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2021.05.30
Ivy to Fraudulent Game、3rdアルバム『再生する』を携えた「Renaissance」ツアーで見た、音楽で"心"に立ち向かう意思
とある雑誌で、「Ivy to Fraudulent Gameにはふたりの天才がいる」と書いたことがある。4、5年ほど前のことだ。ひとりはメインソングライターである福島由也(Dr)。憂いと情熱の両方を感じさせる福島の楽曲には、他の誰とも似ていない記名性があった。もうひとりはボーカリストの寺口宣明(Vo/Gt)。福島が生み出す楽曲の理解者として、その歌に込められた感情の起伏に、時に荒々しく、時に繊細に命を吹き込む。インディーズ時代から歌唱力は抜群だったが、それ以上にステージで歌に入り込んだときの姿は真に迫るものを感じた。ライターが煽る「天才」の乱用は嫌いだが、このバンドには使ってもいい、という覚悟で書いたのをよく覚えている。
あれから、アイビーは2017年にメジャーデビューを果たし、ワンマンでZepp規模のライブハウスを埋めるバンドへと成長していった。寺口も作詞作曲に加わり、より多面的な魅力を持つバンドであることにも気づかせてくれた。印象に残るライブも何本か見てきたが、5/26(水)にO-Crestで開催された「Renaissance」ツアーの追加公演は、なにか新しいアイビーと出会えたような感動があった。当然、ふたりの天才は健在なわけだが、同時に「4人の個性」がぶつかり合って作り上げる空気感がとてもよかったのだ。そして、楽しそうだった。バンドに対して使うのは変な言葉だが、とてもバンドっぽい感じがした。
この日のO-Crestは、アイビーが4月にライブ会場限定で先行リリースしたアルバム『再生する』を引っ提げた全国ツアーの追加公演という位置づけだった。だが、新型コロナの影響で一部の公演が延期。ファイナルに予定していた渋谷WWW X公演も行なえていないという経緯もあり、バンドとしてはモチベーションを保つのが難しいライブではあったと思う。そんななか、寺口が「今日を光にしてやってきました」と伝えたステージは、この状況に腹を括り、いま目の前にある一瞬を全力で謳歌しようとする頼もしい4人の姿があった。
ライブは、ホーリーな歌い出しに、やがてバンドサウンドが加わる「Twilight」ではじまった。続く「共鳴」では、歪みと轟音のうえを淡々と流れる美しいメロディがフロアに熱を注いでいく。最新アルバム『再生する』の楽曲を中心にライブは進んだが、そこに過去曲が溶け合うことで、音源とは一味違う新たな"再生の物語"が紡がれていった。
「blue blue blue」「error」という"青"をモチーフにした旧作から、虚ろな"黒"の心境を吐露する「ウロとボロ」で聴かせた、理想と現実の狭間にある葛藤。大島知起(Gt)によるギターのボウイング奏法で陰鬱な世界観を作り上げた「番」から、福島がサンプリングパッドを叩き、カワイリョウタロウ(Ba)がシンセベースを弾くというリズム隊のアプローチによって冷ややかな幻想を描いた「Utopia」に託した、朝を怯える日々の憂い。アルバムのなかでは異色な存在感を放つ、儚い愛をテーマにしたダンサブルなナンバー「ゴミ」を、他者との繋がりを希求する「trot」のあとに置いた流れも絶妙だった。
クライマックスは開放的なロックナンバー「檻の中から」、〈まだ行けるさ〉と自分に言い聞かせるような「旅人」で晴れやかに終わった。アンコールはなかったが、物足りないとは思わなかった。絶望から希望へ、闇から光へ。歪なグラデーションを描きながら、生きることを選ぶ。そういう意思を本編の15曲ですべてを言い切っていた。
この日のライブでは、MCで寺口がとても素直に自分の気持ちを伝えようとする言葉も印象的だった。「ここでは言い張るんですよ、俺たちは死なない。ずっとやっていくって。でも、どうなっていくかはわからないじゃないですか」。そう言って、活動休止をしてしまう親しいバンドとの対バンを振り返ると、「思うことはいろいろあったけど、あんまり上手く本人たちにも言えなかった。言葉にならないのが本当の俺です」と言って、「御伽」を歌った。おおらかに刻む6/8拍子のリズムに、〈いつも僕は言葉が見つからなくて〉と独白するような歌詞がのる。それは、福島が書いたものだが、寺口も同じなんだな、と思った。改めて彼らが一緒にバンドをやっている理由も知れた気がした。
「番」もそうだが、最新アルバム『再生する』には、心と言葉がチグハグな人間というものがひとつのテーマにあるように思う。遡れば、過去に「模様」という曲でも、寺口は言葉の無力さについて触れていた。音楽ならば、言葉を超えていける。Ivy to Fraudulent Gameの音楽が胸を打つのは、そういう確信が根底にあるからかもしれない。言葉で自分の気持ちを伝えることが苦手だからこそ、音楽をもって人間の心に立ち向かっていく。その戦いに挑むのは「ふたり天才」ではなく、「4つの個性」だ。それがいまのIvy to Fraudulent Gameなのだと思った。
写真:佐藤 広理
Ivy to Fraudulent Game『再生する』
2021年6月2日(水)
プレアド/プレセーブはこちら
@IvytFG
Official YouTube Channel
FRIENDSHIP.
