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2022.01.19
HIP LAND MUSICとTHE NINTH APOLLOによるライブイベント『NoBorder #約束』。閉館の新木場USEN STUDIO COASTにて交わした「約束」
音楽プロダクション / レーベルのHIP LAND MUSICとTHE NINTH APOLLOによるライブイベントが、1月10日(月・祝)に新木場USEN STUDIO COASTにて開催された。このイベントは、HIP LAND MUSICのPRODUCE 2と、執行役員およびMASH A&Rの副社長も務める柳井貢氏が、THE NINTH APOLLOのレーベルオーナー・渡辺旭氏に声をかける形で実現。本イベントは「HIP LAND MUSIC PRODUCE 2 presents 871 meets AKIRA WATANABE Promise to fulfill before farewell to STUDIO COAST 『NoBorder #約束』」と題され、それぞれのレーベルからSaucy Dog、DENIMS、ユレニワ、SIX LOUNGE、KOTORI、TETORAの6組が出演した。本レポートでは、ボリュームたっぷりの1日の様子をお届けする。
ところで、本イベントには「約束」というキーワードが掲げられている。ライブハウスは様々な「約束」が交わされる場所だと筆者は考える。「またここで会おうね」とライブ仲間と交わす約束。アーティストの輝く姿や熱い言葉を受けて「明日から頑張ろう。そしてまたライブに来よう」と思う自分との約束。はたまた、アーティスト自身が「もっと大きくなってここに帰ってくる」とライブハウスと交わす約束や、アーティストを支える者同士の約束もあるだろう。あなたも何かしらの「約束」を心の中で交わしたことがあるのではないだろうか。ただ、そんなたくさんの約束が交わされ・果たされた場所がまた一つ、終わりを迎えてしまうのだ。ラストランを走り始めたコーストで、「約束」というバックドロップを掲げた本イベントのステージ。そこでまた、さまざまな約束が交わされた。
トップバッターはユレニワ。コースト名物のミラーボールがキラキラと回り、フロアが青や紫に染まる中、シロナカムラ(Vo/Gt)の「新木場ー!」という叫びでライブが幕を開けた。1曲目はRENJU(Dr /Cho)の大きなビートに乗せて堂々と届けられた『Birthday』。音の洪水と言わんばかりの爆音でアウトロをたっぷり聴かせ、「ユレニワです!よろしく!」とシロが挨拶。そのままRENJUのビートと観客のクラップで『Cherie』へ繋ぐと、ポップなサビでフロアからは拳が挙がり、始まったばかりのイベントを早速熱くした。退廃的なシロのボーカルが特徴的な『だらしないね』では、間奏で宮下レジナルド(Ba/Cho)と種谷佳輝(Gt/Cho)が1歩前に出て弾き、シロもステージに寝っ転がりながら自由に弾き倒すなど、衝動がそのまま音になったような彼ららしい熱いステージングが繰り広げられた。シロが「今日は楽しんで頂きたくて攻めたセットリストを用意しています」と言葉を挟んで『Bianca』へ。
情感たっぷりな演奏とひとつひとつの言葉を大切に紡いでいく歌にじっと聴き入るフロア。そこからインストナンバーの『fusée 101』を挟み、『まぼろしの夜に』を届ける。種谷が弾くシンセサイザーが、幻想的な空間を生み出すシューゲイズ要素満点な1曲。シロが「ユレニワもユレニワなりの約束を背負っています。やるべきことがたくさん。」と言い放ち、最後に『バージン輿論』でトップバッターを締めた。『バージン輿論』のしっとりしたイントロから、突然加速し最高の盛り上がりを見せる展開と、叫びと美しい歌唱を瞬時に切り替えるシロの表現力、ステージを自由に右へ左へと行き来する宮下と1歩前に出てギターを弾き倒す種谷、そして長い髪を振りながら派手なドラミングを魅せたRENJU、1人1人が光るパワフルなパフォーマンスが、会場を熱し大きな余韻を残していった。間違いなく、最高のトップバッターだった。
