SENSA

2023.12.21

家族、メンバー、そして自分。せとゆいかが

家族、メンバー、そして自分。せとゆいかが"曲を作って歌う"源に在るものとは──Saucy Dog『はしやすめ』インタビュー

Saucy Dogは2ndミニアルバム『サラダデイズ』以降、ドラマーのせとゆいかがボーカルを務める楽曲をボーナストラックに収録してきた(CDのみ)。今回、それらを集めた全5曲入りのBonus ep『はしやすめ』をリリースする。SENSAではこの リリースを記念して、せとゆいかにインタビューを実施。ソングライターとしてのせとゆいか、その原点と素顔について。

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自分の話をリアルに書いてもいいのかなと思えるようになってきました

─ボーナストラックがEPとしてリリースされることは、率直にどういう感覚ですか?


せとゆいか:嬉しさと、恥ずかしさがあります。

─以前から、ひとつの作品として出したいっていう願望もあった。


せと:いや、最初はボーナストラックやからって安心して入れてたんですけど、「いつもの帰り道」が初めて自分のノンフィクションの感情で書けて、それを受け取って「泣いた」って言ってくれる人がいるのを知ってから、「あぁ、この曲をいろんな人に聴いてもらいたいな」って思うようになりましたね。

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─本当にノンフィクションっていう感じですよね。


せと:そのまんまですね。この曲ができたことが自分の中でもかなり大きかったかも。

─なんでこういう曲を作ることができたと思いますか?


せと:この時ちょうどコロナ禍で、バンド活動も思うようにできず、奈良の実家に帰るのもコロナをうつすのが怖くて帰れなくて、結構いろんなことですごいメンタルがやられちゃってたんです。その時に、特に曲を作ろうと思ってたわけじゃないんですけど、2Aの〈何にもない〉からの2行の歌詞だけ先に出てきたんですよね。

─すごくストレートに書いてますよね。


せと:これまで3曲出してきて、そろそろこういう突っ込んだものも書いてもいいかもしれんなって思ったんです。でも、その感情のままでいくとめっちゃ暗い曲になるって思って。別にそういうのを作りたいわけじゃなかったので悩んでたんですけど、そんな時に、親がすごい良いタイミングで連絡くれたんですよね。まだコロナ禍初期で感染者数も何十人っていう時なのに、お母さんが「いつでも帰っておいでよ」って送ってくれて。LINEのたった一文だけでも「え、帰っていいんや!」って思えて、すごい救われたんです。

─あの時はまだ、帰ってこないでほしいっていう親御さんの方が多かったですよね。


せと:そう。だから「強!」って思って〈強気な母親〉っていう歌詞が出てきたり。そういうことがあって「これは両親の歌にしよう」って思いました。

─〈大切なほど 会いづらいこの時代〉っていうフレーズもあって、パンデミックの時だからこそできた曲ですね。


せと:そうそう。何年か経ったらコロナ禍のことなんか懐かしい話になって皆忘れちゃうから、もしかしたらこの時しか響かん歌なのかもしれんけど、逆にその時だからこそ書けた曲やなと思います。

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─今は、ライブでも声出しとかできるようになりましたが、ご自身の中でこの曲があることはすごく大きいですか?


せと:大きいですね。コロナ禍とは関係ないんですけど、この曲ができた時に「親が聴いたらどう思うんやろう」ってすごい思ったんです。普段、改まって何かを伝えることとか、「救われてる」って言うこともないので、ふたりがいてくれてるから助けられてるよっていうお礼を、曲を通して伝えられているような気がして。小っ恥ずかしかったけど、作ってよかったなって思っています。

─クレジット上は「作曲:Saucy Dog」になっていますが、これをバンドに持って行った時にメンバーはどういう反応だったんでしょうか。


せと:いつも、私が作った歌詞メロと簡単なコードをもとに慎ちゃん(石原慎也:Vo/ G)が「こんな感じかな」ってコードをつけるので、特に反応もなくとにかく合うコードを探すっていう感じでしたね。ただ、内容についてはたまに「今言う?」みたいなタイミングで褒められます(笑)。

─たとえばどんなタイミングで?


せと:EPを作るってなった時に、「へっぽこまん」と「煙草とコーヒー」が歌い慣れてなさすぎてこのままデジタルリリースされるのは恥ずかしかったので、歌い直させてもらったんです。あと「へっぽこまん」はライブでできるようなアコースティックアレンジに録り直したりもして。その時に「"この曲ええ曲やから"、もっとこうしようや!」みたいな感じで言ってくれて「お、いい曲って思ってるんや!」みたいなことがありました(笑)。あと、このEPに入ってないいちばん最新の(2023年7月リリースの7thミニアルバム『バットリアリー』)ボーナストラックに「星になっても」っていう曲があるんですけど、昨日も夜中にLINEで、その曲の一節を書いて「ここの歌詞、めっちゃええ歌詞やな」って送ってくれました(笑)。秋澤(和貴:B)はたまに「俺は『いつもの帰り道』いちばん好きー」とか言ってくれたりします。慎ちゃんは「『ころもがえ』か『寝ぐせ』やな」って言ってましたね。

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─「いつもの帰り道」は自分の中でノンフィクションだったと言ってましたが、他の曲はわりとフィクション要素もありますか?


