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2022.06.17
「酒を飲める世の中が戻ってきた!」。ライヴ序盤、バンドとオーディエンスがこの日最初の乾杯を交わしたあと、ギタリストのキイチが叫んだ。場内は爆笑と苦笑で包まれたが、振り返ってみると、あの咆哮こそがこの夜を象徴していたのかもしれない。これはコロナ禍以前の日常が戻ってきていることへの喜びの言葉であるからだ。
6月12日の日曜日、週末の恵比寿は快晴。最高気温26度といよいよ夏の訪れを感じさせる陽気のなか、YONA YONA WEEKENDERS(以下、YYW)のワンマンライヴが東京・恵比寿のLIQUIDROOMで開催された。この日の公演はソールドアウト。アフターコロナのムードが強まってきた昨今、もちろんマスク着用やソーシャルディスタンスの確保など感染対策を入念にとったうえでのことだが、開演前のオーディエンスからも、ここ数年にはなかった開放的でリラクシンなヴァイブスが伝わってきた。お酒を飲みながら、恋人や友達と談笑しながら、場内に賑やかさを与えている。
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YYWのライヴがはじまったのは、開演予定時刻を15分ほど過ぎたほど。少し遅れたことについてフロントマンの磯野くんがMCで説明する。その理由はなんと「お客さんが開演前にお酒を買っておこうとバーカウンターに集中し、長い行列ができてしまった」ため。YYWがめざす〈ツマミになるグッド・ミュージック〉という音楽のありかた。彼らのファンがその楽しみ方を正しく理解していることを伝える逸話である。そして、ライヴの一曲目を飾った"光の中"は、ゆっくりと飲みはじめるのにうってつけのナンバー。小原"beatsoldier"壮史とスズキ シンゴが紡ぐ、緩やかに、でも確かな足取りで進むバックビート、磯野くんとキイチによる柔和なギターカッティングが、オーディエンスの身体をゆっくりと揺らしはじめる。
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サイケデリックなソウル"夜のgroovin'"は場内を心地よく酩酊させ、メロディックパンクというバンドの出自を匂わせる"15"にフロアはスウィングする。さらに"Good bye"や"Night Rider"など磯野くんの声の色気を存分に味わえる楽曲が、スロウなダンスタイムを提供する。そして"月曜のダンス"と紹介された、YYWには少し珍しいアップテンポなディスコロック調の新曲を披露してライヴの前半パートは終了した。
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次の展開は誰もが予想しえなかったものだろう。〈居酒屋LIQUIDROOM〉と称した、お客さんにお酒を買いに行ってもらうための休憩タイム。YYWのメンバーたちもステージにテーブルと椅子を出し、お客さんから差し入れでもらったというアルコールやおつまみを並べては、飲み会トークを繰り広げる。メンバーの話に声を出して笑う人もいれば、ドリンクを買いに行ってそのまま友達とガヤガヤ話し込む人もいる。何をやってもいい、というこの空気がたまらなくいい。
〈居酒屋LIQUIDROOM〉が20分ほど続いたあと、後半パートはいきなり、"終電で帰ります"、"泡沫の夢"、"R.M.T.T"の3曲で畳み掛け。いずれも今夜恵比寿に集まった多くの人々にとって、みずからの生活のなかでの苦楽を投影させずにはいられないナンバーだ。残業続きの毎日のやるせなさ、一人ベランダで飲むビールに香る哀愁、そして美味いラーメンを無我夢中で食べるというささやかな幸福。YYWの音楽は、リスナーの飾らない想いを、シティーポップやソウルの影響を受けた洒脱なサウンドで少しだけ煌めかせてくれるのだと思う。
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本編ラストの"思い出 in the sky"で大団円で迎えたあと、アンコールに入る前のMCで、磯野くんは「身近な人たちとの輪を変えることなく、そのままで大きくしていきたい」と語った。この夜のLIQUIDROOMでは、バンドやサポートメンバーとオーディエンス、のみならずステージ袖のスタッフまでもが杯を交わし合い、まさに飲みにケーションによって親密なサークルが出来上がっていたように思う。
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コロナ禍の時代において、ライヴハウスは音楽の場をひたすらと守り続けてくれた一方、それゆえに多くの面でその場にいる人に我慢を強いる場にもならざるをえなかった。そうした不自由さとともにいた数年を経て、今回のYYWはバックトゥ日常な空気を掴みながら、LIQUIDROOMをより開放的で自由な空間へと戻すことに成功していた。もはや何回目かもわからない乾杯を経て、アンコールで演奏されたのは"SUNRISE"。〈またはじめよう普遍の世界で〉という言葉が、そこにいた人たちの心に強く刻まれたことだろう。
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バンドの4人にサポートメンバーの2人を加えた編成による、グルーヴィーで艶やかな演奏がこの場をダンスフロアにしたのは言うまでもない。だが、それと同等に素晴らしかったのは、お酒というガソリンも入れながら、ステージ上のバンドやミュージシャンを崇めるのではなく、そこにいる自分たちこそが中心であるというオーディエンスの振る舞いだった。そういうお客さんのいるパーティーこそが、〈ツマミになるグッド・ミュージック〉を標榜しているYYWにとって理想の空間だろう。主役は音楽(だけ)じゃない。最高のツマミとともにお酒を飲み、踊るあなたあってのYYWなのだ。
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文:田中亮太
写真:Isamu Honma
@yyw_from_tyo
@yonayonaweekenders
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〈居酒屋LIQUIDROOM〉が20分ほど続いたあと、後半パートはいきなり、"終電で帰ります"、"泡沫の夢"、"R.M.T.T"の3曲で畳み掛け。いずれも今夜恵比寿に集まった多くの人々にとって、みずからの生活のなかでの苦楽を投影させずにはいられないナンバーだ。残業続きの毎日のやるせなさ、一人ベランダで飲むビールに香る哀愁、そして美味いラーメンを無我夢中で食べるというささやかな幸福。YYWの音楽は、リスナーの飾らない想いを、シティーポップやソウルの影響を受けた洒脱なサウンドで少しだけ煌めかせてくれるのだと思う。
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文:田中亮太
写真:Isamu Honma
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