SENSA

2023.08.03

サーファー・作曲家・デザイナー・フレグランスデザイナーの顔を持ち、3つの名義を使い分けるShimon Hoshino──その表現の源泉と繋がりに迫る

サーファー・作曲家・デザイナー・フレグランスデザイナーの顔を持ち、3つの名義を使い分けるShimon Hoshino──その表現の源泉と繋がりに迫る

作曲家、サウンドデザイナー、調香師、サーファーといった多彩な肩書きを持つアーティスト、Shimon Hoshino。Lofi-surfをコンセプトとした「Shimon Hoshino」、長崎県針尾島出身の母の詩にインスパイアされて始まった「hario island」、音と香りの掛け算をテーマとした「invisible design」という3つの名義を使い分け、毎週のようにリリースされる楽曲は「Lofi Beats」のようなグローバルのプレイリストに入り、Spotifyの月間リスナー数はトータルで30万人近くになったことも。その結果、海外アーティストからも頻繁にDMが届くようになり、コラボレーションを行うなど、現代的なインディペンデントアーティスト像を体現する存在だと言えよう。バックグラウンドとhario islandについてを中心に聞いた「Curated Hour~FRIENDSHIP. RADIO」内のインタビューに続き、パーソナリティを務める金子厚武と奥宮みさとがShimon Hoshinoとinvisible designを中心に話を聞いた。

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海外の人からDMがワーッて届き始めて、最初は詐欺だと思ってた

金子:ShimonさんはもともとJuaくんと交流があって、FRIENDSHIP.から初めてリリースした曲はJuaくんと石若駿くんとコラボをした「Venom」だったわけですが、もともとJuaくんとはどのように知り合ったのでしょうか?

Shimon:湘南に「オーシャングライド」っていうサーフショップがあるんですけど、そこで僕はサーフィンのインストラクターをしていて、Juaは途中で店員さんとして入ってきたんです。そのとき彼はまだラップをやってなくて、リリックだけ書いてる状態だったんですけど、「オトンがラッパーで、自分もやってみたい」と言っていて。

金子:お父さんはもともとMONDO GROSSOのB-BANDJですもんね。

Shimon:そうですね。多分そのときにはもうラッパーになることを決意してたと思うんですけど、こっちはその頃まだまだフラフラしてたから、「いいね、やりたいことが決まってて。おじさんは将来不安だよ」みたいな感じ(笑)。僕らの初ステージは路上ライブなんですよ。湘南の藤沢駅の路上で、サックスの翼さんっていう友達がいて、翼さんもサーファー仲間で、Osteoleucoのサックスは全部翼さんなんですけど、3人で路上をやって、500円ゲットして。500円玉だったから、おじさんたちは「この500円は託したぞ」って感じでそれをギャラとしてJuaに渡したっていう、それが初ライブでした(笑)。

金子:Juaくんとももともとはサーフィン繋がりだったんですね。では、その後に「Shimon Hoshino」名義での楽曲を発表することにしたきっかけは?

Shimon:きっかけとしては父(Rinne Hoshino)が「俺、絵描きたいんだよね」って言ってたことですね。「どうやって出そうかな?」ってずっと言ってて、「個展とか?」みたいな話をしてたんですけど、「曲を出すのが一番早いんじゃないか」っていう話にだんだんなってきて。最初は「需要ないぜ」みたいに言ってたんですけど(笑)、「試しに10曲出してみよう」っていう話になり、それでJuaと僕がお世話になってるFRIENDSHIP.さんから試しに出すことになったんです。そしたら2曲出したぐらいで海外の人からDMがワーッて届き始めて、最初は詐欺だと思ってたんですよ。それで無視してたら、「返してくれよ」みたいに来て、「これ本当か」と思って。で、「10曲で終わりにしようと思ってるんだけど」って話をしたら、「いや、もうちょっとやりなよ」みたいに言われて、「じゃあ、もうあと10曲」みたいに続けてたら、「コラボしようよ」っていうDMが海外からめちゃくちゃ来るようになって。この前行ったパリもそうだし、スペインとかドイツも全部コラボ相手の家に泊まって、すごい温かくもてなしてくれたっていう経験もあって......「どうしよう?やめられない」っていう(笑)。



金子:お父さんのイラストを発表するために始めたプロジェクトに対して、海外からこんなにリアクションが来たのはShimonさんとしても予想外だったと。

みさと:でもご両親はShimonさんの才能をうっすら感じてたんじゃないですか?