せと:ほぼ、8割くらいフィクションですけど、2割は自分の中で「この人の曲を作ってみよう」って誰かをモデルにストーリーを膨らませることが多いですね。たとえば「へっぽこまん」とかはその時に付き合ってた人の曲ではあるので、ノンフィクションに近い方かもしれない。

─そういうフィクションな曲も、恋の話を書きたいっていう気持ちがある。


せと:いや、どっちかっていうと、本当は恋愛の歌詞より「いつもの帰り道」みたいな、感情重視というか、自分の思ってることをバン!って書きたいんですけど、恋愛系やといろんなことが思い浮かぶから作りやすいし、あとは自分の感情を全面に出すのがちょっと恥ずかしかったっていうのもあって。でも「いつもの帰り道」で殻が破れた感じがありますね。

─これからはどういう曲が生まれてくるかわからないっていうことですよね。


せと:そうですね。だから「星になっても」とかは、従兄弟が10年前に亡くなっているんですけど、その従兄弟のことを書こうって思って。ちょっとずつ、自分の話みたいなのをリアルに書いてもいいのかなと思えるようになってきました。

ふとした時に「癒されるな」って聴いてもらえるくらいがちょうどいい

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─バンドのファンの人たちに対して「こういう曲の方がやっぱり響くんだろうな」っていうのも想像する?


せと:そこは全然なくて。ボーカルとかはそういうのを考えなきゃいけなくて、すごいプレッシャーがあると思うんですけど、私は最初、EPをリリースすると思っていなかったので「ボーナストラックやー!自由にできるー!」みたいな感じでリラックスして作ったんですよね。だから「好きなことをしよう」とか「あのアーティストみたいな曲を作りたいな」って考えたりしました。たとえば「煙草とコーヒー」とかは、ハンバート ハンバートを参考にしたり。

─いいですね。そういう意味でも、せとさんがどういう歌を好んできたかを聞きたいんですが、以前、Mr.Childrenをすごい聴いてたって言ってましたよね。


せと:そうですね。兄の影響で知って、最初は「お兄ちゃんが好きなアーティストなんて嫌い!」みたいな感じで好きじゃなかったんですけど、中学生になって、ちゃんと歌詞とかをみながら昔の曲を聴いた時に「すっごい...」ってなっちゃって、そこからずっと聴いてます。自ら初めて好きになったのはYUIさんかな。ドラムが好きやけど、やっぱり軸は歌がいちばん好きなので、今回EPをリリースして改めて「曲を作って歌えるってありがたいな」って思いますね。

─バンドのボーカリストになりたいって思ったことはないんですか?


せと:まったくないです。これからもないと思います。

─それはなぜ?


せと:なんやろう。ボーカリストの器がまずないって思ってるし、もう、Saucy Dogのボーカルの石原慎也がめっちゃすごいなって尊敬しているので、絶対そこのバランスは変わることはないです。あと、EPのタイトルにもなってるんですけど、本当に『はしやすめ』程度でいいんですよね。私にとっても一年に一回、曲をドラムじゃなくて歌で表現できるのも『はしやすめ』だし、ライブの構成としても、バンドサウンドで慎ちゃんの歌がガーって続く中で、一回私の歌がアコースティックで入ることも『はしやすめ』になってると思うし。だから、ハマってずっと聴いてくれるのもめっちゃ嬉しいけど、ふとした時に「あ、いいな癒されるな」って聴いてもらえるくらいがちょうどいいなと思う。

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─最初に「へっぽこまん」を作ったときは、どういう経緯だったんですか?


せと:これは、大学生の時に5人でコピーバンドをやってたんですけど、私が大学辞めた時にコピーバンドが終わっちゃって。その5人のうちの3人で「なんかやろうよ」みたいになって、本当に遊びでオリジナル曲を作ったんですね。それぞれが曲を作って持ってくる、っていうのを5曲くらいやったんですけど、その中で私が持っていった曲が「へっぽこまん」でした。人生で初めて作った曲です。最初は私が歌ってたわけじゃなくて、ギターボーカルの子が歌ってました。

─ということは結構バンドサウンドだった。


せと:そうです。めちゃめちゃ遊んでる、ポップな感じでした(笑)。それで、ボーナストラックを作るってなった時に「『へっぽこまん』よかったな、入れてみようかな」って思ったので、そのふたりに「Saucy Dogのボーナストラックで『へっぽこまん』使っていい?」って連絡したら「え、めっちゃおもろいやん」って許可をもらったので入れました。初めて武道館でライブをした時にも「へっぽこまん」をやったんですけど、そのふたりが見にきてくれて。MCでちょっと触れてから演奏したら「泣いた!」って言ってました(笑)。

─こうやってまずEPとしてまとまって、もちろんこれからもボーナストラックを作ることになっていくと思うんですが、どういう曲を作ってみたいなとかイメージはありますか?


