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2024.03.23
カルチャーの前線で活躍するキュレーター達が厳選した音楽を配信するサービス FRIENDSHIP.の新譜を紹介。 キュレーターの金子厚武とナビゲーターの奥宮みさとによるFM福岡のラジオ番組「Curated Hour ~FRIENDSHIP. RADIO」から、今週オンエアした内容を掲載!FRIENDSHIP.がリリースした最新の音楽をいち早くチェックしよう!
New Release Digest Part 1
みさと:3月18日週にFRIENDSHIP.からリリースの新譜、全24作品の中からPart-1、8作品をご紹介しました。リリースおめでとうございます。はじめましてさんからです、GeGeGe。
金子:GeGeGeはミズノリョウトによるソロプロジェクトで、2017年頃から金沢を拠点として宅録で音楽制作を始め、その後ライブ活動もするようになり、2023年8月からは拠点を東京に移動。現在新しいアルバムを作っているという中で、今回はアルバムタイトルが『demotachi』と言うように、これまで作ってきたデモを集めた作品で、37曲入り2時間弱と。
みさと:すごい量ですね。なかなか聞いたことないですね。でもデモ曲だから短い曲も収録されていたりなど、37曲の収録になるわけですね。
金子:USインディ経由のジャパニーズ・サイケという感じで、そういうのが好きな人には間違いなく刺さる音楽だと思うので、GeGeGeのことをもともと知ってた人は"デモ音源はこういう感じなんだ"ってなるし、初めて知った人にとっては、これから出る新しい作品への入口になる作品なんじゃないですかね。
みさと:デモ音源をリリースされているアーティストさんもいらっしゃいますけど、こういう段階のものを世に出してくれるのって、シガーロスの『()』みたいな、自分自身、リスナーさんの中で独自の解釈ができたりだとか、 共犯者になった気持ちで曲を聴けて、より自分の曲に、私の曲になりやすいので、この段階の曲を聴かせてもらえるのはすごく面白いなと感じてます。そして、東京初期衝動がEPのリリースになります。
金子:彼女たちはこの前SXSWにも参加してたり、活動の幅を広げてますけど、今回のEP の特徴はギターのアレンジに田渕ひさ子さんが参加しているということで。ひさ子さんは元BiSHのアユニ・D のPEDROにも関わってたり、女性がロックをやる上で絶対的なアイコンになってるなあと改めて感じます。実際曲を聴いてみると、確かにひさ子さんっぽいなと思う雰囲気はあって、今回の「失恋回転寿司」はタイトルからして東京初期衝動らしいですけど、この曲はアウトロが長くて、ちょっとメロディアスなフレーズが入ってて、そこが特にひさ子さんっぽいなと思ったので、最後まで聴いてほしいですね。
みさと:私は漫画好きとしてここを触れずにいられないんですけど、漫画家の岡崎京子さんの名作「pink」に登場するワンシーンをあしらったジャケットになっていて。岡崎京子さんは「ヘルタースケルター」も描かれていたり、性描写もアートの一つとして受け止められたりだとか、コマ割りがゴダールみたいだったり、辛辣な言葉が妙にリアルで救いようがなかったり、漫画を文学と芸術として括れるっていうことを最初にというか、金字塔として打ち出したような方だと私は認識しているんですけど、「pink」に関してはご自身が"愛と資本主義"ってキャッチコピーを付けてるんですよ。歌詞を読むと、もうまさにだなっていう、その救いようのなさというか、だけど一発入れてやる感じというか、そういうことが詰まっていて。そんな痛快な一曲も収録されているので、EP通して聴き直していただければなと思ってます。そんなPart-1ですが、どの曲を紹介しましょうか?
