SENSA

2024.12.27

それぞれの美学が開花したフレッシュな夜。関根史織率いるsticoとマスダミズキ率いるmiidaによる共同企画「stico×miida」ライブレポート

それぞれの美学が開花したフレッシュな夜。関根史織率いるsticoとマスダミズキ率いるmiidaによる共同企画「stico×miida」ライブレポート

関根史織率いるsticoと、マスダミズキ率いるmiidaによる共同企画「stico×miida」が約2年9ヶ月のインターバルを経て2度目の開催。年の瀬も押し詰まる2024年12月22日、会場の月見ル君想フは満員となった。

初回開催以降、関根はBase Ball Bearの活動と並行して山中さわおとタッグを組んで"さわおとしおり"名義でのリリース、サポートミュージシャンとしての稼働、マイペースにsticoのライブ活動を行い、マスダは妊娠と出産、miidaのライブ復帰とコンスタントなリリース、サポートギタリスト活動や伴侶であるオカモトコウキとともに運営するホームスタジオ・Studio KiKiの発信など、それぞれの歩みを進めてきた。vol.2となるこの日は同窓会にも似たアットホームな空気感もありながら、両者音を鳴らせば自身の突き詰める音楽像を妥協なく体現する。バンドマンとしての蓄積と生き様がストレートに表れた2組のステージは、終始パワーに満ちていた。

stico_1.jpg
先攻のsticoは、ドラムのオータコージとの2ピース編成で登場。ステージのセンターでふたりが肩を組んでフロアを臨むと、オータは下手のドラムセットに就き、関根は上手でチャップマン・スティックを抱える。関根がおもむろにエフェクトをじゅうぶんに効かせた音色を奏でるとオータがドラムを重ね、「象と話す女」でこの日の幕を開けた。

stico_2.jpgstico_3.jpg
sticoは関根がキング・クリムゾンのトニー・レヴィンのチャップマン・スティック演奏動画に一目惚れをし、それを人前で弾きたいがために2018年に結成された。関根は5本のベース弦と5本のメロディ弦を備えた10弦スティックを使用し、右手でベースラインを、左手でメロディをタッピングしながらエフェクターなどでリズムや音色のバリエーション、演奏の強弱をつけている。

stico_4.jpg
 緊迫感とアンニュイなムードを併せ持つプログレサウンドが、瞬く間に空間を支配する。関根は「久しぶりのライブで緊張している」と語りながらも、「ひとり暮らし」では浮遊感のある音色を作り出し、ボーカルにもリラックスした雰囲気が漂っていた。一人二役どころか三役四役する必要がある楽器を陶酔しながらプレイする様子は非常にプリミティブで、関根の内省性に迷い込むような感覚に陥る。そこにオータの表情豊かなドラムが加わることで、音像はナードでありながらも瞬発力が生まれていた。

stico_5.jpg
 冬場に漠然と体調が悪くなるときの雰囲気を曲にしたという「病気じゃない」は、音から醸し出される息苦しさや不安定さ、それらがもたらす鋭さとユーモアが、こちらの脳内を侵食するようだ。タイトル未定の新曲は、音やメロディ、ボーカルに思春期の若者のようなあどけなさと危うさ、切なさがない交ぜになっていた。常に孤独で仄暗く、苦しみと同時にある種の安穏も感じさせるsticoの音は、胸の奥にまでじっくりと染み渡る。

 缶ビールを開けながら「新曲やってみたらすごく緊張した」と笑う関根は、「チャップマン・スティックのいいところは片手で弾けるところ」と告げ、片手は喉へとビールを注ぎ込み、もう片方の手でベース音を鳴らす。そのうちにメロディを付け始めてインスト曲から「アルフォンソとダイアン」へつなぎ、「チャップマンスティックの正しい使い方」でダイナミックかつ晴れやかなムードのなかmiidaにバトンを渡した。関根の内側から湧き上がる情熱も、関根とオータの一触即発にも近いグルーヴもダイレクトに伝わる、純度の高い時間だった。

6H4A8856.jpg6H4A8853.jpg6H4A8908.jpg
 後攻miidaはベースのアベマコト、ドラムのヒコサカゲンとともに3ピース編成で登場。ステージ中央で3人が円陣を組むと、最新アルバム同様に「楽園」でオープニングを飾った。アベの粘り気のあるベースプレイと、ヒコサカの引き締まった硬派なドラムは欠けたピースを補い合いながら互いの持ち味を増幅させる。同期を取り入れて構築する洗練させた音像は3人の熱が上がれば上がるほどに躍動し、やわらかいボーカルを響かせるマスダもギターソロとなれば身体をしならせて音と一体となった。演奏の集中力がもたらす研ぎ澄まされた空気感と、宙に舞うような解放感を同時に作り出せるのは、sticoとmiidaの共通点のひとつかもしれない。

