2022.08.24
自分自身はもともとインディー志向の人間
―まずは2019年にmiidaの活動をスタートさせた経緯から聞かせていただきたいのですが、ミズキさんのなかで"バンドではない"形態で音楽を続けていくというのは、自然な発想だったんですか?
マスダミズキ:そうですね。約10年間、バンドという形式で音楽を作って、レーベルや事務所の人たちとメンバーが一丸となって共同作業をやってきた。それでやれるところまでやったという思いもあったので、私個人としては事務所とかレーベルを抜けてやってみたかったんです。そもそも、ねごとというバンドは一回もインディーを経験していないんですよ。デビューのタイミングからソニーミュージックががっちりサポートしてくれて、制作合宿をさせていただいたり、1stシングルからタイアップがついたり。そういう世界線でずっとやってきた。ただ自分自身はもともとインディー志向の人間で、聴いてきた音楽、好きな音楽も、全然メジャーなものではなくて。私たちの時代は今と違って、メジャーで成功することがひとつのバンドの目標であり正義でありっていうようなところがあったと思うんですけど、私自身はそもそもそういうメジャー志向みたいなものが希薄で、例えば武道館でライヴをしたいとかも、正直に言うと一回も思ったことがないんですね。そういうことよりも、自分が最高だと思えた音楽が作れたときの喜びを得たいがためだけに、音楽をやっていたところがあったので。
―名声志向みたいなものがまったくなかった。
ミズキ:有名になりたい、ビッグになりたいみたいなモチベーションでやっている人もいっぱいいると思うんですけど、そことは対極の場所に自分のスピリットはあって。だけどバンドを続けるには、みんなと目線を合わせて、一丸となって志高くやっていかないといけない。そのへんでちょっと疲弊していたところがあったんです。それでひとりになって......あ、最初はひとりじゃなくて、ドラムのsugawaraさんとふたりでしたけど、とにかくミニマルなスタイルでもう一回音楽をやりたいなと思い、それでスタートさせたのがmiidaなんです。
―ねごとの解散が2019年7月で、10月にはもうmiidaの初ライヴがあった。めちゃめちゃアクションが早かったですよね。
ミズキ:ねごとのツアー・ファイナルをZepp Tokyoでやるときに、マネージャーさんが「チラシを折り込めるけど、どうする?」って言ってくれたんですよ。で、「そっか、チラシが折り込めるのか」ってなって、大急ぎでmiidaのワンマンを決めたという(笑)。それで楽曲制作もライヴにあわせてハイスピードで進めた。それがなかったら半年くらいお休みしてからゆっくり始めていたと思うんですけど。
―ひとりではなく、sugawaraさんとふたりでmiidaを始めた理由は?
ミズキ:実は大学生のときにsugawaraさんとバンドを組んでいたことがあって。その裏でねごとのメジャーデビューが決まったので、かけもちはできないからそのバンドは解散しちゃったんですけど、そこでsugawaraさんが作っていた曲がすごくよかったんですよ。こんなふうにいい曲を作れて、ドラムも繊細に叩ける人ってなかなかいないなと感じていて、いつかまた一緒にやりたいと思っていたんです。それで声をかけました。自分ひとりでやって自己完結するのは、ちょっと違うなと思っていたので。
―ところが何本かライヴをやったあと、翌2020年の2月にsugawaraさんが抜けることになった。
ミズキ:その理由は単純で、フルタイムで正社員として働いていたsugawaraさんが、物理的になかなかライヴができなくなってしまったから。仕事との両立というところでかなり疲弊されていたので、音楽は自由にやるものだから無理しないでくださいと話して、それで実質ひとりになったんです。その時点では「よっしゃ、いっちょひとりでやったるか!」みたいな感じではなくて、sugawaraさんと作った曲を大事にしながら自分のやれることを増やしていければいいなぁぐらいに思っていたんですけど。ただ、とにかく自己完結しちゃうのは怖いし、そうならないようにしたいなとは思っていました。
―ほかの人の意見なりアイデアなりプレイなりが自由に入ってこれる、開かれたプロジェクトでありたかった。
ミズキ:そうです。音楽って、そういうところにロマンがあるじゃないですか。誰かとの化学反応で何が生まれるかわからない面白さというか。自分のなかからは絶対に出てこないようなことを大事にしたり面白がったりして音楽を続けたかった。
―私はこういう音楽が正しいと思うと主張して自分発信にこだわるよりも、他者から受けるインスピレーションを大事にして柔軟に新しい音楽を生み出したかった。
ミズキ:そう。それを一緒に面白がってくれる人がいれば、一緒にやりたいし、っていう。それってたぶん、末っ子気質ってことでもあると思うんですけど(笑)。
