昨年11月から3度にわたり開催された自主企画「Kids' Night Out」や初の海外公演となったアメリカ・テキサス『SXSW 2023』でのパフォーマンスをはじめ、ライブハウスやクラブなど、場所を問わずさまざまな場数を踏んできただけあって、Wez Atlasのそつのないオーディエンスとのコミュニケーションには、思わず関心させられる。

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そんな稀代のラッパーが率いるw.a.uバンドも、主役に引けをとらないほど個性的。率先して手を左右に振ってオーディエンスを盛り上げる明るいパーカッションもいれば、黙々と自分の楽器に徹するドラマーやギタリスト。Wez Atlasの真後ろ、6弦ベースでダンサブルなグルーヴを着実に生み出すベースが際立った「Zuum!」は、バンドセットでの可能性を十分に証明してみせた。

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日本のヒップホップシーンでバンドセットを披露するアーティストは多くないが、愛嬌のあるラッパーと寡黙なバンドマンの組み合わせは、BIMとNo Busesの近藤大彗との関係を彷彿とさせ、シーンの点と点が繋がり裾野が広がっていくような希望が持てる光景にも映った。

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この日は、長きにわたりWez Atlasの音楽活動を支えてきた盟友も多く駆け付けた。最初にステージに登場したのはSagiri Sól。パワフルなSagiri Sólの歌声と軽快なWez Atlasのラップが心地良い「(Da Da Da) Day Ones」を披露。共に過ごした過去を噛み締め、初心を忘れずいくら歳を重ねても変わらない友情を歌った曲で花を添えた。

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続いてVivaOlaが登場し、Wez Atlasが参加した2020年の作品『STRANDED』から「Tokyo Syndrome」を披露した。高校の同級生である2人が放課後の教室で、見よう見真似でGarageBandでトラックを作ったり、ラップをしていた当時の思い出を語るWez Atlasが感極まって思わず涙ぐむ一面もあった。

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そんな公私にわたる親友をまだ返すわけにはいかないと、ラッパー・Juaも迎え披露したのは2019年にリリースされた「Vise le haut」。テンポの速いトラックに、VivaOlaのファルセットとWez Atlasの英詞ラップとJuaの仏詞ラップが光る曲だ。披露するのは久しぶりだと前置きしながらも、それぞれがステージの中央で、自身のパートを代わる代わる披露。ぴったりと息の合う3人の連携はブランクを感じさせず、むしろ気の知れた友達同士の確かな信頼関係を感じた。

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2人を固いハグで見送り後半戦へ。2つの言語を自由自在に操るラッパーも、普段は東京に生きる1人の人間。数日前に自動車免許の試験に落ちてしまったエピソードを明かしつつ、今回の2ndミニアルバムのテーマ「This Too Shall Pass」について語った。嫌なことがあっても時間が解決してくれる。Wez Atlasも自身によく言い聞かせている言葉で、1stミニアルバムをリリース後、内省的な時間を過ごした過程でたどり着いたテーマだという。

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「Overthinkers(考えすぎな人)いますか?」という問いから披露したのは、1stミニアルバム『Chicken Soup For One』から「Overthink」。考えすぎることをやめ、自分の直感に素直に従うことを歌った曲だ。メロウなテンポにメディテーションのような歌詞は、忙しない毎日を送る人に寄り添うような優しさがある。

考えすぎてしまう人に向けた魔法の言葉として、続いて演奏したのは「It Is What It Is」。
リラックスできない都市の生活から目を背けて、ストレスがなく無邪気に遊んでいた子どもの頃に戻りたくなると語ったWez Atlasが大切にしている「しょうがない」と割り切る強さ。そんなフレーズをオーディエンスと一体となって歌い、本編の幕が閉じた。

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Wez Atlasが歌うのは、人生を上手にこなす方法。やりたいことは山積みなのに朝は眠いし、免許の試験には落ちてしまう。小さなことに気を揉むことも、些細なことに足元を掬われてしまう経験は誰にだってあるはずだ。時には「しょうがない」と受け入れて、辛いことがあれば過ぎ去るのを待つ。そんな時に忘れがちな、飄々と厄介ごとを交わしながら少しだけ自分に優しく生きるための術を教えてくれる。

「Authenticity(確からしさ)」が近年のSNS社会のトレンドだとすれば、弱冠24歳のラッパーが届けるメッセージもまた等身大で嘘がない。お金や名声への憧れから「自分じゃない誰か」になろうとするのではなく、生活の中の言葉を紡いでいる。そんなライブを見て、「日本のヒップホップのメインストリームに加わるよりも、(ヒップホップの中で)サブジャンルを生み出す役割を担いたい」と以前語っていたことを思い出した。

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悲しいかな時間は平等に過ぎ、楽しい時間もまた過ぎ去ってしまう。しかし、今日ここで過ごした時間に揺るぎはなく、やがて経験に変わる。そして、Wez Atlasとオーディエンスにとって、変わらないことはライブハウスが遊び場であること。生活環境が変わっても、使うSNSが変わっても、「音楽の元に集う」という行為だけはいつまでも変わらない。「しょうがない」と割り切る勇気を再確認し、またWez Atlasがステージに立つその日まで、それぞれの生活へと戻っていく。

文:Takahiro Kanazawa
撮影:マスダレンゾ

RELEASE INFORMATION

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Wez Atlas「This Too Shall Pass」
2023年3月15日(水)
Format:Digital
Label:HIP LAND MUSIC

Track:
1.Life's A Game(Prod by VivaOla/ Kota Matsukawa)
2.Damn!(Prod by starRo)
3.Dandelion(Prod by starRo)
4.Go Round(Prod by nonomi)
5.Cul-de-sac(Prod by nonomi)
6.It Is What It Is(Prod by VivaOla/ Kota Matsukawa)
7.Me Today(Prod by uin)

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