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2024.11.13
今年4月にニューアルバム『Paper Flower』をリリースしたシンガー・ソングライターのジェシー・ハリスが、縁のあるアーティストを毎公演ゲストに迎えた来日ツアー『ジェシー・ハリス with F』を11月1日より開催。初日となるこの日は東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGEにて、シンガーソングライター阿部芙蓉美と共演した。
あいにくの雨模様だったが、会場には2組の共演を待ちわびる人たちが大勢詰めかけていた。定刻となり、まずは阿部芙蓉美が馴染みのサポートメンバーである東川亜希子(Key)、 菅沼雄太(Dr)と共にステージに登場。黒いジャケットを羽織ったジーンズ姿の阿部は、ミニキーボードを持ちハイチェアに座る。菅沼がおもむろにパッドで6連符を叩き、その温かな電子音の上に東川がミニマルなピアノのコードを乗せていく。今年3月にリリースされた、阿部にとっては11年ぶりのフルアルバム『Super Legend』から「Fauntain」でこの日のライブをスタート。空気をたっぷりと含んだ阿部の少しハスキーな歌声が発せられると、その場の空気が一瞬にして彼女の世界に染まる。研ぎ澄まされたサウンドスケープは、決して緊張感を煽るものではなく、まるで地面に染み込む雨のように、静かに心を洗い流していく。
続く「革命前夜」は2013年のアルバム『How To Live』収録曲。アコギを抱え、ミュート気味にカッティングをしながら囁くように歌い出す。起伏に富んだメロディーにときおりファルセットを交え、そんな阿部を東川のピアノと菅沼のドラムがそっと支える。「次は久しぶりにやる曲です」そう阿部が言って披露したのは「君とあの海」。2012年にリリースされた『沈黙の恋人』収録曲で、オリジナルはピアノと歌を軸にしたアレンジだったが、この日は阿部のアコギをメインにドラムとピアノは最小限のプレイで色付ける。小さな音で鳴らされ、小さな声で歌われるからこそ届く波動に、ただただ身を委ねる贅沢なひととき。
〈クソみたいなこの場所で〉〈生きることに疲れてしまった〉絶望の一歩手前にいる誰かに、そっと寄り添うような「ごみ溜めのバラード」、シンプルかつノスタルジックなメロディの「Super Legend」を演奏した後、阿部と東川の二人で「沈黙の恋人」を披露。〈正しい世界が消え去った夜に 待ち合わせて さあ行こう〉〈散々なこの想いを君と交わせたなら うれしいよ〉と、客席に向かって語りかけるように歌う姿が印象的だった。さらに、ゴスペルのように厳かで祈りに満ちた「凪」を東川のピアノに合わせ歌い、この場にいる人の心の中に小さな火を灯した。
再び菅沼がステージに上がり、3人で「鳥」を演奏。そして、阿部がアコギからベースに持ち替え『Super Legend』の冒頭を飾る「Some True Love」を披露しこの日のライブを締めくくった。
続いて登場したのは、もちろんジェシー・ハリス。サポートメンバーにはケニー・ウォルセン(Dr)、トニー・シェール(Gt)という、まさに『Paper Flower』のレコーディングに参加した面々を引き連れての登場だ。
まずはその『Paper Flower』から冒頭曲「We Gotta Know」でライブをスタート。3ピースとは思えない、豊かなアンサンブルが会場いっぱいに広がっていく。ジェシーの甘く、そしてどこか哀愁漂う歌声も健在である。続く「Hoping Tomorrow」は、ジェシーのアコギとトニーのエレキが組んず解れつ絡み合い、その間を縫うように、そして旋律の一つ一つを確かめるよう丁寧に歌うジェシーの姿が印象的だった。間髪入れず、まるで月明かりに照らされているような照明の下で、アルバムタイトル曲「Paper Flower」を披露。そう、事前にジェシー本人が予告していたように、この日は『Paper Flower』の全ての楽曲を「再現」してくれるようだ。
細かいことを言えば、中盤の「It's OK」と「I Can Feel It」は順番が逆になっていた。単なるミスか、それとも何かしら思惑があったのかはライブを見ている限りではわからなかった。が、それを除けばアルバム最終曲「If You Gat A Broken Heart」まで全曲を無事に完走。音源では、曲によってはホーンセクションが加わったり、アコーディオンやスライドギターが彩りを加えたりしていたが、この日のライブは楽曲の「骨子」を担う最小限のメンバーによる演奏が、かえってジェシーの歌声の繊細さやソングライティングの巧みさを際立てていた。
中でも、ラテン風味の「Why Would I Lie?」ではリズムボックス代わりに生ドラムのダイナミズムや、アコギを歪ませての情熱的なソロをフィーチャーし、ひたすらリフを繰り返すヒプノティックなロックンロール「I Was Looking For A Street」では、抑揚を抑えつつエンディングに向かってじわじわとヒートアップしていく演奏に、客席からは割れんばかりの拍手や歓声が鳴り響いた。
『Paper Flower』再現ライブの後は、ジェシーが「COSMO」名義でリリースしているインスト曲から「Charles de Gaulle」を挟み(このトロピカルな曲調は、個人的にポール・マッカートニーの初ソロ『McCartney』を彷彿とさせとても印象に残った)、美しいワルツ曲「Rose su ciel」を経て、スリリングなロックナンバー「Ride On」を荒々しくプレイ。オーディエンスを熱狂の渦に巻き込んで本編を終了した。
アンコールでは阿部芙蓉美をステージに呼び込み、「彼女からのリクエストだよ」と言って「Rocking Chairs」を披露。美しいハーモニーを響かせた後、再びバンド編成で「I've Got to See You Again」を演奏しこの日のライブを締めくくった。
