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2025.10.17
2025年9月27日(土)、東京発のオルタナティブロックバンド・國が『國 1st Full Album "Kids Return" Release ONEMAN』を東京・下北沢ERAにて開催した。9月にリリースした1stフルアルバム『Kids Return』を引っ提げ、全国10都市を巡るツアー『國 1st Full Album "Kids Return" Release Tour』の始まりを告げた同公演。自身初のワンマンライブと相成ったこの日は、國がこの先どこまで行こうとも思い出すであろうエポックメイキングな一夜だった。
Reo Murakami(Gt)がゆっくりとギターを爪弾き始め、アルバム同様「root」でライブの幕が上がる。気取らないラフな演奏とシンプルなフレーズで徐々に熱を加えていくそのスタイルは非常に心地良く、「silver」「Huge Moon」とオーディエンスを深層へ誘っていく。考えてみれば、〈Silver, Silver, 揺らめく〉(「silver」)〈巨大になっていく〉〈巨大に光っている〉(「Huge Moon」)と断片的な記憶の破片を浮かべるリリックも、リフレインを中軸に据えた構成も、ボタンを掛け違えれば平坦になってしまう危険性を孕んでいるだろう。しかし、國の音楽は決して切実な響きを損なうことなく、あくまでも現実の延長線を踏みしめている。それはインタビューにてShota Nakano(Dr)が「シンプルだけど格好良い」に対するこだわりを表明している通り、4人が素朴なサウンドをいかに届けるかを考え抜いているからであり、時折つんのめりながら歌うArisa Tsujie(Gt,Vo)がアンサンブルに薪をくべていくからでもあろう。




ファーストインプレッションではひんやりとした感触が強い一方、しなるなんて形容がふさわしいHirofumi Ono(Ba)のプレイを筆頭に、堀れば掘るほどに情動が滲み出す國の佇まいは、「変わらないものが大切なものだと思っていて。バンドが解散しちゃったり、色んな変化があるじゃないですか。そういう変化に目が行きがちだけど、実は変えたくないことを大切に続けていけることが私にとっては価値があることで。私にとって変わらずにいてくれたのが、音楽なんですよね。必要な時に聴けるように、すぐ傍にいれるように続けていくことをこれからも大切にしていきたいですし、ここからが始まりなので。國を傍に置いてくれたら良いなと思います」と届けられた過去作たちから変わらぬもの。乱高下するメロディーを力強く張り上げた「アフターバーナー」然り、リムショットとArisaから成る中盤を経て、4人の合奏がバーストする「霖雨」然り、そこで歌われているのは、我が身の筋肉を削り落してでも辿り着きたい景気であり、恋焦がれ、胸を離さない理想だ。と同時に、「ここで終わっても良い」なんて、「この光を掴むためならばバーニングアウトしても良い」なんて、ある種の破滅願望さえ根底に垣間見えるからこそ、國の作品群は、母親の制止も気に留めずはしゃぎまわったあの日々を、目の前の1分1秒が世界の全てだったあの日常を呼び覚ますのではないか。

これからスタートするツアーについて語ったのちドロップされた「窓辺」は、まさしくそうした郷愁が凝固したナンバーだ。「kagerou」でも用いられている夕景の恐ろしさと今にも叫びたくなる美しさを翻訳しながら、〈傾いたオレンジを歌うサイレン 振り返った皙い手がなぞる"じゃあね"〉〈寄り添った光は窓を去って 傷ついたガラスに指を切ってしまった〉と手を振るこの歌は、軽やかに告げる「じゃあね」の背後に二度と訪れない再会の気配と喪失を懐抱。スモッグや学ランの代わりに背広が似合うようになってしまった私は、少年時代に戻れないと知っている。「家に忘れました」と宿題を誤魔化すことも、20分の休憩で球技をすることもできないと分かっている。それでも、先刻のMCで語られたように、彼らは背丈が変わっても残存し続けている原風景を失いたくないと、いつだって立ち返りたいと願ったのであろう。『Kids Return』はそうして産声を上げた作品なのであり、それゆえにその楽曲たちはノスタルジーと不可分の関係にあるのだ。

