SENSA

2021.12.26

オレンジスパイニクラブ、卑屈な歌たちに想いを込めた「アンメジャラブル」ツアーファイナル

オレンジスパイニクラブ、卑屈な歌たちに想いを込めた「アンメジャラブル」ツアーファイナル

 「SNSでバズる」とか「バイラルチャートでヒットしている」「〇億回再生」という現象に私はあまり重きを置いていない。実際に、ライブハウスに足を運んで、そのステージを見たときにどれだけ心を揺さぶるライブをしてくれるか。特にロックバンドはそういう光景を見られたときにようやく腑に落ちる。あ、このバンドはかっこいい、と。

 そういう意味でオレンジスパイニクラブは、昨年リリースされた初の全国流通盤1stミニアルバム『イラつくときはいつだって』に収録された「キンモクセイ」がSNSを中心に注目を集めた存在だが、ライブハウスのステージに立ったときのかっこよさこそ伝えたいバンドだと思っている。あの場所でスポットライトを浴びた瞬間に強く剥き出しになるパンク精神。グルーヴィーな演奏にのせる哀愁漂うメロディ。その両方を行き来する緩急の激しいステージは他にはないオリジナリティを放っている。

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 12月16日。オレスパにとってバンド最大キャパの会場となる恵比寿リキッドルームで開催されたワンマン公演は、「退屈かもしれない」や「Worst of myself」を皮切りに、10月にリリースされたメジャー1stフルアルバム『アンメジャラブル』の楽曲を中心に披露されていった。そのタイトルのとおり、ゆりと(Dr)のスリーカウントで勢いよく突入した高速チューン「スリーカウント」や、温かなミディアムテンポ「37.5℃」〈目が回るほど嬉しくて〉という歌詞に合わせてスズキユウスケ(Vo/Gt)がくるくると指をまわす仕草が印象的だったメロディアスな「日和見の暮」から、 The ピーズに影響を受けているというバンドのパンキッシュな一面が色濃く感じられる「アイヘイトマイバースデー」へ。音源にはない不穏なインタールードでつないだ「イヤーワーム」ではゆっきー(Ba/Cho)の跳ねるベースが心地好くフロアを揺らし、8分の6拍子のリズムで刻むフォーキーな「Cho ru ryo」ではスズキナオト(Gt/Cho)が繰り出す甲高いギターのリフが会場を呑みこむような渦を生み出していった。ギター、ベース、ドラムというベーシックなバンド編成で次々に表情を変える多彩なアプローチは、オレンジスパイニクラブというバンドが決してひとつの枠にカテゴライズされるバンドではないことを物語っていた。

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 「ずっと出たいハコでした」と切り出し、MCで憧れのライブハウスに立つことができたよろこびを伝えたユウスケ。「一時はやめたいと思うときもありました。そんなときにナオトが作ってきてくれた。ずっと大切にしている曲をやります」と届けたのはバンドの知名度を上げるきっかけになった「キンモクセイ」。人懐っこいメロディをなぞるユウスケのヒリついたボーカル。〈握ってたいのはスマホじゃない あんたの右手だ〉というフレーズと共にフロアのお客さんの腕が一斉にあがった。続けて『アンメジャラブル』の先行シングル「ガマズミ」へ。花をモチーフに、その匂いや温度感まで伝わるようなミディアムナンバーを続けて披露してみせた流れにオレスパの歌の良さが際立つ。

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 前身バンドThe ドーテーズ時代の「急ショック死寸前」を頭のネジが吹っ飛んだような猛烈なテンションで駆け抜け、「いま久しぶりにセンキューって言ったけどどう(笑)?」(ユウスケ)、「決まってた」(ナオト)とゆるいやりとりで会場を和ませたスズキ兄弟。メンバー全員でツアーを振り返るMCを挟み、爪弾くギターの伴奏で歌い出した「ハクビシンのユメ」や、開放感のあるサビで疾走する「睫毛」のあと、異色の存在感を放ったのは「ringo」。抑制の効いた前半からは、予想もできない混沌としたアウトロで、激しく明滅する光のなか、大きく揺り動かして演奏する姿がとてもエモーショナルだった。

