- TOPICS
- FEATURE
2022.09.23
去る9月2日と3日の両日、"KOHARU SUGAWARA presents "SUGAR WATER" @ Blue Note Tokyo ~夏のおわりにぴったり爆走うさぎエンターテイメント~"がブルーノート東京で開催された。中心人物の菅原小春は、世界的な活動を続けるダンサー/コレオグラファー。ブルーノート東京は内外の一流ミュージシャンが熱演を繰り広げてきた歴史あるジャズ・クラブだ。
両者の出会いは、物語性に富んだ内容・厚みのある音響・きめ細やかなライティングが一体となった、目にも耳にも鮮やかなショウとなってオーディエンスに届いた。
菅原は幼少の頃より創作ダンスを行ない、中高生の頃からさまざまなコンテストに出て優勝を重ねていた。18歳で米国ロサンゼルスに渡り、以降、世界を行き来してマライア・キャリー、リアーナ、SMAP、2NE1、少女時代らのバックダンサーや振り付けを担当するいっぽうで、神格的シンガー・ソングライターであるスティーヴィー・ワンダーとテレビCMで共演。2015年にはテレビ番組「情熱大陸」でフィーチャーされた。三浦大知のMV「Unlock -Choreo Video with Koharu Sugawara-」で三浦と繰り広げたダンスバトル、辻本知彦と共作したNHK2020応援ソング「パプリカ」のダンスも記憶に新しい。ブルーノート東京への登場は初めてであると同時に、今回の公演は単独としては5年ぶりのものとなる。
"一座"が超満員の観客の前で披露したのは、2016年と2017年の公演も大成功を収めた菅原小春自身のプロデュース作品「SUGAR WATER」だ。主人公は、少し変わり者の黒うさぎ"ザーレ"。海のように広大なマフス川のほとりに、父、母、姉と一緒に暮らしているものの、母はザーレのことが気がかりでしようがない。なぜならザーレはとにかく踊ることに夢中で、逆に言えば踊りしかとりえがないからだ。ザーレの夢はなんだろう? 母はザーレを引き連れて夢を探す旅に出る。
菅原がイマジネーションたっぷりにまとめあげた完全オリジナル・ストーリーが、ダンス+ナレーション+音楽の絶妙なコンビネーションによって綴られる。低音の利いた味わい深いナレーションは俳優の黒田大輔が担当。大型の"飛び出す絵本"のようなテキストを開いて、単に文章を音読するというよりは、時にゆっくりと、時に早めのテンポでコントラストをつけていく。抑揚に富んだ口調が、次はどう展開していくのかと、物語への期待をさらにかきたてる。
ダンサーは菅原、髙中梨生、猪野なごみ、中嶋美虹の4人。音楽面は5人組バンド"チーナ"と、菅原の実姉であるギター&ボーカルのタテジマヨーコが担当した。ステージはナレーションと音楽が交互に登場しながら、進んだ。
物語のバックグラウンドが、楽しく、わかりやすく説明されてゆくオープニングで幕を開けたステージ、最初に披露されたのは「クシコスポスト」、"運動会の定番"と認識している方も多いのではないだろうか。今から100年以上前に、ドイツの作曲家ヘルマン・ネッケが書いた、どこか哀愁のあるメロディ、歯切れのよいテンポと、ダンサー(髙中、猪野、中嶋)の動きが快くシンクロする。そして3人のダンサーに、菅原小春が合流。
ピアノを弾くのが大好きなクマのミファと、ザーレが出会うシーンで披露されるナンバー「レ」では、菅原のしなやかなソロダンス、チーナの椎名杏子によるキーボード弾き語りにスポットライトがあたる。
旅を続けるザーレの前に、歌うたいのモグが現れる。ダンサー4人の動きは、"しなやか"と"剛性"の間にある無数のバリエーションを、徹底的にキメ細かに表現している。
次の「明るい家族計画」、ボーカルパートは椎名とタテジマを中心に進行。この楽曲はゲストダンサー(國友裕一郎、3日ファースト・セットのみ辻本知彦)のショウケース的ナンバーでもあり、ショウの中の見どころの一つともなっていた。
続くブルース調の楽曲の「I really Wanna Pee」では4人のダンサーが観客席を通り、バーカウンターに用意されたカクテル(まばゆいほどのオレンジ色であった)を小道具に用いた演出が斬新だった。チーナのドラマー、HAPPYは首からぶら下げたスネア・ドラムを演奏しながら客席に降臨した。
ステージも中盤に差し掛かる中で披露されたダンサーもミュージシャンも全員参加する即興シーンの面白さ!他のパートで完璧な演唱やダンスを魅せる面々が、ふとした瞬間にあせったり、戸惑ったり。その部分に立ち会えるのも、ライブの魅力の一つである。