せと:今ちょうど、今までの曲とは全然違う感じの歌詞を途中まで書いてます。祖母が亡くなってしまって、お葬式があったんですけど、その時に祖父が最後に祖母の顔を撫でながら「ありがとうね」って言ってて。その姿を見てブワーって泣いたんですけど...それが、綺麗やったんですよ。それを曲にするのは失礼なんかなって思ったんですけど、書いてみたいなって思って。その時に自分がどうだったかとかじゃなくて、おじいちゃん目線でふたりの人生の物語を書くのはどうかなって思って。

─やっぱり、せとさんにとって家族の存在とかが大きいと。ご両親とか、従兄弟とか、親族の存在が。


せと:そうですね。自分で思ってるよりも大きいかもしれないです。別に特段お父さんっ子!お母さんっ子!みたいな、「家族!大好き!」っていう感じではないんですけど、やっぱりふとした時に「いちばん大事やな」と思うというか。大きい存在だなって。

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─こうやって表現した時に自然と出てくるっていうのが良いですね。じゃあ次はまた、曲がまとまったら2枚目のEPが作れるかもしれない。


せと:5年後とかになるかも(笑)。その時は『はしやすめ Vol.2』にします(笑)。

─最後にバンドとしてでも、個人としてでもいいので、今年はどんな一年になったか聞かせてください。


せと:今年は本当に波乱万丈でしたね。年始から足が動かなくなって、ライブが本当にできなくなって。だけど、再開してからすごいドラムが楽しくなりました。ツアーも本当に最初はピリピリしてて。皆疲れが溜まってた時期だったので、私だけじゃなく、ボーカルの喉もやばいし、ベースもプライベートでいろいろあったりして参っちゃってたけど、1回休めたことでスッキリして。延期後の後半のツアーが、今までの中でも良いツアーっていうか、一生忘れられん感じのツアーになったんですよね。今まではただ目の前のライブに対して「いいライブしなきゃ、どうやったらもっと上手に演奏できるか」ってずっと必死に、必死にやってたけど、もっと大きく見れるようになったというか。チームってすごいなと改めて感じたり、今までと違う観点でツアーを見ることができたりして、そういう面でもめちゃめちゃ大きかったです。アリーナツアー(『It Re:ARENA TOUR』)っていうすごいものが始まったし。

─2024年もまずは、2023年から地続きでアリーナツアーを。


せと:はい。一歩一歩っていう感じです。毎年言ってる気がする(笑)。一歩一歩、頑張ります!

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取材:三宅正一
構成協力:高橋夏央
撮影:是永日和

RELEASE INFORMATION

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Saucy Dog「はしやすめ」
2023年12月8日(金)
Format:Digital

Track:
1.へっぽこまん
2.煙草とコーヒー
3.寝ぐせ
4.いつもの帰り道
5.ころもがえ

試聴はこちら


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Saucy Dog「バットリアリー」
2023年7月19日(水)
Format:CD、Digital
品番:AZCS-1118
価格:¥1,980円(tax.in)

Track:
1.夢みるスーパーマン
2.現在を生きるのだ。
3.サマーデイドリーム
4.紫苑
5.魔法が解けたら
6.怪物たちよ
7.そんだけ
8.星になっても(Bonus Track、CD ONLY)

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購入はこちら

<「バットリアリー」特設サイト>
https://saucydog.jp/feature/7th_minialbum


LIVE INFORMATION

Saucy Dog It Re:ARENA TOUR
2024年1月13日(土)
宮城・セキスイハイムスーパーアリーナ
開場 17:00 開演 18:00
(問)EDWARD LIVE 022-266-7555

2024年1月30日(火)
名古屋日本ガイシホール
開場 18:00 開演 19:00
(問)サンデーフォークプロモーション 052-320-9100

2024年1月31日(水)
名古屋日本ガイシホール
開場 17:30 開演 18:30
(問)サンデーフォークプロモーション 052-320-9100

2024年2月23日(金/祝)
福岡マリンメッセA館
開場 16:00 開演 17:00
(問)キョードー西日本 0570-09-2424

2024年2月24日(土)
福岡マリンメッセA館
開場 15:00 開演 16:00
(問)キョードー西日本 0570-09-2424

2024年3月2日(土)
アスティとくしま
開場 17:00 開演 18:00
(問)DUKE(高松)087-822-2520

2024年3月3日(日)
アスティとくしま
開場 15:00 開演 16:00
(問)DUKE(高松)087-822-2520

2024年3月9日(土)
北海道立総合体育センター 北海きたえーる
開場 17:00 開演 18:00
(問)WESS info@wess.co.jp

2024年3月30日(土)
Kアリーナ横浜
開場 17:00 開演 18:00
(問)https://www.diskgarage.com/form/info

2023年3月31日(日)
Kアリーナ横浜
開場 16:00 開演 17:00
(問)https://www.diskgarage.com/form/info

チケット
指定席:¥7,500(税込)
*公演情報詳細はHPなどをご覧ください。


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