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 終盤、「30になっても40になっても同じようにバンドをやっていたい。10代の僕にまだライブをやってるよって言うために。10代の頃の歌を」というユウスケの言葉を添えて届けた「モザイク」では、ほとばしる衝動を容赦なく爆発させた。そして、「この歌がみなさんの生きる理由になりますように」と願いを込めて届けたのは、『アンメジャラブル』ではラストナンバーとしてに収録されていた「理由」。軽やかに弾むゆりとのリズムのなかで揺れる繊細なラララのハーモニー。〈いつかは終わる生涯なのならばあなたと砕けたい〉。そんなふうに紡がれるのは、少し頼りなくて、日々の生活に疲れ果てた〈僕〉でも大切なひとを想うことが生きる理由になる、そんな人間臭い歌だった。

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 「いつでもみなさんの味方なので......味方になれてるかわからないけど、味方の立場でいれたらなと思います」。そんなユウスケらしい言い方でバンドの在り方を伝え、ライブの定番曲「敏感少女」で本編は幕を閉じた。さらに、アンコールでも「パープリン」「まいでぃあ」「みょーじ」と、インディーズ時代から歌い続けている楽曲を立て続けに披露。途中でユウスケのギターの弦が切れるというアクシデントがありながらも、余力を一切残さないすべてを出し尽くすようなパフォーマンスで全23曲のライブを締めくくった。

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 去り際、「みょーじ」の歌詞を借りるかたちで、ユウスケが「ずっと卑屈な歌を歌っていこうと思います」と言っていた。たしかにオレスパの(特にユウスケが作詞作曲をした)歌には、たとえば、「睫毛」で〈朝が来てもダメなまんまで〉と嘆いていたり、「アイヘイトマイバースデー」で〈他人の不幸に胸を撫でて〉と自分を卑下してみたり、煮え切らない自分を曝け出した歌が多い。でもきっとみんなおんなじだ。完璧にはなれない自分を恥じながら今日も生きている。ユウスケが言う「卑屈な歌」は、やがて「みんなの歌」になる。オレンジスパイニクラブはそういう可能性を秘めたロックバンドだと思う。

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写真:三吉ツカサ

オレンジスパイニクラブ 1st Full Album Release LIVE TOUR「アンメジャラブル」
2021年12月16日(木)恵比寿LIQUIDROOM セットリスト
01. 退屈かも知れない
02. Worst of myself
03. スリーカウント
04. 37.5℃
05. 日和見の暮
06. アイヘイトマイバースデー
07. イヤーワーム
08. Cho ru ryo
09. タルパ
10. バカのしりぬぐい
11. キンモクセイ
12. ガマズミ
13. 東京の空
14. 急ショック死寸前
15. ハクビシンのユメ
16. 睫毛
17. ringo
18. モザイク
19. 理由
20. 敏感少女

Encore
01. パープリン
02. まいでぃあ
03. みょーじ

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RELEASE INFORMATION

オレンジスパイニクラブ「アンメジャラブル」
2021年10月20日(水)
〔初回限定盤〕(CD+DVD) WPZL-31900/01 定価:¥5,280 (税込)
〔通常盤〕(CD) WPCL-13328 定価:¥ 3,300 (税込)

Track:
【CD】
1. ガマズミ
2. 退屈かも知れない
3. ハクビシンのユメ
4. 日和見の暮
5. バカのしりぬぐい
6. アイヘイトマイバースデー
7. イヤーワーム
8. ringo
9. Worst of myself
10. Cho ru ryo
11. 睫毛
12. 理由

【DVD】
1. みょーじ
2. 駅、南口にて
3. パープリン
4. 急ショック死寸前
5. 37.5℃
6. 眠気
7. コーヒーとコート
8. タルパ
9. キンモクセイ
10.モザイク
11.東京の空
12.スリーカウント
13.ドロップ
14.リンス
15.たられば
16.敏感少女
17 .イージーゴーイング

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LIVE INFORMATION

「タイトル未定」対バンツアー
2022年5月13日(金)大阪 バナナホール
2022年5月21日(土)新潟 GOLDEN PIGS RED
2022年5月27日(金)宮城 SENDAI CLUB JUNK BOX
2022年6月03日(金)愛知 ElectricLadyLand
2022年6月08日(水)東京 SHIBUYA CLUB QUATTRO

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オフィシャルサイト
@orangespinycrab
@orangespinycrab.jp
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