―つまり、miida=私という意識ではなく、miidaという箱がそこにある、みたいな。
ミズキ:そうそうそう。だから「miidaさん」と言われると、めっちゃ焦ります。miidaという箱のなかに自分がいるだけなんだけどな、って気持ちが強いので。
―そして2020年8月には1stミニアルバム『utopia』をリリースしました。
ミズキ:sugawaraさんとふたりで作ったミニアルバムで、2019年の初ワンマンの翌日......10月5日には録りを済ませていたんです。『utopia』は、あまり音を決めこんだりしないで、隙間を大事にしたいと思って作った作品でした。というのも、ねごとのときはけっこう音をたくさん入れていたんですよ。アレンジも"これしかないでしょう"って思えるところまで決め込んで作っていたんですけど、まあその反動といいますか。もっと音を減らして、ループミュージックみたいな感じでもいいから、ただ音と歌とが気持ちよくあわさっているだけみたいな作品にしたかったんです。実際そういうものになったと思うし、それに対して、インディーっぽすぎてつまらないというような意見も聞こえてこなかったので、安心して。
―『utopia』を出して、わりとすぐあとに、今度はavengers in sci-fi の木幡太郎さん、稲見喜彦さんによるThe Departmentと合体して、新ユニット miida and The Departmentをスタートさせました。これはどのように始まったんですか?
ミズキ:お兄さんたちがマシーンで楽曲を作るんですけど、それが本当に素敵で。私にとって、ふたりとも、こんな大人になりたい!って思えるミュージシャンなんですね。この人たちと一緒に制作していると、ずっとときめいていられるし、私は17歳のただの音楽好きみたいな感覚に戻れるなって思って。ちょうどふたりが、歌う人をフィーチャーして活動しようと思っているというような話をしていたので、じゃあ一緒にやりましょうと。
―その流れから「from Studio KiKi」(自身のプライベートスタジオ、Studio KiKiを拠点としたコラボレーション型ライヴYouTubeチャンネル)もスタートしたんですよね。
ミズキ: もともとはコラボセッションをやっていこうという主旨で始めたわけではなくて、コロナ禍真っ最中だったときにmiida and The Departmentの楽曲を発表する場として始めたんです。あの頃はライヴもできなかったし、みんなちょっと落ち込んでいて心の拠り所を探しているような状態だったので、単に完成した曲を配信でリリースするんじゃなくて、ミュージシャンの友達を呼んでYouTubeでライヴ配信してみようよ、というところでスタートした。それがだんだんとああいう遊び場みたいな感じに発展していって。
―そこでいろんなミュージシャンと音楽で繋がって、関係性を築いていったことは、ミズキさんのなかで凄く大きかったんじゃないかと思うんです。音楽そのものの捉え方も、届け方という点でも、新しい発見や視野の広がりがあったんじゃないかと。
ミズキ:本当にそうで、私や太郎さんや稲見さんの友達のミュージシャンだけでなく、そこで初めて一緒にやらせてもらった私よりずっと年下の世代......YAJICO GIRLとかWez Atlasとかと一緒に音楽を制作する機会が持てて、いろいろ話ができたことは、かなり刺激になりました。やっぱり凝り固まっていったらダメだなって、いろんなアーティストと会って、すごく思えた。キャリアを重ねていって、知恵もついてくると、どうしても凝り固まった考え方をしがちになるじゃないですか。でも、「待て待て」みたいな。
―「音楽業界、今はこうだから」とかわかったようなことを言う大人もいるけど、そんなのは関係ないんだと。それぞれがそれぞれの価値観を持ってやっているんだから、凝り固まらずに視野を広く持ってやっていこう、自分の実感を信じてやっていこうと。
ミズキ: そうそう。自分が感じたことこそが真実なんだという、忘れちゃいけないことを、「from Studio KiKi」で毎回思い出すことができるんです。
大きな声では言いたくないけど、けっこう覚悟を決めて作ったアルバム
―では、1stアルバム『miida』の話をしましょう。収録曲のなかで初めにリリースしたのは「Continue」で、2021年5月。この曲を作ったのは......。
ミズキ:2020年の秋すぎくらいだったと思います。そこから数えると丸2年。ただ「bergamot memories」「Rain」「Trash into The Sea」「(I don't wanna)fade out」あたりのデモは2019年からもう作っていて。デモ段階から数えると、3年かけて作ったアルバムということになりますね。
―ミニアルバム『utopia』のときと、曲制作に対する意識は自分のなかでけっこう変わったと思いますか?
