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2022.12.01
神谷洵平、音楽愛に満ち溢れ、それぞれの物語が交差した夜
11月22日、神谷洵平がゲストを招いてのワンマンライブ『Jumpei Kamiya with...』をコットンクラブで開催した。2020年9月に発表された同タイトルのファーストソロアルバムは、もともと年明けに予定されていたツアーがコロナ禍によって中止となり、参加予定だったメンバーを中心にリモートで制作された作品。リリースから2年のときを経て、ようやくライブを開催することができたのは、非常に感慨深かったに違いない。
ライブは神谷をはじめ、アルバムのレコーディングにも参加した岡田拓郎(ギター)、隅倉弘至(ベース)、副田整歩(サックス)に、谷口雄(ピアノ)、森飛鳥(ペダルスティール)を加えた6人がホストバンドとなり、同じくアルバムに参加し、神谷とはそれぞれ関係性の深いゲストボーカルが順番に登場して、アルバム曲と自身のオリジナル曲の2曲を歌うという構成で進行していった。
トップバッターはアルバムでも1曲目を飾る「Some Of See This」を歌っているYohei Shikano。普段はLAを拠点に活動する音楽家で、日本ではFLAKE RECORDSから作品を発表しているバンド・my hawaiiでの活動を覚えている人も多いかもしれない。神谷とShikanoがともにニット帽を被っていて、見た目はキュートだったが、そのシルキーな歌声は一瞬で会場内の空気を変える。カントリー調のオリジナル曲「Tublarasa」もペダルスティールの演奏含めて素晴らしかった。
神谷は体を揺らしながら独特のタイム感で、音楽に入り込んでドラムを叩く姿が印象的。序盤は繊細なタッチだが、楽曲が進むに連れて徐々に高揚していき、最後は激しくプレイをする即興性の高いアンサンブルが多いのはライブならではの部分だ。ちなみに、アルバムのマスタリングはBIG THIEFの作品などに関わるAndrew Sarloが手掛けていたが、ちょうど11月にBIG THIEFが来日公演を行っていて、僕もこの日の一週間ほど前に東京公演に足を運び、素晴らしいライブを見せてもらった。そのライブで感じたクオリティの高いソングライティングと即興性の同居は、神谷のライブでも確かに感じられるものだった。
2番手に登場したのは神谷がプロデューサーとして関わるシンガーソングライター・ERWIT。アルバムではPredawn(現在は産休中)が歌っていた「Gingerbreadman」を、その透明度の高い歌声で原キーのまま歌い上げ、アンビエント風の音像も印象的だった(この日参加したボーカリストは空気の振動を感じさせるような素晴らしい歌声の持ち主ばかり)。一方、オリジナル曲の「浮遊船」は雄大な景色を感じさせる一曲で、岡田も参加するROTH BART BARONの三船雅也にも通じる歌声のスケール感は、新たなインディーフォークの旗手としての未来を期待させた。
3番手はこの日唯一の女性ボーカルであり、今年発表したアルバム『言葉のない夜に』も素晴らしかった優河。やはり一瞬にして引き込まれる歌声の持ち主であり、「海底登山」をイメージしたという「Bubble」はローをはっきり出したヘヴィな音像や、「Bubble=泡」を連想させる神谷の細やかな金物使いも耳に残る。神谷、岡田、谷口の3人は優河をサポートする「魔法バンド」のメンバーでもあるので、続くオリジナル曲「さざ波よ」も盤石。優河の曲には「水」をモチーフにした楽曲が多く、この日の選曲もそれを感じさせたが、やはり「海」から連想される深遠さやわずかな不安、その一方での大きな包容力を同時に感じさせる希有なシンガーであることを改めて感じた。
ここで一旦休憩を挟み、第二部のゲストボーカルはTHE CHARM PARKからスタート。第一部の3人が比較的穏やかだったのに対して、THE CHARM PARKはアコギを弾きながらノリノリで「Shine Again」を歌い、ペダルスティールとサックスのソロ(神谷の言葉を借りれば「サックスという楽器よりも木管」な響きの美しさは特筆もの)も交えながらの、ロック的なアクションが見た目にも楽しい。間にメンバー紹介を挟み、2曲目に神谷からのリクエストで披露したオリジナル曲「Sunflower」は爪弾かれるアコギと歌のみの繊細な序盤から始まりつつ、やはり後半に向けて盛り上がっていく曲で、THE CHARM PARKのアクションに刺激されたかのように神谷のドラミングも激しさを増していく。曲終わりにはTHE CHARM PARKがもう一度メンバー紹介をして、最後までショーマン精神たっぷりのステージングで魅せてくれた。
