2025.09.05
とはいえ、決して頭でっかちな印象はなく、フィジカルでダイナミックなグルーヴが脈打っており、佐瀬のトランペットも絶好調だ。更には、一騎当千のプレイヤーたちの演奏も聴きもの。ベースにKing Gnuの 新井和輝、ギターに在日ファンクの小金丸慧、鍵盤にAnswer to Rememberの海堀弘太、ドラムにDC/PRG の秋元修。そして、シンガーのermhoiが2曲でフィーチャーされている。 昨今は賽(SAI)、JUJU、KID FRESINO、藤原さくら、MISIA、STUTS、星野源などのサポートでも活躍する佐瀬に話を訊いた。

色々なタイプの短編から成り立っているという感じはあります
─セルフライナーに今回のアルバムについて「時代に逆行した作品」と書かれていますね。具体的には、イントロも曲も長く、1曲の中でダイナミクスが一定ではない。そういうところが逆行していると。これは、結果的にそうなったんでしょうか?
佐瀬:自分のやりたかったことが、たまたまシーンの主流と逆行していたということでしょうね。というか、いままでも自分がやりたかった音楽っていうのは、よく考えるとメインストリームに溢れかえっている音楽とは違っていたんです。9分とか10分の曲なんて、今珍しいけど、僕はずっと好きだったんですよね。
─じゃあ、結果的に長くなったということでしょうか?
佐瀬:そうです。僕の曲ってよくあるジャズのフォーマットを踏襲していないんですよ。たとえばテーマをやってアドリブがあって、またテーマに戻ってくるというのとは違う。 テーマをやったらまた次の展開に行って、更に異なる展開をするみたいな曲が多くて。そうなってくると自然と曲が長くなってくるんです。
─なるほど。でも、9分や10分ある曲でも長いと感じなかったんですよ。それは長いと感じさせないための工夫をしているからなのかな、と。
佐瀬:僕は自分で音楽を聴いている時、飽きっぽいほうなんですよ。そんな飽きっぽい自分でも長く聴いていて楽しい音楽を作ろうっていうのを意識していたら、そうなったのかなと思いますね。
─イントロについてですが、今の時代はジャズはもちろん、うたものだったらいきなりサビから始まる、みたいな構成が確かに多いですよね? イントロが長いとみんな飽きちゃうんでしょうか。
佐瀬:そうなんでしょうね。ちょっと前にSNSで若いリスナーがギター・ソロを飛ばして聴くっていう話がバズったじゃないですか。ああいうのもその表れかなと。僕はやっぱりイントロが好きですし、すごくワクワクするというか、このあとどういう展開になるんだろうって思っちゃいますね。

─たとえばビバップとかファンキー・ジャズの頃って、テーマが長くてキャッチーでしたよね。そのテーマで曲を認識していたと思うし。アート・ブレイキー作曲の「モーニン」とか。
佐瀬:はいはい。さっき言ってたテーマっていうのに僕はすごく重きを置いていて。難しいことをやっているんだけど、テーマが聴きやすくて耳馴染みが良くてキャッチーで、というのはすごく意識しています。そうすることによって、自分の音楽が自己満足で終わらずに、外の世界とつながれるような気がしていて。だから、そこはすごく大事にしてますね。
─あとはダイナミクス・レンジに関してですが、1曲の中で音圧が一定なのがシーンで主流なのは何故なんでしょう?
佐瀬:最近の音楽は、どれだけ音圧を上げられるかという競争になっていますよね。特にヘッドフォンとかで聴いた時に音圧が高いと、耳のそばで鳴ってるような感覚になる。それを目指したような音作りをしているものがすごく多くて。でもやっぱりライヴで聴いた時って、ダイナミクスの幅がすごくあって、それが醍醐味だったりするじゃないですか。今回はそういうことを音源でもしてみた、ということですね。
─アルバム全体を束ねるようなキーワードやテーマってありましたか?
佐瀬:強いて言えば短編集みたいなイメージですかね。さっき散々曲が長いとか言っておいてなんですけど、色々なタイプの短編から成り立っているという感じはありますね。で、1曲それぞれに個別の物語があって、最後にアルバム・タイトルでもある「BELLOWS」という曲でフィナーレ的に幕を閉じる。そういう風にイメージできるように曲順はかなり苦労しながら考えました。