ミズキ:作っている最中にもどんどん変わっていった感じでしたね。初めは『utopia』の楽曲のブラッシュアップ・ヴァージョン、ステップアップ・ヴァージョンみたいな曲ができていったんですけど、そのあたりでちょっと自分のなかでの停滞期というか、しっくりこない曲ばかりできる時期があって。2021年の7月くらいまでに4曲以上作ったんですけど、あとで聴いてみると、なんかカッコつけてる感じがあった。で、「Continue」と、その2ヶ月後の「melt night」と、とりあえず2曲リリースできたから、一旦休憩しようと思って。しばらく曲を作らないでいたんです。そうしたらRADWIMPSのツアーのサポートギターの話がきまして。秋口からリハが始まり、12月から今年の1月まで年またぎのツアーに参加した。自分のアルバムの曲作りは結局半年くらいストップしたんですね。で、そのツアーが終ってから恐る恐る曲作りを再開したんですけど、RADWIMPSのツアーに参加したことで、曲作りに対する自分の意識がけっこう変わっていたんですよ。もう、RADWIMPSさまさまって感じなんですけど。
―具体的に言うと?
ミズキ:RADWIMPSの歌と言葉の強さ。それを目の当たりにして、自分が克服すべきところはここだなと気づいたというか。私はもともとトラックを作ることがすごく好きなんですね。で、歌詞に関しては出たとこ勝負というか、サウンドにあわせてメロディを乗せながら連想ゲームみたいな感じで出てきた言葉を乗せる作り方が多かったんですけど。
―言いたいこと、伝えたいことがあって音楽を始める人もいるけど、そういうタイプではなかった。
ミズキ:真反対ですね。言いたいことがあって音楽をやるみたいなことではまったくなかった。でもRADWIMPSのツアーに参加したことで、自分の考えていることをもっと恥ずかしがらずに言えたらどうだろうと考えて。RADWIMPSの曲は本当に野田(洋二郎)さんの考えていることが言葉になっていて、完全に言葉と音とがリンクしているからこその強度なんだなとわかった。それで、まずは作りかけの曲から見直していこうと。そこから5曲くらい続けて書きました。
―『utopia』のときはもう少しフワっと届けたかったけど、RADWIMPSのサポート以降、もっと自分の考えを歌に込めようと。
ミズキ:言っていいんだな、許されるんだなって気づいたというか。
―アルバムが完成して、どんなところにmiidaの進化を感じていますか?
ミズキ:ジャケットに自分をバーンと出したというところで、ひとつ、殻を破れたかなとは思います。
―今までは匿名性を重視したかった?
ミズキ:なんか、あんまり出るものでもないなと思っていたんですよ。けど、miidaって名前をタイトルにもしたし、大きな声では言いたくないけど、けっこう覚悟を決めて作ったアルバムでもあるので。
―さらっと受け取って聴いてほしいけど、実際のところ覚悟を決めて、気合い入れていいものを作ったんですよと。
ミズキ:そうそう。さらっと聴いてほしいんだけど、気持ちはすごく込めているんですよ。だから『miiida』ってタイトルにしたし、自分の写真をジャケットにしたし。自分のなかではけっこう大きな一歩を踏み出せたんじゃないかなと思っていて。
―よくアーティストの人が最初の作品に関して「名刺代わりの一枚です」って言ったりするけど、そういう意味では『utopia』よりも今作のほうが「名刺代わり」の作品になっているんじゃないかと思う。「miidaって何?」って訊かれたら、「これです」って言えるような作品というか。
ミズキ:うん。本当にそうです。
―作り始めたときに、アルバム全体のイメージとかコンセプトみたいなものは多少なりともあったんですか?