金子:VivaOlaの新曲を紹介します。
みさと:VivaOlaくん2ndフルアルバムがリリースになります。
金子:これも遂にって感じですね。これまでも新曲が出るたびにちょこちょこ紹介してきましたけど、前のアルバムとはモードが変わっていて。前作はたくさんプロデューサーも参加して、曲調もジャズ寄りのものがあれば、R&Bがあれば、ネオ・ソウルがあれば、みたいな感じでバラエティ豊かな作品だった印象なんですけど、今回に関してはkota matsukawaくんが共同プロデューサーとして全編で参加していて、全体的にかなりドープな、ちょっとシリアスな色合いの強いクラブトラックがメインの作品になっていて。その背景として、前作は結構フィクション、ストーリーテリングみたいなところがあったけど、今回はノンフィクションで、VivaOlaくん自身が感じている感情が曲にも反映されていると。それがこういうサウンド感になったということは、前作を出してからVivaOlaくんの中できっと迷いや葛藤があったからで、どういう方向に進めばいいのかを模索した時期もあったと思うんですけど、結果的には信頼のできるプロデューサーとがっつり組んでやることで、自分の進む道をしっかり見つけたのかなって。今ってむしろジャンルレスというか、色んなプロデューサーと組んでいろんなジャンルの曲をやる方がむしろメインストリームな感じがするけど、そうじゃなくて"自分はこっちだ"っていう道を示しているのがVivaOlaくんのアーティスト性、こだわりをすごく感じさせるなと思いました。
みさと:彼のシグネチャーとなり得る、ドープな、深く潜るようなトラックと、シルキーなハイトーンボイスの、ミスマッチなんだけどマッチしているこの着地点は、"彼ってこうだよね"っていう一つの大きな武器を歩み始めていることがすごく感じられるアルバムになってます。
New Release Digest Part 2
みさと:お送りしたのは新譜ダイジェスト、Part-2でした。リリースおめでとうございます。こちらも一応、はじめましてさんですね、DawnLuLu。
金子:DawnLuLuは、シノエフヒのボーカルギター・じょぶずと、Narco-lepsyのボーカル・桝谷美来さんの二人組ユニット。シノエフヒもNarco-lepsyもFRIENDSHIP.からのリリースはあるんですけど、このユニットとしては初めてのリリースです。Jane Jadeと、先週紹介したSablierに続いて、また別々に活動していた二人がちょっとフォーキーなユニットを組んだということで......なんですかね、流行ってるんですかね。
みさと:予言者みたいになってきてますね、厚武さん。
金子:でもこれまでの2組は音楽的な背景から考えても、いつも言ってるボーイジーニアスとかと関連付けられる気はするんだけど、DawnLuLuの2人はボーイジーニアスとかの文脈とは基本的には接点がなさそうですよね。だからもちろん偶然のタイミングでもありつつ、もしかしたらだけど、コロナ禍があって、大人数で集まるよりも小人数で集まって音を鳴らしてて、それがちょっと落ち着いて、でもこの感じいいから本格的にやってみない?みたいな感じで去年〜今年と動き出してる、みたいなことでもあるのかもしれない。
みさと:うん、私もそう思います。あとは海外のコライトの考え方ってあんまり日本でフィットしてなかったものが、"だよね"って広がりつつあるというか、そういう意味でも一つのバンドのフロントに立ってる人がずっと私で頑張っていくわけではなくて 横の繋がりで頑張っていくのが、じわじわここ数年で増えた気がするので、その派生かもしれないですね。そう考えると、これからもっと増えるのかもしれない。そして、First Love is Never Returnedがまたいい曲を出しました。
金子:いやー、のってますね。
みさと:のってますね、さすがですね。
金子:今年は年明けから注目されていて、1月に出した「Unlucky!!」もSpotifyだと 100万回再生を突破してたり、ホントにのってるなって感じがします。
みさと:2024年、ヒットを予測されている1組でもありますからね。
金子:でも今回の曲はトラックはかなりサイケだったり歪んでたりしてて、もちろん曲自体はポップなんだけど、これまでと比べてもかなり攻めたトラックになってるなと思って、こういう盛り上がってきているタイミングで、ちゃんと音楽的なこだわりを示してるっていうのもいいなと思いました。その一方で歌詞やタイトルに「ファンデーション」っていう日常的なワードを使っていて、以前「マスク」を使ったりっていうのも思い出されますけど こういう攻めたトラックと日常的なワード使いのミスマッチによる良さもあったりして、今回もいい曲でした。
みさと:シンセでキラッとさせてるだけではなくて、ちゃんとノイズもあるというか。
金子:結構ノイジーですよね。
みさと:ギター、ギュインギュインですよね。 でもそのノイズさえもキラキラに聴こえてくるっていうポップなメロディーと、彼らの得意技でもある"跳ねる言葉遣い"というか、"口ずさみたくなるようなワードセンスとメロディーライン"っていうのはキラキラ光ってますね。さあそんなパート2からですが どの曲を紹介しましょうか。
