2025.10.02

「自分の生きた証を残したいっていう思いが根本にあり続けている」──omeme tentenが、セルフタイトルアルバムに閉じ込めた恋と光と現在

L→R:たえり(Dr)、灯 (Vo/G)、Yuji(B)
セルフタイトルのファーストアルバムを出せたバンドになれたんだな(灯)
─9月24日(水)に1stフルアルバム『omeme tenten』がリリースされました。「祈りたちよ」の再録をはじめ、これまでの楽曲たちを収め直したファーストアルバムらしい瑞々しさと集大成感を備えつつも、とにかく広く飛ばしていくための作品だと受け止めています。それは「ordinary morning」から始まり、「まばたきよりも」で終わるという時間をなぞっていく曲順からも、〈すこしだけ 君を知りたい すこしずつ これを恋と呼びたい〉〈めくるめく季節 揺れる風に吹かれ より一層君と生きたい〉と克明に大切な存在を歌ったリリックからも感じられて。改めて本作を振り返って、お2人はどのような1枚になったと感じていらっしゃいますか。
灯(Vo,Gt):omeme tentenとしてアルバムを作るのが初めてだったのと、全部で12曲を収録するということで、これまでの作品とは全然違う作り方になったと思っていて。今お話いただいたみたいに、1曲目と最後の曲の繋がりもそうですし、「ordinary morning」から「まばたきよりも」へ向かっていく曲順も強く意識しましたし。あと、アルバムに入れた新曲たちには、全曲宇宙や銀河みたいな夜の要素を混ぜているんですね。そうやってファンタジーの世界も見つけて楽しんでもらえる、繋がりを大切にしたアルバムになったと思います。

─朝から夜に向かっていく曲順と星々を思わせる曲たちのコンセプトは、制作当初から青写真として描いていたものだったのでしょうか。
灯:もともと「セルフタイトルのファーストアルバムを作りたい」っていう憧れがあったので、タイトルは最初から決まっていましたね。曲順に関しても「ordinary morning」で始まって「まばたきよりも」で終わることを、曲のアレンジが完成する前から決めていて。コンセプトへの思いが先行していたかなと。
─2曲のベースができた段階で、時間をなぞっていくアルバムになることまで見えていた?
灯:そうですね。いちリスナーとしてアルバムを聴く時に、「このアルバムのこっからここへの流れが良かったな」って思うことが多いから、omeme tentenでもそういう流れを大切にしたくて。で、コンセプトを考えてみた時に、もともと私は時間や時代とかに重きを置いて曲を作るのが好きだし、朝と夜を主題にして曲を作れたら面白いんじゃないかなと思ったんです。これまでは分かりやすく季節や時間帯を表す言葉を避けてきていたんですけど、「morning」って言葉を直接入れたり、朝から夜明けに向かっていくことを当初から念頭に置いていました。
─なるほど。ファーストアルバムにセルフタイトルを掲げたいという思いを抱いていた背景は何なのでしょう。先ほど、憧れがあったとも話していただきましたけど。
灯:そもそもこのバンド自体がライブをメキメキやることを目指して結成したわけじゃなくて、本当に趣味で始めたというか、コロナ禍の思い出作りとしてスタートしたんですね。そこから、いざバンドを中心に置いて生活していくことを決めた時、遠くない未来にアルバムをリリースしたいと当然思うようになって。それは私自身がめちゃくちゃ音楽リスナーだったからだし、自分が好きなRADWIMPSやandymoriがセルフタイトルでファーストアルバムをリリースしているのに憧れていたから。だからこそ、今回このアルバムを出せて、セルフタイトルのファーストアルバムを出せたバンドになれたんだなっていう。

─このバンドの始まりにあった思い出を残したいという思いが、新たな形で結実したと。Yujiさんは今作を振り返ってみて、いかがですか。
Yuji(Gt):これまではバンドメンバーで顔を合わせて地道に曲を作っていたんですけど、今回から曲の作り方を変えたんですよ。灯のデモがあった上で、僕がもう一度ドラムや他の楽器を入れたデモを作って、アレンジを先に固めるようにした。なので、これまでやってこなかった3本目のギターが入っているんですよね。そうやって音の彩りまでしっかりと意識できた作品になったかな。
─大元になる灯さんのデモを踏まえて、Yujiさんがより固まったデモを作り、バンドに落とし込んでいく手法をとることにしたキッカケは何だったんですか?
Yuji:スタジオで曲作りをしているだけだと気分が上がっているんで、歌とコーラスの音がぶつかっていたり、コードが濁っていることがあったんです。でも、事前にデモがあることでスタジオに入る前にイメージを固められるというか、客観的に楽曲を捉えることができた。セルフタイトルということで、とにかく気合いを入れて作りたかったんですよね。
─『omeme tenten』というアルバムにふさわしい曲を作るための変化。
Yuji:セルフタイトルへの憧れはさっき灯も話してくれましたけど、自分たちの名前を自分の作品につけることができるのって、バンドならではだと思うんで。小説家や画家は、なかなか自分の名前を作品につけられないじゃないですか。でも、バンドには許されている。そういう意味でも強い憧れや熱がありました。