ミズキ:まったくなかったです。何にも縛られない状況のなかで自由に泳ぎたいなという思いがあって。自分に対して何かを課さないほうが成長できると思ったんですよ。何かを課すと、その範囲内でできることはできるけど、そこから外れたものが見えなくなる。『utopia』のときは、音数を減らすとか、課していることが明確にあったんですけど、今回はそういうのはなくて、曲がどれだけよくなるかってところに注力できました。
―それ故の楽曲の多彩さだと思うし、縛りをなくして1曲1曲自由に作っている印象は確かに受けます。ただ、さっきの話じゃないけど、歌詞に関してはミズキさんの考え方が全体から滲み出てきているように感じるんですよ。そこに関しての一貫性はある。
ミズキ:ああ、そうかもしれませんね。作詞に関しては「もうちょっと自分のツラを汚せよ」じゃないけど、「お前が歌うんだぞ」ってことを自分に言い聞かせて書いていたところはありました。「もっと行けるだろ、自分!」って訴えながら。出たとこ勝負でこれまで書いてきたけど、これからは出たものの伝え方、処理の仕方も頑張れよ、みたいな。
―もともとミズキさんは、「自分はこうだ」と言葉で主張することをなるべくしたくない人ですよね。
ミズキ:そう(笑)。根本的には、それをする必要はないと思っているんですよ。十人十色で、ひとりひとり違う趣味や考え方を持って生きているのに、わざわざ「こうです!」って言う必要のある言葉なんてあるのかなと、正直思っていた。ただやっぱり誰かの曲を聴いたときに、その人の強い言葉にやられたり共感したりってことはもちろんあって、それがサウンドと一体になって多幸感がもたらされるみたいな経験を自分もしてきているから、そういう意味で嘘のない感情、嘘のない言葉を乗せたいとは思っていて。それはすごく大事なことだと思っていたんですよね。あ、でもね、『utopia』のときは歌詞がよくなかったかというと、そういうことでもないんですよ。『utopia』のときは本当にさらさらと書けたんです。思い悩む瞬間がなかった。それはたぶん、ねごとの時代から考えていたけど言わなかったことというのがたくさんあって、それがメロディに呼ばれてツラツラツラっと出てきたってことだと思うんですけど。今回は、言いたいこととか考えがそこまで変わったわけではないけど、それをどうやって歌詞にするのかということに初めてしっかり向き合いました。そこは『utopia』を作っているときと意識が変わったところですね。
―「私はこうです」と主張したりするわけではないけど、でもミズキさんにとって素敵だと思えること、かっこいいと思えること、可愛いと思えることが歌詞に滲み出てきているし、そこに対してすごく正直に生きていることがよくわかる。
ミズキ:ああ、そうですね。基本的に断定はしたくないなというのはあるんですけど。
―断定したくないから曖昧な表現になるのではなく、断定したくないという確固たる意志がけっこう曲に出ているんですよ。
ミズキ:あははは。確かにそうですね。自分でもそう思います。
―そういう意味で、柔らかな聴き心地ではあるけれど、マスダミズキはこういう考えを持った人ですよというのがちゃんとわかるアルバムだなと思いました。
ミズキ:なるほど。うん。よかったです(笑)。
こう見えて熱い人間なんです(笑)
―サウンドに関しては、アルバム全体で意識したことはありますか?
ミズキ:前作と大きく変わったのは、全曲ではないけど、ベースがナマになって、ドラムが打ち込みになっているところで。今回は挫・人間というバンドでベースを弾いていたアベマコトくんにベースを弾いてもらっているんですけど、どうしてお願いしたかというと、アベくんは本当に上手で。挫・人間ではわりとなんでもやれちゃうベーシストで、特にアッパーな曲、テンポの速い曲が得意なイメージがあったんですけど、バックグラウンドを聞いてみたらけっこうブラックミュージックを好んで聴いていて。ベースも裏を感じさせるもので、ちゃんとファンキーなんですよ。私はこれまでずっとロックバンドをやっていたので、そういうベーシストと一緒に作ったことがなくて、そこがまず新鮮でした。もともと私もヒップホップとかR&Bとかがすごく好きだし、miidaはR&B色の強いプロジェクトだと思っていて。その感じをもっと出したいということでアベくんに弾いてもらったんですけど、明らかに前作とはノリが変わりましたね。
―確かに『utopia』とはグルーヴの質がまったく違う。
ミズキ:『utopia』はもうちょいエレクトロっぽい質感なんですよ。エレクトロ、チルアウト・ポップみたいな質感なんですけど、今回はR&B、ヒップホップの要素が含まれた作品なので、バックビートを感じられるというか。で、ギターはオカモトコウキくん(OKAMOTO'S)に弾いてもらいました。「コウキくんはめっちゃロックじゃん」って思う人もいるでしょうけど、実はコウキくんから弾きたいって言ってくれて。弾いてくれるならお願いしようと(笑)。
―基本、ロックギタリストだけど、「melt night」みたいなメロウなギターがまためちゃめちゃいいですもんね。
ミズキ:そうなんですよ。そういう化学反応を今回はすごく感じながら作りました。
―「私はギタリストなので、自分で弾くから」みたいな考えはなかったんですか?
