2023.06.26
音楽ユニットam8が、2023年第2弾となる楽曲「YT ft. mekakushe」を6月7日に配信リリースした。この楽曲は「衝動と追悼」というふたつの意味合いが交差する、いわばam8的青春アンセム。「YT」とは、ひとつはYoung Time、つまり若者の衝動を意味する。そして、もうひとつの「YT」の意味は、Yukihiro Takahashi。今年初めに星に還った高橋幸宏氏へ捧げる楽曲となっている。
ゲストボーカルはメカクシレコーズを主宰し、サブスクリプションシーンで活躍中の女性シンガーソングライター、mekakushe。そしてゲストドラマーは、yahyel、DATS、QUBITと数々のグループやセッションでも活躍する若き勇者、大井一彌。
今回は、am8と大井の対談を行い、大井の音楽的な変遷を解き明かすとともに、「YT ft. mekakushe」の秘話を紹介。am8と大井の親和性が見えてくる、貴重な対談となった。
am8:まずは、am8及びこの楽曲についての印象を、初めてオファーした頃から含めて、ちょっと聞かせてくれたら嬉しいなと思います。
大井一彌:まずはデモのトラックを拝聴して、その時点で趣旨みたいなものとか、何を表現したいのかが完全にわかったというか。幸宏さんという存在に対してどうアプローチするか、という楽曲のあり方を感じましたし、そこにはすごいリスペクトと洒落っ気と、いろんな想いを感じたので、これは大切に扱わないといけないなと。
am8:ありがとうございます。ちなみに、am8について事前に知ったりすることはなかったですよね?
大井:猫がショルキーを持っているアー写がすごく印象的だったので、前から脳裏に焼き付いていました。
am8:嬉しい。単純に猫のミュージシャンっていう見方とか面白いかなって思ってたのと、ワールドワイドで見たときに、そういう共通言語がはっきりシンプルにあるといいなって思いで、ああいうお面というかマスクをかぶってるんですけど。ライブの時は見えないんですよね(笑)。実は、猫のお面自体が作品だったんですよ。
大井:そうなんですか。
am8:次に、ここは熱くお話を聞きたい部分なんですけど、あらかじめ前説しておくと、幸宏さんということは、僕らも精一杯声を出して言いたいけど、今回の曲は「YT」ヤングタイム=「若い頃」がひとつのテーマになっています。大井さんはどんな子どもだったのか、どんなことが好きだったのか、もっと言えば、ドラムのプレイヤーになったうえで、影響を受けてきたストーリーを聞きたいです。
大井:なるほど。いいですね。子どもの頃の話を聞かれたことは、僕、今までなかったので(笑)。ある程度ミュージシャンみたいなものを志して以降のことを聞かれることはあったんですけど。僕は中3くらいから、音楽を始めたんですけど、その前は、何かに集中すると周りのものが見えなくなっちゃうようなタイプの子どもだったのかなという、そういう自覚がありますね。親とかからもそう言われてましたし。
am8:夢中になっちゃうものは何だったんだろう?
大井:両親とも音楽が好きな人で。僕の父はジャズ・リスナーなんですけど、母がミュージカルとかオペラとか好きな人で、ちっちゃい頃から、家に音楽が溢れ返っていましたね。なので、知らず知らずのうちに聴いていたものが、中学とか高校生とかになって、ああ、こんなのあった、こんなのあった、と、記憶の中から引っ張り出してこれるというか。音楽を始める前は、僕は、小学校〜中学校と部活一本で、卓球部に入ってたんですけど。
am8:卓球っぽいっちゃ、卓球っぽいね。松本大洋さんの漫画に出てきそうですもん。
大井:「ピンポン」ですね(笑)。あの世界観を地で見てたというか、「ピンポン」の元になった舞台が、神奈川県の藤沢市で。僕、藤沢市出身で。だから「ピンポン」はバイブルですね。
am8:そうでしょうね。そんな感じがすごくする。
大井:それこそ、プロとかにちょっとなりたいな、みたいなことを思うぐらい、本気で部活に打ち込んでたタイプの人だったんですけどね。音楽をやるようになってからは、これまで部活だったものが音楽にのめり込むようになって、今に至るわけです。
am8:音楽をやるってなって、すぐドラムに行ったんですか?