ユレニワの熱をそのまま受け継ぎ、リハーサルから盛り上がりを魅せたのはKOTORI。1曲目の『We Are The Future』では、背後からの光を背負い、シルエットだけが見える神聖な演出が、深いリバーブのかかった歌とマッチしていて《音楽で大切なものを守れますように》というメッセージをより一層強くしていた。日が昇って朝がくるように照明がだんだんとフロアを照らしていくと、ようやく多くの人が拳を突き上げているのが見える。なんて神秘的な始まり方なのだろうか。そして今の季節にぴったりな『オリオン』を真っ直ぐに届けると、定番曲の『トーキョーナイトダイブ』の感傷的なアルペジオへ。サビでは、1人残らず全員が挙げているのではないかというくらいの勢いでグッと拳が挙がる。その抜群の一体感に鳥肌が立った。MCを挟んだ後の『RED』でダイナミックな細川千弘(Dr/ Cho)のドラミングがライブに勢いをつけると、最大のアンセム『素晴らしい世界』へと繋ぐ。
笑顔で肩を叩いて《そんな日もあるよ》と言ってくれるようなこの歌は、どんな時もリスナーの心に寄り添ってくれるようだ。その証拠にフロアはもう、揺れたり跳ねたり拳を挙げたり、声が出せない中でも可能な限りの全力で興奮を顕にしていた。彼らの音楽を聴いて《最高な時は訪れる》と信じよう。それが彼らとの約束かもしれない。そして最後は力強く『羽』を鳴らし、『YELLOW』でライブを締めくくった。激しく光る黄色のストロボ照明の中で、横山優也(Vo/Gt)は片手で高らかにギターを持ち、佐藤知己(Ba)は屈み気味で弾き通した。上坂仁志(Gt/Cho)は膝をつけて座り込んで掻き鳴らし、細川は大きなフォームで派手に叩き切る。圧倒的なスケール感で、会場を魅了した。
3番手のDENIMSは、ダイナミックな江山真司(Dr)のドラムで始まる『RAGE』でキックオフ。ガレージなサウンドのロックナンバーで、現代社会の閉塞感を晴らすようなリリックが痛快だ。そして「あけましておめでとうございます!」と釜中健伍(Vo/Gt)の挨拶を合図に鳴らされた『Crybaby』。陽気なサウンドに観客もそろって体を揺らすと、続く『Goodbye boredom』で岡本悠亮(Gt)の「コースト手挙がりますか!」という掛け声で2階席まで拳が挙がった。後半の高速フレーズとハンズクラップも相まって温まったフロア。
釜中が「コースト初めてなんですけど、めちゃめちゃ気持ちいいです」と歴史あるステージに立てる喜びを語り、ダンサブルなグルーヴが気持ち良い『fools』へと繋ぐ。そしてインスト曲『-Skit-』を奏でている間に、釜中はギターを置いてピアノの前に移動し「自分自身を愛した上で、次に向かおうという決意の歌です」と『I'm』を丁寧に奏でた。こんなご時世で色々と外側ばかり気になってしまうけれど、結局大事なのは自分の内側だ。自分をまず愛して、進んでいこう。そんなことを思わせてくれる名曲に、観客はじっと聞き入っていた。そして、その後のMCで、岡本が新年の挨拶と共に本イベントを「二者対抗の交流試合みたいな感じ」と述べたのだが、それがまさにぴったりな表現だと思った。同じ音楽を愛する者同士、柳井監督と渡辺監督が率いるチームが切磋琢磨して最高の空間を作り上げる、そんな交流試合のようだ。DENIMSもそんなチーム員として、グッドミュージックを響かせていく。ゆるりと色を変えながら回る綺麗なミラーボールのもと、包容力のあるリズムが心地よい『DAME NA OTONA』から『INCREDIBLE』へと繋ぐと、ラストはハイテンポな『わかってるでしょ』で一気に駆け抜けた。彼らにとって最初で最後のコーストのステージを素晴らしい演奏で飾った。