Shimon:いや、お互いはそんなに干渉しないというか、「音楽やってんだ」ぐらいの感じなんです。ただ作品を作ることがコミュニケーションツールになってるというか、みんなそれぞれアーティストだからか、お互い喋ってても意図が通じないときが多々あるんですよ(笑)。でも作品を作ることで、例えばhario islandだったら、「スペインでやたら聴かれてるっぽい」って言ったら、母親が「いいね、私の力だ」みたいな(笑)、そういうので一時間会話が持つんです。それがすごく面白いなと思いますね。

サーフィンに行っても、子どもを抱いてても曲を作っちゃう

みさと:今ではShimon Hoshino、hario island、invisible designで毎週のように楽曲をリリースしているわけですが、それには何か理由があるのでしょうか?

Shimon:職業病に近いのかもしれないですけど、ありがたいことに2018年ぐらいから1日の仕事の案件が大体20件ぐらいあって、ワーッて作らなきゃいけないので、ずっと躁鬱の躁な感じになってると思うんですよね。なので、サーフィンに行っても何か作れるなと思って、パッと作っちゃうし、子どもを抱いてても作っちゃうし。パソコンとMIDIキーボードがちっちゃいから、いつでもどこでも持っていけるので、カフェで書いたりとか、そうやっていつでも作れる状態にして、できたらすぐタイラ(ダイスケ)さん(FRIENDSHIP.キュレーター)にお送りして。今も鞄に一式入ってるので、ここで作ろうと思えば作れますよ。

みさと:ノルマを課してるとかじゃなくて、湧いてきちゃうってことですか?

Shimon:そうですね。今まではそうやってパッと作ったのは捨てちゃってたんですけど、捨てない方がいいんだなって。

みさと:そうか。何が認められるかわからないっていうのを体験されたわけですよね。

Shimon:はい。自分ではボツだと思ってた曲がたくさんの人に聴かれたりもして。

みさと:自分のセンス以外のところでみんなに良いと思ってもらえることもあるというか。

Shimon:ジャッジは委ねてる感じなので。サウンドデザインの仕事も「これは駄目でしょ」と思いつつプレゼンしたら、「素晴らしい!」ってなることもあるんですよね。

金子:Shimon Hoshino名義の「Lofi-surf」というコンセプトはどこから生まれたものなんですか?

Shimon:それこそタイラさんと相談して、「サーフィン中に浮かんだ音を出したいんですよね」って言ったら、「Lofi-surfっていうコンセプトどう?」って言ってくださって。

金子:名前の発案者はタイラさんなんですね。

Shimon:そうなんです。もともとサーフィン後に友達とワイワイしながら、「ちょっと曲書いてみよう」みたいな感じで書いてたのを、とりあえず友達とDropboxで共有して、「いいね」って言って終わってたんですけど、「せっかくなら出した方がいいのかな」っていう感じもしてたので。

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金子:Lofi Hip-Hopの代名詞であるNujabesさんはもともとお好きだったんですか?

Shimon:そうですね。フランスにビアリッツっていうサーフタウンがあるんですけど、そこでサーフィンしてたときに、友達のカーステレオからNujabesさんの曲が流れてきて、「この曲いけてんね」みたいなことを言ったら、「これジャップだよ」「え、日本人なの?」みたいな話になったのが結構衝撃で。それが何となく頭に残っていて、その後にピアノが弾けるようになったから、ビートに乗せてやったらどうなるのかなっていうのを始めたら、いい感じになって。Nujabesさん界隈もサーファーの方が多いですよね。

