SENSA

2023.03.29

美しさと苦しさが昇華された、今を生き抜くためのポストロック「シノエフヒ」-Highlighter Vol.166-

美しさと苦しさが昇華された、今を生き抜くためのポストロック「シノエフヒ」-Highlighter Vol.166-

音楽だけでなく、どのカルチャーも共通点やつながりがあるということをコンセプトにしているSENSA。INTERVIEWシリーズ「Highlighter」では、アーティストはもちろん、音楽に関わるクリエイターにどのような音楽・カルチャーに触れて現在までに至ったか、その人の人となりを探っていく。 Vol.166は、エモーショナルポストロックバンド・シノエフヒを取り上げる。
変拍子や音色、歌詞も含めて確固たる世界観を創り上げるバンド。そのアーティスティックな可能性は注目を集めており、さらなる進化を遂げた新作『dawndraft/landscape』も必聴である。

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活動を始めたきっかけ
以前は2ピースバンド「ノクターン」として活動をしており、メンバー脱退後、ひとりでの活動になったタイミングで名義を「シノエフヒ」と変更しました。
シノエフヒは、2ピースの時に決めていた「実際にふたりで出せる音しか使わない」というルールから少し離れ、頭の中に鳴っている音を自由に使うということに重きをおいて制作しています。シノエフヒは造語ですが、大切な意味が込められています。

影響を受けたアーティスト
BUMP OF CHICKEN生まれ、People In the Box育ち」を明言しているくらい、この2バンドには良くも悪くも影響を強く受けています。僕はいろんな音楽を幅広くたくさん聴くということが苦手で、好きになったらとことんその曲ばかり聴くという形です。なのでこの2バンドは、特にDNAの深いところに刺さっていて、逆に抜け出すのが難しくて、そこが悩みでもあったりします(笑)。

BUMP OF CHICKENは中学の同級生から教えてもらったCDを借りて、初めて「バンド」というものを知りました(それまではピアノしかやっていなかったので、オーケストラしか知らなかった)。初めて借りたアルバムが『orbital period』で、特に「voyager」と「flyby」は何百回レベルで聴きました。この繋がる遊び心に胸を打たれたのと、アルバムを通して存在する物語性については、今の創作にも影響を受けています。



People In the Boxについては、これは今でもしっかり覚えているんですけど、周りでTwitterが流行りだした高校2年生の時に、『めだかボックス』の球磨川というキャラクターのアイコンの方が、たまたまタイムラインに流していた「旧市街」というMVを見て、「こんなめちゃくちゃやってるのにちゃんと音楽になってるのなんなの!?!?」と僕の音楽の固定概念が破壊されました。こんなに自由にやっていいものなのかという衝撃が、今僕が作っている変拍子につながっています。



注目してほしい、自分の関わった作品
今回の新譜は、前作である『updraft/waterfront』と地続きのアルバムになっています。約1年前にアルバムを作ろうと思った時に、次の作品は2部作で大きなひとつの作品にしようと考えていました。





このふたつのアルバム制作の間に、人生初の展示「光の還る処へ」(共同展示。シノエフヒは音と言葉の展示)を実施し、会場BGMを作成しました。普段の変拍子ではなく、初めて来られる方の耳にも優しい表現はどうすればよいのかと考え、四拍子に存在する安心感や安定感を取り入れ、耳馴染みの良い雰囲気を作り出すことに成功しました。今作『dawndraft/landscape』は、その時の経験を生かして、変拍子に固執せず柔軟に必要な拍子を選び制作しています。
ちなみに、「光の還る処へ」の会場BGMも今年リリースなのでお楽しみに!

また、キンヨウノヨルの新譜リリース企画「抽象回顧展」で初のリードギターとしてサポートで入らせてもらい、フロントマンではない立ち位置からのギターフレーズを考えることができ、その経験が今作のリードギターにも強く反映されています。ぜひその耳で確かめてみてください。

今後挑戦してみたいこと
映画や舞台で共同制作者として楽曲提供をしてみたいです。自分が主としての楽曲ではなく、他の方の考えや物語を音楽という形に落とし込むという特殊な条件で制作することで、今まで見えてなかった角度から世界を見ることができる気がしています。また他の音楽家の方の楽曲に歌やギターで参加するということもしたいです。

引き続き個人で活動することになると思うので、セルフクラウドファンディングという形でインディーズアーティストとファンの新たな関係性を模索したいと思ってます。がんばりたい。

新譜リリースについては、もう少し期間を短めでしていこうと思ってます。サポートメンバーの皆さん、ご協力お願いいたします(笑)。

カルチャーについて

触れてきたカルチャー
詩の文化は影響を受けています。
いちばん好きな詩人は好きな方も多いと思いますが中原中也です。『汚れっちまった悲しみに』を愛読してました。また、中原中也賞を受賞した最果タヒも、とても好きです。