続く4番手は強い存在感を残したTETORA。登場して早々、眩しい光を背負ったシルエットが「大阪から、TETORAです!よろしくお願いします!」と叫ぶ。彼女たちの渾身のライブは『本音』で幕を開け、序盤から勢い全開で駆け抜けた。ライブハウスの歌だという『正直者だな心拍数』でも一切スピードを緩めることなく、座り込んで引き倒すほどのパワフルなステージングを見せつけ、さらにギアを上げて『嘘ばっかり』へ。どこまでいくんだろうか、というくらいの勢いにフロアも前のめりで拳を挙げているようだった。なんなら「こっちも負けないぞ」くらいの気概めいたものをフロアから感じる。そして、最後の一音を鳴らすや否や、出し切ったかのように膝から崩れ落ちて弾き倒した上野羽有音(Vo /Gt)といのり(Ba)の姿があまりにもロックバンドすぎて痺れた。しかもそこで「ロックバンドやりに来ました!」なんて叫ぶもんだからたまらない。
ようやく一息ついて、初めてのコーストに「一生懸命やります!よろしくお願いします!」と気合いの入った言葉を放つと、上野が思い出したように言った。「今日、1月10日、この歌の人の誕生日です」。そんな思い出の1曲『ずるい人』を、上野特有の泣いてるような声で歌う。そして立て続けに『知らん顔』『今日くらいは』と情感たっぷりなラブソングを力強く歌い叫ぶと、ミユキ(Dr)が叩くイントロがフレーズもシルエットもダイナミックに決まる『レイリー』へ。そして続く『イーストヒルズ』の曲中に上野は「YouTubeじゃわからんこと、TikTokじゃわからんことが、ライブハウスにある!」と叫んだ。彼女たちはなぜここまで生にこだわるのか。それは、彼女たち自身と音楽の距離が近いからではないだろうか。ライブを見てると、心で感じたことがそのまま音になってるような生々しさを感じるのだ。彼女たちの心から観客の心へとダイレクトに響くようなエネルギーがみなぎっている。そんな現場至上主義のTETORAのライブは、『素直』でもう一段と素晴らしい盛り上がりを見せ、締めくくった。
5番手・SIX LOUNGE。昨年11月に行ったライブが最後のコーストだと思っていた彼らは、本日の公演を「ボーナスステージ」と言った。そんな彼らのボーナスステージは、ヤマグチユウモリ(Vo/Gt)の「コースト!あけましておめでとう!」という挨拶からなだれ込んだ『ナイトタイマー』で幕開け。武骨なロックサウンドが一瞬で新木場スタジオコーストをラウンジ色に染める。ちょっと不適な笑みでも浮かべそうな余裕ある演奏が渋くてかっこよく、『STARSHIP』『スピード』と間髪入れずにキラーチューンを畳み掛けた。イワオリク(Ba/Cho)も派手に跳ねながら弾き倒す。そして赤と緑の怪しげなライティングの元、魅力的なしゃがれ声で歌い上げた『IN FIGHT』、タイトルコールから待ってましたの盛り上がりを見せたダンスナンバー『DO DO IN THE BOOM BOOM』を鳴らしたのち、マイクを客席の近くまで持っていったヤマグチ。「知らないやつに教えてやってください!これがロックンロールです!」と叫ぶと、客席の目の前で破壊力満点のショートナンバー『ピアシング』をトップギアでかき鳴らした。そしてさらに休むことなく、ナガマツシンタロウ(Dr)のスピード感あるビートがフロアを踊らせる『トラッシュ』へ。
ボルテージMAXのまま楽曲を連発する、最高にタフなライブだ。沸騰したフロアを冷ますように少しの静寂を経てから、屈指のバラード『くだらない』をのびのびと聴かせてMCに突入し「もう1回コーストでやろうっていう約束はできないんですけど、ライブハウスにいつでもいますんで、また会いましょう。」と約束を交わした。そして、エモーショナルな転調や叫びが聴く人の琴線に触れる『メリールー』、ロックなサウンドでありながらも美しいラブバラード『天使のスーツケース』を2曲続けて歌い、「サンキュー!コースト!」と最後に『僕を撃て』を鳴らす。曲中の《君》に別れを告げる歌詞のところで、それまで派手に輝いていた照明がふっと消え、ヤマグチが叫んだ《じゃあね、バイバイ。》が、コーストとの別れにピッタリでグッときた。こうして、彼らのボーナスステージは終わった。
イベントのラストを飾ったのはSaucy Dog。可愛らしいSEが流れる中、1人ずつ登場し真ん中で丁寧にお辞儀して定位置につく。石原慎也(Vo/Gt)がシンプルなスポットライトの元で静かに歌い始めた1曲目は『コンタクトケース』。せとゆいか(Dr/Cho)との美しいコーラスも含め、歌モノの素晴らしさを圧倒的クオリティーで示した。