THE CHARM PARKがアコギを持ってステージに残り、次にステージにやってきたのはDaniel Kwon。日本在住の韓国系アメリカ人で、Lampのサポートで制作したファーストアルバム『ダニエル・クオン』以降、数多くの作品を発表し、リスナーのみならずミュージシャンからの支持も厚いミュージシャンズミュージシャンであり、神谷はもちろん、岡田や谷口も以前からファンを公言する音楽家だ。カジュアルなネルシャツ姿で、「今日はパートタイム」と笑っていたが、いざ「Wat」を歌い始めるとその存在感はやはり抜群。岡田によるエフェクティブなプレイに加え、アウトロでは谷口がノイズを垂れ流し、混沌とした雰囲気が他の曲にはない魅力を放っていた。
最後に登場したのは「20年来の友人」というRyo Hamamoto。個人的には、近年はアナログフィッシュのサポートでギターを弾いているのを目にする機会が多いのだが、その前に彼は素晴らしいシンガーソングライターであり、そのワイルドな見た目に反するジェントルな歌声が非常に魅力的だ。神谷とは「ときどきいがみ合うけど、兄弟喧嘩みたいなもの」と笑い、照れくさそうに「今日は呼んでくれてありがとう」と口にしていたが、そんな2人が「Bathing For The Sun」の最後で声を合わせて歌う瞬間は、非常にグッとくるものがあった。また、「昔一緒に作った曲」と言って、エレキを持って歌われたオリジナル曲「終電」では、ソロを岡田に任せ、神谷と向き合って楽しそうにギターをかき鳴らす姿も見られた。
アンコールでは神谷が自ら歌う「Invisible Seasons」を披露。「歌うのが一番緊張する」と言いながら、その素朴で温かみのある歌声は他のボーカリストにはない魅力があるし、アウトロで解放されたかのようにドラムを叩きまくる姿からはカタルシスが感じられた。最後はゲストボーカルが全員集合して、ビーチボーイズの「God Only Knows」で賑やかにセッション。音楽愛に満ち溢れ、それぞれの物語が交差した一夜の宴は大団円で幕を閉じた。
文:金子厚武
写真提供:COTTON CLUB
撮影:山路ゆか
赤い靴「Night Song」
2022年11月2日(水)
Format:Digital
Label:Make Some Records
Track:
1.Night Song
2.Inside
試聴はこちら
@kusameboy
@jumpeikamiya
ライブは神谷をはじめ、アルバムのレコーディングにも参加した岡田拓郎(ギター)、隅倉弘至(ベース)、副田整歩(サックス)に、谷口雄(ピアノ)、森飛鳥(ペダルスティール)を加えた6人がホストバンドとなり、同じくアルバムに参加し、神谷とはそれぞれ関係性の深いゲストボーカルが順番に登場して、アルバム曲と自身のオリジナル曲の2曲を歌うという構成で進行していった。
トップバッターはアルバムでも1曲目を飾る「Some Of See This」を歌っているYohei Shikano。普段はLAを拠点に活動する音楽家で、日本ではFLAKE RECORDSから作品を発表しているバンド・my hawaiiでの活動を覚えている人も多いかもしれない。神谷とShikanoがともにニット帽を被っていて、見た目はキュートだったが、そのシルキーな歌声は一瞬で会場内の空気を変える。カントリー調のオリジナル曲「Tublarasa」もペダルスティールの演奏含めて素晴らしかった。
神谷は体を揺らしながら独特のタイム感で、音楽に入り込んでドラムを叩く姿が印象的。序盤は繊細なタッチだが、楽曲が進むに連れて徐々に高揚していき、最後は激しくプレイをする即興性の高いアンサンブルが多いのはライブならではの部分だ。ちなみに、アルバムのマスタリングはBIG THIEFの作品などに関わるAndrew Sarloが手掛けていたが、ちょうど11月にBIG THIEFが来日公演を行っていて、僕もこの日の一週間ほど前に東京公演に足を運び、素晴らしいライブを見せてもらった。そのライブで感じたクオリティの高いソングライティングと即興性の同居は、神谷のライブでも確かに感じられるものだった。
2番手に登場したのは神谷がプロデューサーとして関わるシンガーソングライター・ERWIT。アルバムではPredawn(現在は産休中)が歌っていた「Gingerbreadman」を、その透明度の高い歌声で原キーのまま歌い上げ、アンビエント風の音像も印象的だった(この日参加したボーカリストは空気の振動を感じさせるような素晴らしい歌声の持ち主ばかり)。一方、オリジナル曲の「浮遊船」は雄大な景色を感じさせる一曲で、岡田も参加するROTH BART BARONの三船雅也にも通じる歌声のスケール感は、新たなインディーフォークの旗手としての未来を期待させた。