大井:そうなんですよ。実は、幼馴染でギターを弾ける奴がいて、そいつに誘われて、ホイホイついて行ったら、そこが軽音楽部の部室みたいなところで。練習室にひと通りの楽器が転がってて、なんか電子ドラムだったんですよね。そこに深い理由はないんですけど、でも、なんかパッと叩けたというか、なんとなく軽い8ビートみたいなものをやってみようって思ったことが、なんとなくできたっていうか。
am8:考えてみると卓球に似てるよね。リズミカルじゃないですか、パンパンパンパンっていうか、ああいう手の動きでドラムに行ったって言ったら、すごい腑に落ちると思って。
大井:そこ、繋がるところはあるかもしれないですね。それが繋がってるっていうふうに捉えると、これまでの人生を肯定された気がします。
am8:僕も実は中学の時、YMOのコピーバンドでドラムの担当だったんですよ。ドラムかつ、幸宏さんは歌ってたじゃないですか。叩きながら歌うのがかっこよくって。
大井:いいですよね。
am8:もうひとつ小ネタを挙げると、僕も実は岡崎市立城北中学校卓球部でして。
大井:あら、そうですか。
am8:でもね、すでにシンセサイザーもピコピコしていたから、いかにサボれる部活かってことで選んだんですよ。闘志に燃えてないし、卓球部も弱かったから。
am8:じゃあ、大井さんがドラムに出会ったエピソードを聞きましたけど、どんな音楽に影響を受けたとか、その辺の遍歴を聞けたら嬉しいなと思ってます。
大井:普通の公立高校の普通の軽音楽部に入って、そこでバンドを組むわけですけど、なぜか60年代のUKロックが好きな人ばっかり集まっちゃって。
am8:60年代のUKロック!なかなかマニアックだな、それ。
大井:それでモッズバンドを組んだんですよね。スモール・フェイセズとかザ・フーとか、そういったもののコピーバンドみたいなことを最初はやってました。60'sサイケUKが好きで、そういった文化に傾倒していった結果、ビートルズに出会い。家では聴いていたもの、そこから研究対象になったと言うか。研究対象って言うとあれですけど、しっかりそれについて知ろうと。今まではただレコードが家にあったから、ただCDが転がってたからそれを聴いてたのが、家系図をたどるみたいにして、こことここが繋がってるみたいな聴き方になって。それで、(サディスティック・)ミカ・バンドを聴いてたんですけど、別でYMOも聴いてて。同じメンバーがいるとか知らなかったんですよね。それを誰が演奏してるとか、この人が別で何をしてるとか、この人がかつてこうだったとか、この後こうなるとか、全然興味なかったので。音楽をやるようになってから、そういうことが気になるようになっていって、そうなってからがめちゃくちゃ楽しかったんですよね。聴いてきた音楽がどんどんどんどん繋がって、はっぴいえんど、え、これもYMO(のメンバーがいるの)かい?みたいな。アメリカでいうとAORだったり、スタジオミュージシャンが作った黄金時代みたいなものを好きになったっていうのもありますね。ビートルズとかUKのサイケの次はそういうもの、70年代〜80年代のスタジオミュージシャンカルチャーみたいなものにどっぷりまたハマって、イエスとか、TOTOとか、エイジアとか、スティーリー・ダンとか。
am8:ちょっとうがった聞き方しちゃうけど、その好みにズバッと突入するときに、いわゆる街鳴りしているJ-POPとか、テレビで流れてくるような音楽っていうのは全然素通りしてたわけですか?
大井:そうですね、なんか不思議なことに、素通りしてましたね。僕は基本的に何でも好きです。音の羅列が好き、みたいなレベルで好きだと言えるので、アイドルもいいものはいいし、ボカロみたいなものとか、本当に流行りものを目指してTikTokでバズるための曲みたいな、意図が丸見えのものでもいいものはいいと思っているので、そこに基線がないと思ってはいるんですけど。でも、尖ればいいもんだと思っている時期もありました。
am8:ネガなこととか悪口とかも言う方ですか?
大井:そういうことを言うようなスタイルのミュージシャンが好きだったのもあるんですよね。別に僕は本心では何でもいいものはいいと思ってるんだけど、ノエル・ギャラガーとかリアム・ギャラガーとかみたいに、あいつらはクソだって言うのがかっこいいと思っていたので。60年代・90年代のUKロッカーたちになぞらえたファッションや言動と自分を重ね合わせて、ある種コスプレしていくことって気持ちいいじゃないですか。やっぱりスーツは3つボタンだろうとか、デザートブーツ履いたり、「そういう俺!」みたいなことをやってたんですよね。
am8:それも大事だよね。
大井:自分らの身内の自意識を高めていって、ある種排他的になっていくみたいな、そういうノリみたいなものが面白くはありましたね。今は全然そんなふうじゃなくなっちゃいましたけど。何かに抗いたいとか、自分らの身内だけでガッチリ固まっていたいみたいな欲求って、時代に関わらず、全ての若者が持っているものだと思ってるんですけど、60年代ならいざ知らず、今のこの2000何年代とかで、何かに反骨するような対象ってないっちゃないんですよね。たとえば、60年代はベトナム戦争があったとか、そういうレベルの話は別にないから、何かに抗いたいんだけど、周りのダサいと思ってる奴をめちゃくちゃバカにするぐらいしかやれることがない、というか、歯向かう先がない。だから、自意識としては、我に返ったらいけないみたいな気持ちも、どこかあった気がします。
am8:高校?大学ぐらい?