愛の温度差やリアルな心境変化を歌った『シンデレラボーイ』をポップに歌いあげ、『煙』へと繋ぐ。優しく静かに歌ったり、透明感のあるハイトーンボイスを遠くまで響かせたりと変幻自在に歌う石原。MCでは、せとが「久しぶりに一緒にできるバンドがいたり、初めて一緒にできるバンドがいたりすごい楽しい1日」と本イベントの醍醐味を噛み締め、去年12月にリリースしたばかりの新曲『あぁ、もう。』を披露した。片想いの切なく甘酸っぱい世界観がぎゅっと詰まった曲で、時たま見せる変わった転調や一筋縄ではいかない独特な旋律が彼ららしい。そして観客のクラップが見事な一体感を生み出した『雀ノ欠伸』、せとの堂々としたドラミングが映える『ゴーストバスター』に続き、「新曲やってもいいですか?」と『ノンフィクション』を初披露。
展開の早い楽曲と照明が調和し、初披露とは思えない圧倒的パフォーマンスで、フロアも「思わず」といった感じにクラップを揃えていた。そして再びMCで、石原はコーストの思い出を語った。音源を配った懐かしい思い出から、MASH A&Rが主催するイベントの思い出まで、メンバーを見ながら懐かしげに語る。そして最後に「僕らが約束できることは、俺らの音楽を止めないこと」と言い、『東京』を奏でた。この楽曲の歌詞は都会の荒波に揉まれる不安や葛藤でいっぱいの様子を描いているが、この日の《大丈夫。僕は上手くやれているよ》という最後の歌詞は、音源を配っていた頃から見届けてくれていたコーストに、武道館公演をするバンドになったんだぞ、という成長報告の様にも聞こえた。本イベントを締めくくる堂々とした3人の佇まい。彼らの今後の躍進がさらに楽しみになったライブだった。
6時間にわたるイベントの終演後、記念撮影が行われた。ステージに並ぶ出演者と主催者の柳井氏、渡辺氏(ステージには登場してこなかったが)を見て改めて思った。数々のアーティストやレーベル、事務所やライブハウスが未曾有の事態と日々奮闘しているんだと。そんな中で、観客も含めた我々音楽を好きな仲間たちは、無意識に「昔のような空間を取り戻すぞ」と約束を交わしている。その想いは、多くの人に愛された空間がなくなるたびに強くなるのだ。6者6様、どのステージも全く違う戦い方で非常に面白い交流試合だったが、誰しもが共通して「音楽の火を絶やさず歩みを止めず前進していくんだ」という約束を、コーストの歴史を背負って交わした。またいつか、この約束を果たした元通りの世界で。コロナ禍を戦い抜いたレーベル同士の交流試合がみたい。
文:髙橋夏央
写真:ハライタチ、MASANORI FUJIKAWA
ユレニワ
01.Birthday
02.Cherie
03.だらしないね
--MC--
04.Bianca
05.まぼろしの夜に
06.バージン輿論
KOTORI
01.We Are The Future
02.オリオン
03.トーキョーナイトダイブ
04.RED
--MC--
05.素晴らしい世界
06.羽
07.YELLOW
DENIMS
01.RAGE
02.Crybaby
03.Goodbye boredom
--MC--
04.fools
05.-Skit-(MC)
06.I'm
--MC--
07.DAME NA OTONA
08.INCREDIBLE
09.わかってるでしょ
TETORA
01.本音
02.正直者だな心拍数
03.嘘ばっかり
--MC--
04.ずるい人
05.知らん顔
06.今日くらいは
07.レイリー
08.イーストヒルズ
09.素直
SIX LOUNGE
01.ナイトタイマー
02.STARSHIP
03.スピード
--MC--
04.IN FIGHT
05.DO DO IN THE BOOM BOOM
06.ピアシング
07.トラッシュ
--MC--
08.くだらない
--MC--
09.メリールー
10.天使のスーツケース
11.僕を撃て
Saucy Dog
01.コンタクトケース
02.シンデレラボーイ
03.煙
--MC--
04.あぁ、もう。
05.雀ノ欠伸
06.ゴーストバスター