ミズキ:どっちかというと自分はエンジニア気質なんですよ。またはプロデューサー気質というか。なので、自分でギターを弾くことに、そこまで執着がなくて。コウキくんが新しいエッセンスを曲に注入してくれるなら、そのほうがいいなと思ってお願いしました。とにかく早く曲を仕上げたいってときだけ、自分で弾きました。「be true?」と、あと「swim in boredom」も私が弾いています。その2曲は少しでも早く仕上げたかったので(笑)。
―聴いて思ったんですけど、miidaの音ってあたたかみがありますよね。「Color」のようにエッジーな音でドラムンベースっぽく展開する部分のある曲でも、バキバキにはならなくて、どこかまろやかさがある。エレクトロな音を用いても無機質な感じにはならなくて、オーガニックな印象が損なわれことがない。一貫して人肌感があるというか。それがmiidaの個性なんだろうなと思ったんですよ。
ミズキ:それはYOGEE NEW WAVESの元ベースの上野(恒星)くんからも言われました。「それって、家で作っているからなのかなぁ」って彼は言っていましたけど。
―それもあるだろうけど、やっぱりミズキさんのパーソナリティと声質が大きいんじゃないかな。
ミズキ:クールに見られがちなんですけど、フンワリ系ですからね。って自分で言うのもアレだけど(笑)。
―フンワリなところもありつつ、人情家ですよね。
ミズキ:あ、そうなんですよ。こう見えて熱い人間なんです(笑)。
―だから絶対冷たい音楽にはならないし、攻撃的なものにもならないし。
ミズキ:声質もこんなですからね。そこが自分ではなんか......。
―え? そこがいいんですよ。それが明確な個性になっているってことですから。
ミズキ:でも歌はまだ全然。めっちゃ恥ずかしいです。
―そうなんだ。
ミズキ:歌は自分のお尻を叩いて歌っている状態ですね。とりあえず自分に言い聞かせているのは、マスダミズキはここで終わらないぞ、まだ伸びしろがあるぞ、ってことで(笑)。とにかく下手でも今出せる全力を出し続けるのみだって、歌に関しては自分にそう言い聞かせてやっています。まあ、そのなかでのベスト・オブ・ザ・ベストを今回は入れられたかなって感じですね。
―でもそのくらいの塩梅のよさを感じますよ。もともと歌うのが大好きで朗々と歌うシンガーとは違って、控えめなんだけど、それだけに何を大切にしているかがすごく伝わってくる歌唱というか。『utopia』よりもヴォーカルの個性が明確になった気がします。
ミズキ:嬉しい。確かに「Continue」ができたときに、ちょっとホッとしたというか、ポジティヴに「歌、頑張ろう」って思えた瞬間があったんですよ。自分の言葉を自分で歌えるのは素晴らしいことだと思っていて、どれだけ技量を持ってそれを届けられるかと考えるとまだまだなんですけど、でも今回、気持ちを入れて歌えたというところに関しては自分なりに納得できたので。まだ客観的に捉えられないところは正直あるんですけど、いつか、歌う人なんだと自分が思えたらいいなとは思いますね。
―ヴォーカルの個性もそうだし、曲展開の仕方やサウンドもそうだけど、聴いていて従来の日本のシンガー・ソングライターの作品とは質が異なるなとも感じました。洋楽の、とりわけインディーのアーティストの作品をたくさん聴いている人が作っている2020年代的なアルバムだなと。
ミズキ:本当に洋楽ばっかり聴いているので。そこに届くといいなというのもあります。スピリットは完全にそこにあるので。
―特にこの1~2年で強く影響を受けたアーティストとかっていますか?