あれから、アイビーは2017年にメジャーデビューを果たし、ワンマンでZepp規模のライブハウスを埋めるバンドへと成長していった。寺口も作詞作曲に加わり、より多面的な魅力を持つバンドであることにも気づかせてくれた。印象に残るライブも何本か見てきたが、5/26(水)にO-Crestで開催された「Renaissance」ツアーの追加公演は、なにか新しいアイビーと出会えたような感動があった。当然、ふたりの天才は健在なわけだが、同時に「4人の個性」がぶつかり合って作り上げる空気感がとてもよかったのだ。そして、楽しそうだった。バンドに対して使うのは変な言葉だが、とてもバンドっぽい感じがした。
この日のO-Crestは、アイビーが4月にライブ会場限定で先行リリースしたアルバム『再生する』を引っ提げた全国ツアーの追加公演という位置づけだった。だが、新型コロナの影響で一部の公演が延期。ファイナルに予定していた渋谷WWW X公演も行なえていないという経緯もあり、バンドとしてはモチベーションを保つのが難しいライブではあったと思う。そんななか、寺口が「今日を光にしてやってきました」と伝えたステージは、この状況に腹を括り、いま目の前にある一瞬を全力で謳歌しようとする頼もしい4人の姿があった。
ライブは、ホーリーな歌い出しに、やがてバンドサウンドが加わる「Twilight」ではじまった。続く「共鳴」では、歪みと轟音のうえを淡々と流れる美しいメロディがフロアに熱を注いでいく。最新アルバム『再生する』の楽曲を中心にライブは進んだが、そこに過去曲が溶け合うことで、音源とは一味違う新たな"再生の物語"が紡がれていった。
「blue blue blue」「error」という"青"をモチーフにした旧作から、虚ろな"黒"の心境を吐露する「ウロとボロ」で聴かせた、理想と現実の狭間にある葛藤。大島知起(Gt)によるギターのボウイング奏法で陰鬱な世界観を作り上げた「番」から、福島がサンプリングパッドを叩き、カワイリョウタロウ(Ba)がシンセベースを弾くというリズム隊のアプローチによって冷ややかな幻想を描いた「Utopia」に託した、朝を怯える日々の憂い。アルバムのなかでは異色な存在感を放つ、儚い愛をテーマにしたダンサブルなナンバー「ゴミ」を、他者との繋がりを希求する「trot」のあとに置いた流れも絶妙だった。
クライマックスは開放的なロックナンバー「檻の中から」、〈まだ行けるさ〉と自分に言い聞かせるような「旅人」で晴れやかに終わった。アンコールはなかったが、物足りないとは思わなかった。絶望から希望へ、闇から光へ。歪なグラデーションを描きながら、生きることを選ぶ。そういう意思を本編の15曲ですべてを言い切っていた。
この日のライブでは、MCで寺口がとても素直に自分の気持ちを伝えようとする言葉も印象的だった。「ここでは言い張るんですよ、俺たちは死なない。ずっとやっていくって。でも、どうなっていくかはわからないじゃないですか」。そう言って、活動休止をしてしまう親しいバンドとの対バンを振り返ると、「思うことはいろいろあったけど、あんまり上手く本人たちにも言えなかった。言葉にならないのが本当の俺です」と言って、「御伽」を歌った。おおらかに刻む6/8拍子のリズムに、〈いつも僕は言葉が見つからなくて〉と独白するような歌詞がのる。それは、福島が書いたものだが、寺口も同じなんだな、と思った。改めて彼らが一緒にバンドをやっている理由も知れた気がした。
「番」もそうだが、最新アルバム『再生する』には、心と言葉がチグハグな人間というものがひとつのテーマにあるように思う。遡れば、過去に「模様」という曲でも、寺口は言葉の無力さについて触れていた。音楽ならば、言葉を超えていける。Ivy to Fraudulent Gameの音楽が胸を打つのは、そういう確信が根底にあるからかもしれない。言葉で自分の気持ちを伝えることが苦手だからこそ、音楽をもって人間の心に立ち向かっていく。その戦いに挑むのは「ふたり天才」ではなく、「4つの個性」だ。それがいまのIvy to Fraudulent Gameなのだと思った。
写真:佐藤 広理
RELEASE INFORMATION
Ivy to Fraudulent Game『再生する』
2021年6月2日(水)
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