文:黒田隆憲
撮影:古溪一道
@jesseharrisnyc
阿部芙蓉美オフィシャルサイト
@abefuyumi_dtcm
@abefuyumi_info
あいにくの雨模様だったが、会場には2組の共演を待ちわびる人たちが大勢詰めかけていた。定刻となり、まずは阿部芙蓉美が馴染みのサポートメンバーである東川亜希子(Key)、 菅沼雄太(Dr)と共にステージに登場。黒いジャケットを羽織ったジーンズ姿の阿部は、ミニキーボードを持ちハイチェアに座る。菅沼がおもむろにパッドで6連符を叩き、その温かな電子音の上に東川がミニマルなピアノのコードを乗せていく。今年3月にリリースされた、阿部にとっては11年ぶりのフルアルバム『Super Legend』から「Fauntain」でこの日のライブをスタート。空気をたっぷりと含んだ阿部の少しハスキーな歌声が発せられると、その場の空気が一瞬にして彼女の世界に染まる。研ぎ澄まされたサウンドスケープは、決して緊張感を煽るものではなく、まるで地面に染み込む雨のように、静かに心を洗い流していく。
続く「革命前夜」は2013年のアルバム『How To Live』収録曲。アコギを抱え、ミュート気味にカッティングをしながら囁くように歌い出す。起伏に富んだメロディーにときおりファルセットを交え、そんな阿部を東川のピアノと菅沼のドラムがそっと支える。「次は久しぶりにやる曲です」そう阿部が言って披露したのは「君とあの海」。2012年にリリースされた『沈黙の恋人』収録曲で、オリジナルはピアノと歌を軸にしたアレンジだったが、この日は阿部のアコギをメインにドラムとピアノは最小限のプレイで色付ける。小さな音で鳴らされ、小さな声で歌われるからこそ届く波動に、ただただ身を委ねる贅沢なひととき。
〈クソみたいなこの場所で〉〈生きることに疲れてしまった〉絶望の一歩手前にいる誰かに、そっと寄り添うような「ごみ溜めのバラード」、シンプルかつノスタルジックなメロディの「Super Legend」を演奏した後、阿部と東川の二人で「沈黙の恋人」を披露。〈正しい世界が消え去った夜に 待ち合わせて さあ行こう〉〈散々なこの想いを君と交わせたなら うれしいよ〉と、客席に向かって語りかけるように歌う姿が印象的だった。さらに、ゴスペルのように厳かで祈りに満ちた「凪」を東川のピアノに合わせ歌い、この場にいる人の心の中に小さな火を灯した。
再び菅沼がステージに上がり、3人で「鳥」を演奏。そして、阿部がアコギからベースに持ち替え『Super Legend』の冒頭を飾る「Some True Love」を披露しこの日のライブを締めくくった。
続いて登場したのは、もちろんジェシー・ハリス。サポートメンバーにはケニー・ウォルセン(Dr)、トニー・シェール(Gt)という、まさに『Paper Flower』のレコーディングに参加した面々を引き連れての登場だ。
まずはその『Paper Flower』から冒頭曲「We Gotta Know」でライブをスタート。3ピースとは思えない、豊かなアンサンブルが会場いっぱいに広がっていく。ジェシーの甘く、そしてどこか哀愁漂う歌声も健在である。続く「Hoping Tomorrow」は、ジェシーのアコギとトニーのエレキが組んず解れつ絡み合い、その間を縫うように、そして旋律の一つ一つを確かめるよう丁寧に歌うジェシーの姿が印象的だった。間髪入れず、まるで月明かりに照らされているような照明の下で、アルバムタイトル曲「Paper Flower」を披露。そう、事前にジェシー本人が予告していたように、この日は『Paper Flower』の全ての楽曲を「再現」してくれるようだ。
細かいことを言えば、中盤の「It's OK」と「I Can Feel It」は順番が逆になっていた。単なるミスか、それとも何かしら思惑があったのかはライブを見ている限りではわからなかった。が、それを除けばアルバム最終曲「If You Gat A Broken Heart」まで全曲を無事に完走。音源では、曲によってはホーンセクションが加わったり、アコーディオンやスライドギターが彩りを加えたりしていたが、この日のライブは楽曲の「骨子」を担う最小限のメンバーによる演奏が、かえってジェシーの歌声の繊細さやソングライティングの巧みさを際立てていた。
中でも、ラテン風味の「Why Would I Lie?」ではリズムボックス代わりに生ドラムのダイナミズムや、アコギを歪ませての情熱的なソロをフィーチャーし、ひたすらリフを繰り返すヒプノティックなロックンロール「I Was Looking For A Street」では、抑揚を抑えつつエンディングに向かってじわじわとヒートアップしていく演奏に、客席からは割れんばかりの拍手や歓声が鳴り響いた。
『Paper Flower』再現ライブの後は、ジェシーが「COSMO」名義でリリースしているインスト曲から「Charles de Gaulle」を挟み(このトロピカルな曲調は、個人的にポール・マッカートニーの初ソロ『McCartney』を彷彿とさせとても印象に残った)、美しいワルツ曲「Rose su ciel」を経て、スリリングなロックナンバー「Ride On」を荒々しくプレイ。オーディエンスを熱狂の渦に巻き込んで本編を終了した。
アンコールでは阿部芙蓉美をステージに呼び込み、「彼女からのリクエストだよ」と言って「Rocking Chairs」を披露。美しいハーモニーを響かせた後、再びバンド編成で「I've Got to See You Again」を演奏しこの日のライブを締めくくった。
文:黒田隆憲
撮影:古溪一道
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ジェシー・ハリスオフィシャルサイト@jesseharrisnyc
阿部芙蓉美オフィシャルサイト
@abefuyumi_dtcm
@abefuyumi_info