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2022.01.27

後藤正文・長谷川白紙・井上銘と共演、HHMMがツアーファイナルで見せた一日限りの特別なステージ

後藤正文・長谷川白紙・井上銘と共演、HHMMがツアーファイナルで見せた一日限りの特別なステージ

1月20日、日向秀和と松下マサナオによる即興ユニットHHMMが『Live Tour 2021 Final featuring Awesome Friends !!!』をCOTTON CLUBで開催した。昨年6月にはBLUE NOTEを舞台に『Awesome Party with Beautiful Friends』を開催し、ELLEGARDEN/Nothing's Carved In Stoneの生形真一やトランペット奏者の類家心平らを迎え、総勢8名でのセッションが行われたが、この日はASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文、シンガーソングライターの長谷川白紙、ギタリストの井上銘という出自も世代も異なる3人がゲストとして迎えられ、一日限りの共演を果たした。

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まずは日向と松下の2人がステージに登場し、挨拶代わりに2人での演奏を披露。日向は赤いボディが鮮やかなESPのシグネチャーモデル「RED 極」を持ち、エフェクティブなプレイからスタートすると、松下もビートを刻むのではなく、タムやシンバルを叩いて呼応していく。ともにリラックスしながらも、自然にジワジワと熱を帯びていく展開からは、これまで何度となくステージをともにしている2人の関係性が垣間見える。

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「今日は俺ら前座みたいなもんなんで」「ZENZA BOYSなんで」と、昔所属していたバンドをもじって笑いが起こる和やかなムードの中、ここで早速この日のゲスト、井上銘と長谷川白紙を招き入れる。ジャズを背景に持ち、自らのバンドであるSTEREO CHAMPやCRCK/LCKSなどの活動も含め、セッション経験豊富な井上に対し、やはり注目なのは長谷川だろう。昨年10月に発表した新曲"ユニ"に松下が参加したことが縁で、この日に繋がったのかと思うが、彼がインプロでどんな立ち回りを見せるのかは非常に興味深かった。

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4人のインプロはまず井上のギターから始まり、長谷川が様々な音色のノイズを乗せていく。そこにベースとドラムも加わりつつ、全体でひとつのリズムを刻むということはなく、それぞれがパッセージを繰り出しながら、ずれたり合わさったりを繰り返し、グルーヴを生んでいった。そんな中で印象的だったのが、途中からキーボードに移った長谷川が速弾きや鍵盤の連打など、かなりフィジカルなプレイを見せていたこと。彼の音楽にはエレクトロニックな側面もあり、エディットも駆使されたりもしているが、その根幹にはフィジカルなプレイヤーとしての顔があるということを強く感じさせ、彼がよく愛情を公言している電子音楽家のrei harakamiも、ベーシストとしての顔を持つことを思い出したりもした。

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ライブ中盤からは後藤も加わって、5人によるセッションへ。後藤は2020年1月にビルボードで行われたYasei Collectiveの10周年キックオフイベントでも松下と共演し、そこでもポエトリーリーディングを行うなど、即興の経験は豊富。序盤は長谷川のジャジーなエレピから始まり、井上が空間系のアンビエントな音を重ね、後藤もラジオノイズなどを加えつつ、途中から身振り手振りも交えながらポエトリーリーディングを聴かせていく。リズムが徐々にパーカッシブになったり、井上が途中でエレアコに持ち替えてメロディーの断片を弾いたりと、「自由とは」「音楽とは」を紡ぐポエトリーと演奏が呼応しながら進むスリリングなステージは、ビートニク時代のニューヨークや、ポエトリーリーディングが復権した2010年代後半のロンドン・ウィンドミル周辺のシーンと、時空を超えて結びつくかのような印象を受けた。

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最後は松下が昨年コロナウィルスに感染して療養中に、ベッドの上で見た幻覚を基に書いたという詩を後藤が朗読するという流れに。松下が詩を書いたのは今回が3作目だそうで、最近だとShe Her Her Hersのドラマー・松浦大樹が自ら歌詞を書いて歌うソロプロジェクトsaccharinを本格始動させたりもしているが、ドラマーはバンドの中でも特に独自の哲学を持ったプレイヤーが多い印象で、その哲学が言語化されることは非常に興味深い。

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後藤が「心配になるくらい暗い」と笑った松下の詩に対して、長谷川が文字通り幻覚作用を起こしそうなノイズを鳴らし、井上もテーブルに置いたエフェクターをいじってそれに呼応して、かなりサイケデリックな演奏で本編が終了。アンコールでは朗読なしで、5人でもう一度即興を行い、後藤は声を楽器のように鳴らすことでアンサンブルにさらなる違和感を加えて、特別なステージが幕を閉じた。

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2009年にスタートしたYasei Collectiveは「一人でも歩いていける者の集団」というコンセプトでそのバンド名が付けられ、その姿勢はSNSが発達して「個」の存在が立ち現れた2010年代以降のベーシックとなった。現在のYasei Collectiveはその名の通り、松下はもちろんのこと、中西道彦と斎藤拓郎もまたそれぞれの領域で活躍をしている(現在「パジャマで海なんかいかない」でも活動する元メンバーの別所和洋にしても、同じことが言える)。そして、「バンドの中の一ベーシスト」という枠組みを超えて、個を確立した先人こそが、日向秀和だったと言えよう。この日もそんな強烈な個が集まり、同じ時間に同じ空間でともに音を鳴らすということがいかにスペシャルな体験であるかを感じさせる、とても幸福で贅沢な時間だった。

文:金子厚武
撮影:山路ゆか(写真提供:COTTON CLUB)


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