金子:志摩陽立さんを紹介しようと思います。
みさと:志摩陽立さん、12作連続リリースの最終作となりました。おめでとうございます。
金子:おめでとうございます。先月に"来月がいよいよラストです"って話はして、"来月はアルバムになるのかな?"とかそんな話もしましたけど、結局最後まで純粋に新曲で12ヶ月を走り切りましたね。で、やっぱり今回もいい曲なんですよ。最近90年代J-POP感強めの曲が増えてきた印象があって、FRIENDSHIP.だったらGuibaとかもそうかもしれないし、前にFRIENDSHIP.から出してた、えんぷていも今月アルバムを出してるんですけど、彼らもAORとかが背景にありつつ、海外インディ感もあるんだけど、でもやっぱり歌、J-POP感が強くて、そういう人が増えてきたなって。80年代的なシティ・ポップのリバイバルの流れが順を追って90年代に移行して、J-POP感強めになってきて、志摩陽立さんも時代的にどんどんジャストになってきてるんじゃないかなって感じがしました。
みさと:時代がようやく追いついてきたってやつかもしれないですね。最後らしいこの大作を称えるような、皆でクラップしたくなるような、すごく爽快感と突き抜ける楽しさが音楽から溢れていて、セルフライナーノーツもいただいてるんですが、タイトルは「ReFresh!」なんですけど、12ヶ月連続リリースの1作目「ステップ」の仮タイトルでもあるっていう、ここもまた繋がっていて、彼の中ではこの12作が1つの大きな作品であることも見えてくる。ぜひ12作聴いてほしいですね。
金子:大団円というよりは、最後に来てもう一度フレッシュっていう、その感じもすごくいいですよね。
New Release Digest Part 3
みさと:3月18日週リリースの新譜ダイジェスト、Part-3をお送りしました。リリースおめでとうございます。まずは大活躍のShimon Hoshinoさんですが、今回コラボレーションという形でリリースしています。
金子:今週はHenryne Girlsのリリースがあり、Osteoleucoのリリースもあり、そしてこのコラボもありということで、今回はThe Flipsideとのコラボレーション。ドイツを拠点に活動しているアーティストで、以前一緒にやった「tasogare」はトータルで100万回再生を超える、かなり聴かれた曲になっていて。その時はデータのやりとりで作ってたんですけど、今回はその後実際にドイツにも行って、コラボレートして、いろいろディスカッションもして、その末に生まれた曲というストーリーもありますね。
みさと:タイトルに「zen」が使われてるのも、いい意味での認識の違いが功を奏したと思っていて、日本のアーティストで全面的に禅とか仏教をアウトプットしているアーティストってなかなかいないと思うんですよ。FRIENDSHIP.のBON-SANさんぐらいだと思うんですけど、それくらい日本では禅とか仏教イコール宗教っていう認識がなされていると思うんです。ただ海外だと仏教に対して哲学とか、生きる知恵とか心理学とか、そういったインドのヨガ的な位置づけで捉えていることが多いみたいなんですね。世界を点々としていた、拠点がたくさんあったHoshinoさんと、ドイツ在住のThe Flipsideが一緒にやったっていうところが納得の一曲だなと感じています。
金子:いつものピアノよりもシンセ多めで、ちょっとアンビエント強めな感じも禅感がありますね。
みさと:ありましたね。そして、EPリリースなのがROU。
金子:今週はVivaOlaくんのアルバムリリースがあって、今月で言うとSPENSRのアルバムも出てたり、FRIENDSHIP.のR&B系アーティストからいい作品がどんどん届いてますけど、ROUからはEPが届きました。この作品にはプロデューサーとしてSPENSRも参加していたりして、だからなのか、ちょっとSPENSRのアルバムとも通じる部分があるというか、ただのR&Bだけじゃなくて、いろんなタイプの楽曲が収録されていて、特にこの「FEEL IN NOW」はエモトラップとか、ちょっとロック要素も感じさせる曲になっていて。だから、VivaOlaくんみたいなドープなタイプと、FRIENDSHIP.で言うとthe McFaddinみたいな、ロックからヒップホップにアプローチしてる人たちと、そのちょうど中間に位置するような印象もありましたね。
みさと:確かにそうですね。一聴して一気に世界観とか没入感を味わわせてくれるトラックもかっこいいなっていうところも、やっぱり彼の魅力だと思うし、全体的なEPとして、自分の気持ちをしっかりと言葉、リリックとして落とし込むっていう、そのソングライティングとしての魅力も詰まったEPになってるかなと思います。
金子:やっぱりシンガーソングライターなんでしょうね。ジャンルは関係なく、自分の言葉を伝えるっていう意味では。
みさと:そこもSPENSRと共通しているところかもしれないですね。さあ、そんなPart-3ですが、ご紹介するのはどうしましょうか?