07.ノンフィクション
--MC--
08.東京
KOTORIオフィシャルサイト
DENIMSオフィシャルサイト
TETORAオフィシャルサイト
SIX LOUNGEオフィシャルサイト
Saucy Dogオフィシャルサイト
Photo by ハライタチ
ところで、本イベントには「約束」というキーワードが掲げられている。ライブハウスは様々な「約束」が交わされる場所だと筆者は考える。「またここで会おうね」とライブ仲間と交わす約束。アーティストの輝く姿や熱い言葉を受けて「明日から頑張ろう。そしてまたライブに来よう」と思う自分との約束。はたまた、アーティスト自身が「もっと大きくなってここに帰ってくる」とライブハウスと交わす約束や、アーティストを支える者同士の約束もあるだろう。あなたも何かしらの「約束」を心の中で交わしたことがあるのではないだろうか。ただ、そんなたくさんの約束が交わされ・果たされた場所がまた一つ、終わりを迎えてしまうのだ。ラストランを走り始めたコーストで、「約束」というバックドロップを掲げた本イベントのステージ。そこでまた、さまざまな約束が交わされた。
Photo by ハライタチ
トップバッターはユレニワ。コースト名物のミラーボールがキラキラと回り、フロアが青や紫に染まる中、シロナカムラ(Vo/Gt)の「新木場ー!」という叫びでライブが幕を開けた。1曲目はRENJU(Dr /Cho)の大きなビートに乗せて堂々と届けられた『Birthday』。音の洪水と言わんばかりの爆音でアウトロをたっぷり聴かせ、「ユレニワです!よろしく!」とシロが挨拶。そのままRENJUのビートと観客のクラップで『Cherie』へ繋ぐと、ポップなサビでフロアからは拳が挙がり、始まったばかりのイベントを早速熱くした。退廃的なシロのボーカルが特徴的な『だらしないね』では、間奏で宮下レジナルド(Ba/Cho)と種谷佳輝(Gt/Cho)が1歩前に出て弾き、シロもステージに寝っ転がりながら自由に弾き倒すなど、衝動がそのまま音になったような彼ららしい熱いステージングが繰り広げられた。シロが「今日は楽しんで頂きたくて攻めたセットリストを用意しています」と言葉を挟んで『Bianca』へ。
Photo by ハライタチ
情感たっぷりな演奏とひとつひとつの言葉を大切に紡いでいく歌にじっと聴き入るフロア。そこからインストナンバーの『fusée 101』を挟み、『まぼろしの夜に』を届ける。種谷が弾くシンセサイザーが、幻想的な空間を生み出すシューゲイズ要素満点な1曲。シロが「ユレニワもユレニワなりの約束を背負っています。やるべきことがたくさん。」と言い放ち、最後に『バージン輿論』でトップバッターを締めた。『バージン輿論』のしっとりしたイントロから、突然加速し最高の盛り上がりを見せる展開と、叫びと美しい歌唱を瞬時に切り替えるシロの表現力、ステージを自由に右へ左へと行き来する宮下と1歩前に出てギターを弾き倒す種谷、そして長い髪を振りながら派手なドラミングを魅せたRENJU、1人1人が光るパワフルなパフォーマンスが、会場を熱し大きな余韻を残していった。間違いなく、最高のトップバッターだった。
Photo by MASANORI FUJIKAWA
ユレニワの熱をそのまま受け継ぎ、リハーサルから盛り上がりを魅せたのはKOTORI。1曲目の『We Are The Future』では、背後からの光を背負い、シルエットだけが見える神聖な演出が、深いリバーブのかかった歌とマッチしていて《音楽で大切なものを守れますように》というメッセージをより一層強くしていた。日が昇って朝がくるように照明がだんだんとフロアを照らしていくと、ようやく多くの人が拳を突き上げているのが見える。なんて神秘的な始まり方なのだろうか。そして今の季節にぴったりな『オリオン』を真っ直ぐに届けると、定番曲の『トーキョーナイトダイブ』の感傷的なアルペジオへ。サビでは、1人残らず全員が挙げているのではないかというくらいの勢いでグッと拳が挙がる。その抜群の一体感に鳥肌が立った。MCを挟んだ後の『RED』でダイナミックな細川千弘(Dr/ Cho)のドラミングがライブに勢いをつけると、最大のアンセム『素晴らしい世界』へと繋ぐ。