恋とは何かを考えたら、朝起きた瞬間に考える人だと思った(灯)
─ここまでもお話に出てきたように「ordinary morning」「まばたきよりも」があることで、「光」や「POLARIS」、マジックアワーを表現した「足跡」が映えるアルバムになっていると思うのですが、朝と夜という主題をどのように膨らませていったのでしょう。
灯:もちろんコンセプトとして朝と夜を考えていたんですけど、作る過程においてたまたまその曲がちゃんと朝と夜の曲になってくれた感じもあって。というのも、1曲目をラブソングにしたかったんですよ。私としてはラブソングを作っているつもりなんですが、omeme tentenは「ラブソングがない」と言われがちで。だからこそ、そんな私たちがアルバムの冒頭を恋の歌にしたら良いなというか、「omeme tentenだって恋してるんだ」と感じてもらえるかもなと。それで恋とは何かを考えたら、朝起きた瞬間に考える人だと思ったんですね。
─恋を噛み砕いていった結果、朝という当初思い描いていたテーマと結びついた。
灯:そうです。目覚ましを止めた瞬間から思い出してしまったり、青い空に小さい飛行機が飛んでいたら写真を送りたくなってしまったりするのが恋。そういう朝を私は迎えることが多いから、ラブソングを書こうとしたら必然的に朝になってしまいました。
─「ordinary morning」では恋の芽生えがしたためられていますが、「まばたきよりも」では一層深い愛情が記されていて。恋から愛に発展していく点でここにも時間が流れていると思うのですが、なぜこうした歌詞になったと思います?
灯:私は曲を作る時、主人公とその主人公に対する存在を思い浮かべていくんですけど、この2曲の主人公は別で考えていましたね。でも、確かにおっしゃっていただいたような聴き方もできて。まだ付き合っていない状態から、家族のようにお互いを愛し合っていくみたいな変化もある。この曲は姉妹みたいなものだと感じているので、無意識のうちに繋がっているのかもしれないなと。
─サウンド面でも双方でブリッジミュートを使っていて、強く結ばれていますよね。
灯:そうなんです!「どちらもブリッジミュートで始めよう」とずっと言い続けてました。
Yuji:同時期に作った曲なので親和性が高いとは思いつつも、ブリッジミュートの広がっていく先が朝と夜明けで違うというか。「ordinary morning」は朝のイメージに合わせて、良い意味で平坦なプレイングから、朝の陽ざしが差し込んでいくような広がりを持たせたんですね。一方で「まばたきよりも」はディレイをかけて、夜明けの幻想的な雰囲気を出したり、アウトロを長めにした。この2曲は対にもなっているし、ちょっとずつ状況が違いながら確かにリンクしてるんです。
─ここまでお話いただいたように「ordinary morning」や「まばたきよりも」は恋の歌であることがハッキリと分かる歌詞が綴られていますが、その中で歌われていることは言葉にしたいけれど上手く言えないもどかしさや、名前もついていないほど芽生えたての感情をこれから大きくしていきたいという願いだと思うんです。一方で「エターナル」や「ユーモラスディストピア」では〈一緒にいたいよ〉〈あなたを待っているから〉とどストレートに思いの丈が書かれている。灯さんの中では、ここまでド直球の思いを伝えられていても、まだまだ言葉にできていない感覚があるんですか。
灯:確かに「エターナル」をはじめ、真っ直ぐ思いを言えている時もあるんですけど、ふと自分を客観的に見たら結局言いたいことを上手く言えてない気がする、みたいな。今回無事にアルバムをリリースできたとはいえ、まだファーストアルバムに過ぎなくて。私たちはまだ生まれたばっかりで、そういうバンドの経験値でまっすぐ伝えられる言葉は、後から振り返ったら下手くそなんじゃないかと思ったんですよ。もちろんハッキリと伝えているつもりだけど、若くて未熟な自分たちなりの言語化だから。なので、「まばたきよりも」の〈ああ、うまく言えるようになるまで 死ねない〉には、もっと上手く音楽で伝えられるようになるまでバンドを続けたいって気持ちも込めましたね。
ライブを見にきてくれるあなたたちが私たちにとってのポラリスだと伝えたかった(灯)
─「POLARIS」のサビにおける歌詞は、全てが鍵カッコで括られていますけれど、今の自分から過去の自分に向かって「ここまでやってこれたよ」と伝えるようにも、未来の自分から今の自分に言えるようになりたい台詞にも聞こえて。特に〈ほら、今照らした道を辿って 応えを探して走る君だって 流れ星みたいだ、ここから見ればわかるかい ?〉の1ラインは、今おっしゃっていただいたバンドを続ける上での覚悟や決意も滲んでいると感じました。
灯:おっしゃっていただいて、確かにその解釈も素晴らしいなと。でも、この鍵カッコは私自身が欲しい言葉を書いたつもりで。日々悩んだり、何かに憧れてジェラシーを抱いたりする中、そのちっぽけな悩みを解決してくれるキッカケは絶対に潜んでいるはず。そういうキッカケや道標みたいな存在をポラリスと呼んでみたんですね。だからサビの歌詞は、道標にしているポラリスが私のことをこんな風に思ってくれていたら良いのにっていう希望や救いを求めたものなんですよ。
─何らかのヒントを与えてくれる存在から、灯さんに向けて送ってほしい言葉。
灯:そう、自分がもらったら救われる言葉を、リスナーの皆さんにも「こういう考え方だってできるかもしれないよ」「私たちだって流れ星みたいだから大丈夫だよ」と共有したかった。そうすることで希望を感じてもらえる曲にできたらなって。
