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2021.08.29
Taiko Super Kicks「波」「石」──Taiko Super Kicksからあなたへ。「波」と「石」に刻まれた「命」の解釈
Taiko Super Kicksがこの2021年にリリースした2枚のアルバムは、『波』、そして『石』と名付けられている。よくよく考えてみれば、不思議な話でもある。人が作り上げた音楽が何故、「波」と名乗り、「石」と名乗るのか。音の純粋さにとって、名前なんて記号に過ぎないのかもしれないが、しかし、作者が意図的に名付けている以上、その名が暗示するものに導かれていくのは必然。なので、本来的には波でも、石でもないにもかかわらず、私はこの音楽を聴きながら、波へと、石へと、導かれていく。
波だ、石だ、といっても、この2作は、自然の動きや自然物の在りようを「模倣する」ことを目的として作られているとはあまり思えない。プロデュースとミックスには岡田拓郎を、エンジニアには澁谷亮（Klan Aileen）を、そしてマスタリングにはKevin Rattermanを迎えて生み出されたこの2作の音像はとても精緻に作り上げられていて、そのたくさんの音の動きと多彩な音の響きが、独特な体感を聴き手にもたらす。しかし、その鮮やかな音の凹凸と共に大きな存在感を放っているのは、「言葉」である。伊藤暁里（Vo/Gt）が綴る、「歌」であると同時に「詩」としてもたしかな強度を持つ言葉の存在感の大きさ。それは、この音楽の発生源が、人間の内的なもの、あるいは人間の内と外の接触から生まれるもの――眼差しや、感情や、思考や――であることの表れであるといえる。自然を模倣するのではなく、人が人の存在を語り、そこに重なるように魅惑的な音楽が響いた結果、それは「波」と名付けられ、「石」と名付けられるものに至っている。
ここにあるのは、祈りにも似た「自然への共振」なのだろう。例えば「波」であれば、その1回性の反復による「変化」のイメージを、また「石」であれば、その一つひとつがバラバラに持つ質量や質感、「経年」のイメージを、私たち人間の生に接続してみる。自然が持つ率直な複雑さを、私たちの暮らし――恋や、政治や、孤独や――に重ねてみる。そうすることによって生まれる「命」に対するオルタナティブな解釈。それをTaiko Super Kicksは、この2作を通して聴き手に提示しているのではないか。
伊藤が綴る言葉は、生活の中からポロポロと零れ落ちるような素朴さを持ちながら、同時に「霊的」ともいえる不思議な質感を持っている。それは彼が言葉で描く「実存」が、「虚」も「実」も等しく内包しているからである。それゆえに、彼の綴る言葉はリアルなのだ。「見えるもの」だけで成り立っている存在などないのだから。しかし、その「リアルである」というポイントが、これまでのTaiko Super Kicksの到達点だったとしたら、この『波』と『石』という2作は、「リアル」のさらに奥へと突き進んでいる。「個」から広がる、「個」であり続けながらも「個」を超えた世界へ。この2枚のアルバムは、とてつもなく広大な領域へと拡張された命の在りようを、私たち人間の共通感覚に語りかけている。
2014年の鮮烈なデビュー作『霊感』から、1stアルバム『Many Shapes』（2015年）、そして素晴らしい2ndアルバム『Fragment』（2018年）へ......Taiko Super Kicksは確実に変化し、進化しながら、その歩みを進めている。振り返れば『波』と『石』の2作における音楽的発展の布石となったのは、シンセも取り入れるなど音楽性を拡張させた2018年のシングル『感性の網目／bones』だったといえるし、カセットMTRをメンバー間で回しながら録音したという去年のカセットテープ作品『ありあけ』は、「音そのもの」の質感に対するフェティッシュなこだわりという点で、『波』と『石』の制作に大きなヒントを与えたのではないかと推測する。Taiko Super Kicksが生み出す波紋は、作品を経るごとにたしかに、豊かさを増している。
テキスト：天野史彬
Taiko Super Kicks「波」
2021年6月8日（火）
Format: Digital
Label: TETRA RECORDS
Track:
1. 椅子の椅子
2. リフト
3. えんえい
4. コーンクリーム
5. 合間
6. 火遊び
7. 青梅
8. たましい
9. ラッキーG
試聴はこちら
Taiko Super Kicks「石」
2021年8月10日（火）
Format: Digital
Label:TETRA RECORDS
Track:
1. スジ
2. たった一本
3. ママさんバレー
4. 音楽
5. 北欧BLACK
6. BS
7. 最初の米
8. ぽっち
9. ニューライン
試聴はこちら
FRIENDSHIP.