Photo by MASANORI FUJIKAWA
笑顔で肩を叩いて《そんな日もあるよ》と言ってくれるようなこの歌は、どんな時もリスナーの心に寄り添ってくれるようだ。その証拠にフロアはもう、揺れたり跳ねたり拳を挙げたり、声が出せない中でも可能な限りの全力で興奮を顕にしていた。彼らの音楽を聴いて《最高な時は訪れる》と信じよう。それが彼らとの約束かもしれない。そして最後は力強く『羽』を鳴らし、『YELLOW』でライブを締めくくった。激しく光る黄色のストロボ照明の中で、横山優也(Vo/Gt)は片手で高らかにギターを持ち、佐藤知己(Ba)は屈み気味で弾き通した。上坂仁志(Gt/Cho)は膝をつけて座り込んで掻き鳴らし、細川は大きなフォームで派手に叩き切る。圧倒的なスケール感で、会場を魅了した。
Photo by ハライタチ
3番手のDENIMSは、ダイナミックな江山真司(Dr)のドラムで始まる『RAGE』でキックオフ。ガレージなサウンドのロックナンバーで、現代社会の閉塞感を晴らすようなリリックが痛快だ。そして「あけましておめでとうございます!」と釜中健伍(Vo/Gt)の挨拶を合図に鳴らされた『Crybaby』。陽気なサウンドに観客もそろって体を揺らすと、続く『Goodbye boredom』で岡本悠亮(Gt)の「コースト手挙がりますか!」という掛け声で2階席まで拳が挙がった。後半の高速フレーズとハンズクラップも相まって温まったフロア。
Photo by ハライタチ
釜中が「コースト初めてなんですけど、めちゃめちゃ気持ちいいです」と歴史あるステージに立てる喜びを語り、ダンサブルなグルーヴが気持ち良い『fools』へと繋ぐ。そしてインスト曲『-Skit-』を奏でている間に、釜中はギターを置いてピアノの前に移動し「自分自身を愛した上で、次に向かおうという決意の歌です」と『I'm』を丁寧に奏でた。こんなご時世で色々と外側ばかり気になってしまうけれど、結局大事なのは自分の内側だ。自分をまず愛して、進んでいこう。そんなことを思わせてくれる名曲に、観客はじっと聞き入っていた。そして、その後のMCで、岡本が新年の挨拶と共に本イベントを「二者対抗の交流試合みたいな感じ」と述べたのだが、それがまさにぴったりな表現だと思った。同じ音楽を愛する者同士、柳井監督と渡辺監督が率いるチームが切磋琢磨して最高の空間を作り上げる、そんな交流試合のようだ。DENIMSもそんなチーム員として、グッドミュージックを響かせていく。ゆるりと色を変えながら回る綺麗なミラーボールのもと、包容力のあるリズムが心地よい『DAME NA OTONA』から『INCREDIBLE』へと繋ぐと、ラストはハイテンポな『わかってるでしょ』で一気に駆け抜けた。彼らにとって最初で最後のコーストのステージを素晴らしい演奏で飾った。
Photo by ハライタチ
続く4番手は強い存在感を残したTETORA。登場して早々、眩しい光を背負ったシルエットが「大阪から、TETORAです!よろしくお願いします!」と叫ぶ。彼女たちの渾身のライブは『本音』で幕を開け、序盤から勢い全開で駆け抜けた。ライブハウスの歌だという『正直者だな心拍数』でも一切スピードを緩めることなく、座り込んで引き倒すほどのパワフルなステージングを見せつけ、さらにギアを上げて『嘘ばっかり』へ。どこまでいくんだろうか、というくらいの勢いにフロアも前のめりで拳を挙げているようだった。なんなら「こっちも負けないぞ」くらいの気概めいたものをフロアから感じる。そして、最後の一音を鳴らすや否や、出し切ったかのように膝から崩れ落ちて弾き倒した上野羽有音(Vo /Gt)といのり(Ba)の姿があまりにもロックバンドすぎて痺れた。しかもそこで「ロックバンドやりに来ました!」なんて叫ぶもんだからたまらない。
Photo by ハライタチ