─これまでの経験において、このナンバーでポラリスに例えている存在から希望をもらってきたからこそ今回こうした歌詞に至ったと思うのですが、具体的にどういった経験があったんですか。
灯:明確な経験があったわけではないんですけど、やっぱり何か悩みを相談した時に、友達が言葉をかけてくれたり、元気づけてくれるじゃないですか。例えば「そういう悩みを抱えているあなただって素敵だよ」って言ってもらえるかもしれない。私は少なくとも相談を受けたら、「その悩みを抱えているのはあなたが優しいからだよ」って思うんですよね。なので、悩みを抱えている自分をどうやって勇気づけられるかを考えた時、「そのままのあなたが美しいんだよ」って言葉に一番救われるんじゃないかなと。悩みを抱えながらも答えに真っ直ぐ走っている、その姿が美しいと他の存在から思ってもらえたら、そして自分でも思うことができたらなっていう。
─よく分かりました。もちろん灯さんが求めている言葉が刻まれていることは前提として、omeme tentenがリスナーにとってのポラリスになっていくという宣言にも受け取れると改めて感じましたが、いかがですか。
灯:というよりも、omeme tentenを好きでいてくれたり、ライブを見にきてくれるあなたたちが私たちにとってのポラリスだと伝えたかったというか。色んな経緯があって、スポットライトを浴びさせてもらっているわけですけど、ライブをしていると目の前には本当に素敵な顔がたくさんあって。良い顔で音楽を聴いてくれているあなたのその表情が一番素敵なんだと伝えたかったんですよね。
─ポラリスとは、悩みを解決してくれるキッカケであり、救いであり、美しく輝く道標であるとのことですが、「光」や「足跡」をはじめ、今作には「POLARIS」に限らず光や星、銀河のモチーフが登場していて。こうしたキーワードにはどのような思いを込めていたのでしょう。
灯:ここまでもお話してきましたが、星や光も手を伸ばしたい目標や道標を表しているんだと思います。常に存在しているけれど、手の届かないものというか。「光」というタイトルも、数ある曲の中からomeme tentenの光を見つけてほしいと思って決めたもので。天体に関する言葉たちには、ファーストアルバムだからこその衝動や初々しさ、憧れが詰め込まれているんじゃないかな。
今のomeme tentenを閉じ込めることを大事にしました(Yuji)
─時代に重心を置いて曲を作るのが好きというお話も冒頭でしていただきましたが、「ユーモラスディストピア」はそうした時代への視線が顕著に表出している一曲だと感じています。ここでは〈ここが地獄でなくても 慰めにはならない 生き続けるだけ 天国でもないだけ〉と明るいことばかりではない時代をどん底だと言い切るのではなく、ユーモラスディストピアだと伝えていて。かすかにアイロニカルに、それでも「悪くないよね」と言い聞かせる筆致は「祈りたちよ」や「2020」にも繋がるポイントだと受け止めているんですけれど、なぜこのように時代や世の中を表現しているのでしょうか。
灯:私は過去の自分を残す行為が好きというか、今の自分を残して未来から振り返ることが好きなんですよね。作曲という行為を今の自分を残すためにやっている。だからこそ、時代という大きなテーマへ必然的に繋がっていってしまうんですよ。私の曲作りに対する姿勢が時代と共にあるからこそ、切っても切り離せないものになっているのかなと。
─作曲を通じて、今の自分をアーカイブしたいと思うようになった理由は何なのでしょう。
灯:むしろ最初の衝動がそれなんですよ。コロナ禍に青春時代を奪われて、自分が何だか分からなくなった時、どうにか自分を刻むためにやった行為が作曲だった。きらめく時代をコロナに潰されて、自分が生きていた証を残したいと思うようになったんです。だから極端な話、最初は誰かに聴いてもらわなくても良くて。そうして生まれた曲が「祈りたちよ」だったので、今回再録という形で歌い直すことになって泣けてきたんですよね。葛藤してどうにか自分を残そうとしていた自分がいたから。それで音楽をやっていてよかったと思えましたし、未来の自分が今を振り返った時に「この時はこんなことがあったな」と思えたら良いなと。どうやって音楽を作って届けていくのかも大事なんですけど、自分の生きた証を残したいっていう思いが根本にあり続けているんだと思います。
Yuji:そうだね。「祈りたちよ」の再録はレコーディング方法にもこだわりましたし。もちろん、自分がどうやってアップデートしていくのかも考えましたが、単に別々で録音し直すだけじゃこの曲の生まれた意味を最大限表現することはできないと思って。いわゆるバンドらしさというか、今のomeme tentenを閉じ込めることを大事にしました。
─灯さんの根源には生きた証を残したいという思いがあるとのことでしたけれど、自分の存在を表明する上でなぜ音楽を手にとったんですか?
灯:実は、全部やったんです。映画もたくさん観たし、小説も読んだし、写真を撮ってもらったりもした。でも、全部違ったんですね。どれもお遊び程度のものしか生み出せなくて、「こんなものしか残せないんだ」とかえって落ち込んでしまった。そんな中で「祈りたちよ」を書くことができて、めちゃくちゃ救われたんですよ。この曲を残せるならコロナ禍を体験した意味があったかもしれないと思えたし、いつかこの報われない気持ちも報われるかもしれないと感じて。そうやってあの時の自分が頑張ってくれたから、今に繋がっているんだと思います。