大井:高校生ぐらいですかね。
am8:何年生まれなんですか?
大井:僕、92年に生まれました。
am8:じゃあ2000年代に多感な時期を過ごしたんだ。
大井:そうですね。
am8:その頃の音楽に、モッズとかはリアルタイムになかったけど。
大井:そうですね、リアルタイムで何かを聴くっていうことを、高校生の時は意識的にしなかったんだろうなと思うんですよね。
am8:じゃあ、そこから今のプレイに結びつくまでのストーリーを教えてください。
大井:はい。高校生の時にはプレイヤーとしてのスタイルは、ある程度確立したと思います。それこそ、どちらかと言えば、UKマナーのもの。US/UKという、大きく2つに分けたうちのUKということですけど。UK的なマナーやスタイルのものがすごく好きで、演奏とか音楽に関しても。ブラックミュージックに関しても、アメリカのアフリカアメリカンのブラックミュージックというより、イギリスの都市部にいる黒人の移民がやっているブラックミュージックというか、ブルーアイドソウルとか、あとは白人が演奏するブラックミュージックとか。そういったものが好きでしたね。最初はザ・フーをやってたのもあって、キース・ムーンのドラムプレイに憧れて、文化祭でドラムぶっ壊したりしてたんですけど。あとはもちろんリンゴ・スターという存在があって。で、同時にサイケデリックロックみたいなものを掘っていくうちに、電子音楽にも目覚めたんですよね。ケミカル・ブラザーズが僕のテクノ原体験だと思うんですけど、あれがサイケデリックロックとのつながりが非常に多くて。電子音というものと、自分が始めたドラムという楽器と、その接続とはどんなもんじゃいっていうことについて研究するようになって、パッドとかトリガーとか、あとはDTMというかDAWとか、そういったものにガッと興味が向くようになったのも、高校生の後半から大学生ぐらいにかけてなんですよね。ダブとかヒップホップとか、ブレイクビーツとかドラムンベースとか、とんでもなく多い枝葉を拾い集めるみたいなことをやってた中で、ビル・ブルーフォードが現れたんですよね。イエスとかでやってるドラマーがシモンズのパッドと生のドラムセットをレイヤーして叩いているぞ、みたいな。で、そういえば高橋幸宏っていう人もいたぞ、みたいな。
am8:うんうん、そこからね。
大井:僕が最初に聴いたYMOの作品は『パブリック・プレッシャー』だったので。
am8:ライブ盤?
大井:そうですね、ライブ盤を聴いて。あとイエスとかキング・クリムゾンとか、あのあたりのロックを聴いたり、そのビジュアルを見て、あれ、この人もこの人もなんか変な形の太鼓じゃないやつを置いてるぞ、みたいな。六角形のよくわからないやつや、丸い"プーン"とかいうやつも叩いているぞ、みたいな。当時はそれがなんて名前かも、どうやって検索したらいいかもわかんないから、とりあえずライブの写真とかをひたすら見漁って、調べて調べて、気付いたら電子音楽と生ドラム、生音のミックスを研究する人になってました、自分が。
am8:そういう意味では、『パブリック・プレッシャー』からっていうのもすごく興味深いね。
大井:家にあったんですよ。
am8:あれって今、平たく聴くとそんなにテクノ感を感じないけど、3人の位相がとにかく素晴らしいから。そこから電子音楽やテクノミュージックへ入っていったっていうのは、非常に大井さんの今のストーリーにつながるなって思います。
大井:そうですね。生身の音楽家でありたいという気持ちがずっとあって、かつその肉体性にいかに電子音楽を誘和させていくかみたいなことを考えてて、その最初に『パブリック・プレッシャー』を聴いたというのは、すごく大きいのかなって思いました。
am8:厳密にはライブじゃないもんね。
大井:ああ、そうですよね。
am8:半分ライブ半分スタジオよね。それも結構いいよね。
大井:そうそう、それもいいと思う。ちゃんとエディットが入ったライブ盤って、わりと僕は好きなんですよね。これが『テクノデリック』とか『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』とか、もっと純正なピコピコな音楽の作品(が最初)だったら、今こうはなってなかったのかなとかちょっと思ったりして。
am8:プレイヤーのフィーリングを持っているっていう作品というと『パブリック・プレッシャー』が強いよね、そういう意味ではね。
大井:そうですね、ほんとそうですね。
am8:これが一番かっこいいんですよ。ちなみに今の話とつながりで言うと、今回の「YT」で、幸宏さんが使っていたアルトサウンドっていうシンセドラムのサンプルを佐藤清喜さんが持ってて。それを中盤戦にレイヤーしてるんですよ。ミックスのときに、後半の生っぽさをもうちょっと打ち込みっぽくするワンエッセンスない?っていうので、昔、幸宏さんが監修したCASIOのRZ-1というドラムマシンがあるんですけど、それを実は大井さんのスネアにレイヤーさせてます。
大井:はー!そうだったんですね。RZ-1、教えていただいてありがとうございます。
am8:この間レコーディングの時に大井さんが持ってきてくれてたスネアドラムたちっていうのは、幸宏さんから預かったものなんですか?