金子:そうですね。Nujabesさんのスタジオも鎌倉にあったり、湘南には素晴らしいアーティストがたくさんいらっしゃいますよね。

Shimon:湘南の海って、ジャック・ジョンソンよりNujabesさんっぽいんですよ。冬が来ると「こっちの方が合うじゃん」っていう感じになると思うんです。

みさと:ジャック・ジョンソンほどカラッとしてないですもんね。

Shimon:そうなんですよ。「もうちょっと湿気感あるんだけどな」と思ってて、でもそういうサーフミュージックってなかったから、「早く誰か出してくれないかな」っていうのがあったんです。今回アルバム(Shimon Hoshino『surf trip』8月4日リリース)にしたのもそれが理由というか、ヨーロッパの方が「いまのサーフミュージックはこっちだと思う」みたいなことを言ってくれて、「シングルずっと出してるけど、そろそろパッケージングしてくれないともっと多くの人には伝わらないから」みたいに、リスナーにすげえ説教されて(笑)。

金子:ドイツのThe Flipsideとコラボした「tasogare」はShimon Hoshino名義で最も聴かれている楽曲のひとつですが、あれもThe Flipsideの方からコラボの依頼があったわけですか?

Shimon:そうです。最初はそれこそ詐欺だと思ってて、「また始まったよ」みたいな感じだったんですけど、「サーフィン中に感じた音がこんな感じなんだと思って、俺もサーフィン始めたんだけど」みたいな熱いメールが来て、「本物だ。今まで無視してごめん」みたいな感じで(笑)。

金子:そこもサーフィンが繋いだ縁なんですね。



Shimon:今彼は心理セラピストみたいな感じでケルンに住んでて、たまに音楽を作ってっていう感じなんですけど、会ってみたらすごいいいやつで、サーフィンも楽しんでるみたいで。来年日本に来るって言ってましたね。

サウンドを作った後に、香りまでディレクションする人は今までいなかった

みさと:調香師のお仕事をされるようになったのはどんなきっかけだったんですか?

Shimon:サウンドデザインを始めて、ファッション業界の方とお仕事をするようになり、ファッションショーで演奏したりとかもしてたんですよね。で、フランスに住んでたんだっていう話をモデルさん、バイヤーさん、プレスの方とかと話してるときに、「目に見えないデザイン」をコンセプトにやったら、生活できるんじゃない?みたいなことを言われて。で、調香師さんを探したんですけど、法律とかもいろいろあるので、これ日本では見つからないなっていうことで、最初フランスの方と一緒に調香のデザインをやってみようとしたんです。でもその方が体調を崩されちゃって、試しに自分でやってみようっていうことで、そのフランス人の調香師の方にいろいろ教えてもらいながら、調香できるように......今でもできてるかわからないですけどね。他の調香師さんに会ったら、「いや、それで仕事するなよ」って言われちゃう可能性もなきにしもあらずなんですけど、でも商業施設でサウンドを作った後に、そこにどういう香りを漂わせるかまでをディレクションするっていうのは今までいなかったみたいで、それで生活させてもらってます。

みさと:すごく面白い調香をされるから、調香のタイミングでどこまで香りがイメージできてるのかなって思っていたんですよね。

Shimon:それはクライアントワークがかなりデカくて、クライアントさんに変わった方しかいないんですよ(笑)。例えば、「concrete after rain」っていう曲はもともとクライアントワークのひとつだったんです。「昨日雨が降ったじゃない?そのコンクリートに残ってる感じの香りわかる?」とか言われて、「どれだ?」みたいな(笑)。それはまず曲を書いて、「こういう感じの曲で合ってます?」「それそれ」ってなって、そこからキャッチボールをしつつ、「こういう香りなのかな」っていうのを相談しながら作っているので、僕から湧き上がったものというよりは、受身で話を聞いたところから作ったものだったりします。



みさと:「ブラッドオレンジ入れてみよう」みたいなこともそういう話の中で出てくる?

Shimon:クライアントさんが提示してくれるというか、ブラッドオレンジだったら、その生産地にもともと住んでたっていう話を聞いて、「じゃあ、ブラッドオレンジからスタートしてみる?」っていう、そういう流れなんですよね。

みさと:でも全体のバランス、何%ずつ入れるかとか、そういったことはShimonさんがやられてるわけですよね?

