SENSA

2022.07.20

菅原慎一率いる「アジアのバンド」SAMOEDOの初作『SAMOEDO』に聴く、インディーミュージックのトランスナショナル性

菅原慎一率いる「アジアのバンド」SAMOEDOの初作『SAMOEDO』に聴く、インディーミュージックのトランスナショナル性

菅原慎一(ギター)、nakayaan(ベース)、鈴木健人(ドラム)、沼澤成毅(キーボード)による新バンドSAMOEDO(サモエド)がファーストアルバムを発表した。
ここ10年ほどのインディーロック/ポップシーンの最前線で活躍してきた四人が今奏でるのは、<アジアへ向けて発信するのではなく、アジアから発信する>音楽だ。こう書くと、なにやらエキゾチックな音楽をやっているのかと思われるかもしれないが、実際はその逆である。逆というのはつまり、本来は当然日本自身もそこに含まれるはずなのになぜか他者として表象されがちな「アジア」という概念を、マクロな地域性に基づいたボーダーレスな集合として再咀嚼し、自らの中にあるオリエンタリズム的な眼差しを音楽をもって中和しようとしている、ということである。

つまり、グローバリゼーションの敷衍を経て、アジア圏全域の(主に都市部で)ある種の共有材として浮かび上がってきたインディーミュージックの粋を、一つの紐帯的コミュニケーション言語としてポジティブに捉えなおそうとしているのだ。それゆえにだろう、ここに収められた音楽は、どれもスムースで洗練されていて、実に冷静だ。ときにアンビエントやダンスミュージックの意匠をまといながらも、それらによって特定の「〇〇(任意の音楽ジャンルや国名)っぽさ」へとリスナーの意識を誘導しようとしているのではなくて、むしろ、それらの音楽言語がアジア各地のシーンを接着させる触媒の一種として機能してきた(している)様を浮かび上がらせる。

一方で、「日本こそがアジア文化を牽引するトップランナーである」あるいはその派生パターンとしての「欧米文化の翻訳に長けたアジアの盟主・日本」といった、その昔にありがちだった視野狭窄も綿密に退けられている。あくまで、「日本も実はアジアの一部」なのではなくて、「はじめから日本はアジア」なのだ。SAMOEDOは、この微妙な(けれど決定的に大きな)差異を、音楽を通じて考えようとする。それは、複数曲で聴ける英文法的にややおかしげな歌詞(もちろん意図的だろう)と菅原の歌唱からも伺える。いわゆる「ローカライズされたカタコト英語」や「怪しげな文法」を恥ずべきものとして退けてきた日本人一般の感覚を、したたかに相対化してみようと試みているのだと理解したい。言語だって「グローカル」でいいじゃないか。というか、そうあるべきだとすらいえるのではないか。

聞きやすくポップだからこそ、同時に鋭く批評的な音楽だ。コンテクストの輻輳は、それが十分によく練られている場合は、私も、あなたも、すんなりと飲み下せるものなのだ。

文:柴崎祐二



RELEASE INFORMATION

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SAMOEDO「SAMEDO」
2022年7月15日(金)
Format:Digital / LP / CD /カセット
Label:NOTT
LP:¥4,070(税込)
CD:¥2,970(税込)
カセット:¥1,980(税込)

Track:
1. again a bag of pop
2. Suiteki
3. Dance Today
4. Goodbye de
5. miracle magic
6. Ano Kuno Funo Hane
7. PARADE
8. くせのないくせに

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LIVE INFORMATION

SAMOEDO 1st Album "SAMOEDO" Release Party
2022年8月10日(水)
代官山SPACE ODD
OPEN:18:30 / START:19:30
前売り:¥3,800+1Drink
問い合わせ先:SMASH 03-3444-6751(https://smash-jpn.com)


LINK
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