金子:中村一義さんの新曲を紹介しようと思います。
みさと:中村一義さん、今回が初めてFRIENDSHIP.でのリリースになります。ありがとうございます。なんと一番最初に繋げてくださったのが、厚武さんだと聞いてますけど。
金子:窓口になった程度ですけどね。
みさと:いやー、嬉しいわ。
金子:中村一義さんは世代的にもドンピシャで、ずーっと聴いてきたアーティストの一人で、ライターの仕事をやるようになってからは、インタビューを何度かさせてもらったりして、こうしてまたね、FRIENDSHIP.で繋がりが持てるというのは個人的にもすごく嬉しいです。今回の曲は構想・制作に約1年半を費やした、渾身の一曲ということなんですけど、僕からするとイントロのコード進行からして、"ああ、もうめっちゃ中村一義!"って感じで、"ビートルズじゃん"っていう人もいる気はするけど、でも僕からすると"中村さんだな"って感じがします。で、今回作詞作曲はもちろん、ほぼ全ての楽器演奏を自分で手掛けていて、宅録が代名詞だった初期作の雰囲気もありつつ、でもクラシックっぽいテイストも入ってるのは、後期中村一義のテイストでもあって、ただ回帰したわけではなく、ちゃんと歴史を積み重ねての"もう一度"っていう感じもすごく伝わってきます。あとギターでは高野寛さんが参加していて、中村一義さんと高野寛さんは昔から交流があり、高野さんはファーストアルバム『金字塔』にも参加してるんですけど、今回その二人のやりとりがセルフライナーノーツであって。「コロナ禍なども経ていたためデータでのやりとりをしながら、お互い『あの頃のレコーディングを思い出したね。令和の「永遠なるもの」だね』と、離れた場所でレコーディングしていても同じ頃を感じていたのが印象に残っています」という中村さんのコメントなんですけど、「永遠なるもの」は『金字塔』の実質的なラストナンバーみたいな曲で、このコメントがね、すごくグッときちゃいました。
みさと:これは長いファンの方からするとね、より待ってましたっていうところが強まると思うし、中村さん自身もここに開けていったってところが、自分の中でも待ってましたっていう感覚があってのタイトル、「春になれば」っていうことが見えてくる歌詞、世界になっていて、誤解を恐れず言うと、大ベテランなのに、とってもフレッシュで可愛らしい。
金子:フレッシュですよね。歌声はホント変わらないですね。
みさと:ですよね。後を継ぐ者たちに、奇をてらわずともこんなに勝負ができるっていう力強さも見せつけることができた作品なんじゃないかなと思って、襟を正すというか、背筋が伸びるというか、中村さんの音楽人生も相まって、春になる、新しいことが始まる、いつからでも始められるっていうのを感じられる一曲でした。
金子:3月20日、ちょうど春分の日のリリースですからね。
みさと:ですね。暦が変わりますね。
RADIO INFORMATION
FM 福岡「Curated Hour ~FRIENDSHIP. RADIO」
FRIENDSHIP.キュレーター達が厳選した音楽をラジオで紹介するプログラム「Curated Hour ~FRIENDSHIP. RADIO」。キュレーターの金子厚武をコメンテーターに迎え、奥宮みさとと共にFRIENDSHIP.がリリースをする最新の音楽を紹介。番組後半ではThe fin.のYuto Uchinoが月替りでゲストを迎え、深い音楽談義を繰り広げるコーナーを展開。 放送時間:毎週土曜日 26:00~26:55 放送局:FM福岡(radikoで全国で聴取可能)
番組MC
金子厚武
1979年生まれ。埼玉県熊谷市出身。インディーズでのバンド活動、音楽出版社への勤務を経て、現在はフリーランスのライター。音楽を中心に、インタヴューやライティングを手がける。主な執筆媒体は『CINRA』『Real Sound』『ナタリー』『Rolling Stone Japan』『MUSICA』『ミュージック・マガジン』など。『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)監修。デジタル配信サービス「FRIENDSHIP.」キュレーター。
@a2take / @a2take3
奥宮みさと
ラジオパーソナリティ/ナレーター/MC/ヨガインストラクター/酵素風呂サロンオーナー。 TOKYO FM、ZIP-FM、InterFM、FM 福岡など、ラジオパーソナリティ歴12年目。 安室奈美恵さんをはじめとするお茶の間ミュージシャンからコアなインディーズミュージシャンまで無数のインタビューを経験。コロナ前は年間200件程ライブや全国のフェスに行く現場派。野外フェスのヨガプログラムなども担当。倍音と1/fゆらぎの声を持ち、耳馴染みの良いベルベットボイスが特徴。
@_M1110_ / @11misato10 Yuto Uchino(The fin. Vocal / Synth / Guitar) 神戸出身、ロックバンドThe fin.のフロントマン、ソングライター。80~90年代のシンセポップ、シューゲイザーサウンドから、リアルタイムなUSインディーポップの影響や、チルウェーヴなどを経由したサウンドスケープは、ネット上で話題を呼び、日本のみならず海外からも問い合わせ殺到している。 The Last Shadow Puppets、MEW、CIRCA WAVESなどのツアーサポート、そしてUS、UK、アジアツアーを成功させるなど、新世代バンドの中心的存在となっている。 オフィシャルサイト / @_thefin / @yuto__the_fin