Shimon:僕がやってますね。クライアントさんと話してる中でできた曲を聴きながら、「こっち系かな?」とか言って。だからすごく時間かかっちゃうんですけど。

みさと:そのバランス感覚はすごいと思うんですよ。何%ずつ精油を入れるかによって、同じ材料を使っても全く違う香りができちゃうから、そのセンスというか、鼻の利きかたっていうのはもともと持ってるものじゃないとできないと思うんですよね。

Shimon:どうだろう......でも中学のときに英才教育を受けちゃったなっていうのがあって、ホストファミリーがやたら香りにうるさかったんですよ。フランス時代に友達の家に行くと香りをすごい重要視してて、実際に調香もしてくれる友達の家があって、その日に合わせて違う香りがして、音楽も違うんですよ。今日はマイルス・デイヴィスの『Kind of Blue』で、香りも「トップはこれ、ミドルはこれ」みたいな。ヤバい家だなと思いましたけど、それが記憶に強く残ってて、最初にファッションショーに関わることになったときも、「あの家っぽいことやればいいんだ」みたいに思ったんです。この話、今思い出しました。

金子:「香り」というインスピレーション源があるからか、invisible designの音楽はShimon Hoshinoともhario islandとも違って、曲によっては結構ビートが効いてたりもして。単純に音楽としても、Shimonさんにとって新鮮なプロジェクトなのかなと。

Shimon:ファッションショー寄りだなって個人的には感じてます。ツモリチサトさんとか、「あのキラキラした感じのショーだったら、こういう感じなのかな」みたいな。実際に最初の頃とかはツモリさんにめちゃくちゃお世話になったので、あのときの感じだなと思いながら作ってますね。

金子:では最後に、すでにいろいろなプロジェクトをやられているShimonさんですが、今後さらにこういったことに挑戦したい、こういった表現をしてみたい、と思っていることがあれば教えていただけますか?

Shimon:コラボレーションはもっとやりたいですね。僕は楽曲制作を友達作りのためにやってる部分もあるので、何か一緒にやってみたいと思っていただけたら、僕はマネージャーもいないので、気軽に言ってくれればって感じなんです。invisible designみたいな名前でやってると、ちょっと堅い人って思われてたみたいで、アメリカの人から「すげえ堅いやつかと思ったら、DMすごい柔らかいじゃん」みたいに言われたこともあったので、そこはオープンですよっていうのをお伝えしておきます(笑)。

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RELEASE INFORMATION

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hario island「DNA」
2023年7月28日(金)
Format:Digital
Label:three towers

Track:
1.鐘の音
2.ワインの中に星を溶かして
3.なにもかも
4.赤い柱
5.虹の切れ端
6.水の輪
7.さよなら
8.波の光
9.糸
10.hario island
11.radio wave
12.frequency
13.kisaragi
14.shunmin
15.namidagumo
16.yume
17.zanzo
18.utatane
19.koe
20.mugen
21.daichi
22.karen
23.mayadori

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invisible design「shelf test」
2023年8月2日(水)
Format: Digital
Label:invisible design office

Track:
1. quiet dream sunrise
2. meteor
3. juvenile
4. concrete after rain
5. blue night sunburn
6. playground
7. empty shell
8. moonlight jazz
9. memento mori
10. polkadot katharsis
11. sos
12. identity?

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Shimon Hoshino「surf trip」
2023年8月4日(金)
Format: Digital
Label: lofi-surf

Track:
1.last wave
2.yuki (for 0226contemporary dance in Paris)
3.sun
4.nami
5.harukaze
6.nostalgia
7.shunchou
8.eureka
9.minamo
10.river (sketch in chikuma-river)
11.utsuroi
12.kagerou(sketch in kinkazan)
13.ao
14.kioku
15.sazanami
16.michi
17.tanabata
18.no name (for Fou Fou contemporary dance in Paris)
19.tegami (for Fou Fou contemporary dance in Paris)

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オフィシャルサイト
@shimonhoshino
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