大井:そうです。お預かりしております。
am8:すごいね。もう形見だね、完全に。
大井:そうですね。でも、ちょっと言い方が難しいんですけど、僕が、幸宏さんの後継者ですみたいな扱われ方をし過ぎるのは、ちょっとずれてるっていうか。なぜなら幸宏さんの後継者はいっぱいいるから。僕はそのうちのひとりであって。で、たまたま僕が、あのドラムセットをお預かりしていて、ちゃんと使うってことを決めただけで。僕なんかよりずっと幸宏さんやYMOに詳しい方は、もちろん数多いると思っていて。だから別に僕もただの幸宏さんファン、YMOファンのひとりだし、まだ若輩者だな、みたいな感じがしているし。幸宏さんが亡くなった後に、周りから「君は幸宏さんに認められている」「楽器持ってていいって言われるなんて、なかなかないよ」みたいなすごいありがたいことを言っていただきましたけど、もちろん背負えるものは全部背負いたいですけど、別に僕はキーマンのひとりに過ぎない。そういう自覚を持とうって思ってた矢先にこの「YT」のお話だったので、そういうのも含めてよかったです。幸宏さんに対してのリスペクトを込めた曲じゃないですか。これまでの作品を大事に大事に聴き続けて語り継いでいきましょうねっていうだけではなくて、そういうものを経て、新しいものを生み出すってことはすごく大事なことだと思って。しかも「YT」が、ヤングタイムっていう意味もあることに、すごい感動しましたね。
am8:今回、(大井さんに)お願いするのも、だめ元でと思ったんだけど、大井さんがそういう状態ってのは知らなくて。去年のNHKの高橋幸宏さんのトリビュートライブで観たときに、この人すごいなって思って。叩き方も幸宏さんに似てるし、かつ正確で、かつ前にも出てこないけど、静かにきっちりやってるなと思って、勝手に好感触があって。今回ドラムもゲストで入れたいって話して。あとは、ヤングタイムって紐解いた部分は、やっぱり大井さんのような若い世代の人たちへの継承みたいなことと、あとは自分が中学の頃とかに影響を受けたYTを描くっていう、そこをふたつ混ぜ込んでやったので。
大井:いいですね。これが幸宏さんの楽器を継いでから初めてのお仕事だったと思うので。元々は僕、自分のバンドのyahyelに、あのドラムが絶対合うと思って、これ使わせてくださいってお願いしたんですよね。そしたらいいよ、って言ってくださったので。
am8:なるほど、なるほど。
大井:その後は他のエレクトリック要素が入っているアーティストでは幸宏さんのドラムを使おうって思ってるんですけど、その中でレコーディングの仕事っていうのはam8が初めてだと思います。
am8:途中から、大井さんのドラムのハイハットが少しずつチッチッチッ入り始めるじゃないですか。あそこがすごく好きですね。さっきの『パブリック・プレッシャー』じゃないけど、それまで打ち込みだったビートに生が入ってきて、それがすごい気持ちいいというか。やっぱり頼んでよかったなと本当に心から思えます。
大井:ありがとうございます。気持ちいいですよね。
am8:急にヒューマンになるから。僕は面白いなって思ってますけどね。じゃあ最後に、大井さんのこれからの活動を教えていただけますか。
大井:6月27日に、僕がやっているyahyelのワンマンライブがリキッドルームであるので、そちらもよろしくお願いします。また、リットーミュージックの雑誌「リズム&ドラムマガジン」の7月号、高橋幸宏さん特集ページの中で、お預かりしているドラムセット、TAMA Starclassic Mirageと共にインタビューを受けました。こちらも是非チェックしてみてください。
am8「YT ft. mekakushe」
2023年6月7日(水)
Format:Digital
Label:Alfa Beta Records
Track:
1.YT ft. mekakushe
試聴はこちら
@am8_official2020
Official YouTube Channel
note
FRIENDSHIP.