父親は赤ん坊の僕をあやすときもピンク・フロイドの『狂気』のライヴ盤をかけてた(笑)
─ところで、昨年、本作にも参加しているギターの小金丸慧さんとアルバム『Nomade』を作られましたよね? あれはどういういきさつで?
佐瀬:レーベルの方からの提案ですね。ふたりで作ったら面白いものができるんじゃない?って。まるちゃん(小金丸)とは学生時代からの付き合いなんです。
─小金丸さん効果なのかもしれないけれど、あのアルバムは佐瀬さんが新しい扉を開けたような印象もあるんです。マイナー調の曲のハードボイルドなソロとか。
佐瀬:ああ、それはうれしいです。あれは録り方が面白くて。基本的には当日まで何も決めずにレコーディング・スタジオに行って、こんな感じかな?これどう?みたいに話して作っていった。事前にはほとんど何も決めずに、即興で録音していったんです。それは、まるちゃんだからこそできたんでしょうね。初めましてという関係性だったらできていないと思います。

─彼のプレイヤーとしての魅力は?
佐瀬:何が好きかって、本当に唯一無二というか、誰にも似てないところがすごいと思いますね。かといって別に突拍子もないことをやるわけじゃない。ちゃんと音楽に寄り添って真摯にプレイしてくれるし。一緒に演奏しているとすごい気が合うんですよ。別に意識しているわけじゃなくても。
─彼のルーツにはヘヴィメタルがありそうですけど。
佐瀬:大学のジャズ科で一緒だったんですけど、基本的にジャズのスタンダードを演奏してるのは聴いたことないですよね。あと、自分のメタル・バンドも持ってますし、新作にもメタルとかプログレの要素は残っていると思う。僕も父親がプログレが好きだったので、ちっちゃい頃から家でピンク・フロイドとか、ジェントル・ジャイアントとかキング・クリムゾンとかイエスが流れていて。父親は赤ん坊の僕が泣いちゃうのをあやすときも、ずっとピンク・フロイドの『狂気』のライヴ盤をかけてたらしくて。そういうのでちょっと洗脳されてる感じはありますね(笑)。
─ドラムの秋元修さんは以前、小金丸さんとバンドを組まれていたんですよね。彼は石若駿さんとかとは全然違うタイプだけど、ポリリズミックで不思議なドラムを叩く方ですよね。
佐瀬:それこそポリリズムがすごい好きで、さっきのまるちゃんと一緒ですけど、似ているドラマーが思いつかないんです。秋元さんの場合、よくこのドラムでアンサンブルの中でグルーヴできるなっていうぐらい、分かりづらい音符を叩いたりするんですよ。2曲目「Off-the-cuff」なんかもすごい譜割りでドラム叩いてますし、そこも聴いてもらえたら嬉しいなと思っています。
─前作が出て以降、佐瀬さんの活動範囲ってどう変わりましたか?
佐瀬:ジャズクラブでライヴをするのがメインだったんですけど、最近はサポートが増えてきて、ライヴやレコーディングにも参加するようになりました。そこで得られたエッセンスが、何かしらの形で音楽に反映されているような気はしますね。
─今年のフジロックでも、石若駿率いるAnswer To Rememberバンドのあと、STUTSのサポートにも参加していましたものね。ちなみに、今後の音源について構想はありますか?
佐瀬:今回のアルバムを作ったメンバーでもう1枚作るっていうのはもちろんですけど、その前にひとりでトランペットの多重録音を作れたら面白いかなと思ってます。CMの仕事とかで年に一度ぐらい、トランペットだけで作ってくださいみたいに言われることがあって。それを作っているときに、これ、アルバムにしたらすごく面白いんじゃないかなって思いついて。やってみたいと思っていますね。

取材・文:土佐有明
撮影:廣田達也
RELEASE INFORMATION

佐瀬悠輔「BELLOWS」
2025年7月23日(水)
Format:Digital / CD
Label:FRIENDSHIP.
Track:
1 Reminiscence
2 Off-the-cuff
3 #5
4 Summer's story (feat. ermhoi)
5 Intro
6 Cosmic string
7 Dreamin' (feat. ermhoi)
8 Bellows
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LIVE INFORMATION
佐瀬悠輔『BELLOWS』featuring 小金丸慧、海堀弘太、新井和輝 & 秋元修 Guest:ermhoi
2025年9月8日(月)ブルーノート東京
[1st]Open5:00pm Start6:00pm
[2nd]Open7:45pm Start8:30pm
佐瀬悠輔 [Answer to Remember, Gentle Forest Jazz Band, 賽](トランペット)
小金丸慧 [在日ファンク](ギター)
海堀弘太 [Answer to Remember, Gentle Forest Jazz Band](ピアノ、キーボード)
新井和輝 [King Gnu, millennium parade](ベース)
秋元修 [DC/PRG](ドラムス)
Guest:ermhoi(ヴォーカル)
¥7,000(税込)
▽公演情報
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/yusuke-sase/
LINK
@yusukesase@yusukesase230
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