ようやく一息ついて、初めてのコーストに「一生懸命やります!よろしくお願いします!」と気合いの入った言葉を放つと、上野が思い出したように言った。「今日、1月10日、この歌の人の誕生日です」。そんな思い出の1曲『ずるい人』を、上野特有の泣いてるような声で歌う。そして立て続けに『知らん顔』『今日くらいは』と情感たっぷりなラブソングを力強く歌い叫ぶと、ミユキ(Dr)が叩くイントロがフレーズもシルエットもダイナミックに決まる『レイリー』へ。そして続く『イーストヒルズ』の曲中に上野は「YouTubeじゃわからんこと、TikTokじゃわからんことが、ライブハウスにある!」と叫んだ。彼女たちはなぜここまで生にこだわるのか。それは、彼女たち自身と音楽の距離が近いからではないだろうか。ライブを見てると、心で感じたことがそのまま音になってるような生々しさを感じるのだ。彼女たちの心から観客の心へとダイレクトに響くようなエネルギーがみなぎっている。そんな現場至上主義のTETORAのライブは、『素直』でもう一段と素晴らしい盛り上がりを見せ、締めくくった。
Photo by ハライタチ
5番手・SIX LOUNGE。昨年11月に行ったライブが最後のコーストだと思っていた彼らは、本日の公演を「ボーナスステージ」と言った。そんな彼らのボーナスステージは、ヤマグチユウモリ(Vo/Gt)の「コースト!あけましておめでとう!」という挨拶からなだれ込んだ『ナイトタイマー』で幕開け。武骨なロックサウンドが一瞬で新木場スタジオコーストをラウンジ色に染める。ちょっと不適な笑みでも浮かべそうな余裕ある演奏が渋くてかっこよく、『STARSHIP』『スピード』と間髪入れずにキラーチューンを畳み掛けた。イワオリク(Ba/Cho)も派手に跳ねながら弾き倒す。そして赤と緑の怪しげなライティングの元、魅力的なしゃがれ声で歌い上げた『IN FIGHT』、タイトルコールから待ってましたの盛り上がりを見せたダンスナンバー『DO DO IN THE BOOM BOOM』を鳴らしたのち、マイクを客席の近くまで持っていったヤマグチ。「知らないやつに教えてやってください!これがロックンロールです!」と叫ぶと、客席の目の前で破壊力満点のショートナンバー『ピアシング』をトップギアでかき鳴らした。そしてさらに休むことなく、ナガマツシンタロウ(Dr)のスピード感あるビートがフロアを踊らせる『トラッシュ』へ。
Photo by ハライタチ
ボルテージMAXのまま楽曲を連発する、最高にタフなライブだ。沸騰したフロアを冷ますように少しの静寂を経てから、屈指のバラード『くだらない』をのびのびと聴かせてMCに突入し「もう1回コーストでやろうっていう約束はできないんですけど、ライブハウスにいつでもいますんで、また会いましょう。」と約束を交わした。そして、エモーショナルな転調や叫びが聴く人の琴線に触れる『メリールー』、ロックなサウンドでありながらも美しいラブバラード『天使のスーツケース』を2曲続けて歌い、「サンキュー!コースト!」と最後に『僕を撃て』を鳴らす。曲中の《君》に別れを告げる歌詞のところで、それまで派手に輝いていた照明がふっと消え、ヤマグチが叫んだ《じゃあね、バイバイ。》が、コーストとの別れにピッタリでグッときた。こうして、彼らのボーナスステージは終わった。
Photo by ハライタチ
イベントのラストを飾ったのはSaucy Dog。可愛らしいSEが流れる中、1人ずつ登場し真ん中で丁寧にお辞儀して定位置につく。石原慎也(Vo/Gt)がシンプルなスポットライトの元で静かに歌い始めた1曲目は『コンタクトケース』。せとゆいか(Dr/Cho)との美しいコーラスも含め、歌モノの素晴らしさを圧倒的クオリティーで示した。
Photo by ハライタチ
愛の温度差やリアルな心境変化を歌った『シンデレラボーイ』をポップに歌いあげ、『煙』へと繋ぐ。優しく静かに歌ったり、透明感のあるハイトーンボイスを遠くまで響かせたりと変幻自在に歌う石原。MCでは、せとが「久しぶりに一緒にできるバンドがいたり、初めて一緒にできるバンドがいたりすごい楽しい1日」と本イベントの醍醐味を噛み締め、去年12月にリリースしたばかりの新曲『あぁ、もう。』を披露した。片想いの切なく甘酸っぱい世界観がぎゅっと詰まった曲で、時たま見せる変わった転調や一筋縄ではいかない独特な旋律が彼ららしい。そして観客のクラップが見事な一体感を生み出した『雀ノ欠伸』、せとの堂々としたドラミングが映える『ゴーストバスター』に続き、「新曲やってもいいですか?」と『ノンフィクション』を初披露。