ガレージ色の強いギターが吹き抜けた「Tiny Sun」では、幾度も提示される〈鏡の中に 重なる歪み 強まる痛み〉の一節を機に、彼らのシグネチャーのひとつとも言えるリフレインは日常のメタファーなのではないかと気づく。大した事件も起きないループしているみたいな日々。しかし、そんな営みの中にもどん底に沈む日やなぜだか鼻歌を歌える日があって、4人の音楽はそれらを揺れ動くテンポや音波のうねりで掬い取っているのではないか。そう思うと、「Tiny Sun」と対を成す「Huge Moon」で刻まれる〈巨大になっていく〉という一行も膨張していくストレスや諦めがミキシングされていく光景を描いているのだと思った。
「Kids Return」で終止符を打ったのち、アンコールではフィジカル盤に限定収録された1曲「Moonrise」をプレイ。Arisaの音頭で3人はポツリポツリと思いの丈を口にする。
「このツアーが覚悟の始まりなので、最後まで見にきてくれたら嬉しいです」──Nakano
「自分たちのためにやっている活動を沢山の人が見にきてくれて。ガシャガシャ音を鳴らしている僕らを見て、皆さんが「おー」と思ってくれる時間があった。その事実を嬉しく思います」──Ono
「今日ワンマンをやってみて、ここまでやってきたことは決して間違ってなかったと思いました。これからも自分たちが正しいと思ったことをやっていきます」──Reo
初ワンマンを終えた感慨深さを滲ませつつ、エンディングを飾ったのは「howling」。羽を携えて現在地から飛び出していかんと誓いをぶっ立てる1stシングルは、このワンマンを締めくくるにふさわしかった。

本編最後に投下された「Kids Return」に記された〈引き摺った足跡がいつか 還れなくなった僕に呼びかけてくれるだろう〉という最後の一節。このワンマンを、そして『Kids Return』を振り返る上で、このリリックはきっと何よりも肝要だと思った。いくつもの過去にダイブして、あの頃には戻れないことを知り、心を痛める。それを繰り返し、ストラグルしながらも、一歩先へと踏み出そうとした2時間。リフレインが平坦な日常の暗喩なのなら、この1ラインのベクトルは間違いなくそれらとは異なっているはず。積み重ねた過去や抱きしめ続けてきた記憶がそっと背中を押してくれると、原点へと立ち返ることで何度でも現在を受容できるのだと、國はこのワンマンを通じて教えてくれたのだ。そんな彼らの冒険は始まったばかり。どこまで行っても、このアルバムに戻ってこれる。そういう拠点を作り上げた國の旅路は明るい。
文:横堀つばさ
撮影:古井果歩

國「Kids Return」
2025年9月3日(水)
Format:Digital
Label:2st Records
Track:
1. root
2. silver
3. Huge Moon
4. breezing
5. amuletum
6. カンテラ
7. 窓辺
8. lack
9. hane ga haeta kotomo
10. Tiny Sun
11. I'm waiting for
12. Kids Return
試聴はこちら

2025年10月25日(土)
いわきclub SONIC
2025年10月26日(日)
仙台 BIRDLAND
2025年11月15日(土)
宇都宮HELLO DOLLY
2025年11月29日(土)
三島ROJI
2026年1月23日(金)
心斎橋Pangea
2026年1月24日(土)
岡山 CRAZYMAMA 2nd Room
2026年2月21日(土)
福岡UTERO
2026年2月28日(土)
名古屋 KD ハポン
2026年3月19日(木)
新代田FEVER
@kuni_band
@kuni_band
Reo Murakami(Gt)がゆっくりとギターを爪弾き始め、アルバム同様「root」でライブの幕が上がる。気取らないラフな演奏とシンプルなフレーズで徐々に熱を加えていくそのスタイルは非常に心地良く、「silver」「Huge Moon」とオーディエンスを深層へ誘っていく。考えてみれば、〈Silver, Silver, 揺らめく〉(「silver」)〈巨大になっていく〉〈巨大に光っている〉(「Huge Moon」)と断片的な記憶の破片を浮かべるリリックも、リフレインを中軸に据えた構成も、ボタンを掛け違えれば平坦になってしまう危険性を孕んでいるだろう。しかし、國の音楽は決して切実な響きを損なうことなく、あくまでも現実の延長線を踏みしめている。それはインタビューにてShota Nakano(Dr)が「シンプルだけど格好良い」に対するこだわりを表明している通り、4人が素朴なサウンドをいかに届けるかを考え抜いているからであり、時折つんのめりながら歌うArisa Tsujie(Gt,Vo)がアンサンブルに薪をくべていくからでもあろう。




ファーストインプレッションではひんやりとした感触が強い一方、しなるなんて形容がふさわしいHirofumi Ono(Ba)のプレイを筆頭に、堀れば掘るほどに情動が滲み出す國の佇まいは、「変わらないものが大切なものだと思っていて。バンドが解散しちゃったり、色んな変化があるじゃないですか。そういう変化に目が行きがちだけど、実は変えたくないことを大切に続けていけることが私にとっては価値があることで。私にとって変わらずにいてくれたのが、音楽なんですよね。必要な時に聴けるように、すぐ傍にいれるように続けていくことをこれからも大切にしていきたいですし、ここからが始まりなので。國を傍に置いてくれたら良いなと思います」と届けられた過去作たちから変わらぬもの。乱高下するメロディーを力強く張り上げた「アフターバーナー」然り、リムショットとArisaから成る中盤を経て、4人の合奏がバーストする「霖雨」然り、そこで歌われているのは、我が身の筋肉を削り落してでも辿り着きたい景気であり、恋焦がれ、胸を離さない理想だ。と同時に、「ここで終わっても良い」なんて、「この光を掴むためならばバーニングアウトしても良い」なんて、ある種の破滅願望さえ根底に垣間見えるからこそ、國の作品群は、母親の制止も気に留めずはしゃぎまわったあの日々を、目の前の1分1秒が世界の全てだったあの日常を呼び覚ますのではないか。