波だ、石だ、といっても、この2作は、自然の動きや自然物の在りようを「模倣する」ことを目的として作られているとはあまり思えない。プロデュースとミックスには岡田拓郎を、エンジニアには澁谷亮（Klan Aileen）を、そしてマスタリングにはKevin Rattermanを迎えて生み出されたこの2作の音像はとても精緻に作り上げられていて、そのたくさんの音の動きと多彩な音の響きが、独特な体感を聴き手にもたらす。しかし、その鮮やかな音の凹凸と共に大きな存在感を放っているのは、「言葉」である。伊藤暁里（Vo/Gt）が綴る、「歌」であると同時に「詩」としてもたしかな強度を持つ言葉の存在感の大きさ。それは、この音楽の発生源が、人間の内的なもの、あるいは人間の内と外の接触から生まれるもの――眼差しや、感情や、思考や――であることの表れであるといえる。自然を模倣するのではなく、人が人の存在を語り、そこに重なるように魅惑的な音楽が響いた結果、それは「波」と名付けられ、「石」と名付けられるものに至っている。
ここにあるのは、祈りにも似た「自然への共振」なのだろう。例えば「波」であれば、その1回性の反復による「変化」のイメージを、また「石」であれば、その一つひとつがバラバラに持つ質量や質感、「経年」のイメージを、私たち人間の生に接続してみる。自然が持つ率直な複雑さを、私たちの暮らし――恋や、政治や、孤独や――に重ねてみる。そうすることによって生まれる「命」に対するオルタナティブな解釈。それをTaiko Super Kicksは、この2作を通して聴き手に提示しているのではないか。
伊藤が綴る言葉は、生活の中からポロポロと零れ落ちるような素朴さを持ちながら、同時に「霊的」ともいえる不思議な質感を持っている。それは彼が言葉で描く「実存」が、「虚」も「実」も等しく内包しているからである。それゆえに、彼の綴る言葉はリアルなのだ。「見えるもの」だけで成り立っている存在などないのだから。しかし、その「リアルである」というポイントが、これまでのTaiko Super Kicksの到達点だったとしたら、この『波』と『石』という2作は、「リアル」のさらに奥へと突き進んでいる。「個」から広がる、「個」であり続けながらも「個」を超えた世界へ。この2枚のアルバムは、とてつもなく広大な領域へと拡張された命の在りようを、私たち人間の共通感覚に語りかけている。
2014年の鮮烈なデビュー作『霊感』から、1stアルバム『Many Shapes』（2015年）、そして素晴らしい2ndアルバム『Fragment』（2018年）へ......Taiko Super Kicksは確実に変化し、進化しながら、その歩みを進めている。振り返れば『波』と『石』の2作における音楽的発展の布石となったのは、シンセも取り入れるなど音楽性を拡張させた2018年のシングル『感性の網目／bones』だったといえるし、カセットMTRをメンバー間で回しながら録音したという去年のカセットテープ作品『ありあけ』は、「音そのもの」の質感に対するフェティッシュなこだわりという点で、『波』と『石』の制作に大きなヒントを与えたのではないかと推測する。Taiko Super Kicksが生み出す波紋は、作品を経るごとにたしかに、豊かさを増している。
テキスト：天野史彬
RELEASE INFORMATION
Taiko Super Kicks「波」
2021年6月8日（火）
Format: Digital
Label: TETRA RECORDS
Track:
1. 椅子の椅子
2. リフト
3. えんえい
4. コーンクリーム
5. 合間
6. 火遊び
7. 青梅
8. たましい
9. ラッキーG
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Taiko Super Kicks「石」
2021年8月10日（火）
Format: Digital
Label:TETRA RECORDS
Track:
1. スジ
2. たった一本
3. ママさんバレー
4. 音楽
5. 北欧BLACK
6. BS
7. 最初の米
8. ぽっち
9. ニューライン
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