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2023.04.27

APOGEE、20年の変遷を経てフラットな境地へ。生のバンドサウンドで会場を魅了した渋谷WWWX公演。

APOGEE、20年の変遷を経てフラットな境地へ。生のバンドサウンドで会場を魅了した渋谷WWWX公演。

4月21日、APOGEEが『APOGEEワンマンライブ2023』を渋谷WWWXで開催した。3月にニューアルバム『Sea Gazer』を発表したAPOGEEにとって、この日は約1年ぶりのライブ。新体制の初お披露目となった前回のライブ同様、盟友であるトルネード竜巻からベースの御供信弘とマニピュレーターの曽我淳一をサポートメンバーに迎え、アンコール含め全20曲を披露した。

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ライブは『Sea Gazer』でも一曲目を飾っている「遠雷」からスタート。ミニマルなギターリフを基調としながら、徐々に音が折り重なってジワジワと高揚していき、やがて「to the other side=ここではないどこか」へと連れ去られるような曲構成はまさにAPOGEEらしく、途中で入るベース残しのブレイクがレディオヘッドの「National Anthem」っぽいのが世代感を感じさせたりも。間野航と御供によるリズム隊が生み出すファンクネスが心地いい「Saihate」、大城嘉彦によるシンセのアルペジオがスケール感のある音像を広げ、その上を永野亮の高音ボーカルが泳ぐ「Midori」と、スタジオワークをベースに制作された『Sea Gazer』の楽曲はやはりライブで体験するとより映える印象を受ける。

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続いて披露されたのは、昨年6月に「Fallin'」とともに配信リリースされた「Time to Synchronize」。この2曲はもともと2010年と2011年にライブ会場や公式ホームページ限定で配布されていたレア楽曲だが、アッパーでポップな曲調は決して古びることなく、普遍的な魅力を持っている。〈宙に浮いたままの結末 探しに行こう〉と歌われるこの曲が、10年のときを経て正式にリリースされ、2023年にライブで演奏されているという事実がまさに宙に浮いていた結末を見るかのようであり、こうした歌詞のシンクロも面白い。

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シンセの反復フレーズと打ち込みっぽいドラムの音作りも印象的な「JP」、ボーカルに深いリヴァーブをかけてアンビエントな空間を作り上げた「Colorless」と、しっとりとした曲調が続いた流れから一転、中盤のハイライトとなったのが「Just a Seeker's Song」。この曲のザ・フレーミング・リップス的な多幸感もまさにAPOGEEであり、フロアには手拍子が広がって行く。フェニックス譲りのポップセンスを感じさせる「Fallin'」もライブ映えのする一曲で、2009年発表のサードアルバム『夢幻タワー』はアコースティックで落ち着いた雰囲気の作品だったが、その先で生まれたポップな「Fallin'」や「Time to Synchronize」の路線でアルバムが完成していたらどうなっていたのか......なんて妄想を広げるのも楽しい。

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そもそもAPOGEEというバンドは00年代前半、いわゆる「下北沢ギターロック」全盛時にシンセをサウンドの軸として、2006年にメジャーデビューをしたバンドであり、翌年に同じレコード会社からデビューしたサカナクションらとともに、日本のバンドシーンに新たな価値観を提示した。しかし、徐々に「ロックフェス」が市民権を獲得し始め、ライブでの盛り上がりが重要視されるようになる中、サカナクションがよりダンスミュージック的な方向を強めたのに対して、もともとファンク、ソウル、R&Bなどをバックボーンに持っていたAPOGEEは音圧や音数による即効性を重視していたわけではなく、そこで当時のシーンとのギャップが生まれ、試行錯誤の末に活動休止状態となった過去がある。

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しかし、2010年代に入ると国内外でブラックミュージックが復権し、日本では新たな「シティポップ」の流れが生まれ、結果的にAPOGEEの音楽と時代とのリンクが生まれていく。『OUT OF BLUE』〜『Higher Deeper』という2作を経て、もともとAPOGEEのファンだったatagiのリクエストもあり、永野が作曲と編曲で参加したAwesome City Clubの「勿忘」が大ヒットしたのはその幸福な証明だったと言えるし、サカナクションが2010年代の終わりに打ち出した「忘れられないの」を昔からやっていたのがAPOGEEだった......というのはやや乱暴ではあるが、完全に的外れでもないはずだ。