ゲストボーカルはメカクシレコーズを主宰し、サブスクリプションシーンで活躍中の女性シンガーソングライター、mekakushe。そしてゲストドラマーは、yahyel、DATS、QUBITと数々のグループやセッションでも活躍する若き勇者、大井一彌。
今回は、am8と大井の対談を行い、大井の音楽的な変遷を解き明かすとともに、「YT ft. mekakushe」の秘話を紹介。am8と大井の親和性が見えてくる、貴重な対談となった。
卓球の手の動きでドラムに行ったっていったら、すごい腑に落ちる(am8)
am8:まずは、am8及びこの楽曲についての印象を、初めてオファーした頃から含めて、ちょっと聞かせてくれたら嬉しいなと思います。
大井一彌:まずはデモのトラックを拝聴して、その時点で趣旨みたいなものとか、何を表現したいのかが完全にわかったというか。幸宏さんという存在に対してどうアプローチするか、という楽曲のあり方を感じましたし、そこにはすごいリスペクトと洒落っ気と、いろんな想いを感じたので、これは大切に扱わないといけないなと。
am8:ありがとうございます。ちなみに、am8について事前に知ったりすることはなかったですよね?
大井:猫がショルキーを持っているアー写がすごく印象的だったので、前から脳裏に焼き付いていました。
am8:嬉しい。単純に猫のミュージシャンっていう見方とか面白いかなって思ってたのと、ワールドワイドで見たときに、そういう共通言語がはっきりシンプルにあるといいなって思いで、ああいうお面というかマスクをかぶってるんですけど。ライブの時は見えないんですよね(笑)。実は、猫のお面自体が作品だったんですよ。
大井:そうなんですか。
am8:次に、ここは熱くお話を聞きたい部分なんですけど、あらかじめ前説しておくと、幸宏さんということは、僕らも精一杯声を出して言いたいけど、今回の曲は「YT」ヤングタイム=「若い頃」がひとつのテーマになっています。大井さんはどんな子どもだったのか、どんなことが好きだったのか、もっと言えば、ドラムのプレイヤーになったうえで、影響を受けてきたストーリーを聞きたいです。
大井:なるほど。いいですね。子どもの頃の話を聞かれたことは、僕、今までなかったので(笑)。ある程度ミュージシャンみたいなものを志して以降のことを聞かれることはあったんですけど。僕は中3くらいから、音楽を始めたんですけど、その前は、何かに集中すると周りのものが見えなくなっちゃうようなタイプの子どもだったのかなという、そういう自覚がありますね。親とかからもそう言われてましたし。
am8:夢中になっちゃうものは何だったんだろう?
大井:両親とも音楽が好きな人で。僕の父はジャズ・リスナーなんですけど、母がミュージカルとかオペラとか好きな人で、ちっちゃい頃から、家に音楽が溢れ返っていましたね。なので、知らず知らずのうちに聴いていたものが、中学とか高校生とかになって、ああ、こんなのあった、こんなのあった、と、記憶の中から引っ張り出してこれるというか。音楽を始める前は、僕は、小学校〜中学校と部活一本で、卓球部に入ってたんですけど。
am8:卓球っぽいっちゃ、卓球っぽいね。松本大洋さんの漫画に出てきそうですもん。
大井:「ピンポン」ですね(笑)。あの世界観を地で見てたというか、「ピンポン」の元になった舞台が、神奈川県の藤沢市で。僕、藤沢市出身で。だから「ピンポン」はバイブルですね。
am8:そうでしょうね。そんな感じがすごくする。
大井:それこそ、プロとかにちょっとなりたいな、みたいなことを思うぐらい、本気で部活に打ち込んでたタイプの人だったんですけどね。音楽をやるようになってからは、これまで部活だったものが音楽にのめり込むようになって、今に至るわけです。
am8:音楽をやるってなって、すぐドラムに行ったんですか?