この日のステージの音楽面を支えたチーナの技巧が発揮された楽曲のひとつだったのが「カラテ」。現メンバーは椎名杏子(ヴォーカル、キーボード)、リーダー(ギター)、柴由佳子(ヴァイオリン)、林絵里(ベース)、HAPPY(ドラムス)。2007年に結成され、2015年からはその拡大版というべき15人編成のチーナフィルハーモニックオーケストラによる活動でも話題を集めてきた。椎名、柴、林は音楽大学でクラシックを学んだ経験があり、特に「カラテ」ではそのバックグラウンドを生かした林の弓弾きが光った。
タテジマが、どこか英国のアシッド・フォークにも通じる幻想的な世界を歌とギターで届けた「とりっぴー」。それはソロ・アルバム『CD!』における、思いをそのままぶちまけるような音作りとは一線を画す、しかし同じように魅力的なものだ。ダンサー4人の動きにはユーモアと超絶が同居していて、それは卓越したチームワークに培われているのであろう。
黒田大輔の朗読が観客をステージに惹きつけ、この劇中、最も長尺のセクション「スーパースロー」に。逆光の中で展開される菅原のソロダンスが時の経過を忘れさせる。指先のひとつひとつの、ほんのわずかな動きまでもが雄弁で、そこに流れるチーナの音楽も実に美しい。『PULL』をはじめとするアルバムも含めてチーナのサウンドから伝わるのは"音楽に壁はない""ジャンルに貴賎なし"というマインドである。それはまた、ダンスの可能性を拡げ続けている菅原と大いに通じ合うものでもあろう。
ザーレの旅も、ここで一段落。快いカタルシスを与えるパートから大団円的なラスト・ナンバー「Go Home!」 に。この演劇をナレーションで支えた黒田大輔も舞台上に登場し、一際大きな喝采を受けていた。
「Go Home!」が終わっても、客席の拍手が止むことはない。カーテンコールとして登場したキャストたちは、誰もが"超"の字をつけたくなるほどの笑顔だ。お辞儀の深さ、姿勢のよさに感じ入っているうちに、グッズ紹介コーナーへ。先ほどまで華麗に舞っていた髙中梨生、猪野なごみ、中嶋美虹の表情はすっかり、陽気な売り子といった印象である。
ダンスと音楽とナレーション、シリアスとユーモアが一体となった未知の世界を、しかも至近距離で体験できる幸せ。それを満喫できる瞬間の連続が"KOHARU SUGAWARA presents "SUGAR WATER" @ Blue Note Tokyo ~夏のおわりにぴったり爆走うさぎエンターテイメント~"には充ちていた。
文:原田和典
撮影:佐藤 拓央
衣装協力:GUCCI
@koharusugawara
@kokokoharu
両者の出会いは、物語性に富んだ内容・厚みのある音響・きめ細やかなライティングが一体となった、目にも耳にも鮮やかなショウとなってオーディエンスに届いた。
菅原は幼少の頃より創作ダンスを行ない、中高生の頃からさまざまなコンテストに出て優勝を重ねていた。18歳で米国ロサンゼルスに渡り、以降、世界を行き来してマライア・キャリー、リアーナ、SMAP、2NE1、少女時代らのバックダンサーや振り付けを担当するいっぽうで、神格的シンガー・ソングライターであるスティーヴィー・ワンダーとテレビCMで共演。2015年にはテレビ番組「情熱大陸」でフィーチャーされた。三浦大知のMV「Unlock -Choreo Video with Koharu Sugawara-」で三浦と繰り広げたダンスバトル、辻本知彦と共作したNHK2020応援ソング「パプリカ」のダンスも記憶に新しい。ブルーノート東京への登場は初めてであると同時に、今回の公演は単独としては5年ぶりのものとなる。
"一座"が超満員の観客の前で披露したのは、2016年と2017年の公演も大成功を収めた菅原小春自身のプロデュース作品「SUGAR WATER」だ。主人公は、少し変わり者の黒うさぎ"ザーレ"。海のように広大なマフス川のほとりに、父、母、姉と一緒に暮らしているものの、母はザーレのことが気がかりでしようがない。なぜならザーレはとにかく踊ることに夢中で、逆に言えば踊りしかとりえがないからだ。ザーレの夢はなんだろう? 母はザーレを引き連れて夢を探す旅に出る。
菅原がイマジネーションたっぷりにまとめあげた完全オリジナル・ストーリーが、ダンス+ナレーション+音楽の絶妙なコンビネーションによって綴られる。低音の利いた味わい深いナレーションは俳優の黒田大輔が担当。大型の"飛び出す絵本"のようなテキストを開いて、単に文章を音読するというよりは、時にゆっくりと、時に早めのテンポでコントラストをつけていく。抑揚に富んだ口調が、次はどう展開していくのかと、物語への期待をさらにかきたてる。