ミズキ:miidaをやる上で一番聴いていたのは、ジャミーラ・ウッズですね。彼女の楽曲自体とヴォーカルにすごくいいヌケ感があって、アンサンブルとマッチしている。分離してないんですよ。それが気持ちよくて。
―ジャミーラの歌は押し出しが強くなくて、サウンドと声とが層になって波のようにスーっと寄せて来る。そういうよさがありますよね。
ミズキ:そこに、大いに影響を受けています。
ジス・イズ・リアルは自分の選択にかかっている
―では、いくつか収録曲についての話も。オープナーはリードトラックでもある「Rain」。
ミズキ:リードにするならこの曲かなぁと満場一致で決まりました。リードっぽい。
―それこそヌケ感があるし、エレトクロな音と生音のどっちかに振りすぎてないのもいい。
ミズキ:そうですね。ギターもしっかり聴こえていて、なおかつベースはスラップベースで、けっこう主張のあるアンサンブルになっているんじゃないかと。エレクトロっぽい要素を前面に出しつつも、オルタナティヴ感もあると思っていて、塩梅がちょうどいいというか。あと、けっこう強い言葉を使えたなっていうところもあって。今までならやめておこうかなと思うような言葉を、「Rain」ではあえて使って勝負したかったんです。
―〈独りよがりのファイティングポーズはやめにするよ〉とか?
ミズキ:うん。そんなにひとりで抱え込まなくてもいいんじゃないかっていうのがあって。ヘンにファイティングポーズとって寄せ付けないようにするんじゃなくて、もうちょっと人に寄りかかって生きてもいいんじゃないかな、みたいな。そういうことを歌いました。
―〈本物なんてないのなら/新しい姿見せて〉とも歌っているでしょ。「本物ってなんだよ」「本当ってなんだよ」みたいな思いは、アルバム通して一貫して出ていますよね。
ミズキ:そうですね。まあ、さっきの話にも通じるんですけど、「自分が思っている正解って、本当に正解なの?」「誰かの言う正解って、本当に正解なの?」っていうのは常にあって。十人十色、ありとあらゆる人と、あらゆる生物が生息しているなかで、みんなが正解を見出そうとしながら生きているわけですけど、ある意味では全てが正解だし、全てが不透明だし、全てが間違っている可能性もある。そこは自分にしかわからないというのがリアルで、つまりジス・イズ・リアルは自分の選択にかかっているという。そんな思いがあって。
―今や誰もがSNSで「正解を言いたがる病」に罹っていますからね。
ミズキ:そうそう。
―で、「Rain」でスタートして、ブリブリっとしたベースとドラムから始まる「bergamot memories」へと続いていくのが、物語の展開を感じられて、すごくいい。
ミズキ:イントロがベースとドラムだけの曲って、昔はよくあったけど、最近あんまりないなと思って。ちょっとイギー・ポップっぽい感じというか、自分のなかのオルタナティヴな志向が出せた曲かなと思います。少しダサいのがまたよくて。あまり練らずに雑な感じで終わらせようと思って作りました。
―4曲目「melt night」は昨年7月の先行リリース曲ですけど、こうしてアルバムの流れのなかで聴くと、メロウなムードのよさが尚更際立つ。一層好きになりました。
ミズキ:フィッシュマンズ・フォローですね、これは。ただ、あんまりオーガニックな感じにはしたくなかったので、ちょっとロボヴォイスにして。
―確かにダビーな感じがフィッシュマンズぽいけど、それだけじゃなく曖昧さをよしとした歌詞もフィッシュマンズ的かも。
ミズキ:ああ、佐藤(伸治)さんの歌詞からの影響は潜在的にあるかもしれないですね。佐藤さんの歌詞って情景じゃないですか。〈あの娘が笑ってるよ〉(「ずっと前」)だけで成立しちゃう感じとか、初めて聴いたときは仰天したけど、あの感じを自分なりに受け継いでいけたらいいなぁと今は思っています。
―8曲目「Trash into The Sea」や9曲目「(I don't wanna)fade out」は、譜割りとかラップで言うところのフローっぽい歌い方にヒップホップ味を感じます。
ミズキ:普段愛聴しているのがヒップホップが多いので、耳馴染みはあるんですけど、自分がそういうふうに歌うというのは考えたことがなかったので、それなりに挑戦ではありました。そういう歌い方のほうが、ストーリーを表現できるというところがあって。
―「(I don't wanna)fade out」で、〈まだぼやけたイメージを伝える/それがたしかな音に変わる〉と歌っているでしょ。このフレーズはまさしく音楽そのものだな、ミズキさんにとっての音楽の喜びを言い得た言葉だなと思ったりもしましたね。
ミズキ:これはsugawaraさんが作詞作曲した曲なんですけど、聴いたときに「miidaの始まりの曲だな」って思ったんですよ。〈それがたしかな音に変わる〉って、文としてはこっ恥ずかしいんですけど、歌に乗るとロマンティックで、これが音楽なんだなって発見させてもらえた感じがあったんです。