大井:そうなんですよ。実は、幼馴染でギターを弾ける奴がいて、そいつに誘われて、ホイホイついて行ったら、そこが軽音楽部の部室みたいなところで。練習室にひと通りの楽器が転がってて、なんか電子ドラムだったんですよね。そこに深い理由はないんですけど、でも、なんかパッと叩けたというか、なんとなく軽い8ビートみたいなものをやってみようって思ったことが、なんとなくできたっていうか。
am8:考えてみると卓球に似てるよね。リズミカルじゃないですか、パンパンパンパンっていうか、ああいう手の動きでドラムに行ったって言ったら、すごい腑に落ちると思って。
大井:そこ、繋がるところはあるかもしれないですね。それが繋がってるっていうふうに捉えると、これまでの人生を肯定された気がします。
am8:僕も実は中学の時、YMOのコピーバンドでドラムの担当だったんですよ。ドラムかつ、幸宏さんは歌ってたじゃないですか。叩きながら歌うのがかっこよくって。
大井:いいですよね。
am8:もうひとつ小ネタを挙げると、僕も実は岡崎市立城北中学校卓球部でして。
大井:あら、そうですか。
am8:でもね、すでにシンセサイザーもピコピコしていたから、いかにサボれる部活かってことで選んだんですよ。闘志に燃えてないし、卓球部も弱かったから。
リアルタイムで何かを聴くことを、高校生の時は意識的にしなかった(大井)
am8:じゃあ、大井さんがドラムに出会ったエピソードを聞きましたけど、どんな音楽に影響を受けたとか、その辺の遍歴を聞けたら嬉しいなと思ってます。
大井:普通の公立高校の普通の軽音楽部に入って、そこでバンドを組むわけですけど、なぜか60年代のUKロックが好きな人ばっかり集まっちゃって。
am8:60年代のUKロック!なかなかマニアックだな、それ。
大井:それでモッズバンドを組んだんですよね。スモール・フェイセズとかザ・フーとか、そういったもののコピーバンドみたいなことを最初はやってました。60'sサイケUKが好きで、そういった文化に傾倒していった結果、ビートルズに出会い。家では聴いていたもの、そこから研究対象になったと言うか。研究対象って言うとあれですけど、しっかりそれについて知ろうと。今まではただレコードが家にあったから、ただCDが転がってたからそれを聴いてたのが、家系図をたどるみたいにして、こことここが繋がってるみたいな聴き方になって。それで、(サディスティック・)ミカ・バンドを聴いてたんですけど、別でYMOも聴いてて。同じメンバーがいるとか知らなかったんですよね。それを誰が演奏してるとか、この人が別で何をしてるとか、この人がかつてこうだったとか、この後こうなるとか、全然興味なかったので。音楽をやるようになってから、そういうことが気になるようになっていって、そうなってからがめちゃくちゃ楽しかったんですよね。聴いてきた音楽がどんどんどんどん繋がって、はっぴいえんど、え、これもYMO(のメンバーがいるの)かい?みたいな。アメリカでいうとAORだったり、スタジオミュージシャンが作った黄金時代みたいなものを好きになったっていうのもありますね。ビートルズとかUKのサイケの次はそういうもの、70年代〜80年代のスタジオミュージシャンカルチャーみたいなものにどっぷりまたハマって、イエスとか、TOTOとか、エイジアとか、スティーリー・ダンとか。
am8:ちょっとうがった聞き方しちゃうけど、その好みにズバッと突入するときに、いわゆる街鳴りしているJ-POPとか、テレビで流れてくるような音楽っていうのは全然素通りしてたわけですか?
大井:そうですね、なんか不思議なことに、素通りしてましたね。僕は基本的に何でも好きです。音の羅列が好き、みたいなレベルで好きだと言えるので、アイドルもいいものはいいし、ボカロみたいなものとか、本当に流行りものを目指してTikTokでバズるための曲みたいな、意図が丸見えのものでもいいものはいいと思っているので、そこに基線がないと思ってはいるんですけど。でも、尖ればいいもんだと思っている時期もありました。
am8:ネガなこととか悪口とかも言う方ですか?
大井:そういうことを言うようなスタイルのミュージシャンが好きだったのもあるんですよね。別に僕は本心では何でもいいものはいいと思ってるんだけど、ノエル・ギャラガーとかリアム・ギャラガーとかみたいに、あいつらはクソだって言うのがかっこいいと思っていたので。60年代・90年代のUKロッカーたちになぞらえたファッションや言動と自分を重ね合わせて、ある種コスプレしていくことって気持ちいいじゃないですか。やっぱりスーツは3つボタンだろうとか、デザートブーツ履いたり、「そういう俺!」みたいなことをやってたんですよね。
am8:それも大事だよね。
大井:自分らの身内の自意識を高めていって、ある種排他的になっていくみたいな、そういうノリみたいなものが面白くはありましたね。今は全然そんなふうじゃなくなっちゃいましたけど。何かに抗いたいとか、自分らの身内だけでガッチリ固まっていたいみたいな欲求って、時代に関わらず、全ての若者が持っているものだと思ってるんですけど、60年代ならいざ知らず、今のこの2000何年代とかで、何かに反骨するような対象ってないっちゃないんですよね。たとえば、60年代はベトナム戦争があったとか、そういうレベルの話は別にないから、何かに抗いたいんだけど、周りのダサいと思ってる奴をめちゃくちゃバカにするぐらいしかやれることがない、というか、歯向かう先がない。だから、自意識としては、我に返ったらいけないみたいな気持ちも、どこかあった気がします。
am8:高校?大学ぐらい?
