SENSA

2024.07.29

Pictured Resort「Overdreamt」──夢を見すぎてしまった私達へ ──まどろみの中で聴く、「あの音楽」の姿

Pictured Resort「Overdreamt」──夢を見すぎてしまった私達へ ──まどろみの中で聴く、「あの音楽」の姿

 雲一つない晴天。海と空が互いに混じりあい、水平線は陽光の彼方へと消えてしまいそうだ。波打ち際にフロントマスクを差し出し、さざ波に洗われるオレンジ色のR32型スカイライン。その数メートル手前には、海よりも少し深いブルーのストラトキャスターが身を休めている。そんな光景をぼんやりと眺めていると、目の前を一羽のウミネコが颯爽と飛び去っていく。いつかどこかで見た景色。あの夏、あの日に見たのだろうか。それとも、これから先の未来に、いつか見る風景なのだろうか。どうもうまく思い出せないみたいだ。けれど、この心地いいサウンドが流れている間だけは、それでいい。そう、夢を見すぎてしまったのかもかもしれない。あまりに長い夢を......。

 大阪を拠点に活動するインディーポップ・ユニットPictured Resortの4枚目のアルバム『Overdreamt』は、そのタイトルの通り、おぼろげな夢に満ちた夏の過眠へと誘う。太陽が高く登る樣子を、ベッドルームの窓からいまだまどろみの中で細く眺めるとき、いつかの日に奏でられた甘い音楽が身体を取り囲んでいく、そんな感触。その音楽は、私達が頭の中で作り上げているイリュージョンなのかもしれないが、他に経験したことがないほどに、やたらと心をウキウキとさせる。ミュージシャンなら、いや、なにもミュージシャンに限らず、音楽を愛してやまない誰しもが、そんな夢うつつの時間に頭の中に響く音をなんとかしてつかまえて、カタチにしてみたいと願ったことがあるのではないだろうか。けれども、それをいざ机に向かって書き留めようと、あるいはレコーダーに記録しようとした途端に、まるで蒸気か霧かのようにパッと散り散りになってしまう......。なんてはかない音の夢だろう。
本作『Overdreamt』こそは、その「記録」をうまくやり遂げた本当に希少な例に思える。おぼろげなものをおぼろげななもののままにしておくことほど、難しいことはない。けれど彼はここで、その蒸気や霧のようなものを、マジカルな手際でもって、私達の耳に届く形で作品化してくれた。ソフィスティケーテッド・ポップの円滑、ブギーの躍動、シンセ・ポップの色香、チルウェイヴ〜ヴェイパーウェイヴの湿潤、ドリームポップの艶めき。それら全てのリキュールが見事なプロダクションによってシェイクされ、いくらなんでも暑すぎる今年の夏の空気を、少しだけ過ごしやすいものに変えてくれる。
......ただ眠っているのではない。夢を見すぎることは、違う「今」を想像しつづけるのを諦めないということでもある。この心地いいサウンドが流れている間だけは、まだ夢の中にいさせてほしい。

文:柴崎祐二



RELEASE INFORMATION
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Pictured Resort「Overdreamt」
2024年7月24日(水)
Format:LP/Digital
Label:Sailyard

Track:
1. Overdreamt
2. Epiphany
3. Fantasy
4. Hall Of Fail
5. Starcraft
6. When The Rain Stops
7. Mild Child
8. Your Song On The Radio (Album Ver.)
9. Worst Dawn
10. Pathfinder
11. Home
12. 2012 (Album Ver.)

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オフィシャルサイト
@PicturedResort
@pictured_resort

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