中原中也は、中学の国語の教科書に載っていた「サーカス」という詩で知りました。「ゆやーんゆよーんゆやゆよーん」って独特の表現をしているのがやたら印象深くて、そこからずっと頭に残っていて、大学生の時に本屋で詩集を初めて買いました。表紙を『テガミバチ』の漫画家さん(浅田弘幸)が描いているのもあって、とても綺麗ですよね。



また最果タヒは『別冊(少年)マガジン』で短期連載していた詩が頭から離れず、後々調べて『グッドモーニング』に掲載されていると知り、塾の帰りに本屋によって購入しました。当時は今ほど有名ではなかったので、恐らく増刷とかもされておらず、一冊しか残っていなくて安堵したのを覚えています。最果タヒを知ってから中原中也賞を受賞した方だと知り、あのとき中原中也に興味を持ったから好きになったのか、とひとりで納得しました。

最果タヒは自身の感情や考えの切り取り方が独特で、だけど確かにそうだよなと思える表現が素敵な詩人だと思ってます。「どうやったらこのことについてこういう見方ができるんだろう」と思ってます。ほとんどの人がAという地点から見ているものをBという地点から見ていて、そこからの景色を言葉にするのがとてもうまくて尊敬しています。



余談ですが、僕は歌詞と詩は区別しており、僕の音楽は歌詞ではなく詩だと思って作ることが多いです。今作だと「ブルーシトロン」は歌詞として作っているのですが、「最初の雨工場」や「オキシペタラム」などの他の曲は詩として作ってます。違い出てると思います、どうでしょうか。
バンドを組んだときから明確に考えているのは、音(たとえばクラシック)と詩はそれぞれ別々に芸術として確立しているのに、それが合わさったものも芸術であるはずだと思っていて、なので歌詞ではなく「音と詩」という視点を意識して作っています。

映画が好きで良く観ますが,特にアニメ映画にとても影響を受けています。アニメはそのキャラクターはそのキャラクターでしかないので、感情移入しやすいからだと思います。逆に実写映画で、その俳優ではなくキャラクターにしか見えないような演技をする方はすごく好きです。僕はライブもするので、実写映画の俳優さんの感情のアウトプット方法はかなり参考にしています。

シノエフヒの曲は映像や物語を想像しやすいとよく言われますが、それは映画のシーンのような物語が最初に頭に浮かび、それを言葉や音に表すことを目標に制作しているせいだと思います。勝手に主人公たちが頭の中で動き出し、それを言葉でなぞるような詩の作り方を割とよくします。

今注目しているカルチャー
最近は俳句に興味があります。いちばんわかりやすくて面白かったのが『東京マッハ(――俳句を選んで、推して、語り合う)』という本で、「句会」という会で様々な業種の方がお題に沿って俳句を詠むというのをお客さんの前でリアルにやり点数をつけられるという会を文字化した本なのですが、これがとても面白く、「俳句って17文字しかないのに,こんなにいろいろなことを読み取ることができ、またいろいろな解釈をしていいし、答えってないんだな」ということを知り、俳句の世界がとても近くなりました。



僕がとても素敵だと思ったのが、池田澄子さんの「じゃんけんで負けて蛍に生まれたの」という句です。蛍というみんなが綺麗だと思うものに、「じゃんけんで負けて」なってしまったというネガティブな意味が付きまとう。僕はなぜか『火垂るの墓』を思い出しました。じゃんけんというのは比喩で、実は人生であったり戦争であったり、そういうくじ引きのようなもので「あなたはそのくじに当たって今ここで蛍を見ているけど、同じ私はあと数日で死ぬただ光るだけの蛍」になってしまった。
ただ、「生まれたの」という表現に何故か幼さも感じ、子供が無邪気に話しているのかなと。そういう深みがあるこの句から、言葉の可能性を改めて感じました。

RELEASE INFORMATION

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シノエフヒ『dawndraft/landscape』
2023年3月29日(水)
試聴はこちら

LIVE INFORMATION

DaisyBar×キンヨウノヨル×雨のマンデーズ共催企画
2023年5月14日(日)
DaisyBar
アコギ編成で出演 with missanacht

自主企画「気流」
企画「気流」フライヤー.jpg
2023年5月19日 (金)
渋谷LOFTHEAVEN

PROFILE

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シノエフヒ
エモーショナル・ポストロックバンド、シノエフヒ。
旧形態となるノクターンから形を変え、音と言葉に重きをおいていた楽曲は、より深い祈りと救いを織り交ぜる形へと昇華した。
その音楽は、賛美歌を思わせるような美しさと、現実を生きていかなければならない苦しさという、相反する2つの要素を秘めている。現在はサポートメンバーを入れての編成で制作活動を行っている。

LINK
オフィシャルサイト
@shinoefuhi
@shinoefuhi
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