大井:高校生ぐらいですかね。
am8:何年生まれなんですか?
大井:僕、92年に生まれました。
am8:じゃあ2000年代に多感な時期を過ごしたんだ。
大井:そうですね。
am8:その頃の音楽に、モッズとかはリアルタイムになかったけど。
大井:そうですね、リアルタイムで何かを聴くっていうことを、高校生の時は意識的にしなかったんだろうなと思うんですよね。
肉体性にいかに電子音楽を誘和させていくかみたいなことを考えてた(大井)
am8:じゃあ、そこから今のプレイに結びつくまでのストーリーを教えてください。
大井:はい。高校生の時にはプレイヤーとしてのスタイルは、ある程度確立したと思います。それこそ、どちらかと言えば、UKマナーのもの。US/UKという、大きく2つに分けたうちのUKということですけど。UK的なマナーやスタイルのものがすごく好きで、演奏とか音楽に関しても。ブラックミュージックに関しても、アメリカのアフリカアメリカンのブラックミュージックというより、イギリスの都市部にいる黒人の移民がやっているブラックミュージックというか、ブルーアイドソウルとか、あとは白人が演奏するブラックミュージックとか。そういったものが好きでしたね。最初はザ・フーをやってたのもあって、キース・ムーンのドラムプレイに憧れて、文化祭でドラムぶっ壊したりしてたんですけど。あとはもちろんリンゴ・スターという存在があって。で、同時にサイケデリックロックみたいなものを掘っていくうちに、電子音楽にも目覚めたんですよね。ケミカル・ブラザーズが僕のテクノ原体験だと思うんですけど、あれがサイケデリックロックとのつながりが非常に多くて。電子音というものと、自分が始めたドラムという楽器と、その接続とはどんなもんじゃいっていうことについて研究するようになって、パッドとかトリガーとか、あとはDTMというかDAWとか、そういったものにガッと興味が向くようになったのも、高校生の後半から大学生ぐらいにかけてなんですよね。ダブとかヒップホップとか、ブレイクビーツとかドラムンベースとか、とんでもなく多い枝葉を拾い集めるみたいなことをやってた中で、ビル・ブルーフォードが現れたんですよね。イエスとかでやってるドラマーがシモンズのパッドと生のドラムセットをレイヤーして叩いているぞ、みたいな。で、そういえば高橋幸宏っていう人もいたぞ、みたいな。
am8:うんうん、そこからね。
大井:僕が最初に聴いたYMOの作品は『パブリック・プレッシャー』だったので。
am8:ライブ盤?
大井:そうですね、ライブ盤を聴いて。あとイエスとかキング・クリムゾンとか、あのあたりのロックを聴いたり、そのビジュアルを見て、あれ、この人もこの人もなんか変な形の太鼓じゃないやつを置いてるぞ、みたいな。六角形のよくわからないやつや、丸い"プーン"とかいうやつも叩いているぞ、みたいな。当時はそれがなんて名前かも、どうやって検索したらいいかもわかんないから、とりあえずライブの写真とかをひたすら見漁って、調べて調べて、気付いたら電子音楽と生ドラム、生音のミックスを研究する人になってました、自分が。
am8:そういう意味では、『パブリック・プレッシャー』からっていうのもすごく興味深いね。
大井:家にあったんですよ。
am8:あれって今、平たく聴くとそんなにテクノ感を感じないけど、3人の位相がとにかく素晴らしいから。そこから電子音楽やテクノミュージックへ入っていったっていうのは、非常に大井さんの今のストーリーにつながるなって思います。
大井:そうですね。生身の音楽家でありたいという気持ちがずっとあって、かつその肉体性にいかに電子音楽を誘和させていくかみたいなことを考えてて、その最初に『パブリック・プレッシャー』を聴いたというのは、すごく大きいのかなって思いました。
am8:厳密にはライブじゃないもんね。
大井:ああ、そうですよね。
am8:半分ライブ半分スタジオよね。それも結構いいよね。
大井:そうそう、それもいいと思う。ちゃんとエディットが入ったライブ盤って、わりと僕は好きなんですよね。これが『テクノデリック』とか『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』とか、もっと純正なピコピコな音楽の作品(が最初)だったら、今こうはなってなかったのかなとかちょっと思ったりして。
am8:プレイヤーのフィーリングを持っているっていう作品というと『パブリック・プレッシャー』が強いよね、そういう意味ではね。
大井:そうですね、ほんとそうですね。
am8:これが一番かっこいいんですよ。ちなみに今の話とつながりで言うと、今回の「YT」で、幸宏さんが使っていたアルトサウンドっていうシンセドラムのサンプルを佐藤清喜さんが持ってて。それを中盤戦にレイヤーしてるんですよ。ミックスのときに、後半の生っぽさをもうちょっと打ち込みっぽくするワンエッセンスない?っていうので、昔、幸宏さんが監修したCASIOのRZ-1というドラムマシンがあるんですけど、それを実は大井さんのスネアにレイヤーさせてます。
大井:はー!そうだったんですね。RZ-1、教えていただいてありがとうございます。
リスペクトを経て、新しいものを生み出すってことはすごく大事(大井)
am8:この間レコーディングの時に大井さんが持ってきてくれてたスネアドラムたちっていうのは、幸宏さんから預かったものなんですか?