3番手はこの日唯一の女性ボーカルであり、今年発表したアルバム『言葉のない夜に』も素晴らしかった優河。やはり一瞬にして引き込まれる歌声の持ち主であり、「海底登山」をイメージしたという「Bubble」はローをはっきり出したヘヴィな音像や、「Bubble=泡」を連想させる神谷の細やかな金物使いも耳に残る。神谷、岡田、谷口の3人は優河をサポートする「魔法バンド」のメンバーでもあるので、続くオリジナル曲「さざ波よ」も盤石。優河の曲には「水」をモチーフにした楽曲が多く、この日の選曲もそれを感じさせたが、やはり「海」から連想される深遠さやわずかな不安、その一方での大きな包容力を同時に感じさせる希有なシンガーであることを改めて感じた。
ここで一旦休憩を挟み、第二部のゲストボーカルはTHE CHARM PARKからスタート。第一部の3人が比較的穏やかだったのに対して、THE CHARM PARKはアコギを弾きながらノリノリで「Shine Again」を歌い、ペダルスティールとサックスのソロ(神谷の言葉を借りれば「サックスという楽器よりも木管」な響きの美しさは特筆もの)も交えながらの、ロック的なアクションが見た目にも楽しい。間にメンバー紹介を挟み、2曲目に神谷からのリクエストで披露したオリジナル曲「Sunflower」は爪弾かれるアコギと歌のみの繊細な序盤から始まりつつ、やはり後半に向けて盛り上がっていく曲で、THE CHARM PARKのアクションに刺激されたかのように神谷のドラミングも激しさを増していく。曲終わりにはTHE CHARM PARKがもう一度メンバー紹介をして、最後までショーマン精神たっぷりのステージングで魅せてくれた。
THE CHARM PARKがアコギを持ってステージに残り、次にステージにやってきたのはDaniel Kwon。日本在住の韓国系アメリカ人で、Lampのサポートで制作したファーストアルバム『ダニエル・クオン』以降、数多くの作品を発表し、リスナーのみならずミュージシャンからの支持も厚いミュージシャンズミュージシャンであり、神谷はもちろん、岡田や谷口も以前からファンを公言する音楽家だ。カジュアルなネルシャツ姿で、「今日はパートタイム」と笑っていたが、いざ「Wat」を歌い始めるとその存在感はやはり抜群。岡田によるエフェクティブなプレイに加え、アウトロでは谷口がノイズを垂れ流し、混沌とした雰囲気が他の曲にはない魅力を放っていた。
最後に登場したのは「20年来の友人」というRyo Hamamoto。個人的には、近年はアナログフィッシュのサポートでギターを弾いているのを目にする機会が多いのだが、その前に彼は素晴らしいシンガーソングライターであり、そのワイルドな見た目に反するジェントルな歌声が非常に魅力的だ。神谷とは「ときどきいがみ合うけど、兄弟喧嘩みたいなもの」と笑い、照れくさそうに「今日は呼んでくれてありがとう」と口にしていたが、そんな2人が「Bathing For The Sun」の最後で声を合わせて歌う瞬間は、非常にグッとくるものがあった。また、「昔一緒に作った曲」と言って、エレキを持って歌われたオリジナル曲「終電」では、ソロを岡田に任せ、神谷と向き合って楽しそうにギターをかき鳴らす姿も見られた。
アンコールでは神谷が自ら歌う「Invisible Seasons」を披露。「歌うのが一番緊張する」と言いながら、その素朴で温かみのある歌声は他のボーカリストにはない魅力があるし、アウトロで解放されたかのようにドラムを叩きまくる姿からはカタルシスが感じられた。最後はゲストボーカルが全員集合して、ビーチボーイズの「God Only Knows」で賑やかにセッション。音楽愛に満ち溢れ、それぞれの物語が交差した一夜の宴は大団円で幕を閉じた。
文:金子厚武
写真提供:COTTON CLUB
撮影:山路ゆか
RELEASE INFORMATION
赤い靴「Night Song」
2022年11月2日(水)
Format:Digital
Label:Make Some Records
Track:
1.Night Song
2.Inside
試聴はこちら
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オフィシャルサイト@kusameboy
@jumpeikamiya