SENSA

2021.10.27

キツネの嫁入り「Just scratch the surface」──眠れず自問自答を繰り返す夜に聴きたい歪な変拍子

キツネの嫁入り「Just scratch the surface」──眠れず自問自答を繰り返す夜に聴きたい歪な変拍子

誰にだって眠れない夜のひとつやふたつ、みっつやよっつはあるだろう。あるいは夜中にはたと目が覚めてしまって、暗闇の中の室内灯を見つめているような時。そんな時に頭をよぎるのは、決まって楽しいことではない。仕事が嫌だ。学業が嫌だ。家族が嫌だ。人間関係が嫌だ。コロナが嫌だ。ひいては生きているのが嫌だ。俺をすりこぎにしちまったやつ、そいつは誰だ。そんな夜に、例えばこれを聴いてみるのはどうだろう。今年で活動15周年を迎える京都の5人が奏でる歪な変拍子。アコギとウッドベースとドラムがその歪さの土台を作り上げ、そこにピアノやストリングス、サックスやビブラフォンが彩りを添えていく。彩りと言ってもただ華やかなだけではない。時に不気味で、時に人間味に溢れた手作業の彩り。そして、その上にギター・ボーカル、マドナシによる語りにも似たような朴訥とした歌声が乗っかり、それらがじわりじわりと身に沁みてくる。あるいは、侵食していくと表現した方が合ってるかもしれない。

〈電球に虫が集まる まるで社会の縮図だな
彼女はそうつぶやいて 静かに笑ってみせた
なるべく明るいところへ なるべく皆のところへ
次々焼かれる虫たち 言ったとおりと彼女が笑う〉
(「考えないバード」より)

そこで歌われるのは、雑念という意味ではさっきまでの嫌な妄想と何ら変わりのないものかもしれない。それを説教臭く感じる人もいるかもしれないし、これを聴くことでむしろさっきまでの雑念は増えるかもしれない。ましてやこの音楽は聴く人を一瞬戸惑わせるような、一瞬蹴つまづかせるような変拍子ばかりの音楽だ。そもそも変拍子とは人を惑わすためのものではないのだろうか?
にもかかわらず、そこには何か真理のようなメッセージが込められている気がして、〈飲み口スッキリ〉というか、美しい読後感というか、超大作SF映画を観た後のような余韻のような何かがある。仕事が嫌だ、人間関係が嫌だ。孤独だ。後悔ばかりの人生だ。それは何ひとつ解決していないけど、とりあえずその美しい余韻だけを糧に今日も頑張ってみようと思う。いや、それも「Just scratch the surface」=ただ表面をなぞっただけの感想かもしれないけど、真理のようなものに辿り着いた気になって朝を迎えるのと、そうでないのとでは、見える朝の景色も変わってくるのではなかろうか。

文:酒井優考




RELEASE INFORMATION

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キツネの嫁入り「Just scratch the surface」
2021年10月27日(水)
Format: Digital
Label: SUKIMA SOUNDS



Track:
1. dodone
2. swimmingman
3. worth
4. 考えないバード
5. loopgirl
6. dwell
7. 黒に近いブルー
8. prizm

9. standardoy

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