大井:そうです。お預かりしております。
am8:すごいね。もう形見だね、完全に。
大井:そうですね。でも、ちょっと言い方が難しいんですけど、僕が、幸宏さんの後継者ですみたいな扱われ方をし過ぎるのは、ちょっとずれてるっていうか。なぜなら幸宏さんの後継者はいっぱいいるから。僕はそのうちのひとりであって。で、たまたま僕が、あのドラムセットをお預かりしていて、ちゃんと使うってことを決めただけで。僕なんかよりずっと幸宏さんやYMOに詳しい方は、もちろん数多いると思っていて。だから別に僕もただの幸宏さんファン、YMOファンのひとりだし、まだ若輩者だな、みたいな感じがしているし。幸宏さんが亡くなった後に、周りから「君は幸宏さんに認められている」「楽器持ってていいって言われるなんて、なかなかないよ」みたいなすごいありがたいことを言っていただきましたけど、もちろん背負えるものは全部背負いたいですけど、別に僕はキーマンのひとりに過ぎない。そういう自覚を持とうって思ってた矢先にこの「YT」のお話だったので、そういうのも含めてよかったです。幸宏さんに対してのリスペクトを込めた曲じゃないですか。これまでの作品を大事に大事に聴き続けて語り継いでいきましょうねっていうだけではなくて、そういうものを経て、新しいものを生み出すってことはすごく大事なことだと思って。しかも「YT」が、ヤングタイムっていう意味もあることに、すごい感動しましたね。
am8:今回、(大井さんに)お願いするのも、だめ元でと思ったんだけど、大井さんがそういう状態ってのは知らなくて。去年のNHKの高橋幸宏さんのトリビュートライブで観たときに、この人すごいなって思って。叩き方も幸宏さんに似てるし、かつ正確で、かつ前にも出てこないけど、静かにきっちりやってるなと思って、勝手に好感触があって。今回ドラムもゲストで入れたいって話して。あとは、ヤングタイムって紐解いた部分は、やっぱり大井さんのような若い世代の人たちへの継承みたいなことと、あとは自分が中学の頃とかに影響を受けたYTを描くっていう、そこをふたつ混ぜ込んでやったので。
大井:いいですね。これが幸宏さんの楽器を継いでから初めてのお仕事だったと思うので。元々は僕、自分のバンドのyahyelに、あのドラムが絶対合うと思って、これ使わせてくださいってお願いしたんですよね。そしたらいいよ、って言ってくださったので。
am8:なるほど、なるほど。
大井:その後は他のエレクトリック要素が入っているアーティストでは幸宏さんのドラムを使おうって思ってるんですけど、その中でレコーディングの仕事っていうのはam8が初めてだと思います。
am8:途中から、大井さんのドラムのハイハットが少しずつチッチッチッ入り始めるじゃないですか。あそこがすごく好きですね。さっきの『パブリック・プレッシャー』じゃないけど、それまで打ち込みだったビートに生が入ってきて、それがすごい気持ちいいというか。やっぱり頼んでよかったなと本当に心から思えます。
大井:ありがとうございます。気持ちいいですよね。
am8:急にヒューマンになるから。僕は面白いなって思ってますけどね。じゃあ最後に、大井さんのこれからの活動を教えていただけますか。
大井:6月27日に、僕がやっているyahyelのワンマンライブがリキッドルームであるので、そちらもよろしくお願いします。また、リットーミュージックの雑誌「リズム&ドラムマガジン」の7月号、高橋幸宏さん特集ページの中で、お預かりしているドラムセット、TAMA Starclassic Mirageと共にインタビューを受けました。こちらも是非チェックしてみてください。
RELEASE INFORMATION
am8「YT ft. mekakushe」
2023年6月7日(水)
Format:Digital
Label:Alfa Beta Records
Track:
1.YT ft. mekakushe
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