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前置きがずいぶんと長くなったが、この日の中盤で披露された「OUT OF BLUE」のチルウェイブ〜インディR&B的な作風はまさに時代との呼応を感じさせた曲だったし、『Sea Gazer』の収録曲である「Lull」や「竜の背」もベーシックにあるのはやはりブラックミュージック的なループの快感だ。永野のフェイバリットであるプリンス、初期の雛形となったN.E.R.D、さらにはリトル・ドラゴンからザ・インターネットに至る影響源を、シンセを軸にしながらよりジャンルレスに、オリジナルな形で消化してきたのがAPOGEEというバンドなのである。続いて披露されたファーストアルバム『Fantastic』収録の「Program」もブレイクビーツ的なループを基調とした楽曲であることは、APOGEEの一貫性を改めて感じさせるもの。「竜の背」の〈ひたすらループして 止まらないステップ〉と、「Program」の〈捜せ捜せ 続くリズム〉という歌詞は、今も昔も変わらないリズムへの執着を感じさせる。

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ライブ後半はよりアッパーな楽曲を並べ、『Sea Gazer』の収録曲の中でもとりわけエッジーなギターリフが耳に残る「TiDE」はアンダーワールド的なシンセのリフも気持ちがいい。そこからの流れでひと際フロアが沸いたのは人気曲の「アヒル」で、ダンサブルなビートにフロア全体が揺れ、中盤のブレイクでひさびさに大きな歓声が響いたのは、コロナ禍を経ての解放的な空気を強く感じさせた。その素晴らしいパフォーマンスは大城が途中のMCで話した「APOGEEはライブバンド」という言葉を確かに裏付けるものだったと言えよう。

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天から降り注ぐようなきらびやかなシンセとともに会場中がクラップに包まれた「Losing you」、永野がギターを置いて、美しいメロディーを歌い上げた「Heart of Gold」に続いて、本編ラストは初期からのレパートリーである「Grayman」。曽我がシンセベース、御供はタンバリンを叩き、構造としてはシンプルながらやはりループの気持ちよさで高揚して行くこの曲もまたAPOGEEの真骨頂だ。永野はステージ中央でダンスをしたり、シンバルを叩いたりとこの日一番の熱狂を生み出して、本編が終了した。

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アンコールでは11月に『Fantastic』の再現ライブを開催することが発表され、デビューシングルの「夜間飛行」を披露すると、続いて演奏されたのは内垣洋祐とのラストライブで新曲として披露された「Sink/Rise」。〈この身体 抜け出して もう一度 記憶へ 海へ〉と歌われるこの曲は『Sea Gazer』の起点となった一曲であり、何度となく浮き沈みを繰り返しながらも、バンドを愛するオーディエンスとともに着実に歩みを進め、今ようやくフラットな地平へとたどり着いた現在のAPOGEEを象徴する一曲だと言っていいだろう。その後の鳴り止まない拍手と歓声もやはりバンドとオーディエンスとの繋がりの強さを改めて感じさせるものであり、永野が「君たちは最高だね」と話したダブルアンコールでは、エピックなアンセムである「The Sniper」が届けられて、この日のライブが幕を閉じた。

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なお、APOGEEは6月に開催されるFRIENDSHIP.主催のサーキットイベント『SHIBUYA SOUND RIVERSE』への出演が決定。2013年の活動再開以降、この10年は不定期に開催されるワンマンライブを軸に活動を続けてきたので、こうしたイベントに出演するのはかなりひさびさ。The fin.やodolといった下の世代のバンドとの共演がどんな化学反応を生むのか、今から非常に楽しみだ。

文:金子厚武
撮影:古溪一道

RELEASE INFORMATION

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APOGEE「APOGEEワンマンライブ2022@Shibuya WWW X」
2023年4月22日(土)
Format:Digital

Track:
1.Sink/Rise
2.In Between
3.Route Another
4.Spacy Blues
5.Sleepless
6.TiDE
7.DEAD HEAT
8.Echoes
9.Whoʼs your Enemy?
10.ゴースト・ソング
11.Star Honey
12.Into You
13.Coral
14.Future/Past
15.landscape
16.Losing you
17.Tell Me Why
18.アヒル
19.夜間飛行
20.遠雷
21.スプリング・ストレンジャー 弾き語りver.
22.五億回の瞬き
23.Let It Snow

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LIVE INFORMATION

APOGEEワンマンライブ 20th Anniversary "Fantastic"
2023年11月24日(金)
Shibuya WWW
開場 18:00/開演19:00
全自由¥5,500(税込)※ドリンク代別途
チケット情報:4月21日(金)夜22時00分から最速先行予約スタート
【受付期間】4月21日(金)22:00~4月30日(日)23:59
【受付URL】https://eplus.jp/apogee/


LINK
オフィシャルサイト
FRIENDSHIP.

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