SENSA

2021.11.04

Wez Atlas、音楽に救われ音楽に突き動かされるRelease Party「Chicken Soup For Every One」

Wez Atlas、音楽に救われ音楽に突き動かされるRelease Party「Chicken Soup For Every One」

音楽を、「衣・食・住」と同じくらい私たちの人生にとって大切なものとして捉える。そんなWez Atlas(ウェズ・アトラス)の根本にある想いが、心地好い音の節々から伝わってくるライブだった。

大分生まれ、アメリカ育ち。気鋭のバイリンガル・ラッパーWez Atlasが7月にリリースした初のミニアルバム『Chicken Soup For One』のレコ発ライブだ。会場となった渋谷WWWには、ラッパー&ボーカルユニットsankaraと、Wez Atlasが所属するアートコレクティブsolgasaの盟友VivaOlaも集結。WezのステージにはisseiやJuaら、過去の作品でコラボしたアーティストもサプライズで迎え入れ、ジャンルの垣根を越えた洗練された音楽が美しく共鳴し合う一夜になった。

ラッパーTossとボーカルRyoからなるふたり組sankaraからライブは幕を開けた。90年代のヒップホップ、R&B、ディスコミュージックをルーツにしたアーバンなトラックにのせて、ラップとメロディ、日本語詞と英語詞を滑らかに融合させた楽曲を途切れることなくシームレスにつないでゆく。MCでは、過去の自身のイベントにWez Atlasに出演してもらった経緯にも触れ、「ちょっと年代は違うけど、同じものを共有してきました」と、その存在に共感する想いを伝えた。スクリーン映像に強いメッセージ性を込めた「Louder」から、激しく明滅する光を浴びて強めのスクラッチを効かせた「Elevator」まで。そのラストに高揚感のピークを作り上げ、トッパーとしてきっちり会場を温めた。

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韓国生まれのR&BシンガーソングライターVivaOlaは、目深に帽子をかぶり、ステージに登場した。アダム・レヴィーン(マルーン5)の「Lost Stars」の独創的なカバーを皮切りに、中南米の匂いがするパーカッシブなビートが躍動した「All This Time」から、日本語、英語、韓国語という3つの言語で歌われるスイートな「Love you bad」へ。1曲に様々なアイディアを投下したオルタナティブなトラックにのせて、繊細なボーカルが紡がれていく。Wez Atlas と時期を同じくして、今年9月にリリースされた最新アルバム『Juliet is the moon』からの新曲を中心に、クールな四つ打ちを刻むフロアライクな「My Moon」まで、ほぼMCはなし。ひとりの人間が生み出すクリエイティブの力とその存在感を突き詰めたステージは、他の誰とも違う圧倒的な記名性があった。

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Wez Atlasのステージは、この日のライブの中心になる最新作『Chicken Soup For One』のリードトラック「Chicken Soup Freestyle」からはじまった。体調が悪いときに、おばあちゃんに作ってもらった"チキンスープ"をモチーフにしたというその楽曲は、音楽による「癒し」をテーマに掲げたアルバムの入り口となる自己紹介的なナンバーだ。徹底して削ぎ落されたビートにのせて、力強く刻まれるラップ。全身をバネのように駆使する躍動感のあるパフォーマンスに目を奪われる。

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ぐっと深く腰を落とし、胸に抱く野望と、現状に対する葛藤を吐露するような「Fun + Games」のあと、「今日はみなさん、お越しくださってありがとうございます。楽しんでいきましょう!」と、日本語と英語の両方で手短に挨拶を交わした。トロピカルなダンスビートが炸裂した「Zuum!」では、音の波で自由に遊ぶような動きが楽しげだ。

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前半のハイライトになったのは「Kind Of Love」。共同制作したトラックメイカーisseiをゲストに迎え、どこかダークファンタジーのような雰囲気を持つ魔訶不思議なトラックにのせて、ふたりの美しいハーモニーを聴かせた。

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〈空気なんか読まなくてもいいかも〉という日本語のパンチラインが、ピアノとギターを添えたやわらかな音像とは裏腹に鋭い余韻を残した「Overthink」。スタンドマイクで淡々と紡ぐリリックが次第に音源以上の熱を帯びていった「Daily Calm」。中盤の流れは、内省的な方向に振り切ったアルバム『Chicken Soup For One』の肝となる楽曲だった。「自分の頭の中の会話」を歌詞にしたという歌に綴られた、進化を求めるがゆえの迷い。真っすぐにフロアを見据え、マイクに向かう真剣なまなざしからは、そこに込めた想いをたしかに届けたいという強い想いが伝わってくる。

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後半戦に差しかかり、再びゲストとの共演が続いた。ステージ袖から走って飛び込んできたVivaOlaと共に届けたのは、昨年発表したコラボ曲「Tokyo Syndrome」だ。都会の喧騒と、そこで育まれる夢をふたりのラップがありありと活写する。もともと同級生のふたりということで、MCでは「高校の部室でGarageBand(楽曲制作ソフト)で作ってたときとは、よっぽど状況が変わったね」と、Wez。さらに同じく同世代のラッパーJuaを呼び込み、噛みつきあうような攻撃的なラップが交錯する「Vise le haut」へなだれ込んだ。ポップス、R&B、ヒップホップ、ソウル、ジャズ。それぞれ微妙に重なり合いながら、異なるバックボーンを持つ3人の個性が激しくぶつかり合うステージは、ジャンルにこだわらず、オリジナルな音楽を求める新世代アーティストが集結した一夜を象徴するようなワンシーンだった。パフォーマンスを終えて、「もう一回やっちゃう?」と息を弾ませるWezに、「もう無理(笑)」と答えたJua。余力などない。3人とも、それぐらい全力のパフォーマンスだった。

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再びひとりに。次の曲の予告をするように「お腹がすいたな」と、少しおどけた英語のMCでお客さんの笑いを誘った「Minestrone」で優しくフロアを揺らし、ライブはクライマックスへと向かった。音楽は心の癒し=薬であるという想いをストレートに綴った「T.I.M.M」(このタイトルは、"This is My Medicine"の略だ)に続けて、お客さんが灯すスマホのバックライトで会場が美しい光で包まれた「Tokyo Dreamz」でライブは終演。ひときわアグレッシヴに全身を躍動させ、自らの「ラップ」で夢をつかみ取るという熱い野心をその場所に刻み、Wez Atlasはステージをあとにした。

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音楽に救われ、音楽に突き動かされる。Wez Atlasの生み出した空間からは、そんなピュアな原動力がダイレクトに感じられた。彼の真価はライブでこそ発揮されるのかもしれない。

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文:秦理絵
写真:ナカムラキサ

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