SENSA

2022.05.27

ゆうらん船「MY REVOLUTION」──ポップとアヴァンギャルドの鮮やかな融合。時間旅行のようなアルバム

ゆうらん船「MY REVOLUTION」──ポップとアヴァンギャルドの鮮やかな融合。時間旅行のようなアルバム

 本当に素晴らしいアルバムである。過去の名作を愛でる志向と、シーンの未来を見据える姿勢とが自然に並び立つことにより、このバンドにしか生み出せない今の音楽が鮮やかに具現化されている。ポップな要素とアヴァンギャルドな要素が極端な振り幅で同居しているのだけれども、その推移が滑らかなために違和感はほとんどない。一曲一曲の出来も良いが、アルバム全体としての構造の方がより興味深く、そういう"魅力的な迷宮"のような居心地こそが無二の個性になっている作品だと思う。
 "フォーキーでストレンジな日本語ロックを土壌とした"と紹介されている本作だが、軸となっている音楽スタイルは曲によって大きく異なる。「Flag」や「good morning」にはThe Bandやスワンプロックの風味が漂うが、「Parachute」はAmerican Footballのようなエモ〜ポストロックを日本のフォークに落とし込んだような趣がある。また、「Tide」でDirty Projectorsやブレイク・ミルズのような近年のUSインディロックに通じる音響構築がなされている一方で、「Bridge」はL`RainやflanafiのようなチルウェイブがかったオルタナティブR&Bを連想させる。「Hurt」はNeu!とサーフロックを混ぜたような仕上がりで、それに続く「Headphone2」はClusterあたりと並べても遜色のない電子音響の快楽に満ちている。「Hurry up!」はポストパンクとエレクトロファンクを近年の音響感覚のもとで融合させた感じだし、「少しの風」はThe Velvet UndergroundとGastr Del Solを日本のフォークを介して接続するような批評性が素晴らしい。そして、こうしたことを踏まえて冒頭の「Waiting for the sun」に戻ってくると、オルタナティブR&Bと日本の70年代のフォークロックを掛け合わせたような曲調の中に、以上の全ての要素がさりげなく溶け込んでいるのに気付かされる。サティを想起させる小品「at dusk」を真ん中に配した曲順構成も絶妙で、上記のようなジャンル飛躍が全く気にならない。なにより、最終曲から冒頭曲への繋がりが非常に良く、繰り返し聴くほどに旨みが増していく。これほど楽しくリピート再生できる作品もなかなかない。様々な意味において、時間旅行のような体験ができるアルバムなのだと思う。
 このような音楽が可能になったのは、メロトロン音色(一般的にはどうしてもレトロなイメージが伴う)を新鮮に聴かせてしまうオーケストレーションの見事さや、ビター&スウィート感を絶妙に両立する個性的なボーカルなど、ゆうらん船ならではの演奏表現力によるところが大きいだろう。刺激的な要素が多いのにリラックスした居心地の良さがまさる聴き味も好ましく、「Waiting for the sun」から「good morning」に至る未明の気分を絶妙に表すこの感じは、このバンドだからこそ形にできたものではないかとも思う。クセはあるけれども間口は広く、強烈に捻られている場面でも親しみやすさが保たれる。多くの人に聴かれるべき傑作である。

文:s.h.i.




RELEASE INFORMATION

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ゆうらん船「MY REVOLUTION」
2022年5月25日(水)
Format:Digital
Label:O.O.C Records

Track:
1. Waiting for the sun
2. Flag
3. Parachute
4. Tide
5. Bridge
6. at dusk
7. Hurt
8. Headphone2
9.Hurry up!
10. 少しの風
11. good morning

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ゆうらん船「Flag」Music Video



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