SENSA

2021.06.09

odol「はためき」──生活を掬い上げ、日々に祈りを手渡す音楽

odol「はためき」──生活を掬い上げ、日々に祈りを手渡す音楽

2014年結成、東京発の5人バンドodolの新作。前作から2年8ヶ月ぶりとなる4thフルアルバムだ。ボーカルのミゾベリョウが相鉄線都心直通記念ムービー「100 YEARS TRAIN」テーマソング「ばらの花 × ネイティブダンサー」に参加し、ピアノの森山公稀がアイナ・ジ・エンドのサウンドプロデュースを担当するなど外部稼動も活発だったこのリリースまでの期間。odolとしても多数のタイアップワークに取り組み、その結実がこのアルバムだ。

作品ごとに異なる方向性を提示してきたodolだが、『はためき』はその点を踏まえて聴いたとしても大きな変化を感じる。かつては激しい音像やトリッキーな演奏もバンドが持つ特徴の1つだったが、本作では各楽器が美しく折り重なった流麗で柔らかなサウンドが耳に残る。心の奥深くへゆっくりと沁み込み、リスナーを芯から温めてくれる。またミゾベの歌声は朴訥としながらも力強さと情感を携え、雄大なメロディを精緻に届けている。派手ではないが、ポップソングとしてナチュラルな親しみやすさを持った曲が多く揃っているのだ。

営みの中で芽生える感情や日常のひと場面にフォーカスした歌詞たちもまたこのアルバムを体に馴染ませてくれる。ラジオアプリのタイアップ曲である「小さなことをひとつ」では遠くの誰かと繋がっている感覚にタッチし、入浴剤のCMソング「身体」では1日の終わりに滲む明日への想いを馳せるなど、発注先をモチーフにしながら自然な形で暮らしの情景を描き出す。その優しい視線が生活におけるふとした大切な瞬間を掬い上げてくれる。

穏やかな時間を綴った歌詞が多い中、終盤に置かれた「独り」は別離をテーマに緊満したサウンドスケープが展開されてゆく。未曾有の危機に陥った2020年以降の世界において、この曲に込められた痛みには切迫感が宿る。それでも〈忘れないよ〉と誓う歌詞から、ラストトラック「歩む日々に」に繋がるクライマックスはこのアルバムに救いをもたらす。信頼できる人、大切なもの、忘れられない喪失感、どんなものだっていい。そこに寄り添って生きるほかない、脆く弱い僕らを肯定してくれるような格別のエンディングだ。

洗濯ばさみで留められたシャツやシーツが風で小刻みに動く様。『はためき』という言葉から浮かぶそんなイメージは、不安定な毎日の中で喜びと悲しみを細かく往来しながらその場に留まろうとする心模様とも繋がる。日々をそっと包み込み、祈りを手渡すような音楽だ。

文:月の人




RELEASE INFORMATION

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odol「はためき」
2021年6月9日(水)
UKCD-1198
紙ジャケット仕様 / ¥3,080 (税抜価格¥2,800)

Track:
01. 小さなことをひとつ (※radikoブランドムービーオリジナルソング)
02. 未来
03. 眺め
04. 身体 (※アース製薬「温泡」TVCMソング)
05. 虹の端 (Rearrange)
06. 瞬間 (※映画「サヨナラまでの30分」劇中曲セルフカバー)
07. かたちのないもの (※UCC BLACK無糖「#この気持ちは無添加です」キャンペーンソング)
08. 独り
09. 歩む日々に (※森永乳業コーポレートムービーオリジナルソング)

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