─ここまでお話いただいた思いを抱え、10月10日(金)の自主企画『ten ten day2025』を経て、11月9日(日)福岡・OP'sよりツアー『431光年』がスタートします。ツアーファイナルの東京・WWW X公演は、自身初のワンマンライブにもなりますが、そこへ向けてどういった旅路にしていきたいですか。
灯:これまでリリースツアーはたくさんしてきましたけど、アルバムを引っ提げてのツアーは初めてなので、お客さんがどういう風にアルバムを受け取ってくれて、どんなライブができるのかなっていうワクワクばかりで。本当にそれだけかな。初めてのワンマンも大きい会場でやらせてもらいますし、とにかくドキドキワクワクするツアーにしていきたいなと。
Yuji:アルバムを引っ提げてツアーを回ることに対してバンドを始める前から憧れを抱いていましたし、今回の作品がライブを通じてどう変化していくのかが楽しみですね。これまでにリリースした曲たちもきっと違う表情になると思いますし。今からセットリストを考えるのが楽しみです。
取材・文:横堀つばさ
写真提供:mini muff records / murffin discs
RELEASE INFORMATION

omeme tenten「omeme tenten」
2025年9月24日(水)
Format:Digital,CD
Label:mini muff records / murffin discs
Track:
1. ordinary morning
2. favorite jinx
3. 光
4. POLARIS
5. 祈りたちよ
6. 2020
7. Now & Then
8. 足跡
9. ユーモラスディストピア
10. クリーミー呪って
11. エターナル
12. まばたきよりも
試聴はこちら
LIVE INFORMATION
omeme tenten 1st Full Album 「omeme tenten」リリースツアー"431光年"

チケット詳細はこちら
LINK
オフィシャルサイト@omeme_tenten
@omeme_tenten
@omeme_tenten