―11曲目「LUCKY」はある意味で最もチャレンジングな曲ですね。アコースティックで、音数が極めて少なく、歌で勝負している。
ミズキ:唯一、一発録りをした曲で。これはアレンジが思いつかなかったんですよ。アレンジのしようがなかった。今まではどの曲もアレンジと並行して作っていたんですけど、そのやり方だけを続けていては殻を破れない気がしたので、満を持して弾き語りで作ってみたんです。
―新しい作り方で新しい自分を見つけたかった。
ミズキ:そう。だって、自由にやれる環境があるなかで、自分のお尻を叩けるのは自分だけですからね。この1年くらいで弾き語りのライヴもちょこちょこやらせてもらえる機会があって、弾き語りで自分の曲を作れたらどんなにいいだろうと思ったりもしていたので。(GOOD BYE APRILの)倉品翔くんとか、宇宙まおちゃんとか、弾き語りをやっている友達も増えて、そういう人たちのライヴを観ていて、「ああ、歌と言葉だけでこんなに素晴らしい表現ができるんだな」って思っていたところがあったから。
―というわけで、miidaとしてのある意味集大成であり、同時に本当の始まりとも言えるアルバムになっていると思います。改めて、自分ではどのように捉えていますか?
ミズキ:配信リリースが主軸になっている時代ですけど、こうしてまとまった形のCDでも聴けるとなると、どこか宙に浮いたままだったようなmiidaというプロジェクトの実体がつかめるというか、今までより距離を近くに感じてもらえるんじゃないかと思うんです。なのでまあ、さらりと聴いてもらえれば。好きなエッセイを読んだり、人と話したりするなかで、ちょっとした生きるヒントみたいなものが得られることって多いと思うんですけど、この作品も誰かにとってのそういうものになったらいいなと思いますね。
取材・文 : 内本順一
撮影:鈴木友莉
RELEASE INFORMATION
miida「miida」
2022年8月24日(水)
Format:Digital/CD
Label:KiKi Records
Track:
1.Rain
2.bergamot memories
3.Color
4.melt night
5.swim in boredom
6.YOU
7.Continue
8.Trash into The Sea
9.(I don't wanna) fade out
10.be true?
11.LUCKY
12.utopia(The Department Remix)
配信リンク
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【CD情報】
◎通常盤【CDのみ】\3,300(税込)
◎ART盤【CD+ZINE Vol.3+特製ポストカード3枚】\4,300(税込)
◎コンプリート盤【CD+ZINE Vol.3+Tシャツ+特製ポストカード5枚】\6,800(税込)
*ポストカードは10種類のうちランダムでお届けします
【アルバム特設サイトURL】
https://miida.tokyo/special/1stal-miida/
LIVE INFORMATION
1st full Album「miida」リリースパーティ
2022年10月28日(金)
新代田FEVER
OPEN 18:30/START 19:00
出演者:miida ※バンドセット
ADV:¥3,500(+1drink)
チケット:
<先行受付>
miida D.C. FANCLUB特別先行(抽選)
受付期間:8月3日(水)19:00~8月17日(水)23:59
URL:https://miida.tokyo/fanclub/
e+オフィシャル先行(抽選)
受付期間:8月24日(水)12:00~8月31日(水)23:59
<一般発売>
e+一般発売
9月9日(金)10:00~チケット発売開始
URL:https://eplus.jp/sf/detail/3666960001-P0030001(先行・一般共通URL)
LIVEHOLIC 7th Anniversaryseries~Diva~
2022年9月22日(木)下北沢LIVEHOLIC
出演者:Kaco/門脇更紗/原田珠々華/マスダミズキ(miida)
チケット: https://eplus.jp/sf/detail/3663670001-P0030001
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@miida_official
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Studio KiKiオフィシャルサイト
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