これからスタートするツアーについて語ったのちドロップされた「窓辺」は、まさしくそうした郷愁が凝固したナンバーだ。「kagerou」でも用いられている夕景の恐ろしさと今にも叫びたくなる美しさを翻訳しながら、〈傾いたオレンジを歌うサイレン 振り返った皙い手がなぞる"じゃあね"〉〈寄り添った光は窓を去って 傷ついたガラスに指を切ってしまった〉と手を振るこの歌は、軽やかに告げる「じゃあね」の背後に二度と訪れない再会の気配と喪失を懐抱。スモッグや学ランの代わりに背広が似合うようになってしまった私は、少年時代に戻れないと知っている。「家に忘れました」と宿題を誤魔化すことも、20分の休憩で球技をすることもできないと分かっている。それでも、先刻のMCで語られたように、彼らは背丈が変わっても残存し続けている原風景を失いたくないと、いつだって立ち返りたいと願ったのであろう。『Kids Return』はそうして産声を上げた作品なのであり、それゆえにその楽曲たちはノスタルジーと不可分の関係にあるのだ。

ガレージ色の強いギターが吹き抜けた「Tiny Sun」では、幾度も提示される〈鏡の中に 重なる歪み 強まる痛み〉の一節を機に、彼らのシグネチャーのひとつとも言えるリフレインは日常のメタファーなのではないかと気づく。大した事件も起きないループしているみたいな日々。しかし、そんな営みの中にもどん底に沈む日やなぜだか鼻歌を歌える日があって、4人の音楽はそれらを揺れ動くテンポや音波のうねりで掬い取っているのではないか。そう思うと、「Tiny Sun」と対を成す「Huge Moon」で刻まれる〈巨大になっていく〉という一行も膨張していくストレスや諦めがミキシングされていく光景を描いているのだと思った。
「Kids Return」で終止符を打ったのち、アンコールではフィジカル盤に限定収録された1曲「Moonrise」をプレイ。Arisaの音頭で3人はポツリポツリと思いの丈を口にする。
「このツアーが覚悟の始まりなので、最後まで見にきてくれたら嬉しいです」──Nakano
「自分たちのためにやっている活動を沢山の人が見にきてくれて。ガシャガシャ音を鳴らしている僕らを見て、皆さんが「おー」と思ってくれる時間があった。その事実を嬉しく思います」──Ono
「今日ワンマンをやってみて、ここまでやってきたことは決して間違ってなかったと思いました。これからも自分たちが正しいと思ったことをやっていきます」──Reo
初ワンマンを終えた感慨深さを滲ませつつ、エンディングを飾ったのは「howling」。羽を携えて現在地から飛び出していかんと誓いをぶっ立てる1stシングルは、このワンマンを締めくくるにふさわしかった。

本編最後に投下された「Kids Return」に記された〈引き摺った足跡がいつか 還れなくなった僕に呼びかけてくれるだろう〉という最後の一節。このワンマンを、そして『Kids Return』を振り返る上で、このリリックはきっと何よりも肝要だと思った。いくつもの過去にダイブして、あの頃には戻れないことを知り、心を痛める。それを繰り返し、ストラグルしながらも、一歩先へと踏み出そうとした2時間。リフレインが平坦な日常の暗喩なのなら、この1ラインのベクトルは間違いなくそれらとは異なっているはず。積み重ねた過去や抱きしめ続けてきた記憶がそっと背中を押してくれると、原点へと立ち返ることで何度でも現在を受容できるのだと、國はこのワンマンを通じて教えてくれたのだ。そんな彼らの冒険は始まったばかり。どこまで行っても、このアルバムに戻ってこれる。そういう拠点を作り上げた國の旅路は明るい。
文:横堀つばさ
撮影:古井果歩
RELEASE INFORMATION

國「Kids Return」
2025年9月3日(水)
Format:Digital
Label:2st Records
Track:
1. root
2. silver
3. Huge Moon
4. breezing
5. amuletum
6. カンテラ
7. 窓辺
8. lack
9. hane ga haeta kotomo
10. Tiny Sun
11. I'm waiting for
12. Kids Return
試聴はこちら
國 presents 「1st Full Album "Kids Return" Release Tour」

2025年10月25日(土)
いわきclub SONIC
2025年10月26日(日)
仙台 BIRDLAND
2025年11月15日(土)
宇都宮HELLO DOLLY
2025年11月29日(土)
三島ROJI
2026年1月23日(金)
心斎橋Pangea
2026年1月24日(土)
岡山 CRAZYMAMA 2nd Room
2026年2月21日(土)
福岡UTERO
2026年2月28日(土)
名古屋 KD ハポン
2026年3月19日(木)
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