ダンサーは菅原、髙中梨生、猪野なごみ、中嶋美虹の4人。音楽面は5人組バンド"チーナ"と、菅原の実姉であるギター&ボーカルのタテジマヨーコが担当した。ステージはナレーションと音楽が交互に登場しながら、進んだ。
物語のバックグラウンドが、楽しく、わかりやすく説明されてゆくオープニングで幕を開けたステージ、最初に披露されたのは「クシコスポスト」、"運動会の定番"と認識している方も多いのではないだろうか。今から100年以上前に、ドイツの作曲家ヘルマン・ネッケが書いた、どこか哀愁のあるメロディ、歯切れのよいテンポと、ダンサー(髙中、猪野、中嶋)の動きが快くシンクロする。そして3人のダンサーに、菅原小春が合流。
ピアノを弾くのが大好きなクマのミファと、ザーレが出会うシーンで披露されるナンバー「レ」では、菅原のしなやかなソロダンス、チーナの椎名杏子によるキーボード弾き語りにスポットライトがあたる。
旅を続けるザーレの前に、歌うたいのモグが現れる。ダンサー4人の動きは、"しなやか"と"剛性"の間にある無数のバリエーションを、徹底的にキメ細かに表現している。
次の「明るい家族計画」、ボーカルパートは椎名とタテジマを中心に進行。この楽曲はゲストダンサー(國友裕一郎、3日ファースト・セットのみ辻本知彦)のショウケース的ナンバーでもあり、ショウの中の見どころの一つともなっていた。
続くブルース調の楽曲の「I really Wanna Pee」では4人のダンサーが観客席を通り、バーカウンターに用意されたカクテル(まばゆいほどのオレンジ色であった)を小道具に用いた演出が斬新だった。チーナのドラマー、HAPPYは首からぶら下げたスネア・ドラムを演奏しながら客席に降臨した。
ステージも中盤に差し掛かる中で披露されたダンサーもミュージシャンも全員参加する即興シーンの面白さ!他のパートで完璧な演唱やダンスを魅せる面々が、ふとした瞬間にあせったり、戸惑ったり。その部分に立ち会えるのも、ライブの魅力の一つである。
この日のステージの音楽面を支えたチーナの技巧が発揮された楽曲のひとつだったのが「カラテ」。現メンバーは椎名杏子(ヴォーカル、キーボード)、リーダー(ギター)、柴由佳子(ヴァイオリン)、林絵里(ベース)、HAPPY(ドラムス)。2007年に結成され、2015年からはその拡大版というべき15人編成のチーナフィルハーモニックオーケストラによる活動でも話題を集めてきた。椎名、柴、林は音楽大学でクラシックを学んだ経験があり、特に「カラテ」ではそのバックグラウンドを生かした林の弓弾きが光った。
タテジマが、どこか英国のアシッド・フォークにも通じる幻想的な世界を歌とギターで届けた「とりっぴー」。それはソロ・アルバム『CD!』における、思いをそのままぶちまけるような音作りとは一線を画す、しかし同じように魅力的なものだ。ダンサー4人の動きにはユーモアと超絶が同居していて、それは卓越したチームワークに培われているのであろう。
黒田大輔の朗読が観客をステージに惹きつけ、この劇中、最も長尺のセクション「スーパースロー」に。逆光の中で展開される菅原のソロダンスが時の経過を忘れさせる。指先のひとつひとつの、ほんのわずかな動きまでもが雄弁で、そこに流れるチーナの音楽も実に美しい。『PULL』をはじめとするアルバムも含めてチーナのサウンドから伝わるのは"音楽に壁はない""ジャンルに貴賎なし"というマインドである。それはまた、ダンスの可能性を拡げ続けている菅原と大いに通じ合うものでもあろう。
ザーレの旅も、ここで一段落。快いカタルシスを与えるパートから大団円的なラスト・ナンバー「Go Home!」 に。この演劇をナレーションで支えた黒田大輔も舞台上に登場し、一際大きな喝采を受けていた。
「Go Home!」が終わっても、客席の拍手が止むことはない。カーテンコールとして登場したキャストたちは、誰もが"超"の字をつけたくなるほどの笑顔だ。お辞儀の深さ、姿勢のよさに感じ入っているうちに、グッズ紹介コーナーへ。先ほどまで華麗に舞っていた髙中梨生、猪野なごみ、中嶋美虹の表情はすっかり、陽気な売り子といった印象である。
ダンスと音楽とナレーション、シリアスとユーモアが一体となった未知の世界を、しかも至近距離で体験できる幸せ。それを満喫できる瞬間の連続が"KOHARU SUGAWARA presents "SUGAR WATER" @ Blue Note Tokyo ~夏のおわりにぴったり爆走うさぎエンターテイメント~"には充ちていた。
文:原田和典
撮影:佐藤 拓央
衣装協力:GUCCI
LINK
オフィシャルサイト@koharusugawara
@kokokoharu