SENSA

2022.10.05

Helsinki Lambda Club、夢と現実を映し出した「Hello,my darkness」release tour東京公演

Helsinki Lambda Club、夢と現実を映し出した「Hello,my darkness」release tour東京公演

得体の知れないバンドになりつつある。今後さらに面白い存在になっていくはずだ、Helsinki Lambda Clubは(以下、ヘルシンキと表記)。今回、全国7ヵ所で行われた「Hello,my darkness」release tourの最終日を観て、そんな予感を覚えた。

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とくに本編のクライマックス、ミラーボールがゆっくりと回る中でパフォーマンスされた「夢で逢えたら」には、こちらの身体が柔らかく浮遊していくかのような感覚が得られた。フロントマンの橋本薫は、本ツアーの主軸である最新ミニアルバム『Hello,my darkness』のテーマは夢と現実であると語っていたが、この曲に満ちるソフト・サイケな空気感はまさに夢心地。極上だった。

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そう、サイケデリック! このところのヘルシンキは現実の範疇からちょっと足を踏み外し、夢想や想像によってイメージを飛ばしていくような表現に傾いている。それが集約されたのが『Hello,my darkness』なわけだが、この予兆は昨年リリースの2ndフルアルバム『Eleven Plus Two/Twelve Plus One』の時点からあった。自分たちの未来に思いを馳せ、そこから過去も現在もひっくるめた世界を表現したあの作品は、イマジネーションを自由に飛躍させることの楽しさ、面白さをバンドにもたらしたのではないかと思う。

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その意味で今回のライブの重要な局面のひとつは、ラッパーのWez Atlasをフィーチャーした最新作の「Mystery Train」以降の流れにあったと僕は考える。ライブの場でも生のバンド・サウンドとトラップ的なヒップホップ流儀の音が混在するこの曲は、客演のWezのまっすぐなラップもたくましく、ヘルシンキはそれに対して躍動するプレイで呼応した。この後、Wezが引き続き参加した「IKEA」ではポップなメロディーとファンク・ビートが交互に炸裂し、さらに次はインストの「Mind The Gap」のトライバルなノリへ連結。この2曲は『Eleven Plus Two~』の収録曲なのだ。そしてそこから再び新作の「真っ暗なドーナッツ」のディスコ的なビート感につながっていったのである。

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こうした曲では橋本もラップ的な歌を聴かせるのだが、本職のラッパーとは明らかに違う、揺らめくような、やや頼りないそのラップ(すまない)は、楽曲に潜むサイケ感へのいい呼び水となっている。ヘルシンキのサウンドにはポップ・パンクからオルタナティヴ・ロック、それにインディー・ロックと、現代ロックの要素がたくさん詰まっているが、こうしてラップ/ヒップホップへの接近を独自の感性でやってしまっているのも素晴らしいと思う。

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そしてこの夜も後半に披露された「午時葵」は、ここまで触れてきたサイケな感覚を内包しながら、オーディエンスを熱狂させるロック・アンセムとしても、さらには切実な関係を希求するラブソングとしても、最高の曲だ。どこまでも押し上げてくれるかのような、どこにでも連れて行ってくれるかのようなこの歌のエクスタシーは、ヘルシンキが手中にした最強の武器である。しかもこの日までにバンドは6つの都市をツアーで廻ってきているだけに、演奏のほうは好調そのもの。「午時葵」から、最初に書いた「夢で逢えたら」に続いていったのは、本当に素晴らしい時間だった。

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彼らのサイケデリックへの意識は、ほかの部分にも見受けられた。ライブの開演時のSEに使われていたのはオーストラリアのサイケ・バンド、キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザードの曲だったし、また、この東京公演ではステージ上のデザインも秀逸。舞台装飾は古着店のアンクヴィンテージとのコラボによって制作されたものだそうで、布や綿をふんだんに使ったそのアイテムたちは、どこかかわいらしさをまといながらも、現実離れした異空間を見事に創出していた。その場は、時に妖しい光を放つライティングも相まって、コンサートにストレンジな効果をもたらしていたのである。

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しかし、サイケデリック......そう、非日常の領域に踏み込もうとすると、そこで何かが起こるのは常なのだろうか。この日の2曲目、これも新作からの「Khaosan」でベースの稲葉航大が会場中を揺るがすほどの歪んだ爆音を奏でていたところ、なんと橋本のギターの音がまったく出なくなってしまい、彼は諦めてハンドマイク状態に。曲終わりで演奏を止め、ギターを交換することになったのだ。思わず生じた待ち時間に、ギターの熊谷太起は「俺らっぽいね」と笑った。その時の状況を橋本が「下がるはずがないボリュームが完全に0になってたのね。今日は幽霊のみなさんも観に来てくれてます(笑)。ありがとう」と説明すると、場内はどよめき、稲葉は「マジでいるね。完全にいるね、これは」とフォローにならないフォローをした(この時に橋本が歌の練習と言って初期の曲「チョコレィト」を1コーラスだけ唄ったのは<ふとした言葉とグラスの底に/亡霊みたいに漂っている>という歌詞があるからだろうか)。ついでに恐縮だが、かく言う僕もこの原稿を書いている最中に、PCのキーボードが突然まともに入力できなくなったり、めったにない偏頭痛に見舞われたりして、大いに悩まされた。サイケな幽霊のみなさん、どうかお手柔らかに......。

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ただ、勘違いしてほしくないのは、サイケに傾倒していると言っても、現在のヘルシンキは決してカルトだとかニッチな方向に向いているのではなく、むしろ自分たちが立つ場をより大きくしていきたいという、広がりへの意識があるということ。たとえば橋本はこのライブの前夜に「今回もこうして大きい舞台でワンマンができるのはありがたい。もっと大きくなるのだけど!」とツイートしていたし。アンコールのMCでは、Wez Atlasを名古屋と大阪にしか同行させられなかったことについて「もっと規模が大きくなっていければ、今度はWezくんを全箇所連れ回しできるんで」と語っていた。それは決して不可能なことではないと、僕も思う。

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彼らは来年、バンド結成10周年を迎える。今年はフジロックに初めて出ることができたが、それはシークレットでの前夜祭や代役でのRED MARQUEEへの出演だったので、来年は正式な出演を果たしたいという思いがあるとのことだ(稲葉が「フジロック、行きたいよー!」と叫んだ瞬間もあり)。ヘルシンキがバンドとしてさらに成長し、進化し、とんでもないロックを鳴らすバンドになっていけば、全然ありだろう。

ヘルシンキ! もっと、もっと得体の知れないバンドになっていってくれ。

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文:青木優
撮影:マスダレンゾ、タケシタトモヒロ


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LIVE INFORMATION

Helsinki Lambda Club presents "DOKI DOKI on LIQUIDROOM"
2022年11月4日(金)
恵比寿LIQUIDROOM
開場 18:00 / 開演 19:00
料金:前売り 3,800円(+ドリンク代)

チケット:
ぴあ / e+ / ローチケ


LINK
オフィシャルサイト
@helsinkilambda
@helsinkilambda
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