6H4A8821.jpg6H4A8768.jpg6H4A8773.jpg
 「swim in boredom」で会場を爽やかに包み込むと、マスダはsticoについて「リハからものすごく良かった」「あんなにかっこいい女性ミュージシャンはなかなかいない」と賛辞を贈り、2回目の共同企画が開催できたことへの喜びをあらわにする。その後は「ゴースト」「いい話」とリリースされたばかりの最新アルバム『まだ言えないや』の楽曲をライブ初披露した。3人の刻むリズムが巧妙かつピュアに展開し、フロアもその音におのずと身を委ねる。アルバムの最終曲「NEON」は琴線に触れるメロディ、甘くもほろ苦いサウンド、落ち着いた色味のミラーボールが合わさり、ライブならではのスケール感を生んでいた。

6H4A9044.jpg6H4A9000.jpg6H4A8979.jpg
 6曲を演奏したところで、マスダは初代ドラマーの脱退以降ソロプロジェクトとして動いていたmiidaをバンドとして動かすことを発表した。メンバーはもちろんこの日の演奏を担当しているアベとヒコサカである。アベはmiidaがマスダのソロプロジェクトになってから制作面でも演奏面でも支えてきた人物であり、ヒコサカはアベと合うドラマーを探すなかで周囲より太鼓判を押されたという。2024年4月に初めてこの編成でライブをしたところマスダはアベとヒコサカの相性の良さを感じ、ヒコサカの人柄とプレイにも惹かれて正式メンバーの打診をし、アベもヒコサカも二つ返事で引き受けたそうだ。

6H4A8810.jpg6H4A8974.jpg
 アベは加入の決め手を「挫・人間を脱退して以降、バンドなんて二度とやるか!と思っていたけれど、30代になってこんなメンバーと一緒にやれる機会を逃すわけにはいかない」と語り、ヒコサカも「今年の4月にライブを1回やっただけですけど、またサポートをやらせてもらえたらいいなと思っていたところに新メンバーとして誘ってもらって、とてもありがたいです」と頭を下げる。マスダが「バンドで大きな動きを見せていきたい」と今後の意欲を表明すると、観客も3人を送り出すように大きな拍手を送った。

6H4A8951.jpg
 次回作からバンドで制作に入ること、2025年2月18日がバンドになって初ライブになることを告知すると、ライブは終盤セクションへ。ブーンバップテイストのビートが効いた「月日は巡り」に続き、マスダがハンドマイクスタイルで歌唱する初期曲「utopia」ではアウトロでメンバー紹介をすると「3人でmiidaでお願いします!」と景気よく呼び掛ける。本編ラストの「まだ言えないや」は、3人がmiidaとして音を鳴らすことへの充実感が伝わる、非常に健やかな演奏だった。

6H4A9218.jpg
 アンコールではマスダとsticoが登場し、関根はアベのベースを、オータはヒコサカのドラムセットを借りてコラボレーションステージを届ける。関根が「sticoがどんなにぐちゃぐちゃでも、miidaがキチッといいライブをしてくれて助かりました。またやろうね」と言うと、マスダも「やったあ!」と満面の笑みを浮かべた。

6H4A9244.jpg6H4A9226.jpg
そして関根が「今日の会場は月見ル君想フで、miidaに月の曲があるでしょ?」と振ると、マスダも「やらざるを得ない曲がある」と言い、3人で披露したのはmiidaの楽曲「grapefruit moon」。ステージには大きな月が浮かび、関根もコーラスでマスダのボーカルに彩りを加える。リラックスしたあたたかい音色が会場を満たし、大団円でこの日を締めくくった。

6H4A9273.jpg
この日の両者のステージに共通していたのは瑞々しさだったように思う。miidaは居心地の良さから生まれる自然体と、バンドとして動き出すという高揚感が演奏にも表れ、sticoは関根からふいに零れた「幸せです」という言葉が象徴するように、独学でチャップマン・スティックを追求してきたことへの手ごたえや、この楽器に出会ったときのときめき、この楽器やsticoだからこそ投影できる自身の姿を音色から感じることができた。それがこの日実現したのも、関根とマスダが長きにわたり互いにミュージシャンとしてリスペクする者同士だからだろう。sticoとmiida、それぞれの美学が何にも邪魔されずに花開いた、非常にフレッシュな夜だった。

文:沖さやこ
撮影:KITA NEWOLD(miida)、緒車寿一(stico)

RELEASE INFORMATION

まだ言えないや_miida_jk_20241114.jpg
miida「まだ言えないや」
2024年12月4日(水)
Format:Digital
Label:KiKi Records

Track:
1.楽園
2. まだ言えないや
3. いい話
4. Paper Driver feat.Nelko
5. 月日は巡り
6. ゴースト
7. NEON

試聴はこちら6


LINK
オフィシャルサイト
@miida_official
@miida_official
Official YouTube Channel

Studio KiKi オフィシャルサイト
@studioKiKi_rdg
@studiokiki_recording

気になるタグをCHECK!