Photo by ハライタチ
展開の早い楽曲と照明が調和し、初披露とは思えない圧倒的パフォーマンスで、フロアも「思わず」といった感じにクラップを揃えていた。そして再びMCで、石原はコーストの思い出を語った。音源を配った懐かしい思い出から、MASH A&Rが主催するイベントの思い出まで、メンバーを見ながら懐かしげに語る。そして最後に「僕らが約束できることは、俺らの音楽を止めないこと」と言い、『東京』を奏でた。この楽曲の歌詞は都会の荒波に揉まれる不安や葛藤でいっぱいの様子を描いているが、この日の《大丈夫。僕は上手くやれているよ》という最後の歌詞は、音源を配っていた頃から見届けてくれていたコーストに、武道館公演をするバンドになったんだぞ、という成長報告の様にも聞こえた。本イベントを締めくくる堂々とした3人の佇まい。彼らの今後の躍進がさらに楽しみになったライブだった。
Photo by ハライタチ
6時間にわたるイベントの終演後、記念撮影が行われた。ステージに並ぶ出演者と主催者の柳井氏、渡辺氏(ステージには登場してこなかったが)を見て改めて思った。数々のアーティストやレーベル、事務所やライブハウスが未曾有の事態と日々奮闘しているんだと。そんな中で、観客も含めた我々音楽を好きな仲間たちは、無意識に「昔のような空間を取り戻すぞ」と約束を交わしている。その想いは、多くの人に愛された空間がなくなるたびに強くなるのだ。6者6様、どのステージも全く違う戦い方で非常に面白い交流試合だったが、誰しもが共通して「音楽の火を絶やさず歩みを止めず前進していくんだ」という約束を、コーストの歴史を背負って交わした。またいつか、この約束を果たした元通りの世界で。コロナ禍を戦い抜いたレーベル同士の交流試合がみたい。
Photo by ハライタチ
文:髙橋夏央
写真:ハライタチ、MASANORI FUJIKAWA
HIP LAND MUSIC PRODUCE 2 presents 871 meets AKIRA WATANABE Promise to fulfill before farewell to STUDIO COAST 『NoBorder #約束』2022年1月10日(月・祝)SET LIST
ユレニワ
01.Birthday
02.Cherie
03.だらしないね
--MC--
04.Bianca
05.まぼろしの夜に
06.バージン輿論
KOTORI
01.We Are The Future
02.オリオン
03.トーキョーナイトダイブ
04.RED
--MC--
05.素晴らしい世界
06.羽
07.YELLOW
DENIMS
01.RAGE
02.Crybaby
03.Goodbye boredom
--MC--
04.fools
05.-Skit-(MC)
06.I'm
--MC--
07.DAME NA OTONA
08.INCREDIBLE
09.わかってるでしょ
TETORA
01.本音
02.正直者だな心拍数
03.嘘ばっかり
--MC--
04.ずるい人
05.知らん顔
06.今日くらいは
07.レイリー
08.イーストヒルズ
09.素直
SIX LOUNGE
01.ナイトタイマー
02.STARSHIP
03.スピード
--MC--
04.IN FIGHT
05.DO DO IN THE BOOM BOOM
06.ピアシング
07.トラッシュ
--MC--
08.くだらない
--MC--
09.メリールー
10.天使のスーツケース
11.僕を撃て
Saucy Dog
01.コンタクトケース
02.シンデレラボーイ
03.煙
--MC--
04.あぁ、もう。
05.雀ノ欠伸
06.ゴーストバスター
07.ノンフィクション
--MC--
08.東京
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